今度は絶対死なないように

溯蓮

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45話

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「なぁ若白髪しらが~」

白髪はくはつだっつの。なんだよ金の亡者。」

「お前俺に変な手紙送った?金貨入りの。」

「手紙返さねぇくせに何言ってんの?てめぇに渡す金貨はねぇよ。俺のお小遣いは月50銀貨だ。」

 安っ。とヴィノスが呟くものだから、ユーリはその頭を容赦なく叩いた。そもそも貴族なのに月小遣いなのが不満なのに、金額さえもヴィノスにバカにされることがユーリの癪に触ったのだ。

「お前はいいよな!お嬢様から随分いい報酬貰ってんだろ!」

「そりゃ、お前の100倍は軽く超えるな。」

「まじ腹立つ!」

 憎たらしい嫌味な笑みにもう一発殴ってやろうと思ったが、ふと疑問に思いその手をおもむろに下ろす。はて、今目の前のこの男に、自分以外に一体誰が手紙を出すのだろうか。

「何、お前金貨入りの手紙届いたの?俺も欲しいからどうせなら紹介しろよ。」

「紹介も何も宛先書かれてなかったんだよ。俺も一体相手がどういうつもりで送ってきたのかしんねーし。」

 お前じゃないなら尚更心当たりはねぇな。と言うヴィノスに、やっとユーリの表情が少しだけ歪む。明らかに怪しいそれにさすがのユーリも気味悪がったのだ。

「宛先不明とかキモくね。」

「さらにきめーこと教えてやるよ。それ、郵便局を通してねぇ。」

「キモイキモイキモイ。部屋に来てんじゃん、え、面白可哀想だな。」

「お前が俺の相談に乗るつもりがねぇことは理解した。」

 今度はヴィノスがおもむろに拳を握り振り上げる。それを言い訳するようにユーリが下ろさせるが、ヴィノスの言う通り、ユーリはそんな面白いこと、首を突っ込まずに傍観したいとしか思っていなかった。

「だって面白そうじゃん。何、その手紙内容はなんだったんだよ。」

「お嬢をフローレスと王太子に近づけんな。相応しいのはフローレスだ。だったかな。」

「とんでもねぇ事言ってんじゃねーかそいつ。……あ?でもなんでそれがよりにもよってお前に届くんだよ。」

 確かにヴィノスがアリア・クラレンスの従者であることは有名だ。ヴィノスの胸にはアリアを象徴するブローチすら着いている。けれど、アリアの従者にそんな手紙を送ったって、従者が主に逆らうようなことをするわけが無いというのは、きっと庶民でも知ってる事だ。

「しらね。金貨だけありがたく頂戴して、手紙は捨てたし。」

「っはぁ!?馬鹿かよ!筆跡鑑定だのなんだのに回せよ!脅迫とか、不敬だとか、不法侵入あたりで捕まえられるだろ。」

「相手が誰かもしんねーし、多分無理。てか俺がめんどい。お嬢にも言ってないしな。」

 ヴィノスの言葉に、ユーリは呆れるように肩を落とすことしか出来ない。普通、そんな手紙が届いたのならアリアには報告すべきだ。アリアとリリーがなにか関わる度にアリアの悪い噂が広まっていることと言い、何者かがアリアに不利な情報を流しているのは間違いがないのだから。

「そもそも目的がわかんねーよ。お嬢と王太子別れさせたら何か貴族に得あんの?」

「そりゃあ、色々あるんじゃね?公爵の噂にも左右されるだろうし、王太子が庶民と結婚したってなったら、王太子の座すら危ういだろ。」

 この場合、アリアと王太子を別れさせて得をするのは約三タイプ。一つ目がクラレンスになにか腹に一物抱えてるもの。アリアが傷物になり、その上王太子妃から外れたとなれば名前に相応の傷がつくだろう。

 二つ目は反第一王子派閥。第一王子として王位継承権第一位にいる王太子に対して不満があり、虎視眈々とその座を狙っているものたち。

 そして最後にその両方。

「といっても、そんなヤツら山ほどいる。なんなら、アリアを陥れて、次はフローレスを陥れて、自分の娘をって考えてるやつの可能性もあるか?」

「……俺そんな下んねーことに巻き込まれてんの?部屋入られるまでして?」

「だからさっきから言ってんじゃん。面白可哀想だなって。」

「やっぱおまえ1発殴っていい?」

「やめろ、冗談抜きで俺が倒れるぞ。」

 いくら庶民と変わらないような生活をして、荒くれ者たちが入り浸るような酒場の常連をしていたとはいえ、貧民街出身のヴィノスにはどうしたって適わない。

 この間ヴィノスをバカにした貴族に、さりげなく足をひっかけ転ばせた挙句、事故に見せ掛けその貴族の私物を破壊。最後に金目のものを懐から掏児ったのを見た時は思わず拍手を送ってしまった。

「ヴィノスのその手癖の悪さ、お嬢様には怒られねーの?」

「お嬢が気づくわけねーじゃん。温室育ちのお嬢は誰を転ばせても偶然だと感じて、何を壊しても事故だと思い、何を盗っても気づかない。」

「それは……貴族云々抜きにして鈍くね?」

「お嬢ポンコツな上にチョロいしな。」

 本人に聞かれれば減給待ったナシの発言でも、ヴィノスは関係なしに言う。元来そういう性格で、その上長い間付き添ったせいもあって、どうアリアを言いくるめればそれがあやふやになるのかも理解してるのだ。

「ま、とりあえずはその犯人でも探すのに協力すればいいのか?」

「いや?まだ一回目だからねよくわかんねーしまだ様子見。若白髪に話したのは確認がてらだしな。まだ来るようだったら手伝ってくんね?」

「おう、任せろ……ってだから若白髪じゃねぇっつの!」

 信用されているのかバカにされているのか、全くもって分からないけれど、本人がそこまで言うのなら手伝ってやるのも悪くない。ただやはり、今までユーリはヴィノスにこのように頼られたことなど一度もなかった。そのことに、ヴィノスが日に日に金以外に目を向けてくるようになっているような気がしてならなかったのだ。
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