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32 お義兄様との話し合い①
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ひとしきり抱き合った後、お父様はわたしを離してくれた。そして言う。
「二人きりにしてあげるから、セドリックとしっかり話をしなさい。わたしはまた改めて話を聞かせてもらうことにするから」
優しく微笑みながらわたしの額にキスをすると、お父様は居間を出ていった。その時、壁際に控えていた執事のベンノやアンたち使用人に退室を命じてくれたおかげで、居間にはお義兄様とわたしの二人だけが残されることになった。
かなり気まずい。
話をしやすいようにと、テーブルを挟んだ向かいに座っていたお義兄様が、わたしのすぐ横に移動してきたものだから、余計に気まずく感じてしまう。
その気まずさの中で思い出す。
お父様は言っていた。お義兄様はわたしを好きだ、と。
わたしに求婚するつもりだったとも言っていた。
本当だろうか。
お父様が嘘をついたとは思わない。けれど、あまりに自分に都合が良すぎて信じがたい。
もしかすると、お義兄様がわたしを好きだというのはお父様の勘違いなのでは?
婚約者に裏切られて傷物になってしまった不憫な義妹を、仕方ないから嫁にもらってやろうというお義兄様の親切な気持ちを、そこに恋心があるとお父様が勘違いしただけなのでは?
ユリウスがわたしの子供だと分かった瞬間、自分の子だとお義兄様が迷うことなく言い張ったことも、これで説明がつく。
元々お義兄様は救済のためにわたしを結婚するつもりだった。そんなお義兄様にとって、ユリウスが誰の子だろうと、それはどうでもいいことなのだ。わたしの血を継ぐ子であるだけで、ギレンセン侯爵家の子として育てる十分な理由になるのだから。
であるならば、わたしがお義兄様に言うべきことは一つだけ。
無理にわたしと結婚することはない。
お義兄様は自分の好きな人と結婚していい。
それを伝えようとして俯いていた顔を上げた時、わたしの唇がお義兄様の唇に塞がれた。
「!!!」
ぬるりと忍び込んできたお義兄様の舌が、わたしの舌を絡めとる。
そのまま口内のいたるところを蹂躙され、舌を強く吸われると、あまりの気持ち良さからわたしの体から力が抜けた。
舌が絡み合うたびにくちゅくちゅと水音が響く。口端から唾液が溢れて流れ落ちた。
唇が解放された時、わたしは酸欠で息も絶え絶えになっていた。体を起こしていられず、お義兄様の胸にしなだれかかってしまう。
「はぁ、はぁ……お、お義兄様……急に、どうし、て……はぁ」
「好きだ、君を誰よりも愛している。初めて会った時から俺はずっと君が好きだだった」
「!!」
「悪い子だな、俺に媚薬を盛るなんて。あの薬のせいで、俺はクリスと愛し合ったことをずっと忘れてしまっていた」
どうやらあの媚薬、商人の言葉通りお義兄様の記憶を曖昧にしたらしい。
「誰よりも大切な君がいなくなって、俺は慌てた。必死になって方々を探した。そうしている内に、少しずつあの夜のことを断片的に思い出していった。とはいえ、その記憶が本物なのか俺の願望が見せる妄想に過ぎないのかが、ずっと分からなかった」
当時のことを思い出しているのか、お義兄様の顔が苦痛に歪んだ。
「二人きりにしてあげるから、セドリックとしっかり話をしなさい。わたしはまた改めて話を聞かせてもらうことにするから」
優しく微笑みながらわたしの額にキスをすると、お父様は居間を出ていった。その時、壁際に控えていた執事のベンノやアンたち使用人に退室を命じてくれたおかげで、居間にはお義兄様とわたしの二人だけが残されることになった。
かなり気まずい。
話をしやすいようにと、テーブルを挟んだ向かいに座っていたお義兄様が、わたしのすぐ横に移動してきたものだから、余計に気まずく感じてしまう。
その気まずさの中で思い出す。
お父様は言っていた。お義兄様はわたしを好きだ、と。
わたしに求婚するつもりだったとも言っていた。
本当だろうか。
お父様が嘘をついたとは思わない。けれど、あまりに自分に都合が良すぎて信じがたい。
もしかすると、お義兄様がわたしを好きだというのはお父様の勘違いなのでは?
婚約者に裏切られて傷物になってしまった不憫な義妹を、仕方ないから嫁にもらってやろうというお義兄様の親切な気持ちを、そこに恋心があるとお父様が勘違いしただけなのでは?
ユリウスがわたしの子供だと分かった瞬間、自分の子だとお義兄様が迷うことなく言い張ったことも、これで説明がつく。
元々お義兄様は救済のためにわたしを結婚するつもりだった。そんなお義兄様にとって、ユリウスが誰の子だろうと、それはどうでもいいことなのだ。わたしの血を継ぐ子であるだけで、ギレンセン侯爵家の子として育てる十分な理由になるのだから。
であるならば、わたしがお義兄様に言うべきことは一つだけ。
無理にわたしと結婚することはない。
お義兄様は自分の好きな人と結婚していい。
それを伝えようとして俯いていた顔を上げた時、わたしの唇がお義兄様の唇に塞がれた。
「!!!」
ぬるりと忍び込んできたお義兄様の舌が、わたしの舌を絡めとる。
そのまま口内のいたるところを蹂躙され、舌を強く吸われると、あまりの気持ち良さからわたしの体から力が抜けた。
舌が絡み合うたびにくちゅくちゅと水音が響く。口端から唾液が溢れて流れ落ちた。
唇が解放された時、わたしは酸欠で息も絶え絶えになっていた。体を起こしていられず、お義兄様の胸にしなだれかかってしまう。
「はぁ、はぁ……お、お義兄様……急に、どうし、て……はぁ」
「好きだ、君を誰よりも愛している。初めて会った時から俺はずっと君が好きだだった」
「!!」
「悪い子だな、俺に媚薬を盛るなんて。あの薬のせいで、俺はクリスと愛し合ったことをずっと忘れてしまっていた」
どうやらあの媚薬、商人の言葉通りお義兄様の記憶を曖昧にしたらしい。
「誰よりも大切な君がいなくなって、俺は慌てた。必死になって方々を探した。そうしている内に、少しずつあの夜のことを断片的に思い出していった。とはいえ、その記憶が本物なのか俺の願望が見せる妄想に過ぎないのかが、ずっと分からなかった」
当時のことを思い出しているのか、お義兄様の顔が苦痛に歪んだ。
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