2 / 38
02 婚約者は人気者
しおりを挟む
十二才を過ぎた頃から、週に三日、アダルベルト公爵邸に通うようになった。
わたしはいずれ公爵家に嫁入りすることが決まっている。未来の公爵夫人となる者として多くのことを学ばなければならず、夫人教育を受けているのだ。
名門アダルベルト公爵家ともなると、夫人のすべき仕事は多い。
それらを学びつつ、広大な公爵領の地図をおぼえ、特産品のことや事業のこと、近隣諸国との付き合いや他領との取引を覚える。なかなか大変な日々だ。
公爵邸へ伺うたび、婚約者であるティルマン様とも交流を図っている。
わたしより五才年上のティルマン様は、金髪碧眼の甘い顔をした美男子だ。柔和な雰囲気の親しみやすい人で、年の離れたわたしを子供扱いすることなく、レディとして接してくれる。
「婚約者になってくれてありがとう。僕は幸せ者だな、こんなに頑張り屋さんが妻になってくれるんだから。母上が褒めていたよ。クリステルはとても優秀だって」
「ありがとうございます。そう言っていただけて、とても嬉しいです」
「それだけじゃない。会うたびに思うよ、クリステルの銀糸のような髪と深い湖のような緑色の瞳はすごく綺麗だなって。きっと将来は社交界一の花になるだろうね。他のやつに盗られないように、僕もがんばらなきゃいけないな」
「ふふ、ティルマン様は今のままで十分素敵です」
会うたびにティルマン様はわたしを褒めてくれる。優しい言葉をかけてくれる。とても素敵な人だと思う。
友人である侯爵令嬢ミランダ様も伯爵令嬢リリースア様も、ティルマン様はご令嬢方にとても人気のある殿方なのだと話していた。ティルマン様の婚約者であることを、わたしはいつも二人から羨ましがられている。
でも。どんなにティルマン様が素晴らしい人であっても、お義兄様に想いを寄せるわたしには彼を愛せない。
いつか愛せるようになれればいい、愛せるようになりたい。そう思っているのに、わたしの心の中にはいつだってお義兄様がいる。お義兄様だけを求め続けている。
きっとわたしはこれから先も、ティルマン様に心はあげられないのだと思う。
でもその代わり、誠心誠意この人に尽くそう。完璧な公爵夫人になってティルマン様を生涯お支えしていこう。
そんな思いを胸に、わたしはアダルベルト公爵家での教育に励んだのだった。
わたしはいずれ公爵家に嫁入りすることが決まっている。未来の公爵夫人となる者として多くのことを学ばなければならず、夫人教育を受けているのだ。
名門アダルベルト公爵家ともなると、夫人のすべき仕事は多い。
それらを学びつつ、広大な公爵領の地図をおぼえ、特産品のことや事業のこと、近隣諸国との付き合いや他領との取引を覚える。なかなか大変な日々だ。
公爵邸へ伺うたび、婚約者であるティルマン様とも交流を図っている。
わたしより五才年上のティルマン様は、金髪碧眼の甘い顔をした美男子だ。柔和な雰囲気の親しみやすい人で、年の離れたわたしを子供扱いすることなく、レディとして接してくれる。
「婚約者になってくれてありがとう。僕は幸せ者だな、こんなに頑張り屋さんが妻になってくれるんだから。母上が褒めていたよ。クリステルはとても優秀だって」
「ありがとうございます。そう言っていただけて、とても嬉しいです」
「それだけじゃない。会うたびに思うよ、クリステルの銀糸のような髪と深い湖のような緑色の瞳はすごく綺麗だなって。きっと将来は社交界一の花になるだろうね。他のやつに盗られないように、僕もがんばらなきゃいけないな」
「ふふ、ティルマン様は今のままで十分素敵です」
会うたびにティルマン様はわたしを褒めてくれる。優しい言葉をかけてくれる。とても素敵な人だと思う。
友人である侯爵令嬢ミランダ様も伯爵令嬢リリースア様も、ティルマン様はご令嬢方にとても人気のある殿方なのだと話していた。ティルマン様の婚約者であることを、わたしはいつも二人から羨ましがられている。
でも。どんなにティルマン様が素晴らしい人であっても、お義兄様に想いを寄せるわたしには彼を愛せない。
いつか愛せるようになれればいい、愛せるようになりたい。そう思っているのに、わたしの心の中にはいつだってお義兄様がいる。お義兄様だけを求め続けている。
きっとわたしはこれから先も、ティルマン様に心はあげられないのだと思う。
でもその代わり、誠心誠意この人に尽くそう。完璧な公爵夫人になってティルマン様を生涯お支えしていこう。
そんな思いを胸に、わたしはアダルベルト公爵家での教育に励んだのだった。
20
お気に入りに追加
1,461
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
この罰は永遠に
豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」
「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」
「……ふうん」
その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。
なろう様でも公開中です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる