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51話
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「~っか、完璧ですわ……!」
「どうよお嬢。」
「あの後に勉強していたのかしら?流石ね、偉いわ。」
わなわなと身体を震わせ、悔しそうに自分の渡した問題集の採点を終えたアムネジア。結果は前回とは一目瞭然。大きく変化した訳では無いユーリと違い、ヴィノスは中間テストになんら問題のない点数をたたき出したのだ。
悔しそうにするアムネジアを無視し、胸を張りどうだとヴィノスが聞く先はアリア。前日に自分の使っていた教材を押し付けられ、それを利用して夜通し勉強したのだ。
「てことではい。」
「え?……なにこれ、ヴィノス。」
「お嬢が昔使ってた教材。俺はもう必要ねーからお前にやる。許可はとった。」
厄介払いとでもいうように押し付けられた大量の教材にユーリは顔を青くする。別にその本自体は十年以上前とはいえ上質なものだし、教材を貰えるのはユーリとしてありがたかったけれど、何より彼を恐怖に陥れたのは、これを持って帰る労力と、ヴィノスが無償で物を渡してきたことに対する恐怖だった。
「……お前、何を企んでるんだ!?」
「失礼なこと言うとその白髪全部抜くぞ。耄碌ジジイ。」
くだらない言い合いが続くが、最終的にユーリは諦めたのか、本を大人しく受け取り、それを開きながらバツの多い問題集の解き直しを始める。
「急にやる気を出して、一体どうされたんですの。」
「べっつにー。どっかのお嬢がいい点取れなきゃ減給とか言い出すから。」
「あら、さすがのアリア様も貴方の成績は目に余ったのかしら。これを機に真面目に勉強したらどうですの?」
「やだね。真面目とか、俺に似合わねぇ。」
このテスト期間で、アムネジアはヴィノスの口調に文句を呈さなくなった。言っても無駄だと思ったのだろう。その荒々しい口調に顔を顰めたり、ため息をつくことはあれど、前のように注意してくることは無かった。
「アリア様、少々お時間よろしいかしら?ここがよく分からないんですのよ。」
「どこかしら。」
四人が集まっているのは放課後誰も使っていない教室だ。ここなら邪魔も入らず、余程のことがなければヴィノスの無礼な口調も聞かれることが少ないのだ。
けれども、乱入者は必ずいる。
「はぁ……はぁっ……っ!?」
バァン!!と強い音を立てて開かれた扉に、四人の視線が集中する。そこに居たのはやけに息を切らしたリリーだった。まるで何かに急き立てられるように、教室内にいるアリアたちを見てまたも走り出そうとするその背中に、思わずアリアが声をかける。
「リリー様、どうされましたの?」
「あ、りあ…様…!その、私…ごめんなさい!」
「ヴィノス、捕まえてきて。」
「えぇー…了解。」
その表情にどこか見覚えのあったアリアが、どうしてもリリーを見過ごすことを許せず、ヴィノスに指示を出せば、渋々、というような声を上げたが、すぐさま走り出す。
息も切れきったリリーの足と、ヴィノスでは比べるまでもなくすぐにその細腕を掴んで、無理矢理とでも言える荒っぽさでヴィノスがリリーを教室に放り込む。
「これでいいかよ、お嬢。」
「上出来だわ。扉は閉めておいてちょうだい。」
「はいはい。」
リリーが開け放った扉を閉めれば、すぐに誰かが教室の前を走り去っていく。一人は焦ったような大きな足音を立てて、そしてその後を追うように、静かな足音もひとつ。
「大丈夫ですか、リリー様。」
「あ、アリア様…その、ありがとう、ございます…」
「どうぞ呼吸をお整えくださいまし。そんな状態では、お話し合いもできませんわ。」
アリアがヴィノスによって投げ出されたリリーの前にしゃがみこむ。アムネジアはリリーが入ってきてることに不機嫌を隠さないし、ユーリはどうすればいいのかわからないという表情をしている。
アリアがとった行動だ。けれど、アリア以外全員が、一体どうしてこんな行動をとったのか理解していなかった。
「あの、もう大丈夫です…」
「そう。なら聞くけれど、真正な学び舎を一体どうしてそんな顔をして走り回っていたのかしら。」
息を整え、席につき直したリリーにアリアが問う。けれどその回答にリリーは言いづらそうに俯くだけで、何も答えなかった。
「…そう、じゃあこれだけは教えて欲しいわ。私のとった行動は、余計なお世話だったかしら?」
「い、いえ!本当に、助かりました!その…追われて、困っていまして…体力もギリギリだったので…」
おずおずと答えるリリーに、アリアは安心したように息を吐いた。正直なところ、教室の扉を開けた時のリリーは、まるでこれから殺されるとでも言わんばかりの恐怖に染まっていた。
そんな表情をされてしまえば、アリアは助ける以外の選択肢がなかった。アリアは過去の自分と、よりにもよってリリーを重ねてしまったのだ。
「追われて、ってなんでフローレス、様がおわれることになんだよ。」
「え、えっと……」
「あぁ、さすがに俺は知らねぇのか。ユーリ・デイモンド。最低クラスの人間だよ。」
「エドのクラスの。リリー・フローレスです…」
話に入ってきたのはユーリだった。アムネジアはリリーとの会話を拒否するかのようにそっぽを向いているし、ヴィノスは見張りも兼ねてか扉の前から動かない。
ユーリ自身も、さすがにリリーの口から飛び出した言葉に口を挟まずにはいられなかっただけだった。
「いえ、その…私が悪いんです。その、お誘いを断りきれなくて…」
「断りきれなくてって、断ろうとはしたんだろ?でも追いかけてきたのかよ。ヤベー奴じゃん。」
「それは、逃げ出した私も悪いというか…」
どうにも煮え切らないリリーの話に、次第にアムネジアがイライラしてきたのか、うずうずと落ち着きなく体を揺らす。心做しか視線も鋭くなっていく。けれどそれにアリアが気づいた時には、アムネジアはもう既に爆発していた。
「あぁもう!うじうじしていてみてられませんわ!もっとはっきり話したらどうですの!?嫌な話なのであれば話題を変えるなりなんなりしてくださいまし!説明する気があるのかないのか、はっきりしない態度は私嫌いですわ!」
「ひゃいぃ!ごめんなさい!話すので怒らないでください!!」
アムネジアの剣幕に、まるで怯えた子犬のような悲鳴をあげたリリーにさすがに哀れみの視線をユーリが向けた。
「どうよお嬢。」
「あの後に勉強していたのかしら?流石ね、偉いわ。」
わなわなと身体を震わせ、悔しそうに自分の渡した問題集の採点を終えたアムネジア。結果は前回とは一目瞭然。大きく変化した訳では無いユーリと違い、ヴィノスは中間テストになんら問題のない点数をたたき出したのだ。
悔しそうにするアムネジアを無視し、胸を張りどうだとヴィノスが聞く先はアリア。前日に自分の使っていた教材を押し付けられ、それを利用して夜通し勉強したのだ。
「てことではい。」
「え?……なにこれ、ヴィノス。」
「お嬢が昔使ってた教材。俺はもう必要ねーからお前にやる。許可はとった。」
厄介払いとでもいうように押し付けられた大量の教材にユーリは顔を青くする。別にその本自体は十年以上前とはいえ上質なものだし、教材を貰えるのはユーリとしてありがたかったけれど、何より彼を恐怖に陥れたのは、これを持って帰る労力と、ヴィノスが無償で物を渡してきたことに対する恐怖だった。
「……お前、何を企んでるんだ!?」
「失礼なこと言うとその白髪全部抜くぞ。耄碌ジジイ。」
くだらない言い合いが続くが、最終的にユーリは諦めたのか、本を大人しく受け取り、それを開きながらバツの多い問題集の解き直しを始める。
「急にやる気を出して、一体どうされたんですの。」
「べっつにー。どっかのお嬢がいい点取れなきゃ減給とか言い出すから。」
「あら、さすがのアリア様も貴方の成績は目に余ったのかしら。これを機に真面目に勉強したらどうですの?」
「やだね。真面目とか、俺に似合わねぇ。」
このテスト期間で、アムネジアはヴィノスの口調に文句を呈さなくなった。言っても無駄だと思ったのだろう。その荒々しい口調に顔を顰めたり、ため息をつくことはあれど、前のように注意してくることは無かった。
「アリア様、少々お時間よろしいかしら?ここがよく分からないんですのよ。」
「どこかしら。」
四人が集まっているのは放課後誰も使っていない教室だ。ここなら邪魔も入らず、余程のことがなければヴィノスの無礼な口調も聞かれることが少ないのだ。
けれども、乱入者は必ずいる。
「はぁ……はぁっ……っ!?」
バァン!!と強い音を立てて開かれた扉に、四人の視線が集中する。そこに居たのはやけに息を切らしたリリーだった。まるで何かに急き立てられるように、教室内にいるアリアたちを見てまたも走り出そうとするその背中に、思わずアリアが声をかける。
「リリー様、どうされましたの?」
「あ、りあ…様…!その、私…ごめんなさい!」
「ヴィノス、捕まえてきて。」
「えぇー…了解。」
その表情にどこか見覚えのあったアリアが、どうしてもリリーを見過ごすことを許せず、ヴィノスに指示を出せば、渋々、というような声を上げたが、すぐさま走り出す。
息も切れきったリリーの足と、ヴィノスでは比べるまでもなくすぐにその細腕を掴んで、無理矢理とでも言える荒っぽさでヴィノスがリリーを教室に放り込む。
「これでいいかよ、お嬢。」
「上出来だわ。扉は閉めておいてちょうだい。」
「はいはい。」
リリーが開け放った扉を閉めれば、すぐに誰かが教室の前を走り去っていく。一人は焦ったような大きな足音を立てて、そしてその後を追うように、静かな足音もひとつ。
「大丈夫ですか、リリー様。」
「あ、アリア様…その、ありがとう、ございます…」
「どうぞ呼吸をお整えくださいまし。そんな状態では、お話し合いもできませんわ。」
アリアがヴィノスによって投げ出されたリリーの前にしゃがみこむ。アムネジアはリリーが入ってきてることに不機嫌を隠さないし、ユーリはどうすればいいのかわからないという表情をしている。
アリアがとった行動だ。けれど、アリア以外全員が、一体どうしてこんな行動をとったのか理解していなかった。
「あの、もう大丈夫です…」
「そう。なら聞くけれど、真正な学び舎を一体どうしてそんな顔をして走り回っていたのかしら。」
息を整え、席につき直したリリーにアリアが問う。けれどその回答にリリーは言いづらそうに俯くだけで、何も答えなかった。
「…そう、じゃあこれだけは教えて欲しいわ。私のとった行動は、余計なお世話だったかしら?」
「い、いえ!本当に、助かりました!その…追われて、困っていまして…体力もギリギリだったので…」
おずおずと答えるリリーに、アリアは安心したように息を吐いた。正直なところ、教室の扉を開けた時のリリーは、まるでこれから殺されるとでも言わんばかりの恐怖に染まっていた。
そんな表情をされてしまえば、アリアは助ける以外の選択肢がなかった。アリアは過去の自分と、よりにもよってリリーを重ねてしまったのだ。
「追われて、ってなんでフローレス、様がおわれることになんだよ。」
「え、えっと……」
「あぁ、さすがに俺は知らねぇのか。ユーリ・デイモンド。最低クラスの人間だよ。」
「エドのクラスの。リリー・フローレスです…」
話に入ってきたのはユーリだった。アムネジアはリリーとの会話を拒否するかのようにそっぽを向いているし、ヴィノスは見張りも兼ねてか扉の前から動かない。
ユーリ自身も、さすがにリリーの口から飛び出した言葉に口を挟まずにはいられなかっただけだった。
「いえ、その…私が悪いんです。その、お誘いを断りきれなくて…」
「断りきれなくてって、断ろうとはしたんだろ?でも追いかけてきたのかよ。ヤベー奴じゃん。」
「それは、逃げ出した私も悪いというか…」
どうにも煮え切らないリリーの話に、次第にアムネジアがイライラしてきたのか、うずうずと落ち着きなく体を揺らす。心做しか視線も鋭くなっていく。けれどそれにアリアが気づいた時には、アムネジアはもう既に爆発していた。
「あぁもう!うじうじしていてみてられませんわ!もっとはっきり話したらどうですの!?嫌な話なのであれば話題を変えるなりなんなりしてくださいまし!説明する気があるのかないのか、はっきりしない態度は私嫌いですわ!」
「ひゃいぃ!ごめんなさい!話すので怒らないでください!!」
アムネジアの剣幕に、まるで怯えた子犬のような悲鳴をあげたリリーにさすがに哀れみの視線をユーリが向けた。
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