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28 王都へ向かう旅の中で
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お義兄様は片腕で軽々とユリウスを抱き上げると、わたしのところまで戻ってきた。そして、有無を言わせぬ圧のある笑顔でこう言った。
「義父上が待っている。さあ、王都へ帰ろう」
「……はい」
ここまできたら、どうせもう逃げられない。逃げてもすぐに捕まってしまう。
家出を決行した時から、見つかれば連れ戻されることは想定していた。だから抵抗することなく、ユリウスを連れてお義兄様と一緒に王都に帰ることにしたのである。
教会の神父様やシスター、それに孤児院の子供たち、近所に住んでいた町人たちには別れの挨拶をした。
事情をすべて説明するわけにもいかず、裕福な知り合いが迎えてきてくれたなどと、適当なことを言わなければならなかったのが申し訳ない。
皆は別れを涙ながらに悲しんでくれたし、わたしも四年間お世話になった人たちと泣きながら抱きしめ合った。
このカナスの町で過ごした日々は、楽しく充実したものだった。
ユリウスを無事に産み育てることができたのは、神父様を始めとした温かいこの町の人たちのおかげだ。心から感謝している。
いつか必ず、きちんとした形で恩返しができればと思う。
カナスから王都までは、馬車で五日ほどの旅となった。
四年前に旅をした時は乗合馬車での移動だった。
ものすごく乗り心地が悪く、当時はひ弱だったせいと悪阻のせいとでわたしの体が耐えられず、途中下車ばかりしてしまった。そのせいで確か三週間ほどかけてカナスまでやってきたと記憶している。
今回はギレンセン侯爵家の家紋入りの豪華な馬車のおかげで乗り心地もよく、最速で移動できたために早くたどり着いたのだ。
馬車の中でのユリウスは、とても楽しそうだった。
ずっとお義兄様の膝の上にいて、移り変わる窓の外の景色にはしゃいでいた。
それを見つめるお義兄様の目はとても優しく温かい。
微笑ましい父子の姿ではあるけれど、わたしとしては複雑な気分だ。
ユリウスの前で話したくなかったために、今はまだお義兄様に詳しい話をなにもしていない。だからお義兄様は、ユリウスがわたしやお義兄様にとってどういう存在なのか、本当のことを知らないままだ。
なのに。
どうしてあそこまでゆるぎなく「自分が父である」という態度をユリウスにとれるのか。
そもそも、この四年間でお義兄様は結婚……少なくとも、どこかの名家のご令嬢と婚約くらいしているのではないのか。もしそうなら、ユリウスをどうするつもりなのだろう。
もしかして、自分たちの養子にするつもりなのか。だから「父だ」などと言っているのだろうか。
でも、それを婚約者のご令嬢やその家門の方々は納得してくれるのかしら?
確かに血筋で言えば、直系のわたしと遠縁のお義兄様の子であるユリウスこそが、最も強くギレンセン侯爵家の血を受け継いだ子であることは間違いない。
けれど、もしもお義兄様に既にお相手がいるのなら。わたしはユリウスがお義兄様の子だと絶対に認めない。カナスの町で出会って恋に落ちたけれど、既に別れた男性の子供だと言い張るつもりでいる。
今更お義兄様とそのお相手の間に割って入るつもりなど、わたしにはまったくないのだから。
そんなことを考えている内に、王都に入るための門をくぐり抜けた馬車は、あっと言う間にギレンセン侯爵邸へと着いてしまったのだった。
「義父上が待っている。さあ、王都へ帰ろう」
「……はい」
ここまできたら、どうせもう逃げられない。逃げてもすぐに捕まってしまう。
家出を決行した時から、見つかれば連れ戻されることは想定していた。だから抵抗することなく、ユリウスを連れてお義兄様と一緒に王都に帰ることにしたのである。
教会の神父様やシスター、それに孤児院の子供たち、近所に住んでいた町人たちには別れの挨拶をした。
事情をすべて説明するわけにもいかず、裕福な知り合いが迎えてきてくれたなどと、適当なことを言わなければならなかったのが申し訳ない。
皆は別れを涙ながらに悲しんでくれたし、わたしも四年間お世話になった人たちと泣きながら抱きしめ合った。
このカナスの町で過ごした日々は、楽しく充実したものだった。
ユリウスを無事に産み育てることができたのは、神父様を始めとした温かいこの町の人たちのおかげだ。心から感謝している。
いつか必ず、きちんとした形で恩返しができればと思う。
カナスから王都までは、馬車で五日ほどの旅となった。
四年前に旅をした時は乗合馬車での移動だった。
ものすごく乗り心地が悪く、当時はひ弱だったせいと悪阻のせいとでわたしの体が耐えられず、途中下車ばかりしてしまった。そのせいで確か三週間ほどかけてカナスまでやってきたと記憶している。
今回はギレンセン侯爵家の家紋入りの豪華な馬車のおかげで乗り心地もよく、最速で移動できたために早くたどり着いたのだ。
馬車の中でのユリウスは、とても楽しそうだった。
ずっとお義兄様の膝の上にいて、移り変わる窓の外の景色にはしゃいでいた。
それを見つめるお義兄様の目はとても優しく温かい。
微笑ましい父子の姿ではあるけれど、わたしとしては複雑な気分だ。
ユリウスの前で話したくなかったために、今はまだお義兄様に詳しい話をなにもしていない。だからお義兄様は、ユリウスがわたしやお義兄様にとってどういう存在なのか、本当のことを知らないままだ。
なのに。
どうしてあそこまでゆるぎなく「自分が父である」という態度をユリウスにとれるのか。
そもそも、この四年間でお義兄様は結婚……少なくとも、どこかの名家のご令嬢と婚約くらいしているのではないのか。もしそうなら、ユリウスをどうするつもりなのだろう。
もしかして、自分たちの養子にするつもりなのか。だから「父だ」などと言っているのだろうか。
でも、それを婚約者のご令嬢やその家門の方々は納得してくれるのかしら?
確かに血筋で言えば、直系のわたしと遠縁のお義兄様の子であるユリウスこそが、最も強くギレンセン侯爵家の血を受け継いだ子であることは間違いない。
けれど、もしもお義兄様に既にお相手がいるのなら。わたしはユリウスがお義兄様の子だと絶対に認めない。カナスの町で出会って恋に落ちたけれど、既に別れた男性の子供だと言い張るつもりでいる。
今更お義兄様とそのお相手の間に割って入るつもりなど、わたしにはまったくないのだから。
そんなことを考えている内に、王都に入るための門をくぐり抜けた馬車は、あっと言う間にギレンセン侯爵邸へと着いてしまったのだった。
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