お義兄様に一目惚れした!

よーこ

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24 王都脱出

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 眩い太陽、爽やかな風。緑豊かで穏やかなこの片田舎にわたしが腰を据えるようになってから、早くも四年の月日が過ぎ去っていた。



 王都のギレンセン侯爵邸を抜け出したわたしは、平民街の片隅にある安宿屋に一ヵ月ほど身を隠した。そこで平民としての振る舞いや物価を覚え、宿のおかみさんから紹介してもらった斡旋業者を通じて護衛を一人雇った。女性の一人旅がいかに危険か、箱入り娘のわたしでもさすがに知っていたからだ。

 その護衛――中年で名前はビル――と親子を装って馬車に乗ると、王都から二週間ほど移動した先にある修道院を目指したのだった。

 これまでのわたしは、高位貴族の甘やかされた令嬢として生きてきた。貴族の乗るクッション性の高い馬車ではなく、ガタガタと激しく揺れる馬車の旅に、華奢な身体がすぐに悲鳴をあげた。

 仕方なく、少し大きな町については下車してそこで一泊し、翌日の昼近くにまた馬車に乗って移動しては、宿がありそうな町を見つけてまた一泊。
 そんな旅を続けていたものだから、旅程は遅々として進まない。

「旅が長くなっても、その分の金を貰えるなら俺はかまわねぇけどな。お嬢ちゃん、ちょっと弱っちすぎねぇか? この先、本当に平民としてやっていけるのか心配だな。考え直して、家に帰った方がいいんじゃねぇの?」

 そんな心配をビルからされる始末だ。

「いいのよ。のんびり移動した方が、かえって追手に捕まりにくくなりそうだもの。まさかお父様……ごほん、お父さんも、二ヵ月近く経つのに、まだわたしがこんなに王都の近くにいるなんて思わないだろうから」
「それは言えてるな」

 そんな風に、半ば旅行気分の気楽な気持ちで、わたしたちは修道院を目指していた。

 ところが、旅の行程を半分ほど進んだくらいから、わたしの体調がおかしくなった。気分が悪い日が続き、四六時中強い吐き気に苛まれる上に頭痛もする。
 そして、ついに我慢の限界を迎えたわたしは、旅を一時的に中断することに決めた。適当な町で馬車を降り、わたしの体調を回復させることにしたのだ。

 ところが、その町にはしっかりした宿はなく、わたしとビルは困り果ててしまった。それを助けてくれたのが、町にある小さな教会の神父様だった。

 教会には小規模ながらも孤児院が併設されていて、わたしはそこの余り部屋で療養させてもらうことになった。
 ところが困ったことに、一週間経っても二週間経っても体調は良くならない。
 旅の再開のめどが立たないため、ビルとの契約はここまでということになった。

「ここまでありがとう。これ、約束のお金よ。あなたのおかげで、ここまで無事にこれたわ」
「んん? この袋、かなり多めに金が入っているようだが……」
「ほんのお礼の気持ちよ。本当に感謝しているの。守ってくれてありがとう。心強かったわ」
「なんか悪いな、修道院まで行けなかったのに」
「いいのよ、わたしの都合なんだから。それよりも、最初の約束通り、わたしのことは絶対に誰にも話さないでね。お願いよ」
「信用問題にかかわるし、アンタが訳ありなのも分かってて引き受けた仕事だ。脅されたって誰にも言わねーよ。安心しな」

 そうやってビルと別れてからも、わたしの体調不良は続いた。神父様やシスターたち、それに孤児たちが一生懸命にわたしの面倒をみてくれた。

 家族と離れて心細い中での療養生活は、わたしの心を思った以上に打ちのめした。
 けれど、親切な人たちの優しさや子供たちの可愛さのおかげで、挫けずに乗り越えることができたのだと思う。


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