愛と浮気と報復と

よーこ

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愛されて婚約したはずなのに

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 伯爵家の次女であるわたしと、侯爵家三男のアランは婚約したのは三ヵ月前、十八才になってすぐのことだった。

 王都に構える屋敷が隣同士だったし、母親同士が友人だったこともあって、わたしとアランは幼馴染として育った。誰よりも仲のいい信頼できる友人だと思っていた。

 けれどもアランの方は違ったらしい。
 幼い頃からずっと、わたしはアランからこう言われ続けていた。

「大好きだよ、リディア。将来は俺のお嫁さんになって」

 アランは黒髪にサファイアの瞳をした、とても美しい少年だ。

 そんな彼からいつも愛を告白されていて、悪い気がするはずがない。が、残念ながらわたしの好みのタイプはアランとは違う。

 わたしが好きなのは、優しく穏やかで知的な雰囲気の漂う人。そう、わたしのお父様みたいな男性が好きなのだ。

 残念なことに、アランはそれとは真逆なタイプだ。剣術の鍛錬を趣味とするような、元気でやんちゃな肉体派である。

 アランからの好意はとても有難い。けれど、わたしは恋愛的な意味ではアランのことを好きじゃない。変に期待させては返って悪いと思い、わたしはいつもアランの告白をキッパリ断っていた。

「無理よ、わたしの好みはアランとは違うもの」
「でも、俺の好みはリディアなんだ。リディアのそのはっきり物を言うところとか大好き」
「そうは言うけど、もっと野菜を食べなさいとか、剣術ばかりじゃなくて勉強もしなきゃダメだとかわたしが言うと、そのたびに迷惑そうな顔をするじゃない」
「そうかもしれないけど、でも、それも全部俺のために言ってくれていること、俺はちゃんと分かっているもの。リディアは確かに口では俺に厳しいことばっかり言う。だけど本当はとっても優しい子だってこと、俺はちゃんと知ってる。だから俺はリディアが好きなんだ。ねえ、お願いだから結婚して?」
「うーん、タイプじゃないのよねー」
「そんなこと言わずにさー、頼むよ!!」

 美貌のアラン少年から毎日そう懇願され、わたしはいつも困っていたものだ。が、それに対して両家の親たちは、わたしたちの婚約に賛成のようだった。

 栗色の瞳と琥珀色の瞳をしたわたしは、それになりに見目の整った容姿をしていた。美しいアランと隣り合って立っても、そう見劣りすることはない。
 親たちの目には、わたしたちはさぞお似合いに映っていたことだろう。

 アランは小さな頃から騎士になると言っていて、そのための努力も十分にしている。血筋に問題はないことだし、いずれ間違いなく立派な騎士になるに決まってる。

 騎士はお給料も悪くないし、雇い先が国なだけに安定した勤め先と言える。

 けれども命の危険はあるし、定期的に夜勤もしなければならない肉体酷使の仕事でもある。そんな仕事につく彼を、小さい頃からよく知るわたしが支えてくれれば安心だと、そうアランの両親は思っているのだろう。

 わたしの両親にしても、騎士という誉れ有る職に就く予定のアランと結婚してくれれば、生涯生活に困ることなく、ずっと安心だという思いがあるようだった。

 言っていることは分かる。だけど、わたしの好みはアランとは違う。
 アランのことは大好きだけど、それは恋愛感情とは程遠い。

 わたしにとってのアランは、同い年でありながらも脳筋で少し考えの浅い、まるで弟のような存在でしかなかった。

 しかし、親たちからの「二人が結婚すればいいのに」という無言の圧がものすごい。しかも、年々強まっていくばかりだ。

 色々と考えた末、十才の時にわたしはアランにこう言った。 

「わたしたちが十八才なって王立学園を卒業する時、まだアランがわたしを好きだって言っていたら、その時は仕方がない。婚約しよう」
「ホント? ホントに俺と婚約してしてくれるの?!」
「うん。ただ、さっきも言ったけど、学園を卒業してアランが就職する時、まだわたしのことが好きだったらね」
「やったね。それならもう結婚は決まったようなものだよ。だって、俺がリディアを好きじゃなくなることなんて、あるはずがないんだから!」

 アランは自信満々のようだった。

 わたしとしても、十八才までアランが愛を囁き続けてくれれば、絆されて彼に愛情を持つこともあるだろうと思った。

 元々嫌いではないのだし、友情が愛情に変わるなんて話は、友達のご令嬢たちからもよく聞かされる話だ。それに、そもそもわたしは貴族。好きな人と結婚できることの方が珍しい立場にある。

 政略結婚で顔も知らない相手と結婚するくらいなら、少なくとも好感を持っているアランと結婚する方が、何万倍もマシに決まっている。

 そんなわけで、仮の婚約者のような存在になったわたしとアランだけど、その後も日々変わることなく、それなりに仲良く過ごしていた。

 相変わらず会うたびにアランは愛を囁き続けたし、わたしはそれを苦笑しながら聞きながし、アランに野菜を食べさせようとしたり、マナーレッスンや勉強をもっとするように、口煩くガミガミ言っていたのだ。

 そんな二人の生活も、貴族の子供が通う王立学園に入学して以後は、少し変わってきた。

 お互いが自分の友人たちと過ごす時間が増えたため、わたしとアランが二人で過ごす時間はかなり減った。

 それに、想像していた通りではあるものの、学園でアランは大いにモテた。

 なにせアランは顔がいい。それだけじゃなく、小さい頃から騎士を目指していたアランの肉体は逞しく、雄としてのフェロモンを垂れ流している。どうやらそれがご令嬢方を惹きつけるらしい。

 当然ながら、アランの剣術の成績はいつも学年で一番であり、将来は間違いなく騎士団に入れるだろうことも、ご令嬢方のお気に召すポイントとなったようだ。

 それだけじゃなく、運が良ければいつかは騎士爵を得ることも夢ではないかもしれないと、そういう期待もあるようで、アランの周りにはいつも数多くのご令嬢が取り巻いていた。

 そんなアランの日常と比べると、わたしは至って静かな学園生活を送っていた。

 わたしの容姿は悪くない。とはいえ、貴族の令嬢は皆それなりに美しい顔立ちをしている者ばかりだ。そんな中だと、わたしなんてただの普通顔にすぎない。

 だから特別にモテるということはなかったけれど、男女問わずたくさんの友達は作ることができた。わたし、こう見えて社交性はものすごくあるみたい。
 おかげで、とても充実した学園生活を送ることができていた。

 そんなわたしを見たアランが、時々拗ねたようにこんなことを言う。

「リディア、いくら友人とはいっても、あまり男と仲良くしないで欲しい。仮とはいえ、俺たちは婚約者みたいな関係なんだぞ。もっと自重してくれないか」
「あー、はい。分かった、ほどほどにします」
「ほどほどでも嫌だ。本音を言えば、男とは口をきかないで欲しい!」
「いくらなんでもそれは無理よ。それにアランだって、いつも美しいご令嬢たちと楽しそうにおしゃべりしているじゃないの」
「あ、あれは、向こうが勝手に近寄ってくるだけだ。俺から声をかけているわけじゃない」

 うん、知ってる。
 アランは今でもわたしのことが大好きらしく、今みたいに頻繁に嫉妬するし、愛の言葉を囁いてくる。美しい高位貴族の令嬢たちに秋波を送られても、それを気に留めようともしない。

 この頃になると、わたしだけを特別扱いしてくれるアランの態度を、わたしはとても嬉しいと思うようになっていた。アランには内緒にしていたけれどね。


.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚


 わたしたちの国やその周辺諸国では、十六才の誕生日と共に成人の義を行い、それによって大人として認められることになる。よって、夜会への参加が許されるのも成人してからだ。

 当然ながら、わたしは嬉々として招待された夜会に参加しまくった。その時は、アランが必ずエスコートしてくれた。

 黒髪にサファイアの瞳をした、凛々しく逞しいわたしの幼馴染。彼はどこの夜会に参加しても、令嬢たちの視線を集めた。しかし、それを自覚して鼻高々になることは一切ない。

「この夜会の会場の中で、リディアが一番綺麗だ」

 ダンスしながらそう耳元で囁かれ、わたしの頬は赤く染まる。

「な、なにを言ってるの。わたしなんかより綺麗な人、たくさんいるじゃない」
「俺にはリディアが一番の美人に見える」
「そ、そんなこと……」
「好きなんだから当然だよ。リディア、昔から君だけを愛してる。どうか俺を好きになって」

 美しい青の瞳で切なく見つめられ、わたしの心臓がトクンと波打った。さっきまで以上に顔が赤くなり、アランの精悍な顔から目を反らせなくなってしまう。

 もっ、もうダメだ。もう降参だと思った。
 これほどまでに愛情を注がれ続け、好きにならない人がいたら、その方がおかしいに決まっている。

 わたしは踊りながら、アランの首筋に口元を寄せた。

「わたしも好きよ。アランのことが誰よりも好き」
「え、ほ、本当に? からかっているんじゃなくて?!」
「いつの間にか、あなたのことが好きになってたみたい。学園を卒業したら、すぐにでも婚約しましょう?」
「ああ、嬉しいよ、リディア。心の底から愛してる!」

 周囲の貴族たちが華麗にダンスを踊る中、わたしとアランは足を止め、その場で互いを抱きしめ合った。

 これ以上はないと思えるほど、わたしはとても幸せだった。
 


 その後は特にこれといった問題も起きず、わたしたちは学園を卒業することになった。

 アランは無事に騎士団への入団が許され、わたしたちは約束通り婚約した。結婚はアランが騎士団での仕事に慣れるであろう一年後にすることにした。

 結婚後は、わたしたちは貴族ではなくなってしまう。
 その時に備えて、わたしは一生懸命家事を覚え始めた。

 入団して数年は、アランのお給料もそう多くはないだろう。それに備え、わたしは学園で習った薬草学を生かし、薬屋で働くことにした。

 仕事が休みの日には、料理の腕を上げるために作った料理や焼き菓子などを持って、騎士団を訪れるようになった。
 騎士団の皆さんは、わたしの差し入れをとても喜んでくれた。アランが所属する第三騎士団の方々とは、ほとんどが顔見知りの仲良しになった。


 結婚式が二ヵ月後に迫った頃、珍しくアランの非番とわたしの仕事休みの日が重なった。いつもならこういう時、必ず二人で町をデートした。けれどもその日は珍しく、会う約束ができなかった。

「疲れて溜まっているらしくて、少し体がだるいんだ。その日は一日中ベッドで惰眠を貪りたい」
「そっか、疲れてるなら仕方がないわね。残念だけど、うん、分かったわ。ゆっくり休んでね」
「すまないな、リディア。埋め合わせは必ずするから」

 騎士の仕事は体が資本。
 休みの日にゆっくり体の疲れを取ることも、騎士にとっては必要なことだ。それが分かっているから、わたしは残念に思いながらも文句は言わなかった。

 それにしても、どうしよう。一日暇になってしまった。

 しばらく考えた挙句、わたしはこっそりアランの住む騎士団の独身寮を訪れることにした。疲れているなら睡眠は必要だけど、栄養だってしっかり取るべきだと、そう思ったからだ。

 わたしは当家の料理長に許可をもらって厨房に入ると、張り切って料理をし始めた。騎士団への差し入れ分も含めて、たくさんのサンドウィッチとクッキーを作った。
 それを持って、わたしは騎士団の訓練場へと向かった。その敷地内に、独身騎士のための寮がある。

 騎士訓練所の門前に着くと、既に顔見知りになっている守衛たちに、わたしは手作りクッキーの包を渡した。そして、彼らからアランが外出していないことを聞き出した。

 途中ですれ違う騎士団の方々にも顔で挨拶しつつ、わたしは勝手知ったるアランの個室へと向かっていった。

 部屋の前に着くと、寝ているかもしれないアランを起こさないよう、そっと静かに音を立てないようにしてドアを開けた。

 その途端、中から人の声が聞こえたきた。

「あ……ああっ……いい、すごくいいわ、アラン!」
「……う……ふ、君も……フェリシア、最高だよ」

 ギシッギシッというベッドの軋む音。その合間に、男女の淫らな喘ぎ声聞こえた。

 中でなにが行われているかに気付く。
 その瞬間、わたしの目の前が真っ黒になった。

 足がガクガクする。吐き気がしてきて口元を手で押さえた。

「う、うそ……うそよ……」

 考えたこともなかった。アランが浮気するなんて。わたしを裏切るだなんて。あんなにわたしを愛していると言っていたのに。

「愛してる、愛してるよ、フェリシアッ」
「わたしもよ、かわいいアラン。ビルよりも誰よりもあなたを愛してる」

 子供の頃からわたしを愛していると囁き続けたその唇が、別の人に愛を囁いている。わたしを何度も抱きしめたあの逞しい腕は、今やベッドの中で別の人を抱いていた。

 悲しくて苦しくて、胸が潰れてしまいそうだった。

 気が付くと、わたしの瞳からは涙が溢れていた。この涙はわたしのアランに対する愛だ。愛していたから、こんなに苦しくて涙が出る。そして、涙と一緒にアランへの愛がわたしの中から零れ落ちていくのを感じた。

 泣きながら、わたしは思った。
 アランとは結婚できない。婚約は破棄しよう。

 アランとの幸せな未来など、もうわたしにはどうやっても思い描けなかった。わたしの目の前で、必死になって別の女に腰を振っている男は、既に怒りと嫌悪感を抱くだけの存在でしかない。

 と、ここでわたしはふと思う。
 相手の女は一体どこの誰だろう。

 さっきアランが言っていた。女の名はフェリシア。そうやら彼女には恋人か夫がいて、その名前がビルというらしい。

 頻繁に差し入れをしていたおかげで、騎士団の人たちの大半の顔と名前を憶えている。そんなわたしには、すぐに該当人物を思いつくことができた。

 フェリシア。それはアランの所属する第三騎士団の副団長である、ビル様の奥様の名前だった。

 わたしも以前に一度だけ、フェリシアに会ったことがある。騎士団に差し入れに来た時、訓練所に偶然来ていた彼女に会い、少しだけ話をした。
 赤い髪に濃い緑の目をした、とても豊満で色っぽい体つきをした美女だった。

 彼女の側にいる時のビル様は、いつもの厳めしい表情から打って変わって幸せそうで、その溺愛振りが一目見たら誰にでも分かってしまうほど熱烈なものだった。

 ビル様はアランの直属の上司だから、わたしとも少しだけ面識がある。見かけは少し怖いけど、とても優しい方だ。

「いつも差し入れをありがとう。アランは幸せ者だな、君みたいな素敵な婚約者がいて」

 そう声をかけてもらったこともある。すごく気配りのできる方だとわたしは感じた。

 上司として、入団したばかりのアランのことを、とてもかわいがってくれていた。アランもビル様のことを慕い、心から尊敬しているように見えた。

 それなのに。
 あれは全部演技だったのだろうか。
 あんな良い人を裏切るなんて。
 人としてやっていいことではない。

 アランにもフェリシアにも激しい怒りが込み上げた。

 もうアランなんていらない。顔も見たくない。

 婚約者がいながら別の女と浮気しているアランも、婚約者がいること知っていながらアランとそういう関係になったフェリシアも、どちらも絶対に許せない。

 二人に対し、わたしは報復することにした。
 わたしがやったとは絶対にばれない方法で、二人を苦しみ抜かせてやろうと、そう決意した。




 実はわたしには秘密がある。

 これまで家族にさえも隠してきた、大きな大きな秘密だった。

 それがなにかと言うと、実はわたし、身の内に膨大な量の魔力を持っているのである。それこそが、わたしがこれまで世間にひた隠しにしてきた、重大な秘密なのだった。

 基本的に、この世界の人間は魔力を持っていない。ごく稀に魔力を持って生まれる人間がいるのだけれど、そういった人間は神に愛されし者として、国に保護される対象となる。

 わたしが自分の魔力に気付いたのは四才の時。本好きの乳母からたくさんの絵本の読み聞かせをされて育ったわたしは、その頃既に魔術師という者の存在と、その希少さについてボンヤリとだけれど知っていた。

 幼いわたしが思ったのは、魔力を持っていることで、家族から引き離されるのは嫌だということ。一人だけ王宮に捕らわれることを恐れるあまり、わたしは魔力持ちであることを誰にも内緒にすることにした。

 幼馴染のアランにも秘密にした。
 わたしが普通ではないことを知られることで、アランに嫌われるのがイヤだったからだ。

 不思議なことに、誰からも教わっていないのに、わたしは成長するごとに色々な魔法を使えるようになっていった。

 幼い頃はよく分からなかったけれど、大人になった今なら分かる。
 わたしという人間は、多分、かなり類まれな存在に違いない。ありとあらゆる属性の魔法が仕えるし、その魔力量は膨大だ。おそらく、国一つを滅ぼす程度のことは簡単にできてしまう。

 自分が魔術師であることを、わたしは死ぬまで誰にも言わないと心に決めた。
 バレてしまうと、戦争の道具にされてしまうかもしれない。そうじゃなくても、なにかしら国家レベルのことに利用されてしまうであろうことは予想できた。

 そんなのは嫌だった。
 わたしが望むのは平凡な幸せ、ただそれだけだ。

 その平凡な幸せを手に入れるため、いつか誰かと結婚して、自分の家庭を持つ。それが小さな頃からのわたしの唯一の望みだった。

 それを手に入れる上で、他に類をみない特別な力というものは、邪魔なものでしかない。けれどもどんなに願っても、わたしの中の魔力がなくなることはなかった。となれば、誰にも内緒にしておくしかない。

 魔法が使えるからと言って、普段生きている中で、わたしがその能力を使うことはあまりない。

 たまにだけ、重い荷物を持つ時に自分に強化魔法をかけて怪力にしたり、馬車に轢かれそうになった子供を助けるために少しだけ転移させたり、猫に襲われて死にかけている小鳥に治癒魔法をかけたりと、そういったことを人目を忍んでやったことはあるけれど、本当にごくたまにのことだ。

 必要以上に使うことはしない。けれど、せっかく持って生まれた稀有な能力を、無駄にするつもりもなかった。

 必要な時に魔法を使うことに対し、わたしにはなんの躊躇もない。

 だからわたしは、アランとフェリシアへの報復のために、二つの魔法を使うことにした。

 一つ目は硬直化の魔法。
 アランとフェリシアが体を繋げた状態のまま、五分間体を動かせなくなるように硬直化の魔法をかけた。

 二つ目は転移魔法。
 性交中の二人をベッドごと、多くの騎士たちが鍛錬している訓練場のど真ん中に移動させた。そこには当然、副団長のビル様もいるはずだ。

 なにが起こるのかは言わずもがな。

 死ぬほど恥をかくといい。
 嫌悪の目を向けられ、死にたくなるほど蔑まれればいい。


 そんなことを思いながら魔法をかけ終えると、わたしはその結果を見ることなく、急ぎ自宅へと帰った。一秒でも早く婚約破棄の手続きをするために。

 今後の人生、二度とアランに会うことはないだろうなと、わたしは帰路を歩きながらそう思った。

 歩いていると涙が零れ落ちた。

 心はやはり、傷ついていた。



◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇

次回アラン視線。

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