今度は絶対死なないように

溯蓮

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62話

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「……どういう意味だカトリーヌ嬢。」

「そのままの意味ですわ殿下。それ以上、アリア様を貶めるような発言はお辞めくださいまし。」

「悪いが、私は貶めるようなことを言っているつもりは無い。ただ真実を確認しているだけだ。」

「ならば私が証言致しましょう。この、アムネジア・カトリーヌが誓って、アリア様がそのような卑劣な真似をしていないことを保証しますわ!」

 堂々たる姿でヴィルヘルムの前に立ち、その背にアリアを庇う姿は、その立場が下のようにはまるで見えなかった。

「君はアリアとクラスが違う。テスト当日の無罪を主張することは出来ないのではないか?」

「確かにそれはそうかもしれませんわ。でもここは国が運営する学園ですもの、そこで働く試験監督の先生方が反則行為を見逃す。ましてや権力に屈しその事実を隠蔽することなど、まさかありませんでしょう?」

「……ならば、どうして今まで私に勝てたことのないアリアが今回こんな点数を取った。」

 それは間違いなく、ヴィルヘルムが心の底で思っていた本音だった。つまり、ヴィルヘルムはただ悔しかっただけなのだ。いままで、アリアはヴィルヘルムを立てるために点数を操作していた。それでなくても、暗記は得意だが発展した問題を解くのが苦手なアリアは、テストで満点を取ることのほうが少なかった。けれど、今回は二回目だ。そもそもの基礎部分はしっかりとアリアの身についていて、発展部分に焦点を当てて勉強することができた。

 けれどそれはやはり二週目という言葉がついて回る。答えを知っている二回目のテストというだけで、アリアも自分の中でそれまでやってきた勉強のすべてをカンニングと同じものだと、思っていた。

「そんなの、努力以外に何がおありですの?」

 しかしアムネジアはそんなことを考えなかった。

「アリア様はとても真摯に勉強していらしたわ。私はアリア様たちのテストの範囲を知りませんでしたけれど、明らかにテスト範囲ではないようなところまでしっかりと学び、わからなければ図書館で本を借り、先生に質問をしに行ってらしたわ。何度アリア様のお力になれないことを恥じましたでしょう。」

 アムネジアはアリアの努力を幼いころから知っていた。王太子妃候補になったその日から、いや、きっとその前からアリアは努力をしていた。妃教育を王宮に受けに行った日、アムネジアができてアリアができなかったダンスの授業に再三付き合わされた日もあった。アムネジアが理解できなかった勉強を、アリアに聞けばアリアは懇切丁寧に、わかるまで付き合ってくれた。

 今回も同じように、自分の今に慢心せずにさらに勉強を重ねていたことを知っていた。

「私は、誰よりもアリア様の努力を知っているつもりですわ。それをカンニングなどという不当な評価で無得にするなんて、絶対に許しませんわ。」

「アムネジア様……」

 アムネジアがそう言い切ったためか、何も言えなくなったヴィルヘルムはきつくアリアを睨みつけてそのまま姿を消した。するとへなへなと、力が抜けたようにアムネジアがその場に座り込んでしまった。普段ならばそんなこと、はしたないと絶対にしないはずなのに。

「大丈夫か~?アムネジア嬢?」

「こ、怖かったですわぁ~……」

「アムネジア様!殿下に真正面からなんて……なんてことを!」

「お嬢。お説教なら後でよくね?超目立ってる。」

 周りを見ればアリアたちを中心に人目を集めていた。王太子のヴィルヘルムと侯爵家のアムネジアがアリアを挟み何か言い争いをしているのだ。貴族の子息子女にとってこれ以上のエサはないだろう。即座に状況を理解した二人は、ヴィノスとユーリを連れていつも勉強をしていた空き教室へと移動した。

 本来ならば授業を受けに教室に行くべきだが、一度やり始めれば二度三度とやりたくなるもの。一度授業をさぼるということをしたアリアとアムネジアの中で、さぼることへのハードルがだいぶ下がったのか、予鈴の鐘がなってもぐったりと体を机に預けたままだった。

「アムネジア嬢~そういうのはしたないんじゃなかったのか?」

「……ん~!今日くらいはいいじゃありませんの!私頑張りましたわよ!ねぇアリア様!!」

「えぇ、本当に感謝いたしますわ。アムネジア様。」

 アリアが純粋に礼を述べれば嬉しそうにはにかむアムネジア。そんなことを言ってくれるならば、アムネジアとしてもあの時跳ねる心臓を押さえつけて前に出た甲斐があったというものだ。

「きっと家に帰ったらお父様に怒られてしまうわ。」

「え、まじ?ただアムネジア嬢はクラレンス嬢かばっただけじゃん。なんか悪いことなの?」

「最高権力にあのような態度。いくらこちらの言い分が正しくても睨まれてしまいそうなんですのよ。」

「あー。日雇いがそこのトップぶん殴って以降雇ってもらえなくなる感じ?」

「絶対ぇに違うからヴィノス。お前は黙っとけ。」

 一度やり遂げて達成感が引いていけば、今度はやらかしたことのでかさによるこれから先の不安が募っていく。アムネジアは今回やったことに対して後悔も反省もしていないが、それでも家族に迷惑がかかる結果になったらと思うときりきりとおなかが痛くなってきた。

「それはありませんわアムネジア様。今回の件はお父様に報告させていただきます。その時、アムネジア様に助けていただいたことも伝えますので、不当な扱いをされれば、私に教えてくださいませ。」

「アリア様…?」

「私のことを助けてくれてありがとう。もし何かあれば、今度は私に助けさせてくださいませね。」

 その言葉は、いままでぼんやりとしたヴィルヘルムへの失望からくるなぁなぁとした関係ではなく、幼いころから競い合い高めあってきた大切な友人としての関係から出た、何の裏もない、純粋な言葉だった。
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