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31 お父様の想い
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ユリウスを寝かしつけた後、わたしはアンと一緒に居間に入った。そこでお父様とお義兄様と共にテーブルを挟んでソファに座ると、この四年間どう暮らしていたかを話すことにした。
しかし、その前に。
「ユリウスはお義兄様の子ではありませんわ!」
開口一番、わたしは言った。
わたしが身勝手に媚薬を飲ませてコトに及び、妊娠して出産したことで、お父様とお義兄様に迷惑はかけたくない。かけるわけにはいかない。
「どこの誰とも分からない男性の子をわたしが産んだことは、間違いなく醜聞になります。ギレンセン侯爵家のためになりません。だからわたしはユリウスと二人で、領地で静かに暮らしていこうと思います。あるいは、またカナスの町に戻って生活します。これだけはどうかお許し下さい」
すると、お義兄様が言った。
「それは許可できない。なぜならクリスは俺と結婚式を挙げるのだから」
「け、結婚式? わたしとお義兄様の? ど、どうして?!」
「君の失踪後、すぐに出入りの商人を締め上げて吐かせた。媚薬と睡眠薬を買ったんだろう? そして、それを俺に飲ませた。薬の効果のせいだろうな、クリスが屋敷を出て行く前の晩の記憶が俺にはほとんどなかった。しかし、時と共に少しずつ思い出していった」
「……」
「年齢を考えても当てはまるし、顔もこれだけ似ているんだ、ユリウスは間違いなく俺の子だだろう。であれば、親子は正式な家族になってしかるべきだ」
それはつまり、ユリウスの存在がわたしと結婚するという選択をお義兄様に強要したということだ。
それは正しいことではない。
なんとかお義兄様の気持ちを変えたくて、助けを求めるような思いでわたしはお父様に目を向けた。
お父様は困ったような後悔するような、そんな苦し気な表情をしている。
「わたしはね、知っていたんだよ。クリスがセドリックを好きな気持ちと、セドリックがクリスを好きな気持ちを。だからクリスとティルマン殿との婚約が破棄された後、クリスに求婚したいというセドリックの願いをすぐに聞き入れた」
え、今なんと?
お義兄様がわたしを好き?
いやその前に、わたしがお義兄様を好きなことを、お父様は知っていた?
「ただわたしはセドリックに言ったんだ。婚約者の不貞と婚約破棄でクリスの心は傷ついている。求婚するなら少し時間をあけるように、と。あんなことを言わなければセドリックはすぐにクリスにプロポーズしただろう。そして、クリスは失踪などせずにすんだんだ。すべてわたしのせいだ。本当にすまないことをしてしまった。許して欲しい」
「そんな、お父様っ、頭を上げて下さい!」
お父様に駆け寄ると、そこで膝を床についた。
頭を下げたままのお父様の両手を、わたしは力強く握りしめた。
悲痛に満ちたお父様の顔を見て、わたしの胸がしめつけられるように強く痛む。
ああ、わたしはなんという罪深いことをしてしまったのだろう。
一人娘のわたしが家出することで、お父様の心をどれだけ傷つけることになるのか、考えていなかった。お母様亡き後、愛情を注いでわたしを育ててくれたお父様を、わたしは蔑ろにしてしまった。
なんてひどい娘だろう。
お父様の手を握ったまま、わたしはお父様の膝に額をつけた。
「お父様は悪くありません。ただわたしのことを考えて下さっただけ。お父様、黙っていなくなるなんて酷いことをしてしまって、本当に申し訳ありません。わたしが愚かでした」
「いや、生きて無事に戻ってくれただけで、もう十分だよ。さあ、立って、クリス。お父様におまえを抱きしめさせておくれ」
わたしは涙を流しながらお父様の胸に飛び込んだのだった。
しかし、その前に。
「ユリウスはお義兄様の子ではありませんわ!」
開口一番、わたしは言った。
わたしが身勝手に媚薬を飲ませてコトに及び、妊娠して出産したことで、お父様とお義兄様に迷惑はかけたくない。かけるわけにはいかない。
「どこの誰とも分からない男性の子をわたしが産んだことは、間違いなく醜聞になります。ギレンセン侯爵家のためになりません。だからわたしはユリウスと二人で、領地で静かに暮らしていこうと思います。あるいは、またカナスの町に戻って生活します。これだけはどうかお許し下さい」
すると、お義兄様が言った。
「それは許可できない。なぜならクリスは俺と結婚式を挙げるのだから」
「け、結婚式? わたしとお義兄様の? ど、どうして?!」
「君の失踪後、すぐに出入りの商人を締め上げて吐かせた。媚薬と睡眠薬を買ったんだろう? そして、それを俺に飲ませた。薬の効果のせいだろうな、クリスが屋敷を出て行く前の晩の記憶が俺にはほとんどなかった。しかし、時と共に少しずつ思い出していった」
「……」
「年齢を考えても当てはまるし、顔もこれだけ似ているんだ、ユリウスは間違いなく俺の子だだろう。であれば、親子は正式な家族になってしかるべきだ」
それはつまり、ユリウスの存在がわたしと結婚するという選択をお義兄様に強要したということだ。
それは正しいことではない。
なんとかお義兄様の気持ちを変えたくて、助けを求めるような思いでわたしはお父様に目を向けた。
お父様は困ったような後悔するような、そんな苦し気な表情をしている。
「わたしはね、知っていたんだよ。クリスがセドリックを好きな気持ちと、セドリックがクリスを好きな気持ちを。だからクリスとティルマン殿との婚約が破棄された後、クリスに求婚したいというセドリックの願いをすぐに聞き入れた」
え、今なんと?
お義兄様がわたしを好き?
いやその前に、わたしがお義兄様を好きなことを、お父様は知っていた?
「ただわたしはセドリックに言ったんだ。婚約者の不貞と婚約破棄でクリスの心は傷ついている。求婚するなら少し時間をあけるように、と。あんなことを言わなければセドリックはすぐにクリスにプロポーズしただろう。そして、クリスは失踪などせずにすんだんだ。すべてわたしのせいだ。本当にすまないことをしてしまった。許して欲しい」
「そんな、お父様っ、頭を上げて下さい!」
お父様に駆け寄ると、そこで膝を床についた。
頭を下げたままのお父様の両手を、わたしは力強く握りしめた。
悲痛に満ちたお父様の顔を見て、わたしの胸がしめつけられるように強く痛む。
ああ、わたしはなんという罪深いことをしてしまったのだろう。
一人娘のわたしが家出することで、お父様の心をどれだけ傷つけることになるのか、考えていなかった。お母様亡き後、愛情を注いでわたしを育ててくれたお父様を、わたしは蔑ろにしてしまった。
なんてひどい娘だろう。
お父様の手を握ったまま、わたしはお父様の膝に額をつけた。
「お父様は悪くありません。ただわたしのことを考えて下さっただけ。お父様、黙っていなくなるなんて酷いことをしてしまって、本当に申し訳ありません。わたしが愚かでした」
「いや、生きて無事に戻ってくれただけで、もう十分だよ。さあ、立って、クリス。お父様におまえを抱きしめさせておくれ」
わたしは涙を流しながらお父様の胸に飛び込んだのだった。
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