5 / 7
5
しおりを挟む
「わたくしたち以外のクラスメートの方々も、マリアーナ様はいつも教室にいたと、虐めを行う暇なんてなかった筈だと、きっとそう証言して下さるわ。でも、あなたは言うのよね? マリアーナ様に虐められたと」
ジェイニーから冷たい視線を向けられて、ジョゼがギクリと体を震わせた。
「え、えっと、それは……あの……」
「ねえ、あなた本当にマリアーナ様に虐められましたの? もしかして、嘘を吐いているのではなくて?」
「あっ、あた、あたしは虐められたの、本当よ!!」
喚くジョゼを無視して、ジェイニーとカーラはテイラーに問いかけた。
「テイラー様、そもそもあなたはマリアーナ様が虐めをしているところを一度でも見たことがありますの?」
「そっ、そんなもの、あるに決まって……」
「……本当に? 神に誓えます?」
「う……」
言い淀んだことが答えのようなものである。
しかし、テイラーはしぶとかった。正論で言い返してきたのである。
「確かに俺は見たことがない。けれど、見ていないからといって虐めがなかったとは言えない。それに俺が見ていなくとも、これだけ噂になっているんだから、誰かしら目撃者はいるはずだ」
「なるほど、おっしゃる通りですわね。では、今この場にいらっしゃる皆様にお聞きしてみましょう」
ジェイニーが周囲の生徒たちをぐるりと見回した。
「皆様の中で、そこの男爵令嬢がマリアーナ様に虐められているところを見たことのある方、いらっしゃいまして? いらっしゃるなら挙手をお願いしますわ」
しかし、待てど暮らせど誰一人として手をあげようとはしない。
さすがに場もざわつき始めた。
学園の生徒たちはこれまで何度も耳にしてきた。
婚約者を奪われそうになったマリアーナが、嫉妬のあまりジョゼという名の男爵令嬢を虐めていると。かなり陰湿な虐めを繰り返し行っていると、そう聞いていたのだ。
しかしたった今、それらの噂の信憑性の低さが露呈した。
もしかすると、すべて嘘だったのかもしれない。
マリアーナはなにもしていなかったのかもしれない。
となると、次に考えるのはこれである。
自分たちを虚偽の噂で騙してきたのは一体誰だ?
思い当たる人物は一人しかいなかった。
その人物は、つい先ほど自ら口を開いてこう言っていた。
『されました! ホントですっ! 低い身分をバカにされたり、庶子であることを蔑まれたり、教科書を破かれたり廊下で足をひっかけて転ばされたりしたし、池に落とされたことだって、お母様の形見のネックレスを捨てられたことだってあります! あたし、とても悲しくて……っ!!』
シーンと静まり返る中、一人の令息の声が響いた。
「はっ、ホントかよ。あれ全部嘘だったのか? うわー、信じられないな。演技力すごすぎ。同情した俺の優しい気持ちを返して欲しい」
それは、噂に惑わされた者たち全員の心の代弁で。
次の瞬間、騙されたことに対する怒りの矛先が一気にジョゼへと向かった。
「嘘をついていたのね!」
「男爵家の分際で伯爵家の人間を陥れようとしたのか」
「許せないな」
「信じられない、悪辣が過ぎるわ!」
「学園では身分関係なく平等とは謳われてるけれど、これは看過できない」
周囲の人間から急に怒りを向けられたジョゼは、顔を青褪めさせてテイラーにしがみついた。
「え、なんで? どうしてこうなるの? テイラー、あたし怖いっ……え?」
しかし、怯えるジョゼを安心させるどころか、テイラーはその手を乱暴に払いのけた。
ジョゼは驚いて目を大きく見開く。
「テ、テイラー?」
「ジョゼ、俺を騙していたのか? 虐められたりなど、していなかったのか?!」
「いえ、あの……違うの、テイラー」
「図々しく俺の名を呼ぶな!」
「いやっ、そんな悲しいこと言わないで!」
「うるさいっ。ああ、なんてことだ! くそっ、俺に近寄るな! ポッカ―男爵には父上を通して正式に抗議させてもらうからな!!」
「お父様に?! やめて!」
「不愉快だ、失せろ!」
「そんな悲しいこと言わないで。あたしのこと好きって言ったじゃない!」
ジョゼに泣きながら足にしがみ付かれ、テイラーは身動きが取れなくなっている。力任せに剥がそうとしても、ジョゼの力は見た目より強いらしく、なかなか振り払えずにみっともなくもがくばかりである。
そのまま二人は見苦しく言い争いを始めたのだった。
ジェイニーから冷たい視線を向けられて、ジョゼがギクリと体を震わせた。
「え、えっと、それは……あの……」
「ねえ、あなた本当にマリアーナ様に虐められましたの? もしかして、嘘を吐いているのではなくて?」
「あっ、あた、あたしは虐められたの、本当よ!!」
喚くジョゼを無視して、ジェイニーとカーラはテイラーに問いかけた。
「テイラー様、そもそもあなたはマリアーナ様が虐めをしているところを一度でも見たことがありますの?」
「そっ、そんなもの、あるに決まって……」
「……本当に? 神に誓えます?」
「う……」
言い淀んだことが答えのようなものである。
しかし、テイラーはしぶとかった。正論で言い返してきたのである。
「確かに俺は見たことがない。けれど、見ていないからといって虐めがなかったとは言えない。それに俺が見ていなくとも、これだけ噂になっているんだから、誰かしら目撃者はいるはずだ」
「なるほど、おっしゃる通りですわね。では、今この場にいらっしゃる皆様にお聞きしてみましょう」
ジェイニーが周囲の生徒たちをぐるりと見回した。
「皆様の中で、そこの男爵令嬢がマリアーナ様に虐められているところを見たことのある方、いらっしゃいまして? いらっしゃるなら挙手をお願いしますわ」
しかし、待てど暮らせど誰一人として手をあげようとはしない。
さすがに場もざわつき始めた。
学園の生徒たちはこれまで何度も耳にしてきた。
婚約者を奪われそうになったマリアーナが、嫉妬のあまりジョゼという名の男爵令嬢を虐めていると。かなり陰湿な虐めを繰り返し行っていると、そう聞いていたのだ。
しかしたった今、それらの噂の信憑性の低さが露呈した。
もしかすると、すべて嘘だったのかもしれない。
マリアーナはなにもしていなかったのかもしれない。
となると、次に考えるのはこれである。
自分たちを虚偽の噂で騙してきたのは一体誰だ?
思い当たる人物は一人しかいなかった。
その人物は、つい先ほど自ら口を開いてこう言っていた。
『されました! ホントですっ! 低い身分をバカにされたり、庶子であることを蔑まれたり、教科書を破かれたり廊下で足をひっかけて転ばされたりしたし、池に落とされたことだって、お母様の形見のネックレスを捨てられたことだってあります! あたし、とても悲しくて……っ!!』
シーンと静まり返る中、一人の令息の声が響いた。
「はっ、ホントかよ。あれ全部嘘だったのか? うわー、信じられないな。演技力すごすぎ。同情した俺の優しい気持ちを返して欲しい」
それは、噂に惑わされた者たち全員の心の代弁で。
次の瞬間、騙されたことに対する怒りの矛先が一気にジョゼへと向かった。
「嘘をついていたのね!」
「男爵家の分際で伯爵家の人間を陥れようとしたのか」
「許せないな」
「信じられない、悪辣が過ぎるわ!」
「学園では身分関係なく平等とは謳われてるけれど、これは看過できない」
周囲の人間から急に怒りを向けられたジョゼは、顔を青褪めさせてテイラーにしがみついた。
「え、なんで? どうしてこうなるの? テイラー、あたし怖いっ……え?」
しかし、怯えるジョゼを安心させるどころか、テイラーはその手を乱暴に払いのけた。
ジョゼは驚いて目を大きく見開く。
「テ、テイラー?」
「ジョゼ、俺を騙していたのか? 虐められたりなど、していなかったのか?!」
「いえ、あの……違うの、テイラー」
「図々しく俺の名を呼ぶな!」
「いやっ、そんな悲しいこと言わないで!」
「うるさいっ。ああ、なんてことだ! くそっ、俺に近寄るな! ポッカ―男爵には父上を通して正式に抗議させてもらうからな!!」
「お父様に?! やめて!」
「不愉快だ、失せろ!」
「そんな悲しいこと言わないで。あたしのこと好きって言ったじゃない!」
ジョゼに泣きながら足にしがみ付かれ、テイラーは身動きが取れなくなっている。力任せに剥がそうとしても、ジョゼの力は見た目より強いらしく、なかなか振り払えずにみっともなくもがくばかりである。
そのまま二人は見苦しく言い争いを始めたのだった。
27
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
妹は悪役令嬢ですか?
こうやさい
ファンタジー
卒業パーティーのさなか、殿下は婚約者に婚約破棄を突きつけた。
その傍らには震えている婚約者の妹の姿があり――。
話の内容より適当な名前考えるのが異様に楽しかった。そういうテンションの時もある。そして名前でネタバレしてしまうこともある(爆)。
本編以外はセルフパロディです。本編のイメージ及び設定を著しく損なう可能性があります。ご了承ください。
冷静考えると恋愛要素がないことに気づいたのでカテゴリを変更します。申し訳ありません。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
後で消すかもしれない私信。朝の冷え込みがまた強くなった今日この頃、パソコンの冷却ファンが止まらなくなりました(爆)。ファンの方の故障だと思うのですが……考えたら修理から帰ってきたときには既におかしかったからなー、その間に暑くなったせいかとスルーするんじゃなかった。なので修理とか出さずに我慢して使い続けると思うのですが、何かのときは察して下さい(おい)。ちょっとはスマホで何とかなるだろうけど、最近やっとペーストの失敗回数が減ってきたよ。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
逆行転生って胎児から!?
章槻雅希
ファンタジー
冤罪によって処刑されたログス公爵令嬢シャンセ。母の命と引き換えに生まれた彼女は冷遇され、その膨大な魔力を国のために有効に利用する目的で王太子の婚約者として王家に縛られていた。家族に冷遇され王家に酷使された彼女は言われるままに動くマリオネットと化していた。
そんな彼女を疎んだ王太子による冤罪で彼女は処刑されたのだが、気づけば時を遡っていた。
そう、胎児にまで。
別の連載ものを書いてる最中にふと思いついて書いた1時間クオリティ。
長編予定にしていたけど、プロローグ的な部分を書いているつもりで、これだけでも短編として成り立つかなと、一先ずショートショートで投稿。長編化するなら、後半の国王・王妃とのあれこれは無くなる予定。
悪役令嬢の矜持〜世界が望む悪役令嬢を演じればよろしいのですわね〜
白雲八鈴
ファンタジー
「貴様との婚約は破棄だ!」
はい、なんだか予想通りの婚約破棄をいただきました。ありきたりですわ。もう少し頭を使えばよろしいのに。
ですが、なんと世界の強制力とは恐ろしいものなのでしょう。
いいでしょう!世界が望むならば、悪役令嬢という者を演じて見せましょう。
さて、悪役令嬢とはどういう者なのでしょうか?
*作者の目が節穴のため誤字脱字は存在します。
*n番煎じの悪役令嬢物です。軽い感じで読んでいただければと思います。
*小説家になろう様でも投稿しております。
【完結】王子と結婚するには本人も家族も覚悟が必要です
宇水涼麻
ファンタジー
王城の素晴らしい庭園でお茶をする五人。
若い二人と壮年のおデブ紳士と気品あふれる夫妻は、若い二人の未来について話している。
若い二人のうち一人は王子、一人は男爵令嬢である。
王子に見初められた男爵令嬢はこれから王子妃になるべく勉強していくことになる。
そして、男爵一家は王子妃の家族として振る舞えるようにならなくてはならない。
これまでそのような行動をしてこなかった男爵家の人たちでもできるものなのだろうか。
国王陛下夫妻と王宮総務局が総力を挙げて協力していく。
男爵令嬢の教育はいかに!
中世ヨーロッパ風のお話です。
努力をしらぬもの、ゆえに婚約破棄であったとある記録
志位斗 茂家波
ファンタジー
それは起きてしまった。
相手の努力を知らぬ愚か者の手によって。
だが、どうすることもできず、ここに記すのみ。
……よくある婚約破棄物。大まかに分かりやすく、テンプレ形式です。興味があればぜひどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる