37 / 38
37 衝撃の事実
しおりを挟む
再会を果たした三ヵ月後、わたしとセドリックはギレンセン侯爵領で結婚式を行った。場所は領都にある教会で、わたしの洗礼式を行った場所でもある。
参加者はあまり多くない。特に親しい身内や少数の友人だけを招待した、とてもささやかな式だ。
けれども多くの領民たちが集まって祝福してくれた。
思い出に残る素晴らしい結婚式となった。
とはいえ行ったのは式だけで、貴族院への婚姻届けは提出していない。
なぜなら。
「三年くらい前に、俺たちの婚姻届けは既に提出済だからな」
「えっ、それはどういうことですか?!」
「ははは、他の令息たちに対するセドリックの牽制だね」
「牽制?」
式の後に開かれたパーティーも終わり、家族四人でお茶を飲んで一息ついていた時のことだ。わたしとセドリックとの婚姻届けが既に提出済み、という思いがけないことを聞いて驚くわたしに、お父様が説明してくれたことによると……。
「アダルベルト公爵令息との婚約が破棄されて以降、クリスへの婚約申し込みが殺到してね。ほら、ギレンセン侯爵はそれなりの名門で、領地経営も上手くいっていて裕福だろう? 縁を繋ぎたいと思う家は多くてね」
「それだけではない。クリスは誰の目から見ても美しく、性格は穏やかだが芯の強さも持っている素晴しい女性だ。君は気付いていなかったようだが、実は多くの貴族令息たちに好意を持たれ、憧れらえていた。だから他の誰かに掻っ攫われる前に、クリスを自分のものにしたかった。求婚したかった。しかし、義父上にもう少し待つように言われてしまい……」
そうこうしている内に、わたしが失踪したという。
恨めしそうなセドリックからの視線に、お父様が苦笑した。そして、教えてくれる。
家出していた間のわたしは、婚約破棄が原因で体調を崩したために領地で療養することにした、と世間には知らせていたらしい。加えて、傷心のわたしを献身的に支え、慰め続けた血の繋がらない義兄との間に愛が芽生えたことから、二人は結婚することになった、とも公表したとのこと。
「クリスの体調がまだ本調子ではないということで、式は挙げずに書類提出のみ、まだしばらくは領地で静養するから社交はできない、ということにしたんだよ。な、セドリック」
「はい、義父上」
なんてことのないように二人は話してくれたが、わたしは顔を青褪めた。
「行方不明のわたしと婚姻を結ぶなんて、もしわたしが見つからないままなら、どうするつもりだったのですか?! 他の人と結婚できないではないですか!」
「かまわない。他の女性と結婚する気など、俺にはなかったから」
「そ、そんな」
わたしの頬を撫でながら、セドリックは真剣な顔で言う。
「もしクリスが見つからなければ、一生独身のままで養子を迎えるつもりだった。俺の妻になるのはクリスだけだ。他の女性など欲しくない。それに、絶対にクリスは見つかると信じていたからな」
「なにをどう言ってもセドリックは考えを変えなくてね。ついに根負けして、クリスとの婚姻届けの提出を許すことにしたんだよ。わたしとしても、すぐに求婚を許さなかったことへの負い目もあったし。そこまでクリスを大切に想ってくれていることが、嬉しかったというのもあったから」
何も言えず、わたしは両手で顔を覆って泣くことしかできなかった。
ここまで想ってくれていたなんて。こんなに愛されていたなんて。
幸せすぎて胸が潰れてしまうのではないかと思った。
参加者はあまり多くない。特に親しい身内や少数の友人だけを招待した、とてもささやかな式だ。
けれども多くの領民たちが集まって祝福してくれた。
思い出に残る素晴らしい結婚式となった。
とはいえ行ったのは式だけで、貴族院への婚姻届けは提出していない。
なぜなら。
「三年くらい前に、俺たちの婚姻届けは既に提出済だからな」
「えっ、それはどういうことですか?!」
「ははは、他の令息たちに対するセドリックの牽制だね」
「牽制?」
式の後に開かれたパーティーも終わり、家族四人でお茶を飲んで一息ついていた時のことだ。わたしとセドリックとの婚姻届けが既に提出済み、という思いがけないことを聞いて驚くわたしに、お父様が説明してくれたことによると……。
「アダルベルト公爵令息との婚約が破棄されて以降、クリスへの婚約申し込みが殺到してね。ほら、ギレンセン侯爵はそれなりの名門で、領地経営も上手くいっていて裕福だろう? 縁を繋ぎたいと思う家は多くてね」
「それだけではない。クリスは誰の目から見ても美しく、性格は穏やかだが芯の強さも持っている素晴しい女性だ。君は気付いていなかったようだが、実は多くの貴族令息たちに好意を持たれ、憧れらえていた。だから他の誰かに掻っ攫われる前に、クリスを自分のものにしたかった。求婚したかった。しかし、義父上にもう少し待つように言われてしまい……」
そうこうしている内に、わたしが失踪したという。
恨めしそうなセドリックからの視線に、お父様が苦笑した。そして、教えてくれる。
家出していた間のわたしは、婚約破棄が原因で体調を崩したために領地で療養することにした、と世間には知らせていたらしい。加えて、傷心のわたしを献身的に支え、慰め続けた血の繋がらない義兄との間に愛が芽生えたことから、二人は結婚することになった、とも公表したとのこと。
「クリスの体調がまだ本調子ではないということで、式は挙げずに書類提出のみ、まだしばらくは領地で静養するから社交はできない、ということにしたんだよ。な、セドリック」
「はい、義父上」
なんてことのないように二人は話してくれたが、わたしは顔を青褪めた。
「行方不明のわたしと婚姻を結ぶなんて、もしわたしが見つからないままなら、どうするつもりだったのですか?! 他の人と結婚できないではないですか!」
「かまわない。他の女性と結婚する気など、俺にはなかったから」
「そ、そんな」
わたしの頬を撫でながら、セドリックは真剣な顔で言う。
「もしクリスが見つからなければ、一生独身のままで養子を迎えるつもりだった。俺の妻になるのはクリスだけだ。他の女性など欲しくない。それに、絶対にクリスは見つかると信じていたからな」
「なにをどう言ってもセドリックは考えを変えなくてね。ついに根負けして、クリスとの婚姻届けの提出を許すことにしたんだよ。わたしとしても、すぐに求婚を許さなかったことへの負い目もあったし。そこまでクリスを大切に想ってくれていることが、嬉しかったというのもあったから」
何も言えず、わたしは両手で顔を覆って泣くことしかできなかった。
ここまで想ってくれていたなんて。こんなに愛されていたなんて。
幸せすぎて胸が潰れてしまうのではないかと思った。
12
お気に入りに追加
1,446
あなたにおすすめの小説
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる