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12 婚約者の私室へ奇襲
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リリカの後ろを歩きながら考える。
ティルマン様とこのメイドは恋人同士で、愛し合っているのだろうか。
もしそうなら、二人にとって邪魔者はわたしの方ということになる。
だったらもういっそのこと、ティルマン様の方からわたしとの婚約を解消してくれればいいのに。
どうせ近い内に素行調査は終わる。ティルマン様の不貞のすべてが暴かれる。わたしたちの婚約は間違いなく破棄されることになる。
だったらその前に、円満に婚約解消した方がお互いに傷が浅くてすむのではないだろうか。わたしの方から提案してみてもいいかもしれない。
「ティルマン様のお部屋へ案内して。一言ご挨拶してから帰ることにするわ」
「え? 今からですか? で、でも……」
リリカの戸惑いは分かる。
普通なら先触れを出し、今から行くことのお伺いをたてるべきだからだ。それが礼儀というものだ。
しかし、婚約者であるわたしが今日この屋敷に来ていることを、ティルマン様はご存じのはず。それに、ついさっき公爵夫人からも「よかったらティルマンにも会っていってやって」と言われたばかりだ。
だから、多少の無作法は許されると考えて、先触れ無しに会いに行くことにしたのだった。
本音を言えば、先触れを出してそれが戻ってくるまでの待ち時間が面倒なだけ、なのだけれどね。
ともかく、困り顔のリリカを無視してティルマン様の部屋へと向かった。
ここ何年もの間アダルベルト公爵邸へと通い続けているわたしは、ティルマン様の部屋の場所を知っているし、中に入れてもらったことも何度かある。案内などなくとも一人で行けるのだ。
足早に廊下を進み、階段を上る。すると、すぐにティルマン様の部屋の前に辿り着いた。
扉の前にはティルマン様の侍従キースがいて、わたしを見るとあからさまに慌てふためいた。
「ク、クリステル様! なぜここに?!」
「ごきげんよう、キース。婚約者様へのご機嫌窺いに来たの。中に通してくれる?」
「あ、いやでも、ティルマン様は今忙しくて……」
「忙しい? でもわたしは公爵夫人からティルマン様にお会いするように言われてきたのよ?」
「いや、でも、しかし……」
「ともかく、一度中に入ってティルマン様にご都合をお聞きしてきて。ほら、早くしてちょうだい」
「…………」
がんとして動こうとしないキースに、これは絶対になにかあると考えたわたしは、アンと目を合わせて意思疎通を図った。小さく頷き返したアンを見て、わたしはふらりと体をよろけさる。
「朝から具合がよくなかったのだけど、ああっ、なんだか眩暈が……」
「クリステルお嬢様!」
手の甲を額に当て、よろけて倒れそうになったわたしを助けるため、キースが扉の前から離れた。その隙にアンが扉を開く。
「あ!」
気付いたキースが慌てるが、わたしを支えているせいで動けない。
アンはそのまま足音を立てずに部屋の奥へと突き進むと、寝室のドアノブに手をかけ、扉を静かにそっと開いた。
その瞬間。
淫らな嬌声や肌同士がぶつかり合う音が、部屋の中から大音量で溢れだした。
ティルマン様とこのメイドは恋人同士で、愛し合っているのだろうか。
もしそうなら、二人にとって邪魔者はわたしの方ということになる。
だったらもういっそのこと、ティルマン様の方からわたしとの婚約を解消してくれればいいのに。
どうせ近い内に素行調査は終わる。ティルマン様の不貞のすべてが暴かれる。わたしたちの婚約は間違いなく破棄されることになる。
だったらその前に、円満に婚約解消した方がお互いに傷が浅くてすむのではないだろうか。わたしの方から提案してみてもいいかもしれない。
「ティルマン様のお部屋へ案内して。一言ご挨拶してから帰ることにするわ」
「え? 今からですか? で、でも……」
リリカの戸惑いは分かる。
普通なら先触れを出し、今から行くことのお伺いをたてるべきだからだ。それが礼儀というものだ。
しかし、婚約者であるわたしが今日この屋敷に来ていることを、ティルマン様はご存じのはず。それに、ついさっき公爵夫人からも「よかったらティルマンにも会っていってやって」と言われたばかりだ。
だから、多少の無作法は許されると考えて、先触れ無しに会いに行くことにしたのだった。
本音を言えば、先触れを出してそれが戻ってくるまでの待ち時間が面倒なだけ、なのだけれどね。
ともかく、困り顔のリリカを無視してティルマン様の部屋へと向かった。
ここ何年もの間アダルベルト公爵邸へと通い続けているわたしは、ティルマン様の部屋の場所を知っているし、中に入れてもらったことも何度かある。案内などなくとも一人で行けるのだ。
足早に廊下を進み、階段を上る。すると、すぐにティルマン様の部屋の前に辿り着いた。
扉の前にはティルマン様の侍従キースがいて、わたしを見るとあからさまに慌てふためいた。
「ク、クリステル様! なぜここに?!」
「ごきげんよう、キース。婚約者様へのご機嫌窺いに来たの。中に通してくれる?」
「あ、いやでも、ティルマン様は今忙しくて……」
「忙しい? でもわたしは公爵夫人からティルマン様にお会いするように言われてきたのよ?」
「いや、でも、しかし……」
「ともかく、一度中に入ってティルマン様にご都合をお聞きしてきて。ほら、早くしてちょうだい」
「…………」
がんとして動こうとしないキースに、これは絶対になにかあると考えたわたしは、アンと目を合わせて意思疎通を図った。小さく頷き返したアンを見て、わたしはふらりと体をよろけさる。
「朝から具合がよくなかったのだけど、ああっ、なんだか眩暈が……」
「クリステルお嬢様!」
手の甲を額に当て、よろけて倒れそうになったわたしを助けるため、キースが扉の前から離れた。その隙にアンが扉を開く。
「あ!」
気付いたキースが慌てるが、わたしを支えているせいで動けない。
アンはそのまま足音を立てずに部屋の奥へと突き進むと、寝室のドアノブに手をかけ、扉を静かにそっと開いた。
その瞬間。
淫らな嬌声や肌同士がぶつかり合う音が、部屋の中から大音量で溢れだした。
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