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59話
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「お嬢なんか欲しいもんとかねぇ?」
「んーそうねぇ…あ、教室にある本を取ってきて欲しいわ。あれの返却期限が迫っていたはずなのよ。」
「えー…遠いじゃん。」
「お願いね。」
ニコリと告げられたそれに渋々了解と返し、医務室から出て、階段の方に向かう。けれど医務室から出て曲がり角を曲がった時に、話し声が聞こえた為、即座に後ろに下がって身を隠した。
「本当に怪我はないんだな?」
「えぇ、大丈夫です。アリア様が庇ってくれたんですよ!」
「だがなリリー。あのアリアがそんなことをするとは思えないんだ。」
ヴィノスは内心まじかとごちる。既に教室にいると思っていたふたりが、未だに廊下で言い争いをしていたのだ。そばにはもう一人、お付だろうか姿が見える。
「もう!どうして信じてくれないんですか!ゲラートも何か言ってください。」
「とは言われましても、自分は見てませんでしたし…まぁヴィルヘルム様もそこら辺でよくありません?リリー様は無事でした訳ですし。」
「……まぁ、二人がそういうのなら。」
そこではて、とヴィノスは首を傾げる。今までヴィルヘルムのお付を見たのはそう多くない。アリアはよくお付を振り切るのがヴィルヘルムの癖だと言っていたが学内でヴィルヘルムと共にいるのは初めてに思う。
最初は振り切る理由がリリーとの関係をバレないようにするためだと思っていたが、彼女がお付の名前まで知ってるところを見るに、そういう理由でも無いらしい。
「……んー、どっかで見たような気がすんだよな。」
角から顔をのぞかせて、お付の姿を改めて確認する。どこにでも居そうでどこにもいなさそうな存在感の薄い顔。ただでさえヴィノスは人の顔を覚えるのが得意ではないせいか、既視感があるようでない。
「ま、どっかで会ってたんだろ。」
けれど幼い頃からアリアのお付をしていたヴィノスにしてみれば主の婚約者のお付などどこで会ってても不思議ではない。学内にいるなら尚更だろう。無駄に考えるのも必要ないと断じて、3人の姿がなくなってから教室へと向かった。
「お嬢、これ本な。」
「ありがとうヴィノス。」
アリアが医務室内で本を読み、ヴィノスは残ったお菓子を頬張る。そうして時間を潰していれば程なくして迎えの馬車は付き、二人は一足早く学園から屋敷に戻る。
「あぁぁぁ!!?ヴィノス!あな、あなた!貴方というものがありながらどうしてお嬢様がお怪我を!?!」
「仕方ねぇじゃん。お嬢が勝手に動いたんだから。」
「そういう問題じゃないでしょう!?」
「あーうるせうるせ。」
もはや発狂に近いミーシャの説教を受けながらアリアの介護をする。
「いいですかお嬢様!主治医は歩くのはいいけれど無理は禁物と言っておりました。何かありましたら直ぐにこれに伝えるのですよ!」
「わ、わかったわ。大丈夫よ…ミーシャ。」
「いいえ!大変申し訳ありませんがお嬢様の大丈夫は信用なりません!その言葉を信じた結果何度私が心配で寿命を縮めているか…!」
「ミーシャ小煩いババァみてぇ。」
ヴィノスの横槍に、ミーシャは容赦の無い拳を叩きこむ。前々からミーシャに対して遠慮のなかったヴィノスだったが、最近は輪にかけてそれが酷くなっていく。それに呼応してミーシャもヴィノスの扱いを変えているのだが、それでもヴィノスには振り回されてばかりだ。
「あなたの仕事不足も原因の一つでしょう?!普通よりも多めに頂いているのだからもう少し真面目に働いたらどうなのよ!」
「だー!うるせぇ!こっちだってお嬢が飛び出すとか思わなかったんだよ!」
「だからそこを警戒するのが貴方の仕事でしょ!なんのためのお付なのよ!」
「ふ、二人とも、喧嘩しないで?」
そんな慌ただしい一日が終わり、ヴィノスは部屋へと戻ってきた。
「あぁ?なんだこれ。」
そして部屋の扉付近、丸出入口か投げ入れられたように乱雑に放り出されたその紙を見つけた。その紙はなにかの切れ端のようで、ガタガタでボロボロ、触って確かめても、質のいいものとはいえなかった。
「またかよ……」
そしてそれを裏返すと、そこには真新しいインクで乱雑に“運命の二人の邪魔をするな”と書かれていた。ダマになっていたのか床と手にはインクがつき、走り書きのように書かれたそれは、ほんのついさっき急ぎで書かれたものであることが分かる。
「気味わりぃな。」
つい先程までこの部屋、若しくはそばに居た可能性。それが背筋に悪寒を走らせ、ヴィノスの顔を歪ませる。乱雑なせいでいささか分かりづらいが、筆跡は前回部屋に紛れ込まされていたものと同じだろう。
運命の二人、とはどうせリリー達のことで、邪魔はおそらく今日階段から落ちた件のことだろう。そうじゃないにしろどう考えたって気味が悪い。
「なーんか燃やしたら呪われそう。」
まるで汚物を触るように手でつまみ、それを部屋の端、ユーリからの手紙が大量に詰まったゴミ箱替わりのような箱へと放る。もしまた来るようであれば、それと一緒に誰かに相談をもちかけようとヴィノスは決める。
アリアに頼んでつけてもらった部屋の鍵。それを突破できるくらいに、この屋敷の奥に入り込んでいるものなど少ない。その上学園でのことを聞けるとなるとさらに限られてくるだろう。ならば犯人なんてすぐ見つかる。そう慢心したヴィノスは面倒くささも相まってすぐにベッドにその身を投げた。
「んーそうねぇ…あ、教室にある本を取ってきて欲しいわ。あれの返却期限が迫っていたはずなのよ。」
「えー…遠いじゃん。」
「お願いね。」
ニコリと告げられたそれに渋々了解と返し、医務室から出て、階段の方に向かう。けれど医務室から出て曲がり角を曲がった時に、話し声が聞こえた為、即座に後ろに下がって身を隠した。
「本当に怪我はないんだな?」
「えぇ、大丈夫です。アリア様が庇ってくれたんですよ!」
「だがなリリー。あのアリアがそんなことをするとは思えないんだ。」
ヴィノスは内心まじかとごちる。既に教室にいると思っていたふたりが、未だに廊下で言い争いをしていたのだ。そばにはもう一人、お付だろうか姿が見える。
「もう!どうして信じてくれないんですか!ゲラートも何か言ってください。」
「とは言われましても、自分は見てませんでしたし…まぁヴィルヘルム様もそこら辺でよくありません?リリー様は無事でした訳ですし。」
「……まぁ、二人がそういうのなら。」
そこではて、とヴィノスは首を傾げる。今までヴィルヘルムのお付を見たのはそう多くない。アリアはよくお付を振り切るのがヴィルヘルムの癖だと言っていたが学内でヴィルヘルムと共にいるのは初めてに思う。
最初は振り切る理由がリリーとの関係をバレないようにするためだと思っていたが、彼女がお付の名前まで知ってるところを見るに、そういう理由でも無いらしい。
「……んー、どっかで見たような気がすんだよな。」
角から顔をのぞかせて、お付の姿を改めて確認する。どこにでも居そうでどこにもいなさそうな存在感の薄い顔。ただでさえヴィノスは人の顔を覚えるのが得意ではないせいか、既視感があるようでない。
「ま、どっかで会ってたんだろ。」
けれど幼い頃からアリアのお付をしていたヴィノスにしてみれば主の婚約者のお付などどこで会ってても不思議ではない。学内にいるなら尚更だろう。無駄に考えるのも必要ないと断じて、3人の姿がなくなってから教室へと向かった。
「お嬢、これ本な。」
「ありがとうヴィノス。」
アリアが医務室内で本を読み、ヴィノスは残ったお菓子を頬張る。そうして時間を潰していれば程なくして迎えの馬車は付き、二人は一足早く学園から屋敷に戻る。
「あぁぁぁ!!?ヴィノス!あな、あなた!貴方というものがありながらどうしてお嬢様がお怪我を!?!」
「仕方ねぇじゃん。お嬢が勝手に動いたんだから。」
「そういう問題じゃないでしょう!?」
「あーうるせうるせ。」
もはや発狂に近いミーシャの説教を受けながらアリアの介護をする。
「いいですかお嬢様!主治医は歩くのはいいけれど無理は禁物と言っておりました。何かありましたら直ぐにこれに伝えるのですよ!」
「わ、わかったわ。大丈夫よ…ミーシャ。」
「いいえ!大変申し訳ありませんがお嬢様の大丈夫は信用なりません!その言葉を信じた結果何度私が心配で寿命を縮めているか…!」
「ミーシャ小煩いババァみてぇ。」
ヴィノスの横槍に、ミーシャは容赦の無い拳を叩きこむ。前々からミーシャに対して遠慮のなかったヴィノスだったが、最近は輪にかけてそれが酷くなっていく。それに呼応してミーシャもヴィノスの扱いを変えているのだが、それでもヴィノスには振り回されてばかりだ。
「あなたの仕事不足も原因の一つでしょう?!普通よりも多めに頂いているのだからもう少し真面目に働いたらどうなのよ!」
「だー!うるせぇ!こっちだってお嬢が飛び出すとか思わなかったんだよ!」
「だからそこを警戒するのが貴方の仕事でしょ!なんのためのお付なのよ!」
「ふ、二人とも、喧嘩しないで?」
そんな慌ただしい一日が終わり、ヴィノスは部屋へと戻ってきた。
「あぁ?なんだこれ。」
そして部屋の扉付近、丸出入口か投げ入れられたように乱雑に放り出されたその紙を見つけた。その紙はなにかの切れ端のようで、ガタガタでボロボロ、触って確かめても、質のいいものとはいえなかった。
「またかよ……」
そしてそれを裏返すと、そこには真新しいインクで乱雑に“運命の二人の邪魔をするな”と書かれていた。ダマになっていたのか床と手にはインクがつき、走り書きのように書かれたそれは、ほんのついさっき急ぎで書かれたものであることが分かる。
「気味わりぃな。」
つい先程までこの部屋、若しくはそばに居た可能性。それが背筋に悪寒を走らせ、ヴィノスの顔を歪ませる。乱雑なせいでいささか分かりづらいが、筆跡は前回部屋に紛れ込まされていたものと同じだろう。
運命の二人、とはどうせリリー達のことで、邪魔はおそらく今日階段から落ちた件のことだろう。そうじゃないにしろどう考えたって気味が悪い。
「なーんか燃やしたら呪われそう。」
まるで汚物を触るように手でつまみ、それを部屋の端、ユーリからの手紙が大量に詰まったゴミ箱替わりのような箱へと放る。もしまた来るようであれば、それと一緒に誰かに相談をもちかけようとヴィノスは決める。
アリアに頼んでつけてもらった部屋の鍵。それを突破できるくらいに、この屋敷の奥に入り込んでいるものなど少ない。その上学園でのことを聞けるとなるとさらに限られてくるだろう。ならば犯人なんてすぐ見つかる。そう慢心したヴィノスは面倒くささも相まってすぐにベッドにその身を投げた。
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