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52話
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「それで?一体何があったって言うんですのよ。」
「え、いや!本当にお話するようなことでもなくて…しっかり断れなかった私も悪いですし、何より逃げ出しちゃったし…」
「別に謙遜も卑下も自虐も欲しくないんですの。事実を盛ろうが婉曲させようが自分に都合のいいように解釈しようがどうでもいいので早く説明してくださいまし。」
アムネジアは苦手なリリーを相手にしているからか言葉にトゲがあり、その様子も苛立っている様を隠そうともしていなかった。それのせいか、アリアはアムネジアの投げやりで乱暴な言葉に、信じられないものを見るような目を向ける。
けれど逆にリリーには良い方に効いたのか
「それが、その…とある方に一緒にテスト勉強をしようと誘われまして…で、でも私は自分でやりたくて、今日は用事があるから、勉強なら自宅でやると…」
「なるほど?」
「で、でも、用事とはなんだ、自分に言えないことなのか。もし違うのであればその用事に付き合おう。そしてその後二人で勉強をしよう、二人でやった方が分からないところを教えあえていいだろうって…」
リリーの説明に、アリアは少々首を傾げた。リリーの断り文句は正当に思える。その用事が嘘であれ真であれ、用事があるので勉強を共にすることを断り、その分は家でやる。随分と真っ当のように思える。
「…貴方はそこを追求されるほど親しい関係なんですの?」
「私用に付き合っていただくほどプライベートかと言われると、少し…」
「ならば随分と図々しい申し出ですのね。」
問題なのはその相手の返しだった。リリーの私用を聞くまではともかく、それについて行こうとし、その後また勉強に誘うだなんておそらく仲のいい学友でもそこまでしない。というより、親しき仲にも礼儀ありだ。断られたなら引き下がるものだろう。
「やましいことでもあるのかと聞かれて肩を捕まれ、さすがに限界が来て逃げ出してしまい…」
「寧ろよくそれで我慢しましたわね。私だったらひっぱたいていますわ。」
とうとうアムネジアの中でも怒りや嫌悪などより哀れみが勝ったのかそんな言葉を投げかけられる。そこまで迫られ詰め寄られた上で肩まで掴まれたら相手が誰であれ多少なりとも恐怖を抱くだろう。アリアもほんの少し鳥肌のたった自分の腕を撫で落ち着かせる。
「引っぱたくって…本当はしないくせに。腐っても貴族令嬢だろ、あんた。」
「何か言いまして?デイモンド様。」
「いやー可哀想だなフローレス嬢。一体誰だよそんなことする不届き者は。」
誤魔化すような大声で、大袈裟な身振りで、そしてぎこちない迄の作り笑顔でリリーによってユーリは問いかける。しかしその質問にリリーは自分の中でなにかに気づいたのか、先程駆け込んできた時と同じくらいに顔を青くした。
「え、何。そんな言いたくねぇの?」
「ち、ちょっと大丈夫ですの?今にも倒れそうな顔色ですわよ…?」
そんな表情のリリーに、どんどんと心配する思いがわいてきたのか二人がリリーのそばに寄る。それを言い事に、アリアはヴィノスへと近づいて耳打ちした。
「ヴィノス。今日エドってもう帰ったのかしら…?」
「あぁ、工房の手伝いだとよ。だからまぁ、そういうことだろ。」
誰がリリーを追いかけ回したのか、アリアは心のどこかで察しが着いていた。リリーの心にどういう変化があるのか知らないが、前の時は、このテスト前の時期、リリーはずっとヴィルヘルムと勉強をしていた。その姿をアリアは何度も目撃し、その度に歯を食いしばって来たのだから。
「い、いえ…大丈夫です。ただ…そうですね、思い出して怖くなってしまって…」
「ま、さすがに男二人におわれちゃ並の女じゃ怖くて当然か。」
「…へ?二人……?」
目の前で繰り広げられるリリーへの慰めを眺める。するとユーリがリリーが逃げていたと思われるもの達の人数を上げた。
ユーリはヴィノスが扉を閉めた時扉の傍におり、走り去っていく音をヴィノスと共に確実に2人分聞いていた。だからこその言葉だったが、リリーは訳が分からないと首を傾げてしまったのだ。
「え?」
「わ、私がお話していたのはでん…ひとりだったはずなんですけど……」
「でも確実に二人、お前のことをおってたぞ?」
ユーリの言葉にまたもどんどんとリリーの血の気が失せていく。もはや青どころではなく人形のような白さまでいってしまっている。
「き、きっと偶然通り掛かった人ですわ。それか管理委員の方よ。廊下を走るのは校則違反ですもの。」
そんなリリーの哀れさに思わずアリアが口を挟む。すると彼女の中で納得が行ったのか、涙目ながらに息を吐き出した。
「そ、それで皆さんはこんなところで何を…?」
「見て分かりませんの?勉強ですわ。テスト前、こうして皆で分からないところを教えあった方が効率的ですもの!」
話題が変わったからなのか、気を取り直したアムネジアが胸を張って口元に手を当て高笑いをする。教え合う、にしてはアムネジアとアリアの負担が大きすぎるし、何よりもクラスでテスト範囲が変わっているこの学園体制では別クラスでの勉強会などほとんど意味をなさないだろう。
「す、素敵です…!いいなー羨ましい…」
「い、入れて差しあげませんわよ!貴方は首席特待生、教えが必要な分からない部分などないのではなくて!?」
「そ、そんなぁ…ダメですか……?」
「うっ……あ、アリア様にお願いしてみたらどうですの!?わ、私に許可を求めないでくださいまし!」
アムネジアはリリーの視線に耐えられなかったのか、ビシッとアリアを指さす。アリアはまさか自分が標的になるとは思っていなかったのか、こてんと首を傾げる。ヴィルヘルムとなぜ勉強しないのかを考えていたため、話をこれっぽっちも聞いてなかったのだ。
「でも、フローレスは今日用事を理由に断ったんだろ?ならここに残っているのがバレたらマズイだろ。他ならともかく、今日は無理だ。」
「そう!そうですわね!貴方、たまにはいいことを言うのね!」
それを助けるようにヴィノスが言う。思わずそれに小声で感謝を伝えれば、ヴィノスは話を聞いとけと言い聞かせるようにほっぺたをつねって伸ばした。
「そ、そうでした…」
「今なら裏門から出ればバレずに済むだろ。早く行けば?」
ヴィノスの後押しに、リリーは肩を落としながらも教室から出ていく。出た瞬間、周りを警戒しだし素早く裏門に向かう姿に、警戒されきったヴィルヘルムに対してほんの少しアリアは微妙な思いになった。
「え、いや!本当にお話するようなことでもなくて…しっかり断れなかった私も悪いですし、何より逃げ出しちゃったし…」
「別に謙遜も卑下も自虐も欲しくないんですの。事実を盛ろうが婉曲させようが自分に都合のいいように解釈しようがどうでもいいので早く説明してくださいまし。」
アムネジアは苦手なリリーを相手にしているからか言葉にトゲがあり、その様子も苛立っている様を隠そうともしていなかった。それのせいか、アリアはアムネジアの投げやりで乱暴な言葉に、信じられないものを見るような目を向ける。
けれど逆にリリーには良い方に効いたのか
「それが、その…とある方に一緒にテスト勉強をしようと誘われまして…で、でも私は自分でやりたくて、今日は用事があるから、勉強なら自宅でやると…」
「なるほど?」
「で、でも、用事とはなんだ、自分に言えないことなのか。もし違うのであればその用事に付き合おう。そしてその後二人で勉強をしよう、二人でやった方が分からないところを教えあえていいだろうって…」
リリーの説明に、アリアは少々首を傾げた。リリーの断り文句は正当に思える。その用事が嘘であれ真であれ、用事があるので勉強を共にすることを断り、その分は家でやる。随分と真っ当のように思える。
「…貴方はそこを追求されるほど親しい関係なんですの?」
「私用に付き合っていただくほどプライベートかと言われると、少し…」
「ならば随分と図々しい申し出ですのね。」
問題なのはその相手の返しだった。リリーの私用を聞くまではともかく、それについて行こうとし、その後また勉強に誘うだなんておそらく仲のいい学友でもそこまでしない。というより、親しき仲にも礼儀ありだ。断られたなら引き下がるものだろう。
「やましいことでもあるのかと聞かれて肩を捕まれ、さすがに限界が来て逃げ出してしまい…」
「寧ろよくそれで我慢しましたわね。私だったらひっぱたいていますわ。」
とうとうアムネジアの中でも怒りや嫌悪などより哀れみが勝ったのかそんな言葉を投げかけられる。そこまで迫られ詰め寄られた上で肩まで掴まれたら相手が誰であれ多少なりとも恐怖を抱くだろう。アリアもほんの少し鳥肌のたった自分の腕を撫で落ち着かせる。
「引っぱたくって…本当はしないくせに。腐っても貴族令嬢だろ、あんた。」
「何か言いまして?デイモンド様。」
「いやー可哀想だなフローレス嬢。一体誰だよそんなことする不届き者は。」
誤魔化すような大声で、大袈裟な身振りで、そしてぎこちない迄の作り笑顔でリリーによってユーリは問いかける。しかしその質問にリリーは自分の中でなにかに気づいたのか、先程駆け込んできた時と同じくらいに顔を青くした。
「え、何。そんな言いたくねぇの?」
「ち、ちょっと大丈夫ですの?今にも倒れそうな顔色ですわよ…?」
そんな表情のリリーに、どんどんと心配する思いがわいてきたのか二人がリリーのそばに寄る。それを言い事に、アリアはヴィノスへと近づいて耳打ちした。
「ヴィノス。今日エドってもう帰ったのかしら…?」
「あぁ、工房の手伝いだとよ。だからまぁ、そういうことだろ。」
誰がリリーを追いかけ回したのか、アリアは心のどこかで察しが着いていた。リリーの心にどういう変化があるのか知らないが、前の時は、このテスト前の時期、リリーはずっとヴィルヘルムと勉強をしていた。その姿をアリアは何度も目撃し、その度に歯を食いしばって来たのだから。
「い、いえ…大丈夫です。ただ…そうですね、思い出して怖くなってしまって…」
「ま、さすがに男二人におわれちゃ並の女じゃ怖くて当然か。」
「…へ?二人……?」
目の前で繰り広げられるリリーへの慰めを眺める。するとユーリがリリーが逃げていたと思われるもの達の人数を上げた。
ユーリはヴィノスが扉を閉めた時扉の傍におり、走り去っていく音をヴィノスと共に確実に2人分聞いていた。だからこその言葉だったが、リリーは訳が分からないと首を傾げてしまったのだ。
「え?」
「わ、私がお話していたのはでん…ひとりだったはずなんですけど……」
「でも確実に二人、お前のことをおってたぞ?」
ユーリの言葉にまたもどんどんとリリーの血の気が失せていく。もはや青どころではなく人形のような白さまでいってしまっている。
「き、きっと偶然通り掛かった人ですわ。それか管理委員の方よ。廊下を走るのは校則違反ですもの。」
そんなリリーの哀れさに思わずアリアが口を挟む。すると彼女の中で納得が行ったのか、涙目ながらに息を吐き出した。
「そ、それで皆さんはこんなところで何を…?」
「見て分かりませんの?勉強ですわ。テスト前、こうして皆で分からないところを教えあった方が効率的ですもの!」
話題が変わったからなのか、気を取り直したアムネジアが胸を張って口元に手を当て高笑いをする。教え合う、にしてはアムネジアとアリアの負担が大きすぎるし、何よりもクラスでテスト範囲が変わっているこの学園体制では別クラスでの勉強会などほとんど意味をなさないだろう。
「す、素敵です…!いいなー羨ましい…」
「い、入れて差しあげませんわよ!貴方は首席特待生、教えが必要な分からない部分などないのではなくて!?」
「そ、そんなぁ…ダメですか……?」
「うっ……あ、アリア様にお願いしてみたらどうですの!?わ、私に許可を求めないでくださいまし!」
アムネジアはリリーの視線に耐えられなかったのか、ビシッとアリアを指さす。アリアはまさか自分が標的になるとは思っていなかったのか、こてんと首を傾げる。ヴィルヘルムとなぜ勉強しないのかを考えていたため、話をこれっぽっちも聞いてなかったのだ。
「でも、フローレスは今日用事を理由に断ったんだろ?ならここに残っているのがバレたらマズイだろ。他ならともかく、今日は無理だ。」
「そう!そうですわね!貴方、たまにはいいことを言うのね!」
それを助けるようにヴィノスが言う。思わずそれに小声で感謝を伝えれば、ヴィノスは話を聞いとけと言い聞かせるようにほっぺたをつねって伸ばした。
「そ、そうでした…」
「今なら裏門から出ればバレずに済むだろ。早く行けば?」
ヴィノスの後押しに、リリーは肩を落としながらも教室から出ていく。出た瞬間、周りを警戒しだし素早く裏門に向かう姿に、警戒されきったヴィルヘルムに対してほんの少しアリアは微妙な思いになった。
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