今度は絶対死なないように

溯蓮

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61話

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 テストというものはいつどんな時でも始まるまでが長くて、始まってからは一瞬だ。それはヴィノスにとってもアリアにとっても同じで、勉強が終わって、自然と集まった自習に使っていた空き教室でみんな思い思いの反省なり絶望なりをしていた。

「どうして…どうして私がこんなミスを…」

「元気出せってアムネジア嬢。」

「元気なんて出せませんわよ!今までクラス順位一位を保ち、新学期には一ランク上、ひいてはアリア様と同じクラスを狙っておりましたのに!」

「いや、そんな一回落としたぐらいで…」

 悲鳴を上げながら涙を流す勢いで打ちひしがれているアムネジア。対するユーリは勉強会の成果があったのか比較的自信がありげだ。ちなみにヴィノスは自信があろうがなかろうが、成績がよかろうが悪かろうが興味がないため同じような態度を貫き通している。アリアは二週目ということもあり、自信云々以前の話なんだろう。

「お嬢は~?テストどうだったの?」

「別に、変わりはなかったわ。しいて言うなら、リリー様に並ぶことができたらうれしいわ。」

「それ主席じゃん…うわぁ。」

 飄々と高みを言い切るアリアにヴィノスが引いたような視線を送る。テストの結果は週明けに発表される。クラス順位が上から下すべて発表されるのだ。生徒たちはそれで己の成績を確認し、期末の学年統一試験で学年順位上位者になれば特待や優待などのメリットもあるため、この成績発表は学園内でもそこそこ重要なイベントとして広まっている。


 週明け、廊下に集まった生徒たちの中、結果の確認を命じられたヴィノスが人混みを縫って一番前で名前の羅列を眺めていく。上のほうにどうせあるだろうと高をくくって眺めていけば、案の定上から一、二番目のところにアリアとついでにアムネジアの名前も見つける。自分の名前も一応確認すれば、今まで一番下にいたヴィノスとユーリの名前も、上から五番目と八番目、つまりクラス順位トップ十に入っていた。

「おーさすが貴族じきじき。お嬢に給料増やしてもらお。」

 四人分の成績と、偶然目についた名前の順位も確認して、人混みから逃げるように出る。すると少し離れたところでヴィノスを待っていたアリアたちが固まっている。アムネジアは自分の成績が相当気になるのか、胸の前で手を組んで、不安そうな表情をしながらヴィノスを見たとたんに駆け寄ってきた。

「ど、どうでしたか?わ、私の順位は…あぁまってくださいまし、まだ言わないでくださいませ…!心の準備がぁ…
!いやでも聞かなくては…でも…!!」

「……面倒くせぇ。」

「ヴィノスー俺の順位は?」

「お前は八番目。俺五番だから飯奢りな。」

 不安と期待に揺れるアムネジアを一蹴してヴィノスはアリアに近づく。どうだった?と聞いてくるアリアに対して、ヴィノスはニヤニヤとした意地の悪い笑みを浮かべながらどうだったと思う?と問う。自分の反応を面白がっていることを理解したアリアはため息をつきながら、人混みのほうに向かう。

「…やっぱり、リリー様は満点なのね。」

 二週目だったため、答えを丸暗記していたアリア。けれどその結果満点を取ったとしても、リリーが実力でとった満点には及ばない。同率一位なのにもかかわらず差を感じたアリアがため息をつけばアリアを追ってきたのか、ヴィノスの声が後ろからかかる。

「一位なのに不満そうじゃん。並べたらうれしいんじゃなかったの?」

「うれしく思えると思ったけれど、案外そうではないのね。」

「なにそれ嫌味?王太子まで敵に回すとかお嬢度胸あんね。」

「なっ!そ、そういう意味じゃないわ!」

 王太子を敵に回すなど冗談ではない。必死に否定をすれば、面白そうにヴィノスはけらけらと笑う。そしてそのままアリアを人混みから連れ出して、再度ユーリたちに合流する。アリアを追う前にアムネジアに結果は伝えたのか、アムネジアはさっきとは様子が違い落ち着いていた。

「アリア様!クラス主席、おめでとうございますわ!これなら学年統一試験でも主席を修めることができるのではなくて?」

「ありがとうございますわ。アムネジア様。アムネジア様もあれだけ不安だと言っていた割にクラス主席だったではありませんか。さすがですわ。」

「いいえ!今回は満点をとれたテストでしたわ…。今度はきっちりと見直しの時間もとれるように…」

「……向上心があることは素晴らしいことですわ。」

 ぶつぶつと今後の学習計画を立て始めるアムネジア。幼いことから、マナーに勉学、そういったものに打ち込んで、アリアをライバル視していたアムネジア。そんな彼女が誰よりもまじめな性格をしていることをアリアはよく知っていた。

「ん?…なぁなぁ、お嬢。見てみて。」

「何かしら……ひぃ!」

 ヴィノスが指をさした先にアリアが視線を向けると、そこには相も変わらず、まるで親の仇を見るように睨みつけてくるヴィルヘルムがいた。

「お、なんかこっちに来るぞ。」

「え、ちょっとヴィノス?」

 がんばれ、なんて簡単な言葉だけをかけてヴィノスはユーリのそばによる。いつもならアリアとの会話どころか視界に移すことすら嫌がるヴィルヘルムがなぜかアリアのほうに寄ってきた。

「ご、ごきげんよう…殿下。」

「……いい気になるなよ。」

「…で、殿下?」

 まるで地獄を這うような低い声だった。それに不安を感じ、声をかけるが、すぐに厳しい視線を向けられて黙らざるを得なくなる。どうやらヴィルヘルムは、アリアにテスト成績が負けたことが悔しく負け惜しみを言いに来たらしい、それを理解したユーリはこれは面白いことになりそうだと、傍観の体制を整える。

「今回私は負けたが、リリーに並んだとてお前がリリーに勝てることは何もない。」

「……別に、リリー様に並んだなどと思っておりませんわ。」

「どうだかな。そもそも急に満点を取るなどどういう風の吹き回しだ?カンニングでもしたか。」

 その言葉に、アリアの息が詰まる。クラレンスの名に誓って、アリアはカンニングなどのチート行為をしていないといえる。けれど、二週目の記憶というものに若干の後ろめたさを感じていたために、アリアは俯き言葉に詰まった。

「なんだ、言い返すこともできないのか?」

「……も、もうしわけ…」

「殿下!それ以上のお言葉はアリア様への侮辱であると捉えますわ!」

 そんなとき、思ってもみない助けの手がアリアに向けて差し伸べられた。
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