今度は絶対死なないように

溯蓮

文字の大きさ
上 下
61 / 70

60話

しおりを挟む
「ってことなんだけどどうすりゃ良い?」

「そんなことよりも自分の手紙がそんな扱いを受けていると知った俺に何か言うことはねーのかよ。」

「友達に着いたストーカーをそんなこととはひでぇ奴だなお前。」

「おめーがな!!」

 教室で上半身を机に預けながら、書き損じの紙をちぎり投げつけて勉強をするユーリの邪魔をするヴィノスに、ユーリが怒鳴る。

「ったく、かまって欲しいんだったらよそいけよそ。てか、お前は勉強しろよ、減給かかってんだろ?」

「馬鹿か。俺が減給がかかってるものを落とすと思うか。」

「なんでそんな誇らしげなんだよ……」

 ドヤ顔で胸を張るヴィノスに何を言っても無駄だと、そうそうに諦めまたワークにペンを走らせる。けれどもヴィノスの嫌がらせによって集中は途切れ、読んでも頭に入らない問題文にユーリは諦めたようにため息をついた。

「で?どうしろってんだよ。今度は現物あるから犯人探しにでも乗り出すのか?」

「お!話聞く気になった?マジで?意外にいいとこあんじゃん老人メガネ!」

「真面目に相談に乗らせる気もないなら今すぐ席を変えてもらっていいか?気が散る。」

「いや犯人探しも考えたけどさー?やってる事的にめんどそうじゃん。証拠も少ねーし。ただまた部屋入ってこられて気持ちわりぃんだけどって言う愚痴。」

 話を聞く体制になった瞬間、失礼なことを言うヴィノスに開いた心と傾けた耳を元に戻そうとしたのに、ヴィノスはそんなユーリにお構い無しに話を進めた。

「そもそもお前のところは一応使用人に与えられたいわゆる社宅的なあれだろ?さすがに公爵家ならセキュリティもそこそこだろ。」

「のはずなのに入ってきてんの!気持ち悪くね?」

「悪いよ悪い。だが俺に犯人はわからねぇ。ってことで、あー、なんだ、エドにでも頼んだら南京錠でもつけてくれんじゃねぇ?扉の半分くらいのでっけーやつ。」

「んなもん作ったら開けるのもかけるのも一人じゃ苦労するわ馬鹿。あと普通に邪魔だしコストも馬鹿になんねぇよ。」

 ユーリとヴィノスの収穫のない不毛な会話に、エドが入り込む。どうやら途中から話を聞いていたらしい。ユーリよりも気遣わしげな視線を送りながらヴィノスの隣に腰を下ろした。

「ストーカーって?」

「いや、ストーカーって言えるほどではねぇんだけど、なんか俺の部屋に俺以外が出入りしてるらしい。」

「ヴィノスの所は他人の部屋に他の従業員が入ってきたりしないのか?」

「本人不在の時はさすがにねぇよ。」

 エドのところでは、工房の職員全員が幼い頃から一緒にいる家族みたいなものだった。遠慮する者もいるが、しないものはたまに、本人不在の時でも入ってくる時がある。

 しかし、そんな環境に育ったとはいえ、それが普通でないことをエドは重々承知していた。

 「どいつもこいつも変なやつに付きまとわれて…流行ってんのか?」

「そんな流行があったら今すぐやめにさせろ。」

 ユーリの言葉にエドは確かにと頷く。ヴィノスとは違い本気でそう言っているからこそ、その素直な反応にユーリはやりずらさを感じる。

「で、どんなことされてるんだ?」

「んー実害はねぇよ。お嬢に王太子の恋の邪魔をさせるな的な脅しの手紙が来るくらい。」

「……そうか。」

 ヴィノスは簡単に言ってのけるが、エドはリリーとヴィルヘルムの関係をよく思っていない。だからそんな手紙が友人に届いていると聞けばさらに気が気じゃなくなる。

「俺からしてみたら俺じゃなくて本人に言えよって感じ。」

「さすがにクラレンス嬢の部屋には入り込めないんだろ。」

「俺ら監視出来てんならわざわざ部屋に届けずとも学校で教科書に挟むなりなんなりできるくね?ビビりには無理か?」

 ここにいない人物をからかうように笑うヴィノス。しかし直ぐにこの話題にも飽きたのか、今度はユーリの机に出したままにされている紙に落書きを始めた。

「あ!おいやめろバカ!」

「バカ真面目に勉強しちゃってー、減給かかってない俺と違うのになーにやる気出してんの?ユーリくん?」

「別になんだっていいだろ。さすがに勉強会開いてまで馬鹿な点取れねぇの!いいから離せ!」

「勉強会?なんの事だ?」

 エドの言葉に戯れていた二人の視線がエドに向けられる。そして気まずそうにアリアとアリアの友人であるアムネジアから勉強を教わっていると説明すれば、エドは若干不満そうにその説明を聞いた。

「貴族が、勉強をねぇ…」

「え、何?エドって貴族嫌いなの?」

「いや、嫌いというか……何を考えているのかわからん。差別するものもいれば利用する者もいるだろう。特に、王太子の周りにいる女性貴族はいい噂を聞かん。」

 ドレス工房、宝石工房、色々な工房をもって多方面に商品を広げているルトリック紹介の参加であるエドの工房には、様々な噂という名の愚痴が入ってくる。

 あの令嬢は金蔓だの、わがままだの、買い叩こうとしてくるだの、又は強引な引き抜きにあった先で不当な扱いをされて帰ってきたという話さえも聞いたことがある。

「いい噂なんてひと握りだ。」

「…いやそれはお前のところが偏ってるだけじゃね?」

「そうなのか?」

「いや、俺に聞かれても……」

 偏っているとは言ってもユーリのところも同じようなものだ。あの貴族は仲良くなっていて損は無い、あの貴族は貧乏だから関わるな。あの貴族は取引相手だから云々正直ユーリも飽き飽きしていた。

「結局、どこも同じってことは性悪が多いってことじゃね?スラムも貴族も同じだなー。」

「……若干否定できないのがイラつく。」

 そんな面倒くさい話は貴族ならではだが、欲のぶつけ合いという点からしてみれば、ヴィノスのところもそう変わらなかった。アリアのところに来てからそう言うことから離れられると思えば、使用人の中でも蹴落としあいがあったりなかったりする。

「所詮人間なんてそんなもんだろ。急に変わるヤツもいるけど変わんねぇやつもいる訳だ。」

 けれどヴィノスにとって、そんな中でも変な風に変わった主は興味が引かれる面白いものだとも思う。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

最愛の亡き母に父そっくりな子息と婚約させられ、実は嫌われていたのかも知れないと思うだけで気が変になりそうです

珠宮さくら
恋愛
留学生に選ばれることを目標にして頑張っていたヨランダ・アポリネール。それを知っているはずで、応援してくれていたはずなのにヨランダのために父にそっくりな子息と婚約させた母。 そんな母が亡くなり、義母と義姉のよって、使用人の仕事まですることになり、婚約者まで奪われることになって、母が何をしたいのかをヨランダが突き詰めたら、嫌われていた気がし始めてしまうのだが……。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

悪女の私を愛さないと言ったのはあなたでしょう?今さら口説かれても困るので、さっさと離縁して頂けますか?

輝く魔法
恋愛
システィーナ・エヴァンスは王太子のキース・ジルベルトの婚約者として日々王妃教育に勤しみ努力していた。だがある日、妹のリリーナに嵌められ身に覚えの無い罪で婚約破棄を申し込まれる。だが、あまりにも無能な王太子のおかげで(?)冤罪は晴れ、正式に婚約も破棄される。そんな時隣国の皇太子、ユージン・ステライトから縁談が申し込まれる。もしかしたら彼に愛されるかもしれないー。そんな淡い期待を抱いて嫁いだが、ユージンもシスティーナの悪い噂を信じているようでー? 「今さら口説かれても困るんですけど…。」 後半はがっつり口説いてくる皇太子ですが結ばれません⭐︎でも一応恋愛要素はあります!ざまぁメインのラブコメって感じかなぁ。そういうのはちょっと…とか嫌だなって人はブラウザバックをお願いします(o^^o)更新も遅めかもなので続きが気になるって方は気長に待っててください。なお、これが初作品ですエヘヘ(о´∀`о) 優しい感想待ってます♪

完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。 婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。 愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。 絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……

悪役令嬢はどうしてこうなったと唸る

黒木メイ
恋愛
私の婚約者は乙女ゲームの攻略対象でした。 ヒロインはどうやら、逆ハー狙いのよう。 でも、キースの初めての初恋と友情を邪魔する気もない。 キースが幸せになるならと思ってさっさと婚約破棄して退場したのに……どうしてこうなったのかしら。 ※同様の内容をカクヨムやなろうでも掲載しています。

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません

片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。 皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。 もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。

悪役令嬢の里帰り

椿森
恋愛
侯爵家の令嬢、テアニアはこの国の王子の婚約者だ。テアニアにとっては政略による婚約であり恋をしたり愛があったわけではないが、良好な関係を築けていると思っていた。しかし、それも学園に入るまで。 入学後は些細なすれ違いや勘違いがあるのも仕方がないと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。いつの間にか王子のそばには1人の女子生徒が侍っていて、王子と懇意な中だという噂も。その上、テアニアがその女子生徒を目の敵にして苛めているといった噂まで。 「私に他人を苛めている暇があるようにお思いで?」 頭にきたテアニアは、母の実家へと帰ることにした。

【完結】逆行した聖女

ウミ
恋愛
 1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m

処理中です...