呼んでいる声がする

音羽有紀

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呼んでいる声がするその5

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呼んでいる声がする(その5)
猫男の事がもやもやして眠る事が出来ない
そして今夜はずいぶん冷えるので布団にくるまった。
凍る様な気温の朝を迎えた瑠子は、無常にも出勤しなくてはならない朝を迎えた事に、そして昨日の猫男の事を思いだして憂鬱な気分になった。
「あんな時間に酔っぱらって人のドアを叩くなんて人格疑うよ」
イライラしながら呟いた。
 ミネラルウオーターだけを飲み、お気に入りのの朱色のマフラーを巻いて外へ飛び出した。
階段を駆け下りた後ちらっと郵便受けを見た
イエローハウスの住民は、ほとんどの者が郵便受けに名前を明記しない、そしてドアにも。
なので猫男の苗字も名前もわからない、彼の方も瑠子の名前をわかってないであろう。
冷たい空気が体に刺さり口から霧の様な息が出る。
 昨日の猫男を思い出して腹ただしく思いながら、いつものごとく引力にまかせて坂を駆け下りた。
猫達は、居るのかと瑠子は坂の下に視線をやった。それらしき姿は無かった。
昨夜、猫男は酔っぱらっていたからご飯を上げなかったのではないか。
 そんな風に思いながら街路灯下猫群集地を横目で見ながら、一番目の坂を無事通過した。
右に曲がると2番目の坂が見え、そこから視界が開けて海が見渡せる
この景色を瑠子は見ると自然に笑みがこぼれてしまう
 海彩線に乗り瑠子は、駅ビルのカシカルに着いた。
 午前中は特にお客は、あまり来なかったし、夜中にドアを叩く不届きもののせいでいつもに増して眠かった。
しかしそんな中でも時間は過ぎる、お昼休憩の時間がやって来た。
駅ビルカシカルの店舗の店員が利用する最上階の食堂に瑠子は一人で行った。
その食堂は種類によってブースに分かれている。最近の瑠子のブームは、肉うどんで凝るとそればかりを食べる習性がある。
和定食、カレー等があるブースの中でそれは奥の角に有る。うどんのコーナーでる。うどんに乗っている甘い薄切り牛肉が美味しい。
「肉うどんね。」
 オーダーすると、おじさんは、人懐っこい笑顔を浮かべて丼に装ってくれる。
広い従業員食堂は、程よく混んでいた。
端の窓の方に一面が窓になっている席が有る。海は反対側で見えないが住宅街が見えて景観が良い。
隙間があったので歩いて行くと、空席の所が有った。そこのテーブルに進んで行った。
目をやると窓側に張り付く様に細身の髪の長い女性が窓辺に一人で座っていた。遠目だがその姿格好を見て瑠子は、はっとした。
蓮子ではないか。窓側のテーブルに近づくやっぱり蓮子だった。こんな事ってあるのだろうか。このビルで働いているという事だろうか。瑠子は、興奮を隠せず声をかけた。
「蓮子さん。」
彼女は、驚いた様にこちらを見た。
「ここで働いているんですか?」
 頷くと蓮子は、
「あの、えっと瑠子さんも?」
名前を憶えてくれて嬉しいと瑠子は思いながら頷いた。
「偶然だね。驚いちゃった。」
「わたしも。」
「ここ座っていい?」
「どうぞ。」
蓮子の前には、トレーに乗った食べかけのチキンカレーがあった。
「何処のお店?」
座りながら瑠子は、問い掛けた。
「1階の、ネリネっていうバック屋です。」
 黒な壁で証明が暖かく灯っている素敵なお店かもしれないと思った。
「入って右に、曲がった所?」
「そうです。」
 嬉しそうに笑顔で蓮子は答えた。
確かネリネ寄った事あったけれど彼女がいたの気がつかかったな
「3か月前から。」
「え、あ、そうなの秋からです。」
「そうなんだ。わたしね、3階のメープルなの」
「あ、知っています。」
笑っている彼女にほっとした瑠子は、気にかかっていた事を聞いた
「こないだ、大丈夫?あの帰り….」
「帰り?」
「あ、何か急いでいるみたいだったから。」
目を見開くと何かおどおどしながら答えた。
「人と待ち合わせをしていたのを忘れて…。」
蓮子の暗い表情に何かあるのを感じたて華やいで問いかけた。
「あ、チキンカレー?美味しいよね。」
瑠子も何度か食べていた事があったのだ。
頷いて蓮子が笑った。
 窓の外には何か鳥が飛んでいた。鳶だなと瑠子はじっと見た。
 それからまだ、3分の1以上残っているチキンカレーを
続きを食べ出した。
 ここは都会の真ん中で珍しいなあと思いながら箸をおいた。
「鳶。」
小さく蓮花は呟いた。 
鳶は、ゆっくりと旋回している。
「いいな。」
そう小さくやくと、蓮花はため息をふうとついた。
その言葉に相槌を打ちながら、彼女の方を見た。
消え入りそうな表情をして、まだ、3分の1が残ったカレーをぼそぼそと食べだした。
瑠子も自分の肉うどんを食べだした。
 無言のままお互いに食べ5分程すると彼女は、立ち上がりぎりぎり聞きとれる声で言った。
「じゃあ、行きますね。あの、いつもありがとう。」
「いえいえ。」
彼女は、食べたトレイを持って去って行った。
 また、外を見ると雲の間から日が出て顔に当たった
時計を見ると瑠子の休憩時間も終わりを告げようとしていた
「いけない。」
雑貨屋マーマレードに戻った。今日も客は少なくまったりと
就業時間は終わった。
駅ビル、カシカラの外に出ると空は、赤く染まっていた。
皆、足早に歩いている。
別に瑠子は、早く帰る理由は無いのだといつも思う。
カラスが、ビルの谷間を飛んで赤く染まった西の空を飛んで行くのが見えた。
 瑠子は猫達の事が心配になった。やはりあの調子だと猫男は猫にご飯上げてないよな
いつもの坂の途中に来るとチャトラが顔を足にこすりつけて
来た。
「お腹が、空いているの。」
「にゃ。」
かわいい
 急いで、坂を上った。
 坂を上がるにつれ
イエローハウスに着くと、冷蔵庫からミネラルウオーターを出して飲んだ。
 そしてこの前、買ったけれど上げられなかった猫の缶詰を掴むと部屋を出た。
、坂の下を見ると茶色の小さい姿が見てとれた。
この間いなくなってしまっただけにそこにいるか
瑠子は父の再婚相手の名前だけ母親に子供の頃、猫を捨てられた記憶があった。
車でまだ子猫だったちびを置き去りにして、車の中から
「わからないんだわ、捨てられた事。」
とよたよたと歩いているちびの事を笑って言った

 街灯の下に浮かびあがって見えたのは、猫缶を美味しそうに食べているチャトラ達とこちらを見ている人間、その風貌は猫男だった。
 瑠子は茫然とした。
そして慌ててマリモの猫缶が入っている袋を後ろ手に隠した。
「今帰り?」
 猫男は気安く、いや、あの、海辺の女の子達に囲まれていた猫男を思い出せばそれは、チャラくと例えるべきか声を掛て来た。
「いえ。あの。」
 瑠子は、無言でビニール袋からごそごそと缶詰を取り出した。
「あ、瑠子ちゃんも買って来たの。」
「あ、はい。」
そっけなく答えた。
「この黒い猫は、クロだったよな、
瑠子は、じっと見つめた。
「クロだよ。」
 笑ってしまった。やはりそのままの名前だ。
そのままの表情で、瑠子は言った
「黒猫は魔女のおつきの。」
猫男は笑った。
「黒猫って、中世では迫害にあってたんだよね。魔女達と一緒に。」
 その声は暗く夜の闇に反響した。
「そうなの、可哀そうね。」
以外だなと思った。
「黒猫は、闇で隠れて見られているって言われてさ。」
 暗く呟くと黒猫の頭を撫でた。
「けどさ、日本は福猫って言われて招き猫とかにも
なってたみたいよね。まあ、不吉とか言われてたりしてた事もあったんだけれどね。」
「詳しいんですね。」
「うん、猫の事だからかな。」
と、言って笑った。
 街灯の下はほんのりと明るいこの人は、猫のご飯代どうしているのだろう
 その時、流れて来た夜風が頬に当たった。
猫と人間二人の上の街灯はキラキラと照らしていた
 地面に腰を降ろして猫男が本当に猫界の
頭の様に思えた。思わず表情をじっと見てしまった。
 猫男は、猫を撫でていた。その表情にはっとした。
 なんて優しい瞳、けれど、その後打ち消した。
彼はチャラ男よと自分に言いきかした。昨日の夜中は、ドアを叩いたりして酔っぱらい、最低と心の中で毒づいた。
 その時ふいに彼はこちらを振り向いた
「ご飯あげてくれてありがとう。」
 猫男は、微笑みながら瑠子にお礼を述べた
 その時、一瞬辺りの空気が変わった
猫男から瑠子は視線を反らした。
 怒っていたはずなのに気持ちは何処かに行ってしまって
少しの間、猫達の、食べる様子と、猫を撫でている猫男を見比べていたが、はっとした。
何時だろう、辺りの闇はますます濃くなっている気がする。そんな中こんな中で猫にご飯をあげているなんて。
チャラ男の風情などみじんも感じさせない姿に不思議な感覚を覚えた  
「じゃあ。」
「帰るの?」
瑠子は頷いた
「じゃあね。まあ一緒のアパートだけれどね。」
そう言うと彼は笑った  
 それにつられて瑠子も笑った。
その時なぜか暗いはずの界隈輝いた様に感じた。
するとにわかに彼は呟やいた
「舘野紫苑。」
「えっ?」
「あ、俺の名前。」
「しおん?」
「女みたいだよね。」
そう言って瑠子を見上げてほほ笑んだ。
「君の名前は?」
微笑んで言った。
「樹野瑠子。」
「キノ、ルコか。瑠子ちゃんね。」
彼はそう言って屈託のない笑顔で瑠子を真っすぐ見た。
瑠子は、その視線を反らして遠くに目をやった。
遠くの街灯がキラキラ映っていた。



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