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第一章 銀の訪れ
第九話 黒の赤熱
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竜神様こと白雲は、異形の大蛇から出てきた「手」を掴んだ。
【人間の手だな。珍しい…焦げた茶色の肌に、黒い爪…南の地の人間だ。どうしてこんなところにあるんだろうなぁ。】
「…南のヤツの手は喋るのか?」
【ハハハ、おかしなことを言うな、喋るわけないだろう!】
「笑ってんじゃねーよ、クソ竜!」
【ク、クソ竜…?!】
呆然とする白竜から、青柳は「手」を取り上げようとした。
「!!」
「手」が、大きく広がり、青柳の身体を包みこもうとした。
その内側は、口と鋭い牙が生えており、青柳は、とっさに後ろに下がり避けた。
「手」は、ぽとりと元の大きさに戻り、わしゃわしゃ蠢いている。
「いッーーーーーーーーーー!!!」
青柳は刀をスラリと抜いた。
【ま、待て、そやつはもう邪気がない。】
「あ??邪気がない?オレは今食われかけた!!」
「…腹減った…」
「!!」
ぼそりと「手」は、喋る。
「…腹減った…」
「…食べ物…」
「…くれ…」
「…腹減った…」
「…何なんだよ…コイツ…」
ぼそぼそと喋り続けるそれに、
青柳は苦虫をつぶしたような顔をした。
その時、木々の葉擦れの音と共に、
羽泉の岸に黒いものが落ちてきた。
「!?、おまえら…」
灰色の小鬼、黒朗と、それに腕をつかまれた人間の少年、比呂だった。
比呂は、青柳と白竜、そして子猿を見ると、
「うわあああああああ!!!」
「うお!!」
子猿に飛びつき、抱きしめた。
「良かった!マル!マル!」
そのまま、わんわん泣きじゃくる比呂。
そんな比呂の頬を撫でる子猿。
いつもおとなしい比呂のそんな姿に、目を見開き、口をへの字にまげた青柳は、近づいてきた黒朗に目を向ける。
「何で、あんなんになってんだよ?」
『…怖いのが山にいると、猿たちを心配していた。』
「あ…あ~!!!」
青柳は、異形に食い散らかされた動物たちを思い出す。
まだ息があるならば、この泉に入れれば、死なずにすむかもしれない。
「クソ竜!あっち、頭山の泉にだな…」
【クソ竜言うんじゃない!!】
騒ぐ竜と人間をよそに、
黒朗は、地面を這いずるそれを見た。
そろそろと蜘蛛のように動く「手」。
「…腹減った…」
『……。』
黒朗は辺りを見回し、比呂が子猿に駆け寄った時にぶちまけてしまったイモを拾う。
『……。』
そっと、その「手」の指先に差し出す。
……むしゃり……むしゃり
『……。』
「…なかなか…」
「オイィ!!」
「手」に、次のイモを差し出す小鬼に、青柳は駆け寄るとそのイモを叩き落とした。
「食わしてんじゃねーよッ!!」
『…コイツ、「手」しかないじゃないか…』
「コイツは!それでいいんだ!!化け物なんだから!!」
『……。』
「……なんだよ。」
黒朗は、青柳の青い目を見た。
そして、「手」を掴む。
「!」
泉の方角から、水音がした。
ハッ、として泉を見ると波紋が浮かぶばかり。
小鬼の手を見ると、「手」はなかった。
「クソ!」
泉に飛び込もうとする青柳の腕を、小鬼が掴んだ。
「離せ!!」
『…アイツを殺すのか。』
黒朗の腕を掴む力は強く、びくともしない。
『生き死にを決める権利は、誰にもない。』
青柳は身体を震わせた。
白金の燐光が、舞い散る。
腕を、刀を水色に輝く鱗が覆う。
「黙れ、鬼が!!!アイツが生きて、理不尽にオレたちは喰われろっていうのか?!!」
青柳は、黒朗にその刀を降り下ろした。
消えた。
「…な」
青柳の刀は、刃も柄も消えていた。
「ッ!!!」
ただ、残ったのは、からみつく、恐怖を感じるほどの熱気。
【愚か者がーーーーーーー!!!!!!】
身体がフッと浮かぶ感覚と同時に、水音。
青柳は、深い青い水の中にいた。
熱さに痛みに叫ぶ。
青柳の身体半分は、黒く焼けていた。
(…なん…だよ…)
青柳は、灰色の小鬼の、黄色い目を思い浮かべる。
青柳と黒朗の間にあったのは、瑞々しい草花ではなく、黒くて、赤くて、禍々しい死。
(…あ…れ)
【人間の手だな。珍しい…焦げた茶色の肌に、黒い爪…南の地の人間だ。どうしてこんなところにあるんだろうなぁ。】
「…南のヤツの手は喋るのか?」
【ハハハ、おかしなことを言うな、喋るわけないだろう!】
「笑ってんじゃねーよ、クソ竜!」
【ク、クソ竜…?!】
呆然とする白竜から、青柳は「手」を取り上げようとした。
「!!」
「手」が、大きく広がり、青柳の身体を包みこもうとした。
その内側は、口と鋭い牙が生えており、青柳は、とっさに後ろに下がり避けた。
「手」は、ぽとりと元の大きさに戻り、わしゃわしゃ蠢いている。
「いッーーーーーーーーーー!!!」
青柳は刀をスラリと抜いた。
【ま、待て、そやつはもう邪気がない。】
「あ??邪気がない?オレは今食われかけた!!」
「…腹減った…」
「!!」
ぼそりと「手」は、喋る。
「…腹減った…」
「…食べ物…」
「…くれ…」
「…腹減った…」
「…何なんだよ…コイツ…」
ぼそぼそと喋り続けるそれに、
青柳は苦虫をつぶしたような顔をした。
その時、木々の葉擦れの音と共に、
羽泉の岸に黒いものが落ちてきた。
「!?、おまえら…」
灰色の小鬼、黒朗と、それに腕をつかまれた人間の少年、比呂だった。
比呂は、青柳と白竜、そして子猿を見ると、
「うわあああああああ!!!」
「うお!!」
子猿に飛びつき、抱きしめた。
「良かった!マル!マル!」
そのまま、わんわん泣きじゃくる比呂。
そんな比呂の頬を撫でる子猿。
いつもおとなしい比呂のそんな姿に、目を見開き、口をへの字にまげた青柳は、近づいてきた黒朗に目を向ける。
「何で、あんなんになってんだよ?」
『…怖いのが山にいると、猿たちを心配していた。』
「あ…あ~!!!」
青柳は、異形に食い散らかされた動物たちを思い出す。
まだ息があるならば、この泉に入れれば、死なずにすむかもしれない。
「クソ竜!あっち、頭山の泉にだな…」
【クソ竜言うんじゃない!!】
騒ぐ竜と人間をよそに、
黒朗は、地面を這いずるそれを見た。
そろそろと蜘蛛のように動く「手」。
「…腹減った…」
『……。』
黒朗は辺りを見回し、比呂が子猿に駆け寄った時にぶちまけてしまったイモを拾う。
『……。』
そっと、その「手」の指先に差し出す。
……むしゃり……むしゃり
『……。』
「…なかなか…」
「オイィ!!」
「手」に、次のイモを差し出す小鬼に、青柳は駆け寄るとそのイモを叩き落とした。
「食わしてんじゃねーよッ!!」
『…コイツ、「手」しかないじゃないか…』
「コイツは!それでいいんだ!!化け物なんだから!!」
『……。』
「……なんだよ。」
黒朗は、青柳の青い目を見た。
そして、「手」を掴む。
「!」
泉の方角から、水音がした。
ハッ、として泉を見ると波紋が浮かぶばかり。
小鬼の手を見ると、「手」はなかった。
「クソ!」
泉に飛び込もうとする青柳の腕を、小鬼が掴んだ。
「離せ!!」
『…アイツを殺すのか。』
黒朗の腕を掴む力は強く、びくともしない。
『生き死にを決める権利は、誰にもない。』
青柳は身体を震わせた。
白金の燐光が、舞い散る。
腕を、刀を水色に輝く鱗が覆う。
「黙れ、鬼が!!!アイツが生きて、理不尽にオレたちは喰われろっていうのか?!!」
青柳は、黒朗にその刀を降り下ろした。
消えた。
「…な」
青柳の刀は、刃も柄も消えていた。
「ッ!!!」
ただ、残ったのは、からみつく、恐怖を感じるほどの熱気。
【愚か者がーーーーーーー!!!!!!】
身体がフッと浮かぶ感覚と同時に、水音。
青柳は、深い青い水の中にいた。
熱さに痛みに叫ぶ。
青柳の身体半分は、黒く焼けていた。
(…なん…だよ…)
青柳は、灰色の小鬼の、黄色い目を思い浮かべる。
青柳と黒朗の間にあったのは、瑞々しい草花ではなく、黒くて、赤くて、禍々しい死。
(…あ…れ)
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