呼んでいる声がする

音羽有紀

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呼んでいる声がする(その16)留萌さん

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 こんな雪の夜に海岸にいるなんてこっちこそ驚きますよと内心に瑠子は思った。

傘のいらぬ粉雪なので留萌さんも傘を差して無い。

 留萌さんは男で痩せていて高齢である。右隣りの部屋に住んでいて挨拶を時折かわす程度であった。

 しかし、今日は奇妙奇天烈だ、一方は夜中まで動かないバスに乗っていた自分そして一方は、この大雪の日にわざわざ雪を見にこんな所まで来た留萌さん。

 その一方の彼は驚きの声を発した。

「大変だったねえ、何時間位バスの中にいたの?」

「2時間ですけれど、その前に3時間待ったんです。その上バスの中途中から暖房効かなくなって、動かず停止してばかりだから。」

「それは、」

 留萌さんは大変驚いた様相を見せた。それに調子づいた瑠子は更に続けた。

「はい。コートが濡れてしまったので。」

 今この現在も寒い、瑠子は肩をすくめて言った。

「それは、早く帰らないと。風ひいちゃうよお。」

「そうですね。」

 留萌さんと話していたら波の寄せては返す音が、暖かく感じた。

帰る前にもう一度海岸を眺めた。

 雪が降り続く海は、この世のものとは思えない。留萌さんも同じ様に考えたのだろうか、じっと海を見ている。

「さあ、帰ろう。」

我に返った様に留萌さんは言った。

 雪に足をとられながら海岸から国道に出で横断歩道を渡った。坂は、幸いにもふわふわの雪で滑る危険性がなさそうだと瑠子は思った。

 それでも転ばぬ様に気を引き締めて、留萌さんの後をついていく。夜中の行脚の様な雪道をこうして連れが出来たのは心強いと思った。

 ブランコの有る公園の横の道を通って2番目の坂に来た。

それから少し上って坂の途中の猫の集まる電柱の下の場所を通った。

その場所を見ながら瑠子は思った。

 猫は、こんな雪の降る日にはやはりいないな。何処に居るのだろうか。

そして猫男もいない。そんな事を思っていたら留萌さんも猫の集まる場所を見て言った。

「紫苑君、流石に今日は猫に餌上げていないね。」

留萌さんも知っているんだ。猫男が猫にご飯上げている事と瑠子は驚いた。

すると留萌さんはもっと思いがけない事を言った。

「紫苑君、今日も新聞配達したのかな。」

「新聞配達?」

 猫男が新聞配達って留萌さんは言った気がする。それとも空耳なのだろうかと

瑠子は自分の耳を疑った。あの猫男が、まさか。          つづく







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