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06 どっちもどっち
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婚約者の浮気をこの目で見てしまったショックで、さすがに今日は夫人教育を受ける気になれない。
わたしは公爵夫人に体調不良を訴えて授業をお休みにしてもらうと、すぐに帰宅の途についた。
馬車の中では、アンがずっと気遣ってくれた。
それに、怒って憤慨してもいる。
「ティルマン様があんな方だったなんて、失望いたしました!」
「そうね、わたしも驚いたわ」
「今回のことは屋敷に戻り次第、すぐに旦那様にご報告いたします。ウチのお嬢様をあんな浮気男に嫁がせるなんて、冗談じゃありませんよっ!!!」
「わたしもティルマン様とは破婚したいと思う。名門公爵家嫡男との婚約を解消したら、傷物扱いされて二度とまともな結婚なんてできないかもしれない。でも、修道院に行くことになってもいいから、婚約は解消したいわ」
そう言うと、情の厚いアンは泣きながらわたしを抱きしめてくれた。
きっとアンの目には、わたしがとても傷ついているように見えるのだろう。
確かに、他人の性交を目の前で見てしまったことは、わたしに大きなショックを与えた。ものすごく嫌な気持ちにもなった。
けれど、婚約者に浮気されたことに対する悲しみはない。そういう意味では少しも傷ついていない。
やっぱりわたしはティルマン様のことをなんとも思っていなかった、愛せなかったのだと改めて思った。
幼い頃からの婚約者だから情はある。今日あのような姿を見るまでは、それなりに尊敬していたし、好感の持てる相手だとも思っていた。
けれど、ただそれだけ。
お義兄様へ向けるような恋心は一切ない。
浮気したティルマン様は不誠実だけれど、それはわたしも同じだ。
他に好きな人がいるのに、それを隠して素知らぬ顔をして結婚するつもりでいたのだから。
家に帰り着くと、わたしはすぐにお父様の執務室に向かった。そして、ティルマン様の不貞を目撃したことを簡潔に報告した。
話を聞き終わったお父様の口元には笑みが浮かんでいた。
けれど、目元は一切笑っていない。
見ているだけで恐怖心を煽られるような恐ろしい笑顔だ。
日頃は温厚で優しいお父様の怒りを目にして、わたしは少しだけ怯えてしまう。
それに気付いたお父様は、即座に執務席から立ち上がるとわたしに歩み寄り、優しく抱きしめてくれた。よしよしと頭を撫でてくれる。
「かわいそうに。醜悪なものを目にして、さぞ傷ついただろう」
「お父様……」
「すぐにティルマン殿の素行調査をさせる。クリステル、悪いがもう少しだけ婚約者のまま我慢してくれるかい? 決定的な不貞の証拠を揃えて、すぐに婚約破棄を叩きつけてやるからね」
そう言ってくれたお父様の腕の中で、わたしは小さく頷いたのだった。
わたしは公爵夫人に体調不良を訴えて授業をお休みにしてもらうと、すぐに帰宅の途についた。
馬車の中では、アンがずっと気遣ってくれた。
それに、怒って憤慨してもいる。
「ティルマン様があんな方だったなんて、失望いたしました!」
「そうね、わたしも驚いたわ」
「今回のことは屋敷に戻り次第、すぐに旦那様にご報告いたします。ウチのお嬢様をあんな浮気男に嫁がせるなんて、冗談じゃありませんよっ!!!」
「わたしもティルマン様とは破婚したいと思う。名門公爵家嫡男との婚約を解消したら、傷物扱いされて二度とまともな結婚なんてできないかもしれない。でも、修道院に行くことになってもいいから、婚約は解消したいわ」
そう言うと、情の厚いアンは泣きながらわたしを抱きしめてくれた。
きっとアンの目には、わたしがとても傷ついているように見えるのだろう。
確かに、他人の性交を目の前で見てしまったことは、わたしに大きなショックを与えた。ものすごく嫌な気持ちにもなった。
けれど、婚約者に浮気されたことに対する悲しみはない。そういう意味では少しも傷ついていない。
やっぱりわたしはティルマン様のことをなんとも思っていなかった、愛せなかったのだと改めて思った。
幼い頃からの婚約者だから情はある。今日あのような姿を見るまでは、それなりに尊敬していたし、好感の持てる相手だとも思っていた。
けれど、ただそれだけ。
お義兄様へ向けるような恋心は一切ない。
浮気したティルマン様は不誠実だけれど、それはわたしも同じだ。
他に好きな人がいるのに、それを隠して素知らぬ顔をして結婚するつもりでいたのだから。
家に帰り着くと、わたしはすぐにお父様の執務室に向かった。そして、ティルマン様の不貞を目撃したことを簡潔に報告した。
話を聞き終わったお父様の口元には笑みが浮かんでいた。
けれど、目元は一切笑っていない。
見ているだけで恐怖心を煽られるような恐ろしい笑顔だ。
日頃は温厚で優しいお父様の怒りを目にして、わたしは少しだけ怯えてしまう。
それに気付いたお父様は、即座に執務席から立ち上がるとわたしに歩み寄り、優しく抱きしめてくれた。よしよしと頭を撫でてくれる。
「かわいそうに。醜悪なものを目にして、さぞ傷ついただろう」
「お父様……」
「すぐにティルマン殿の素行調査をさせる。クリステル、悪いがもう少しだけ婚約者のまま我慢してくれるかい? 決定的な不貞の証拠を揃えて、すぐに婚約破棄を叩きつけてやるからね」
そう言ってくれたお父様の腕の中で、わたしは小さく頷いたのだった。
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