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14 素行調査報告
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屋敷に帰り着き、馬車を降りて邸内に入った途端、玄関ホールで待ち構えていたベンノから、お父様が執務室で待っていると伝えられた。
自室に戻り、急いで着替えをすませてから執務室に向かうと、室内にはお父様だけではなくお義兄様もいた。
お義兄様の顔を見ると、それだけで嬉しくなってしまう。
しかし、お父様もお義兄様も機嫌が良さそうに見えない。どうしたんだろうと思いながら、わたしは二人に笑顔を向けた。
「遅くなって申し訳ありません。つい先ほどアダルベルト公爵家から戻ってまいりました。帰り次第すぐにお呼びになるなんて、なにかございまして?」
眉間にシワを寄せたお父様の視線を受けて、お義兄様が手に持っていた紙束をわたしに渡してくれた。
その表情はお父様に負けず劣らずかなり厳しい。
「ティルマン殿の素行調査報告があがってきた。あまりに酷い」
手の中の報告書に目を通してみて驚いた。ティルマン様が思っていた以上にクズ男だったからだ。
なんと既に認知済みの子が二人いて、今は三人の女性が妊娠中だという。全員が下位とはいえ貴族令嬢なため、知らぬ存ぜぬを決め込むわけにもいかず、世間にバレないよう密かに囲っているようだ。
さすがにティルマン様も両親からきつく叱られたらしく、最近は後腐れなく捨てることのできる公爵家のメイドや侍女にばかり手を出しているらしい。
なるほど、その中の一人がリリカであり、今日ティルマン様の寝室にいたアンヌだというわけか。
「クリスとティルマン殿との婚約時の取り決めで、結婚して五年経ってもクリスが懐妊しなかった場合を除き、他の女性と子を成すことは認めない。それを破った場合は破婚とすると契約書に記載してある」
さすがお父様。そんな内容を婚約契約書に盛り込んでいたなんて。
でも、そうは言っても相手は歴史ある名門公爵家。こちら側からの破婚ではアダルベルト公爵の怒りを買い、その後の付き合いに支障があるのではないだろうか。わたしのせいでお父様に、ギレンセン侯爵家に迷惑をかけることは本意ではない。
そう言うと、お父様は優しく笑ってくれた。
「そこは気にしなくていいから。確かに家格はアダルベルトの方が上に見えるけれどね、実質では当家の方が立場も力も上だから」
その言葉にお義兄様も同意する。
「アダルベルト公爵家は多額の借金を抱えている。現公爵は無能で領地経営をまともに行っておらず、手掛ける事業は失敗続き。更に夫人は贅沢好きの金食い虫ときている。ほんの数年前まで、いつ潰れてもおかしくないほどあの家は傾いていた」
アダルベルト公爵家の財政難は、もう十年以上も前から続いているらしい。
とはいえアダルベルト家は建国当時から続く名門中の名門。潰すのは忍びない、なんとか助けてやって欲しいという国王陛下からの依頼の元に、わたしとティルマン様の婚約が結ばれたという。
婚約が結ばれる時、アダルベルト公爵は約束したらしい。絶対にわたしを大切にすると。
「いずれクリスが嫁ぐ家だからと、義父上と俺は公爵家の立て直しに尽力してきた。実際、借金もかなり減ってきている。その恩を忘れ、まさか女遊びにふけっていたなんて、アイツ……」
ぎりっとお義兄様が奥歯を噛み締める。
お父様のお顔もかなり怖い。
自室に戻り、急いで着替えをすませてから執務室に向かうと、室内にはお父様だけではなくお義兄様もいた。
お義兄様の顔を見ると、それだけで嬉しくなってしまう。
しかし、お父様もお義兄様も機嫌が良さそうに見えない。どうしたんだろうと思いながら、わたしは二人に笑顔を向けた。
「遅くなって申し訳ありません。つい先ほどアダルベルト公爵家から戻ってまいりました。帰り次第すぐにお呼びになるなんて、なにかございまして?」
眉間にシワを寄せたお父様の視線を受けて、お義兄様が手に持っていた紙束をわたしに渡してくれた。
その表情はお父様に負けず劣らずかなり厳しい。
「ティルマン殿の素行調査報告があがってきた。あまりに酷い」
手の中の報告書に目を通してみて驚いた。ティルマン様が思っていた以上にクズ男だったからだ。
なんと既に認知済みの子が二人いて、今は三人の女性が妊娠中だという。全員が下位とはいえ貴族令嬢なため、知らぬ存ぜぬを決め込むわけにもいかず、世間にバレないよう密かに囲っているようだ。
さすがにティルマン様も両親からきつく叱られたらしく、最近は後腐れなく捨てることのできる公爵家のメイドや侍女にばかり手を出しているらしい。
なるほど、その中の一人がリリカであり、今日ティルマン様の寝室にいたアンヌだというわけか。
「クリスとティルマン殿との婚約時の取り決めで、結婚して五年経ってもクリスが懐妊しなかった場合を除き、他の女性と子を成すことは認めない。それを破った場合は破婚とすると契約書に記載してある」
さすがお父様。そんな内容を婚約契約書に盛り込んでいたなんて。
でも、そうは言っても相手は歴史ある名門公爵家。こちら側からの破婚ではアダルベルト公爵の怒りを買い、その後の付き合いに支障があるのではないだろうか。わたしのせいでお父様に、ギレンセン侯爵家に迷惑をかけることは本意ではない。
そう言うと、お父様は優しく笑ってくれた。
「そこは気にしなくていいから。確かに家格はアダルベルトの方が上に見えるけれどね、実質では当家の方が立場も力も上だから」
その言葉にお義兄様も同意する。
「アダルベルト公爵家は多額の借金を抱えている。現公爵は無能で領地経営をまともに行っておらず、手掛ける事業は失敗続き。更に夫人は贅沢好きの金食い虫ときている。ほんの数年前まで、いつ潰れてもおかしくないほどあの家は傾いていた」
アダルベルト公爵家の財政難は、もう十年以上も前から続いているらしい。
とはいえアダルベルト家は建国当時から続く名門中の名門。潰すのは忍びない、なんとか助けてやって欲しいという国王陛下からの依頼の元に、わたしとティルマン様の婚約が結ばれたという。
婚約が結ばれる時、アダルベルト公爵は約束したらしい。絶対にわたしを大切にすると。
「いずれクリスが嫁ぐ家だからと、義父上と俺は公爵家の立て直しに尽力してきた。実際、借金もかなり減ってきている。その恩を忘れ、まさか女遊びにふけっていたなんて、アイツ……」
ぎりっとお義兄様が奥歯を噛み締める。
お父様のお顔もかなり怖い。
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