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「わたくしたち以外のクラスメートの方々も、マリアーナ様はいつも教室にいたと、虐めを行う暇なんてなかった筈だと、きっとそう証言して下さるわ。でも、あなたは言うのよね? マリアーナ様に虐められたと」

 ジェイニーから冷たい視線を向けられて、ジョゼがギクリと体を震わせた。

「え、えっと、それは……あの……」
「ねえ、あなた本当にマリアーナ様に虐められましたの? もしかして、嘘を吐いているのではなくて?」
「あっ、あた、あたしは虐められたの、本当よ!!」

 わめくジョゼを無視して、ジェイニーとカーラはテイラーに問いかけた。

「テイラー様、そもそもあなたはマリアーナ様が虐めをしているところを一度でも見たことがありますの?」
「そっ、そんなもの、あるに決まって……」
「……本当に? 神に誓えます?」
「う……」

 言い淀んだことが答えのようなものである。
 しかし、テイラーはしぶとかった。正論で言い返してきたのである。

「確かに俺は見たことがない。けれど、見ていないからといって虐めがなかったとは言えない。それに俺が見ていなくとも、これだけ噂になっているんだから、誰かしら目撃者はいるはずだ」
「なるほど、おっしゃる通りですわね。では、今この場にいらっしゃる皆様にお聞きしてみましょう」

 ジェイニーが周囲の生徒たちをぐるりと見回した。

「皆様の中で、そこの男爵令嬢がマリアーナ様に虐められているところを見たことのある方、いらっしゃいまして? いらっしゃるなら挙手をお願いしますわ」

 しかし、待てど暮らせど誰一人として手をあげようとはしない。
 さすがに場もざわつき始めた。

 学園の生徒たちはこれまで何度も耳にしてきた。
 婚約者を奪われそうになったマリアーナが、嫉妬のあまりジョゼという名の男爵令嬢を虐めていると。かなり陰湿な虐めを繰り返し行っていると、そう聞いていたのだ。

 しかしたった今、それらの噂の信憑性の低さが露呈した。

 もしかすると、すべて嘘だったのかもしれない。
 マリアーナはなにもしていなかったのかもしれない。

 となると、次に考えるのはこれである。
 自分たちを虚偽の噂で騙してきたのは一体誰だ?

 思い当たる人物は一人しかいなかった。

 その人物は、つい先ほど自ら口を開いてこう言っていた。

『されました! ホントですっ! 低い身分をバカにされたり、庶子であることを蔑まれたり、教科書を破かれたり廊下で足をひっかけて転ばされたりしたし、池に落とされたことだって、お母様の形見のネックレスを捨てられたことだってあります! あたし、とても悲しくて……っ!!』

 シーンと静まり返る中、一人の令息の声が響いた。

「はっ、ホントかよ。あれ全部嘘だったのか? うわー、信じられないな。演技力すごすぎ。同情した俺の優しい気持ちを返して欲しい」

 それは、噂に惑わされた者たち全員の心の代弁で。

 次の瞬間、騙されたことに対する怒りの矛先が一気にジョゼへと向かった。

「嘘をついていたのね!」
「男爵家の分際で伯爵家の人間を陥れようとしたのか」
「許せないな」
「信じられない、悪辣が過ぎるわ!」
「学園では身分関係なく平等とは謳われてるけれど、これは看過できない」

 周囲の人間から急に怒りを向けられたジョゼは、顔を青褪めさせてテイラーにしがみついた。

「え、なんで? どうしてこうなるの? テイラー、あたし怖いっ……え?」

 しかし、怯えるジョゼを安心させるどころか、テイラーはその手を乱暴に払いのけた。

 ジョゼは驚いて目を大きく見開く。

「テ、テイラー?」
「ジョゼ、俺を騙していたのか? 虐められたりなど、していなかったのか?!」
「いえ、あの……違うの、テイラー」
「図々しく俺の名を呼ぶな!」
「いやっ、そんな悲しいこと言わないで!」
「うるさいっ。ああ、なんてことだ! くそっ、俺に近寄るな! ポッカ―男爵には父上を通して正式に抗議させてもらうからな!!」
「お父様に?! やめて!」
「不愉快だ、失せろ!」
「そんな悲しいこと言わないで。あたしのこと好きって言ったじゃない!」

 ジョゼに泣きながら足にしがみ付かれ、テイラーは身動きが取れなくなっている。力任せに剥がそうとしても、ジョゼの力は見た目より強いらしく、なかなか振り払えずにみっともなくもがくばかりである。

 そのまま二人は見苦しく言い争いを始めたのだった。


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