呼んでいる声がする

音羽有紀

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呼んでいる声がする(その24)海の向こう

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「雪の中このこの海岸に来たの。」



「寒かったでしょ。」



頷いて瑠子は言った。



「それがね、あんまり感じ無かったの。」」



蓮花は笑った。瑠子も笑った。



「それで、その時、世界中にたった一人でこの世界に



いる感じがしたの。海は暗く砂浜は雪で覆われていたわ。それでね、なんだか安心したの。一人でも

寂しく無かった。」



 蓮花は、黙って下を向いた。



「わかる。」



そう言ってからまたきらきら昼間の光に波間が揺れている方を向き直ると言った。



「あたしね、あの海の向こうに行ってみる。ずっと向こうの。」



「行きたいね。いつか行こうよ。」



彼女は嬉しそうに頷いた。



冬の潮風は冷たい。けれど瑠子には感じなかった。



ただ、あの海の向こうに行っている自分を想像した。 



「あたしね、家が嫌で出てきたの。アパートのイエローハウスに。」



「イエローハウス?」



「アパートで外壁が黄色いの。」



「それでイエローハウスなのね。いいな、あたしも家出たい。」



「蓮花さんは、兄弟は?」



「いないの、親戚の人と暮らしてるの。父は再婚して母も出て行ったから。」



似ている自分の境遇と、内心瑠子は驚いた。



けれど、蓮花の横顔が暗く感じたので瑠子は明るく言った。



「ここに越してくる前は丘に囲まれていたの。家が密集していてあんまり居心地良くなかったな。」



「でもねあたしの家は、ここから樹海線で1時間もかかるの、もちろん海なんて無いしここに比べると薄暗い感じがする。」



「そうね、ここら辺の方が明るく感じる。」



「羨ましいな。」



「蓮花さんもどう?この辺。」



「来たい。」



「けれど、今のままでも仕事帰りに夜景は見れるよね。」



砂をいじりながら瑠子は言った。



「そうだね、夜のコンビナートすごく綺麗。」



その意見におおいに賛成な瑠子は大きく頷いた。



「そうだよね。キラキラしてね。」



そう言いながら蓮花が先程注いでくれた紅茶を飲んだ。



それから、はっとした様に声を発した。



「あ、そうだ。」



そう言うとリュクサックから先程買ったチョコポッキーを取り出した。



「はい。」



「ありがとう。」



そう言うと蓮花は口に入れた



「美味しい。」



瑠子は自分も口に入れた。



その蓮花の言葉に瑠子も続けた。



「うん、紅茶も温かくて美味しい。」



それから、どこまでも続く海を見つめた。            


                               つづく
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