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56話
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夢を見た。絢爛豪華な絵本の中のお姫様みたいなお部屋で、一人少女がわんわん泣いているのだ。
人目見ておかしいとわかる。部屋にはベッドもソファも椅子もあるのに、彼女はそんなものを使う資格がないというかのように部屋の中心に蹲って泣いているのだ。
「ごめんなさい!ごめんなさい……!そんな、そんなつもりはなかったの…こんなことになるなんて!」
彼女は一体、何に謝っているのだろう。大丈夫?そう問いたいのに声は出なくて、伸ばした手も、無意識なのか彼女に弾き落とされてしまう。
どうしたら彼女にこの思いが届くのだろう。そう思っていると、部屋の外を誰かがコツコツと歩いている音が聞こえてくる。その音は彼女にも聞こえたのか、その肩をびくつかせた。
ゆっくりと、部屋の扉が開いて誰かが入ってくる。
「あ、あぁ……ごめんなさい、ごめんなさい…でも、だって…あなたが言ったんじゃない……それに、命令をしたのだって…私じゃないのよ……」
「関係ないんだよ。お前のせいで、お前らのせいで俺のーーー。」
振り上げられたナイフは血に塗れていてああ、あれであの人も殺されてしまったのかと思うと、言いようのない悲しさと絶望が少女の胸を襲う。
「「ごめんなさい。」」
一体この言葉を、私は何度言ったのだろう。
「っ!!!」
勢いよく飛び起きると、見覚えのない場所だった。真っ白なベッドに目の前の真っ白なカーテン。今自分がどこにいるのか、リリーは理解できなかった。
「あ、起きた。」
カシャっと軽い音がなりカーテンが開く。その奥には、そのカーテンに紛れてしまいそうな同色の髪を持った男子生徒。
「えっと…貴方は確か、エドのクラスの…」
「ユーリだよ。あんたをここに運んだの俺。」
「運ぶ…?」
必死に自分の記憶を漁るけれど、正直睡眠不足と朝からのあれこれで、昼すら食べた記憶が無い。自分は一体何をして、何があってここに来たのだろう…
「あの、私何が……」
「覚えてないの?お前階段から落ちたんだよ。」
「階段……?」
ぼんやりとした頭で、必死に思い出す。確かに、階段を登ろうとしていたかもしれない。アリア様がいて、でも話しかけることも出来なくて、その先に銀色が見えて、そこからの記憶が無い。
「私、階段から落ちたの?」
「そ、クラレンス嬢が庇ってくれなきゃ、大怪我してたかもしれねーんだから感謝しろよー?」
「アリア様が!?」
アリア様が庇う?私なんかを?混乱しながらも体を起こそうとすると、目眩が襲ってきて体がふらつく。
「どっか痛むか?」
「いえ…あの、アリア様は……?」
「そこにいるぜ。」
開けたカーテンをさらに開く。する遠くには紅茶とお菓子を広げほのぼのとお茶会を開くアリアとアムネジアが居た。何故か知らないが一番遠慮なく食べていのはヴィノスだった。
「ご加減はいかが?」
「……もう、大丈夫です。ご迷惑をおかけしてごめんなさい…」
「いいんですのよ。怪我もないようで安心しましたわ。顔色も幾分かマシになりましたわね。」
その言葉に、リリーの体が強ばる。自分が倒れた要因はよく理解している。ただでさえ最近ではストレスが溜まっている状態だったにもかかわらず、昨晩は一睡もすることが出来ず、挙句リリーは朝も昼も食べることが出来ていないのだ。倒れるなという方が無理だろう。
「体調不良の心当たりはあられるようですわね。話していただくことは可能なのかしら?」
「……その、それは…」
「あらあら、残念ですわ。私たち、リリーさんを心配して、授業を休んでまでここに残ったって言いますのに教えて下さらないなんて……」
「えぇ!?」
わざとらしくアムネジアがリリーに言い募る。その表情は残念にしながらもどこか愉悦的で、全くもって残念だと思っていないことがよく伝わった。けれど実際、今は授業中なはずなのに、目の前には生徒が4人もいる。おおかた自分が起きるのを待つがてら、お茶でもしていたのだろう。もしかしたら目的とついでは逆かもしれないが。
「話してくださいますわよね。リリー様?」
「えっと、お話しづらいかもしれませんが、ご相談くらいになら乗れるかと……」
美しいまでの笑みをたずさえるアムネジアに、申し訳なさそうに聞いてくるアリア。アリアは昨日何があったかを知っているからか、その視線に気遣いと心配が滲んでいるのに、リリーは気づかなかった。
「……分かりました。けれど、その…話しても怒らないと約束してくださいますか?」
「それは話の内容にもよりますわね。」
諦めて、リリーは昨日から今日の昼までにかけて起きた、怒涛の悪夢のような出来事を話す覚悟を決めた。
「美味しいお茶菓子もございますわ。ほら、リリー様がお座りになるんだからお避けなさい。」
「あ~、俺のスコーンとケーキ…」
「あーもう!持っていっていいですから、そこに座って食べてなさいな!」
アムネジアがバクバクとお茶菓子のみを食べるヴィノスをまるで犬猫を追い払うかのように手で払う。普段ならはしたないと控えるような行動も、何故かヴィノスの前になるとそれすらやめて声を荒らげてしまう。
「それじゃ、お茶でも飲みながらおきかせくださる?」
「は、はい……」
アムネジアは、この後強引に聞き出したことを後悔することとなった。
人目見ておかしいとわかる。部屋にはベッドもソファも椅子もあるのに、彼女はそんなものを使う資格がないというかのように部屋の中心に蹲って泣いているのだ。
「ごめんなさい!ごめんなさい……!そんな、そんなつもりはなかったの…こんなことになるなんて!」
彼女は一体、何に謝っているのだろう。大丈夫?そう問いたいのに声は出なくて、伸ばした手も、無意識なのか彼女に弾き落とされてしまう。
どうしたら彼女にこの思いが届くのだろう。そう思っていると、部屋の外を誰かがコツコツと歩いている音が聞こえてくる。その音は彼女にも聞こえたのか、その肩をびくつかせた。
ゆっくりと、部屋の扉が開いて誰かが入ってくる。
「あ、あぁ……ごめんなさい、ごめんなさい…でも、だって…あなたが言ったんじゃない……それに、命令をしたのだって…私じゃないのよ……」
「関係ないんだよ。お前のせいで、お前らのせいで俺のーーー。」
振り上げられたナイフは血に塗れていてああ、あれであの人も殺されてしまったのかと思うと、言いようのない悲しさと絶望が少女の胸を襲う。
「「ごめんなさい。」」
一体この言葉を、私は何度言ったのだろう。
「っ!!!」
勢いよく飛び起きると、見覚えのない場所だった。真っ白なベッドに目の前の真っ白なカーテン。今自分がどこにいるのか、リリーは理解できなかった。
「あ、起きた。」
カシャっと軽い音がなりカーテンが開く。その奥には、そのカーテンに紛れてしまいそうな同色の髪を持った男子生徒。
「えっと…貴方は確か、エドのクラスの…」
「ユーリだよ。あんたをここに運んだの俺。」
「運ぶ…?」
必死に自分の記憶を漁るけれど、正直睡眠不足と朝からのあれこれで、昼すら食べた記憶が無い。自分は一体何をして、何があってここに来たのだろう…
「あの、私何が……」
「覚えてないの?お前階段から落ちたんだよ。」
「階段……?」
ぼんやりとした頭で、必死に思い出す。確かに、階段を登ろうとしていたかもしれない。アリア様がいて、でも話しかけることも出来なくて、その先に銀色が見えて、そこからの記憶が無い。
「私、階段から落ちたの?」
「そ、クラレンス嬢が庇ってくれなきゃ、大怪我してたかもしれねーんだから感謝しろよー?」
「アリア様が!?」
アリア様が庇う?私なんかを?混乱しながらも体を起こそうとすると、目眩が襲ってきて体がふらつく。
「どっか痛むか?」
「いえ…あの、アリア様は……?」
「そこにいるぜ。」
開けたカーテンをさらに開く。する遠くには紅茶とお菓子を広げほのぼのとお茶会を開くアリアとアムネジアが居た。何故か知らないが一番遠慮なく食べていのはヴィノスだった。
「ご加減はいかが?」
「……もう、大丈夫です。ご迷惑をおかけしてごめんなさい…」
「いいんですのよ。怪我もないようで安心しましたわ。顔色も幾分かマシになりましたわね。」
その言葉に、リリーの体が強ばる。自分が倒れた要因はよく理解している。ただでさえ最近ではストレスが溜まっている状態だったにもかかわらず、昨晩は一睡もすることが出来ず、挙句リリーは朝も昼も食べることが出来ていないのだ。倒れるなという方が無理だろう。
「体調不良の心当たりはあられるようですわね。話していただくことは可能なのかしら?」
「……その、それは…」
「あらあら、残念ですわ。私たち、リリーさんを心配して、授業を休んでまでここに残ったって言いますのに教えて下さらないなんて……」
「えぇ!?」
わざとらしくアムネジアがリリーに言い募る。その表情は残念にしながらもどこか愉悦的で、全くもって残念だと思っていないことがよく伝わった。けれど実際、今は授業中なはずなのに、目の前には生徒が4人もいる。おおかた自分が起きるのを待つがてら、お茶でもしていたのだろう。もしかしたら目的とついでは逆かもしれないが。
「話してくださいますわよね。リリー様?」
「えっと、お話しづらいかもしれませんが、ご相談くらいになら乗れるかと……」
美しいまでの笑みをたずさえるアムネジアに、申し訳なさそうに聞いてくるアリア。アリアは昨日何があったかを知っているからか、その視線に気遣いと心配が滲んでいるのに、リリーは気づかなかった。
「……分かりました。けれど、その…話しても怒らないと約束してくださいますか?」
「それは話の内容にもよりますわね。」
諦めて、リリーは昨日から今日の昼までにかけて起きた、怒涛の悪夢のような出来事を話す覚悟を決めた。
「美味しいお茶菓子もございますわ。ほら、リリー様がお座りになるんだからお避けなさい。」
「あ~、俺のスコーンとケーキ…」
「あーもう!持っていっていいですから、そこに座って食べてなさいな!」
アムネジアがバクバクとお茶菓子のみを食べるヴィノスをまるで犬猫を追い払うかのように手で払う。普段ならはしたないと控えるような行動も、何故かヴィノスの前になるとそれすらやめて声を荒らげてしまう。
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「は、はい……」
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