呼んでいる声がする

音羽有紀

文字の大きさ
上 下
19 / 61

呼んでいる声がする(その19)蓮花と三日月

しおりを挟む
 翌日の帰りに蓮花さんのお店に寄った。蓮花のバック屋さんに行くと蓮花店の入り口に立っていた。

  立ち話で話を聞くと雪で電車が止まり家に居たそうだ。蓮花の家は瑠子とは反対側の丘に向かって行く方角だ。そうか、蓮花の方向は電車が止まってしまっていたのか。

 瑠子の身に起きた雪の日の事を話すと蓮花は酷く同情してくれた。

 佐季店長といい、蓮花といい雪というものは、人の温かさが身に染みるなと思った。

 けれど話している間、始終蓮花は、顔が青ざめている様に感じた。そんな蓮花の顔をじっと見つめると彼女は、んっ?という表情をした。不思議そうな顔をしたので、目を反らした。

 と、その時にある記憶が蘇った。蓮花と海に行く約束した事を忘れていたという事を。それでその事を言った。

「雪が溶けたら海に行こうよ。」

 蓮花はにこりと笑った。

 先程まで青ざめていた蓮花の顔の色は明るく変わった。それを見ると瑠子の心も明るくなった。

「来週何曜日休みなの?」

「来週は、月曜日。」

「じゃあ、聞いてみる。あたしは、水曜日休みだけれど変えてもらえるかも。」

 内心思っていたけれど、蓮花とじっくり話がしたかったのだ

 仕事帰りに蓮花に会うと、血相を変えてあっいう間に帰ってしまうからだ。

 とにかく明日休みを変えてもらえるか聞いてみようと思った。

 中途半端な約束になってしまったけれど、それでも約束が出来た事は良かったと思った。

 その帰り、夕凪駅から降りると、まりもで梅干しのおにぎりとコーヒー牛乳を買った。

「いつもありがとうね。」

 と、店主が言った

「どうも。」

 軽く頭を下げた。店を出ると三日月が空に浮かんでいた。凍る様な月だった

 もう雪は、だいぶ解けて歩きやすい感じになっていた。

 なぜだか踊り出したい様な心持になった。夜の道を駆け抜けて猫達の集まる街灯が見えて来た。目を凝らして見ると猫男もそこに立っているのが見えた。

 こうして猫男を見るのは久しぶりな気がした。

 つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

人間工房

沼津平成
ライト文芸
人間をつくることができる工房があるらしい。ちょっと覗いてみよう。

初愛シュークリーム

吉沢 月見
ライト文芸
WEBデザイナーの利紗子とパティシエールの郁実は女同士で付き合っている。二人は田舎に移住し、郁実はシュークリーム店をオープンさせる。付き合っていることを周囲に話したりはしないが、互いを大事に想っていることには変わりない。同棲を開始し、ますます相手を好きになったり、自分を不甲斐ないと感じたり。それでもお互いが大事な二人の物語。 第6回ライト文芸大賞奨励賞いただきました。ありがとうございます

処理中です...