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第一章 銀の訪れ
第十六話 水の蛇
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(わからない)
灰色の小鬼は思う。
(オレは)
(害する)
一瞬、小鬼の身体が黒く染まる。
(命を踏みつける)
(だから)
丸い黄色の目。
(守る必要はない)
赤髪の青年と
狼と
その前で、顔をこわばらせて立つ青い目の少女
(アオヤギ)
刀を抜いた赤髪の旅人、紅羽の隣に現れた赤い狼に、青柳は、顔をひきつらせた。
揺らめく炎の身体を持つ獣。
その澄んだ気配を知っている。
(火の神獣か!)
故郷の一族が、脳裏をよぎる。
(オレの家と同じ奴ら…!!なら!!)
赤髪の旅人は、強いだろうとは感じていたが、きっと…
(半端ねぇ!!)
紅羽の刀が、一閃、虹色の玉を握りしめた青柳の右手を切り落とす。
「?!」
甲高い音が響き、紅羽は目を見開く。
水色の鱗に覆われた右手が、刀を弾いていた。
〈コイツは、獣憑きか?!〉
赤い狼の炎が沸き立ち、青柳を襲う。
青柳の全身から、燐光がたちのぼり、身体中が水色の鱗に覆われる。
炎は、水色の鱗に触れることなく、一瞬で消えた。
(くそ、うるせぇ!!いつもより!くそッ!!何なんだ?!)
頭の中に響く、甲高い、虫がざわめくような音、喜びざわめく声に青柳は歯噛みする。
ギリギリで守れた右手にあるのは、虹色の玉。
赤髪の旅人は、少し距離をとり、様子を伺っている。
確実に、青柳も殺す対象になっただろう。
異形の命を刈り取る殺し屋。
五つの流派の頂点。
火の比嵩の人間だろう。
(逃げねーと。)
「…火牢」
青柳の回りを、火の玉が取り囲む。
それは裂け捻れ、輝く無数の縄となり、青柳の視界を埋め尽くす。
(まずいッ!捕ま【まかせて】)
甲高い声が、青柳の頭の中で響いた。
火の縄が、真珠色の牙の斬撃に引きちぎられる。
水色の蛇が、青柳の身体を守るように巻き付いていた。
「え?」
突然出てきた水色の蛇に青柳は、目を見開く。
【ふふふ、やっと、出られた】
〈おまえ?!〉
笑い声を上げて、身体をくねらせる蛇に、赤い狼は驚いたような声を上げた。
【やあ、火の。許さないよ。青柳に手を出した。】
〈おまえ、何故、その人間といる!水の御堂から姿を消したと聞いた、何してる!〉
【うるさいな。ボクは、青柳と一緒にいるんだ。邪魔しないで。】
蛇が大岩ほどに巨大化し、紅羽と赤い狼に襲いかかる。
それを避ける1人と一匹を、蛇は宙を舞いながら追う。
自分の身体から出てきたらしい水色の蛇を見て、青柳は唇を噛み締めた。
(いらない)
小さな子供は、願ったのだ。
(いらない)
右手の、身体中の鱗が、消えている。
「……よし、逃げよう。」
青柳は、くるりと方向転換し、走り出した。
赤髪の旅人も、狼も、敵だ、殺られる。
そして、あの蛇は、青柳には必要ないのだ。
そこは、青空広がる砂の海、遊ぶ風。
ざらざらと砂の中から這い出すのは、銀の鬼。
『…聞こえた。』
懐かしい弦の音
『…聞こえた。』
懐かしい笑い声
鬼は、一歩、大地をぽんと跳ねた。
鬼は、二歩、青空を越える。
海を飛ぶ。
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