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37 衝撃の事実
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再会を果たした三ヵ月後、わたしとセドリックはギレンセン侯爵領で結婚式を行った。場所は領都にある教会で、わたしの洗礼式を行った場所でもある。
参加者はあまり多くない。特に親しい身内や少数の友人だけを招待した、とてもささやかな式だ。
けれども多くの領民たちが集まって祝福してくれた。
思い出に残る素晴らしい結婚式となった。
とはいえ行ったのは式だけで、貴族院への婚姻届けは提出していない。
なぜなら。
「三年くらい前に、俺たちの婚姻届けは既に提出済だからな」
「えっ、それはどういうことですか?!」
「ははは、他の令息たちに対するセドリックの牽制だね」
「牽制?」
式の後に開かれたパーティーも終わり、家族四人でお茶を飲んで一息ついていた時のことだ。わたしとセドリックとの婚姻届けが既に提出済み、という思いがけないことを聞いて驚くわたしに、お父様が説明してくれたことによると……。
「アダルベルト公爵令息との婚約が破棄されて以降、クリスへの婚約申し込みが殺到してね。ほら、ギレンセン侯爵はそれなりの名門で、領地経営も上手くいっていて裕福だろう? 縁を繋ぎたいと思う家は多くてね」
「それだけではない。クリスは誰の目から見ても美しく、性格は穏やかだが芯の強さも持っている素晴しい女性だ。君は気付いていなかったようだが、実は多くの貴族令息たちに好意を持たれ、憧れらえていた。だから他の誰かに掻っ攫われる前に、クリスを自分のものにしたかった。求婚したかった。しかし、義父上にもう少し待つように言われてしまい……」
そうこうしている内に、わたしが失踪したという。
恨めしそうなセドリックからの視線に、お父様が苦笑した。そして、教えてくれる。
家出していた間のわたしは、婚約破棄が原因で体調を崩したために領地で療養することにした、と世間には知らせていたらしい。加えて、傷心のわたしを献身的に支え、慰め続けた血の繋がらない義兄との間に愛が芽生えたことから、二人は結婚することになった、とも公表したとのこと。
「クリスの体調がまだ本調子ではないということで、式は挙げずに書類提出のみ、まだしばらくは領地で静養するから社交はできない、ということにしたんだよ。な、セドリック」
「はい、義父上」
なんてことのないように二人は話してくれたが、わたしは顔を青褪めた。
「行方不明のわたしと婚姻を結ぶなんて、もしわたしが見つからないままなら、どうするつもりだったのですか?! 他の人と結婚できないではないですか!」
「かまわない。他の女性と結婚する気など、俺にはなかったから」
「そ、そんな」
わたしの頬を撫でながら、セドリックは真剣な顔で言う。
「もしクリスが見つからなければ、一生独身のままで養子を迎えるつもりだった。俺の妻になるのはクリスだけだ。他の女性など欲しくない。それに、絶対にクリスは見つかると信じていたからな」
「なにをどう言ってもセドリックは考えを変えなくてね。ついに根負けして、クリスとの婚姻届けの提出を許すことにしたんだよ。わたしとしても、すぐに求婚を許さなかったことへの負い目もあったし。そこまでクリスを大切に想ってくれていることが、嬉しかったというのもあったから」
何も言えず、わたしは両手で顔を覆って泣くことしかできなかった。
ここまで想ってくれていたなんて。こんなに愛されていたなんて。
幸せすぎて胸が潰れてしまうのではないかと思った。
参加者はあまり多くない。特に親しい身内や少数の友人だけを招待した、とてもささやかな式だ。
けれども多くの領民たちが集まって祝福してくれた。
思い出に残る素晴らしい結婚式となった。
とはいえ行ったのは式だけで、貴族院への婚姻届けは提出していない。
なぜなら。
「三年くらい前に、俺たちの婚姻届けは既に提出済だからな」
「えっ、それはどういうことですか?!」
「ははは、他の令息たちに対するセドリックの牽制だね」
「牽制?」
式の後に開かれたパーティーも終わり、家族四人でお茶を飲んで一息ついていた時のことだ。わたしとセドリックとの婚姻届けが既に提出済み、という思いがけないことを聞いて驚くわたしに、お父様が説明してくれたことによると……。
「アダルベルト公爵令息との婚約が破棄されて以降、クリスへの婚約申し込みが殺到してね。ほら、ギレンセン侯爵はそれなりの名門で、領地経営も上手くいっていて裕福だろう? 縁を繋ぎたいと思う家は多くてね」
「それだけではない。クリスは誰の目から見ても美しく、性格は穏やかだが芯の強さも持っている素晴しい女性だ。君は気付いていなかったようだが、実は多くの貴族令息たちに好意を持たれ、憧れらえていた。だから他の誰かに掻っ攫われる前に、クリスを自分のものにしたかった。求婚したかった。しかし、義父上にもう少し待つように言われてしまい……」
そうこうしている内に、わたしが失踪したという。
恨めしそうなセドリックからの視線に、お父様が苦笑した。そして、教えてくれる。
家出していた間のわたしは、婚約破棄が原因で体調を崩したために領地で療養することにした、と世間には知らせていたらしい。加えて、傷心のわたしを献身的に支え、慰め続けた血の繋がらない義兄との間に愛が芽生えたことから、二人は結婚することになった、とも公表したとのこと。
「クリスの体調がまだ本調子ではないということで、式は挙げずに書類提出のみ、まだしばらくは領地で静養するから社交はできない、ということにしたんだよ。な、セドリック」
「はい、義父上」
なんてことのないように二人は話してくれたが、わたしは顔を青褪めた。
「行方不明のわたしと婚姻を結ぶなんて、もしわたしが見つからないままなら、どうするつもりだったのですか?! 他の人と結婚できないではないですか!」
「かまわない。他の女性と結婚する気など、俺にはなかったから」
「そ、そんな」
わたしの頬を撫でながら、セドリックは真剣な顔で言う。
「もしクリスが見つからなければ、一生独身のままで養子を迎えるつもりだった。俺の妻になるのはクリスだけだ。他の女性など欲しくない。それに、絶対にクリスは見つかると信じていたからな」
「なにをどう言ってもセドリックは考えを変えなくてね。ついに根負けして、クリスとの婚姻届けの提出を許すことにしたんだよ。わたしとしても、すぐに求婚を許さなかったことへの負い目もあったし。そこまでクリスを大切に想ってくれていることが、嬉しかったというのもあったから」
何も言えず、わたしは両手で顔を覆って泣くことしかできなかった。
ここまで想ってくれていたなんて。こんなに愛されていたなんて。
幸せすぎて胸が潰れてしまうのではないかと思った。
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