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最終話
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朝まで互いの熱を堪能した翌日、気だるいけれども心地良い事後の疲れの中で、相変わらず美しいカレヴィの腕に抱きしめられたまま、ハンナは呟いた。
「結局、一番の被害者はリリシア様だったかもしれないわね」
「うーん、どうかな。彼女、それなりに幸せそうにしているよ。五才になる息子は元気に育っているし、今も次の子を妊娠中だし」
それを聞いてたハンナの胸がチクリと痛む。
「そ、そう……。だったら、あなたもあまりここには来ずに、息子さんと妊娠中のリリシア様の側にいてあげた方がいいわね」
泣きそうな顔でそう言うハンナの額に、カレヴィは優しく口付けた。
「それは気にしなくていいよ。だって、息子もお腹の子も僕の種じゃないからね」
「え?」
「実は僕たちは白い結婚なんだよ。結局、僕の体はリリシアには反応しなくてね。どうやっても抱けなかったんだ。申し訳ないから、リリシアには僕の友人の男爵家の次男を紹介してあげた。とても綺麗な顔をした男でね。リリシアは一目で彼を気に入ってくれたよ」
「え! で、でも、リリシア様はあなたのことがあんなに好きだったじゃない」
「まあ結局、リリシアは僕というよりも僕の顔が好きだっただけなんだよ。侯爵邸の広い庭の片隅に、彼のための別邸をかなり豪華に作ったんだ。そこで二人は毎夜のように甘いひと時を楽しんでるよ。息子は彼にそっくりでね、とてもかわいいんだ」
それを聞いたハンナは、疑問に思ったことをカレヴィに尋ねた。
「どうしてリリシア様はあなたと離縁しないの? 普通だったら、愛するその彼と結婚したいと思うものじゃない?」
「彼は顔は良くて優しいし、リリシアを心から愛している。でも残念ながら昔から頭はあまり良くないんだ。侯爵家やその領地を運営したり、事業の管理はできないんだよ。それが分かってるから、リリシアの父親である侯爵は娘が愛人を囲うことは許しても、僕との離婚は許さないんだ」
しばらく考えて、ハンナは小さく笑った。
「悪い人ね。あなた、わざとそういったタイプの男性をリリシア様に紹介したのね。自分の地位を脅かさない男性を選んで、リリシア様の愛人にあてがったんでしょう?」
カレヴィは楽しそうな顔で、ハンナの顔中にキスの雨を降らした。
「君は本当に賢いね。愛しているよ、ハンナ。学園の入学式で、一目見て君に恋に落ちた。あの時から僕には君だけだ」
「わたしもあなたを愛してるわ。ありがとう、わたしを守ってくれて。十年以上もずっと諦めないでくれて、好きでいてくれてありがとう」
「いいよ。おかげで今とても幸せだから。僕こそありがとう。僕を信じる気になってくれて」
二人は見つめ合い、やがて唇を重ね合わせた。
重ねるたびにキスは少しずつ深くなっていく。
この日初めてハンナは知った。
人を愛し、愛されることの幸せを。
そして、幸せ過ぎても人は涙を流すということも、この時初めてハンナは知った。
そのことを知るのに十年という月日がかったが、決して無駄ではなかったと、愛する人の腕の中でハンナは心からそう思ったのだった。
end
「結局、一番の被害者はリリシア様だったかもしれないわね」
「うーん、どうかな。彼女、それなりに幸せそうにしているよ。五才になる息子は元気に育っているし、今も次の子を妊娠中だし」
それを聞いてたハンナの胸がチクリと痛む。
「そ、そう……。だったら、あなたもあまりここには来ずに、息子さんと妊娠中のリリシア様の側にいてあげた方がいいわね」
泣きそうな顔でそう言うハンナの額に、カレヴィは優しく口付けた。
「それは気にしなくていいよ。だって、息子もお腹の子も僕の種じゃないからね」
「え?」
「実は僕たちは白い結婚なんだよ。結局、僕の体はリリシアには反応しなくてね。どうやっても抱けなかったんだ。申し訳ないから、リリシアには僕の友人の男爵家の次男を紹介してあげた。とても綺麗な顔をした男でね。リリシアは一目で彼を気に入ってくれたよ」
「え! で、でも、リリシア様はあなたのことがあんなに好きだったじゃない」
「まあ結局、リリシアは僕というよりも僕の顔が好きだっただけなんだよ。侯爵邸の広い庭の片隅に、彼のための別邸をかなり豪華に作ったんだ。そこで二人は毎夜のように甘いひと時を楽しんでるよ。息子は彼にそっくりでね、とてもかわいいんだ」
それを聞いたハンナは、疑問に思ったことをカレヴィに尋ねた。
「どうしてリリシア様はあなたと離縁しないの? 普通だったら、愛するその彼と結婚したいと思うものじゃない?」
「彼は顔は良くて優しいし、リリシアを心から愛している。でも残念ながら昔から頭はあまり良くないんだ。侯爵家やその領地を運営したり、事業の管理はできないんだよ。それが分かってるから、リリシアの父親である侯爵は娘が愛人を囲うことは許しても、僕との離婚は許さないんだ」
しばらく考えて、ハンナは小さく笑った。
「悪い人ね。あなた、わざとそういったタイプの男性をリリシア様に紹介したのね。自分の地位を脅かさない男性を選んで、リリシア様の愛人にあてがったんでしょう?」
カレヴィは楽しそうな顔で、ハンナの顔中にキスの雨を降らした。
「君は本当に賢いね。愛しているよ、ハンナ。学園の入学式で、一目見て君に恋に落ちた。あの時から僕には君だけだ」
「わたしもあなたを愛してるわ。ありがとう、わたしを守ってくれて。十年以上もずっと諦めないでくれて、好きでいてくれてありがとう」
「いいよ。おかげで今とても幸せだから。僕こそありがとう。僕を信じる気になってくれて」
二人は見つめ合い、やがて唇を重ね合わせた。
重ねるたびにキスは少しずつ深くなっていく。
この日初めてハンナは知った。
人を愛し、愛されることの幸せを。
そして、幸せ過ぎても人は涙を流すということも、この時初めてハンナは知った。
そのことを知るのに十年という月日がかったが、決して無駄ではなかったと、愛する人の腕の中でハンナは心からそう思ったのだった。
end
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