呼んでいる声がする

音羽有紀

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呼んでいる声がする(その19)蓮花と三日月

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 翌日の帰りに蓮花さんのお店に寄った。蓮花のバック屋さんに行くと蓮花店の入り口に立っていた。

  立ち話で話を聞くと雪で電車が止まり家に居たそうだ。蓮花の家は瑠子とは反対側の丘に向かって行く方角だ。そうか、蓮花の方向は電車が止まってしまっていたのか。

 瑠子の身に起きた雪の日の事を話すと蓮花は酷く同情してくれた。

 佐季店長といい、蓮花といい雪というものは、人の温かさが身に染みるなと思った。

 けれど話している間、始終蓮花は、顔が青ざめている様に感じた。そんな蓮花の顔をじっと見つめると彼女は、んっ?という表情をした。不思議そうな顔をしたので、目を反らした。

 と、その時にある記憶が蘇った。蓮花と海に行く約束した事を忘れていたという事を。それでその事を言った。

「雪が溶けたら海に行こうよ。」

 蓮花はにこりと笑った。

 先程まで青ざめていた蓮花の顔の色は明るく変わった。それを見ると瑠子の心も明るくなった。

「来週何曜日休みなの?」

「来週は、月曜日。」

「じゃあ、聞いてみる。あたしは、水曜日休みだけれど変えてもらえるかも。」

 内心思っていたけれど、蓮花とじっくり話がしたかったのだ

 仕事帰りに蓮花に会うと、血相を変えてあっいう間に帰ってしまうからだ。

 とにかく明日休みを変えてもらえるか聞いてみようと思った。

 中途半端な約束になってしまったけれど、それでも約束が出来た事は良かったと思った。

 その帰り、夕凪駅から降りると、まりもで梅干しのおにぎりとコーヒー牛乳を買った。

「いつもありがとうね。」

 と、店主が言った

「どうも。」

 軽く頭を下げた。店を出ると三日月が空に浮かんでいた。凍る様な月だった

 もう雪は、だいぶ解けて歩きやすい感じになっていた。

 なぜだか踊り出したい様な心持になった。夜の道を駆け抜けて猫達の集まる街灯が見えて来た。目を凝らして見ると猫男もそこに立っているのが見えた。

 こうして猫男を見るのは久しぶりな気がした。

 つづく
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