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17 お義兄様の思い
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お父様の唯一の子であるわたしは、いずれギレンセン家を継いで女侯爵になるはずだった。けれど、アダルベルト家の嫡子であるティルマン様との婚約が王命で決まった。
他家に嫁入りすることになったわたしの代わりに、ギレンセン家を継がせるための子が必要となり、お父様は養子を迎えることを決めた。
それでやってきたのがお義兄様だ。
実家は辛うじて貴族ではあるものの非常に貧しく、その日食べる物にも苦労する生活だったと、以前お義兄様に教えてもらったことがある。
「本当のご家族と別れて暮らすことになって……寂しいですよね」
そう質問すると、お義兄様はわたしの頭を優しく撫でてくれた。
「俺は選んでもらったことを光栄に思っている。養子になったおかげで、たくさんの教育を受け、多くの知識を得ることが可能になった。将来を期待され、未来に希望を持てるようになった。美味しい食事に心地よい寝床も得られたし、俺が養子にくることで元の実家は大金を得られ、今後は飢えることもないはずだ。それに、驚くほどかわいい義妹もできて、いいこと尽くめだ。俺は義父上に心から感謝している」
恩は一生忘れない。せめてものお礼に、必ず立派な領主になってみせる。
養子にきてからのお義兄様は、そんな言葉を現実とするために、ものすごく頑張っていた。
基本的な貴族教育から次期ギレンセン侯爵家としての当主教育まで、家庭教師たちが舌を巻くほど優秀なのに手を抜くことなく励み続け、今では誰もが認める立派な次期当主だ。
真面目で優しく家族思いで、お父様のことを心から敬愛しているし、義妹であるわたしのことも目に入れても痛くないほど可愛がってくれている。
そう、実に喜ばしいことに、とにかくお義兄様はわたしに甘い。
出会ったばかりの幼い頃、いつもこのようなことを言われていた。
「クリスはかわいいな。まるで天使みたいだ」
それが最近ではこんな風に変わっている。
「クリスほど美しい令嬢は他にいない。マナーは完璧だし、成績も優秀だ。それにダンスも上手だ。悪いところが一つもないな。俺の自慢の義妹だ」
褒めすぎだと言うと、謙虚なところもクリスの持つ美徳の一つだ、などと言って目を細める。
これほど義妹思いであり、ギレンセン家に恩義を感じているお義兄様だ。わたしの婚約がなくなった今、このまま次期当主の座に居座り続けることを良しとするはずがない。
恐らく、お義兄様は嫡子の座を辞退することを考えているだろう。
もしかすると、ギレンセン家を出て実家に戻ろうと思っているのかもしれない。自分が居座っていたらわたしが気まずい思いをする、と、そう考えて。
他家に嫁入りすることになったわたしの代わりに、ギレンセン家を継がせるための子が必要となり、お父様は養子を迎えることを決めた。
それでやってきたのがお義兄様だ。
実家は辛うじて貴族ではあるものの非常に貧しく、その日食べる物にも苦労する生活だったと、以前お義兄様に教えてもらったことがある。
「本当のご家族と別れて暮らすことになって……寂しいですよね」
そう質問すると、お義兄様はわたしの頭を優しく撫でてくれた。
「俺は選んでもらったことを光栄に思っている。養子になったおかげで、たくさんの教育を受け、多くの知識を得ることが可能になった。将来を期待され、未来に希望を持てるようになった。美味しい食事に心地よい寝床も得られたし、俺が養子にくることで元の実家は大金を得られ、今後は飢えることもないはずだ。それに、驚くほどかわいい義妹もできて、いいこと尽くめだ。俺は義父上に心から感謝している」
恩は一生忘れない。せめてものお礼に、必ず立派な領主になってみせる。
養子にきてからのお義兄様は、そんな言葉を現実とするために、ものすごく頑張っていた。
基本的な貴族教育から次期ギレンセン侯爵家としての当主教育まで、家庭教師たちが舌を巻くほど優秀なのに手を抜くことなく励み続け、今では誰もが認める立派な次期当主だ。
真面目で優しく家族思いで、お父様のことを心から敬愛しているし、義妹であるわたしのことも目に入れても痛くないほど可愛がってくれている。
そう、実に喜ばしいことに、とにかくお義兄様はわたしに甘い。
出会ったばかりの幼い頃、いつもこのようなことを言われていた。
「クリスはかわいいな。まるで天使みたいだ」
それが最近ではこんな風に変わっている。
「クリスほど美しい令嬢は他にいない。マナーは完璧だし、成績も優秀だ。それにダンスも上手だ。悪いところが一つもないな。俺の自慢の義妹だ」
褒めすぎだと言うと、謙虚なところもクリスの持つ美徳の一つだ、などと言って目を細める。
これほど義妹思いであり、ギレンセン家に恩義を感じているお義兄様だ。わたしの婚約がなくなった今、このまま次期当主の座に居座り続けることを良しとするはずがない。
恐らく、お義兄様は嫡子の座を辞退することを考えているだろう。
もしかすると、ギレンセン家を出て実家に戻ろうと思っているのかもしれない。自分が居座っていたらわたしが気まずい思いをする、と、そう考えて。
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