27 / 61
呼んでいる声がする(その27)まりもの猫
しおりを挟む
猫男は何処にいったのか、あの追いかけて行った女の人は追いついたのだろうか。
夕凪書店から見えるガラス扉の外は夕焼けの光を失い暗く夜の気配が色濃くなって来た。
そんな気配を感じながらも海外の作家のエッセイ、宇宙についての本、ヨーロッパの家の写真集、イラスト集、それからまた、蓮子と話した旅客船、その様な本棚を見て周っているうちに時計を見ると、蓮子と別れてから1時間が過ぎ7時半をまわっていた。
本屋にいると世界を回っている様だと瑠子は幸せ感な感覚に包まれた。
書店の外に出ると北風が体に吹きつけた。夕凪駅の周りは会社帰りの人も疎らになりそこから少し離れたバン屋が煌々と明かりを照らしていた。踏切を渡って海岸通りを歩いて行く。
風の冷たさを堪えながら蓮花との会話を思い出す。蓮花はあんな嫌がっている家に今いるのだ。
そんな事を考えていると皆が家路を急ぐこんな夜は暗い海が寂しく見えた
こういう時は、隣の家の留萌さんの様な陽気な会話が懐かしいと思った。
空には寒月が輝いていた。
ああ、本当に寒い、家直行の路線バスがあればいいのに、でも家の前のあの急坂を上るのはバスには大変に違いないと瑠子は思うのだった。
今日もチョコレートが食べたいと瑠子は強烈に思った。海岸の店まりもなら夜の10時までやっていると思ったので波音を聞きながら足早に進んだ。
やっと暖かい明かりが灯る(まりも)が見えて来た。
店内に入るとほっとする暖かさが体を包んだ。
「いらっしゃい。」
店の店主はにこやかに挨拶してくれる。
「あ、こんにちは。」
そう言って店の奥の方へ歩いて行った。
すると驚いた事に猫がついて来た。その猫は首輪をしているので飼い猫だろうかと、店主の方を見ると彼はにこっと笑って頷いた。
ああ、こないだ言ってた店主さんの飼っている猫の秀子ちゃんかなと思い出した。
秀子ちゃんは蓮子がチョコレートを手に取るのを見上げている様子だ。
棚から並んでいる赤い板チョコレートの中から一つを手に取るとレジに向かったのだが、秀子ちゃんもついて来る
店主にチョコレートを渡すと店主の隣の丸椅子の上に秀子ちゃんはちょこんと座った。
「お、これ美味しいよね。わたしも好きなんだよ。」
秀子ちゃんは黙って座って瑠子をじっと見ている。
「かわいいですね。」
そういうと店主は嬉しそうだった。
赤いチョコレートを買った嬉しさと秀子ちゃんに会えた嬉しさで瑠子は、ほほえみながら店の外に出た。その途端北風は容赦なく吹き付けた。そしてまた大きな波の音が聞こえて来る。
腕時計を見ると8時半を差していて、すこし不気味な感じがした。
そう思った矢先、左側から男の人の気配がした
「おや。」
男の人は声を発した。瑠子は身構えた。
「瑠子ちゃん、寒いね。」
その男は言った。店の明かりに照らされた男はまたしても猫男であった。
「あービックリした。」
「そう?でも俺もここ、家に向かう道だからさ。」
少し寂し気に猫男は言ったのであった。
つづく
チョコレート食べたくなりました^^
いつも読んでいただいてありがとうございます
夕凪書店から見えるガラス扉の外は夕焼けの光を失い暗く夜の気配が色濃くなって来た。
そんな気配を感じながらも海外の作家のエッセイ、宇宙についての本、ヨーロッパの家の写真集、イラスト集、それからまた、蓮子と話した旅客船、その様な本棚を見て周っているうちに時計を見ると、蓮子と別れてから1時間が過ぎ7時半をまわっていた。
本屋にいると世界を回っている様だと瑠子は幸せ感な感覚に包まれた。
書店の外に出ると北風が体に吹きつけた。夕凪駅の周りは会社帰りの人も疎らになりそこから少し離れたバン屋が煌々と明かりを照らしていた。踏切を渡って海岸通りを歩いて行く。
風の冷たさを堪えながら蓮花との会話を思い出す。蓮花はあんな嫌がっている家に今いるのだ。
そんな事を考えていると皆が家路を急ぐこんな夜は暗い海が寂しく見えた
こういう時は、隣の家の留萌さんの様な陽気な会話が懐かしいと思った。
空には寒月が輝いていた。
ああ、本当に寒い、家直行の路線バスがあればいいのに、でも家の前のあの急坂を上るのはバスには大変に違いないと瑠子は思うのだった。
今日もチョコレートが食べたいと瑠子は強烈に思った。海岸の店まりもなら夜の10時までやっていると思ったので波音を聞きながら足早に進んだ。
やっと暖かい明かりが灯る(まりも)が見えて来た。
店内に入るとほっとする暖かさが体を包んだ。
「いらっしゃい。」
店の店主はにこやかに挨拶してくれる。
「あ、こんにちは。」
そう言って店の奥の方へ歩いて行った。
すると驚いた事に猫がついて来た。その猫は首輪をしているので飼い猫だろうかと、店主の方を見ると彼はにこっと笑って頷いた。
ああ、こないだ言ってた店主さんの飼っている猫の秀子ちゃんかなと思い出した。
秀子ちゃんは蓮子がチョコレートを手に取るのを見上げている様子だ。
棚から並んでいる赤い板チョコレートの中から一つを手に取るとレジに向かったのだが、秀子ちゃんもついて来る
店主にチョコレートを渡すと店主の隣の丸椅子の上に秀子ちゃんはちょこんと座った。
「お、これ美味しいよね。わたしも好きなんだよ。」
秀子ちゃんは黙って座って瑠子をじっと見ている。
「かわいいですね。」
そういうと店主は嬉しそうだった。
赤いチョコレートを買った嬉しさと秀子ちゃんに会えた嬉しさで瑠子は、ほほえみながら店の外に出た。その途端北風は容赦なく吹き付けた。そしてまた大きな波の音が聞こえて来る。
腕時計を見ると8時半を差していて、すこし不気味な感じがした。
そう思った矢先、左側から男の人の気配がした
「おや。」
男の人は声を発した。瑠子は身構えた。
「瑠子ちゃん、寒いね。」
その男は言った。店の明かりに照らされた男はまたしても猫男であった。
「あービックリした。」
「そう?でも俺もここ、家に向かう道だからさ。」
少し寂し気に猫男は言ったのであった。
つづく
チョコレート食べたくなりました^^
いつも読んでいただいてありがとうございます
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
初愛シュークリーム
吉沢 月見
ライト文芸
WEBデザイナーの利紗子とパティシエールの郁実は女同士で付き合っている。二人は田舎に移住し、郁実はシュークリーム店をオープンさせる。付き合っていることを周囲に話したりはしないが、互いを大事に想っていることには変わりない。同棲を開始し、ますます相手を好きになったり、自分を不甲斐ないと感じたり。それでもお互いが大事な二人の物語。
第6回ライト文芸大賞奨励賞いただきました。ありがとうございます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる