呼んでいる声がする

音羽有紀

文字の大きさ
上 下
16 / 61

呼んでいる声がする(その16)留萌さん

しおりを挟む
 こんな雪の夜に海岸にいるなんてこっちこそ驚きますよと内心に瑠子は思った。

傘のいらぬ粉雪なので留萌さんも傘を差して無い。

 留萌さんは男で痩せていて高齢である。右隣りの部屋に住んでいて挨拶を時折かわす程度であった。

 しかし、今日は奇妙奇天烈だ、一方は夜中まで動かないバスに乗っていた自分そして一方は、この大雪の日にわざわざ雪を見にこんな所まで来た留萌さん。

 その一方の彼は驚きの声を発した。

「大変だったねえ、何時間位バスの中にいたの?」

「2時間ですけれど、その前に3時間待ったんです。その上バスの中途中から暖房効かなくなって、動かず停止してばかりだから。」

「それは、」

 留萌さんは大変驚いた様相を見せた。それに調子づいた瑠子は更に続けた。

「はい。コートが濡れてしまったので。」

 今この現在も寒い、瑠子は肩をすくめて言った。

「それは、早く帰らないと。風ひいちゃうよお。」

「そうですね。」

 留萌さんと話していたら波の寄せては返す音が、暖かく感じた。

帰る前にもう一度海岸を眺めた。

 雪が降り続く海は、この世のものとは思えない。留萌さんも同じ様に考えたのだろうか、じっと海を見ている。

「さあ、帰ろう。」

我に返った様に留萌さんは言った。

 雪に足をとられながら海岸から国道に出で横断歩道を渡った。坂は、幸いにもふわふわの雪で滑る危険性がなさそうだと瑠子は思った。

 それでも転ばぬ様に気を引き締めて、留萌さんの後をついていく。夜中の行脚の様な雪道をこうして連れが出来たのは心強いと思った。

 ブランコの有る公園の横の道を通って2番目の坂に来た。

それから少し上って坂の途中の猫の集まる電柱の下の場所を通った。

その場所を見ながら瑠子は思った。

 猫は、こんな雪の降る日にはやはりいないな。何処に居るのだろうか。

そして猫男もいない。そんな事を思っていたら留萌さんも猫の集まる場所を見て言った。

「紫苑君、流石に今日は猫に餌上げていないね。」

留萌さんも知っているんだ。猫男が猫にご飯上げている事と瑠子は驚いた。

すると留萌さんはもっと思いがけない事を言った。

「紫苑君、今日も新聞配達したのかな。」

「新聞配達?」

 猫男が新聞配達って留萌さんは言った気がする。それとも空耳なのだろうかと

瑠子は自分の耳を疑った。あの猫男が、まさか。          つづく







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

サドガシマ作戦、2025年初冬、ロシア共和国は突如として佐渡ヶ島に侵攻した。

セキトネリ
ライト文芸
2025年初冬、ウクライナ戦役が膠着状態の中、ロシア連邦東部軍管区(旧極東軍管区)は突如北海道北部と佐渡ヶ島に侵攻。総責任者は東部軍管区ジトコ大将だった。北海道はダミーで狙いは佐渡ヶ島のガメラレーダーであった。これは中国の南西諸島侵攻と台湾侵攻を援助するための密約のためだった。同時に北朝鮮は38度線を越え、ソウルを占拠した。在韓米軍に対しては戦術核の電磁パルス攻撃で米軍を朝鮮半島から駆逐、日本に退避させた。 その中、欧州ロシアに対して、東部軍管区ジトコ大将はロシア連邦からの離脱を決断、中央軍管区と図ってオビ川以東の領土を東ロシア共和国として独立を宣言、日本との相互安保条約を結んだ。 佐渡ヶ島侵攻(通称サドガシマ作戦、Operation Sadogashima)の副指揮官はジトコ大将の娘エレーナ少佐だ。エレーナ少佐率いる東ロシア共和国軍女性部隊二千人は、北朝鮮のホバークラフトによる上陸作戦を陸自水陸機動団と阻止する。 ※このシリーズはカクヨム版「サドガシマ作戦(https://kakuyomu.jp/works/16818093092605918428)」と重複しています。ただし、カクヨムではできない説明用の軍事地図、武器詳細はこちらで掲載しております。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

昇れ! 非常階段 シュトルム・ウント・ドランク

皇海宮乃
ライト文芸
三角大学学生寮、男子寮である一刻寮と女子寮である千錦寮。 千錦寮一年、卯野志信は学生生活にも慣れ、充実した日々を送っていた。 年末を控えたある日の昼食時、寮食堂にずらりと貼りだされたのは一刻寮生の名前で……?

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

処理中です...