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43話
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「騎士様!これ!これ買って!!」
「わかった。わかったから耳元で騒ぐなよ…」
ヴィノスに相変わらず抱き上げられたルカと名乗る少女は、あれが欲しいこれが欲しいとヴィノスの耳や腕を引っ張って教えてくる。
「お姫様!一緒に食べよ!」
そして買ってもらったものを限ってアリアと分けるのだ。アリアのことを気に入ったのか、少女はずっと嬉しそうにアリアに向けてひとくちどーぞ、と買わせたものを差し出す。
「あの、自分で食べていいんですのよ…?」
「いーの!ルカがお姫様と食べたいの!」
ニコニコふわふわと笑う少女に、アリアはどう反応を返せばいいのかわからなくなる。仕方なく、川辺の花火が綺麗な位置を陣取り、そこに座る。道中少女の母を探してはいたが、この人混みだからか見つかる気配はなかった。
「お前、母親のことはいいのかよ。」
「まま迷子になっちゃったねー。」
「最初は泣きそうだったのに、今じゃお嬢様に夢中ですね。」
のほほんとする少女にミーシャが呆れた表情すら浮かべ始めた頃、やっと花火大会の開始の一発が上がった。
「わぁぁ……!」
花火に感動する声は、アリアが挙げたものか少女が挙げたものか、一体どっちだったのだろうか。気づけば次々と上がる炎の花畑に、アリアもミーシャも、そしてヴィノスでさえも夢中になっていた。
「きれい!綺麗だねお姫様!」
「……えぇ、そうですわね。」
きゃらきゃらと楽しそうに笑う少女に、アリアは頷く。始めてきた祭りがここまで楽しいものだったことを、アリアは知らなかった。夜空に浮かぶ花に夢中になっていれば、負けじと周りの屋台が、花火と一緒にこれはどうだあれはどうだと声を張り上げる。
「ルカ!ルカ、どこにいるの!」
「ルカちゃーん!居ないの?!」
「ままの声だ!」
空に夢中になるアリアたちの意識を引き戻したのは、腕の中にいる少女が反応した時だった。身を乗り出すようにヴィノスの肩に手を着いて顔を出せば、少女はママー!!と声を上げる。
「ルカ!どこに行ってたの!?心配したでしょう!」
「お姫様と一緒にいたの!」
「お姫様…?」
人混みから姿を現したのは髪を一つにまとめた、平凡な女性。けれど顔には汗が滲んでいて、息も上がっている。きっと、花火に目もくれずに娘を探し続けていたのだろう。少女の言葉にいくらか冷静になったのか、少女を抱えるヴィノス、ひいてはそのそばに居るアリアとミーシャに目を向ける。
「娘をみていてくれてありがとうございました。ご迷惑をお掛けして本当に申し訳ございません。」
「いえ、構いませんわ。私達も楽しませてもらったので…」
「お姫様に色々教えてあげたの!」
ヴィノスが地面に少女を下ろすとたとたとと母親の元へ走っていく。すると、母親の方も誰かに協力仰いでいたのか、見つかったんですか?という声と共に、見慣れた顔が現れた。
「……リリー様。」
「アリア様!どうしてまだここに!?」
そこに居たのは間違いなくリリーで、けれどそばにヴィルヘルムの姿は見えずアリアは思わず首を傾げた。
「あら、まだここにお嬢様が居ちゃ悪かったんですか?」
「え!?あ、いや……そういう意味ではなく…」
けれど、それを問いかけるよりも早く、不機嫌になったミーシャがリリーにそう問いかけた。あの時、ヴィルヘルムと一緒にいた事をミーシャはしっかりと覚えているのだ。
「花火を、見ていたんですの…」
「そうなんですね!ここの花火大会、毎年凄いんですよ!すごく綺麗で…」
「リリー、子供は見つかったのかい?」
ぴしり、とリリーの表情が固まった。油がささっていない歯車のようにぎこちなく振り返れば、そこにいるのはやはりヴィルヘルムだった。
なんとも間の悪い登場に、リリーはさすがに顔色が悪くなってしまう。一緒に探していたから戻ってきただけなのだろうか。どうやらこの人混みのためか、未だヴィルヘルムはアリアたちに気づいてないようだった。
「は、はい!今見つかりました!ルカちゃん!お母さんと一緒にあっちで花火見よ?」
「えー、ルカお姫様たちとみたい!」
「だ、ダメだよ!……ほ、ほら、もうすぐお姫様は魔法が解けちゃうから、帰らなきゃ行けないの。」
「え!そうなの!?」
だったらリリーがすることはもう決まっていた。ヴィルヘルムがアリアたちに気づく前に、この場から立ち去って、嫌味を言う前にことを終わらせるべきなのだ。
ちらりと後ろを振り向けば、アリアはうんざりした表情でヴィルヘルムから隠れるように後ろに下がっていたし、ヴィノスも面倒くさそうな表情をしていた。
そんな三人を自身のからだで隠すようにヴィルヘルムの視線を遮り、少女には納得してもらうような嘘を並べる。
「ならお姫様にお礼だけでも…ダメ?」
「…直ぐに戻ってきてね。」
ヴィルヘルムはちょうど少女の母親と話していた。だからこそそのすきを突いてリリーはアリアの元へ少女を連れていった。
「お姫様、今日はままを探してくれてありがとう。」
「構いませんわ。けれど、もうはぐれちゃダメですわよ?」
「うん!騎士様とメイドさんもじゃあね!」
「おー。」
元気よく手を振る少女を抱えて、リリーもついでに3人に向かって頭を下げる。アリアはリリーがヴィルヘルムに気づかれないようにしてくれていることに気づき、その会釈に同じように会釈を返す。
「ねーねー、お姉ちゃん。」
「ん?なぁに?」
「あの人って王子様?」
あの人、と指を刺されるのはヴィルヘルム。そうだよ、とリリーが頷けば、少女は心底不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの?」
「んー?ねぇ、なんでお姫様と王子様、一緒にいないの?」
「……え?」
「絵本では、魔法が解ける前にお姫様は王子様と一緒に踊るんだよ。」
純粋な少女の質問に、リリーはなんと答えるべきか分からずに、戸惑ったように俯いた。
「わかった。わかったから耳元で騒ぐなよ…」
ヴィノスに相変わらず抱き上げられたルカと名乗る少女は、あれが欲しいこれが欲しいとヴィノスの耳や腕を引っ張って教えてくる。
「お姫様!一緒に食べよ!」
そして買ってもらったものを限ってアリアと分けるのだ。アリアのことを気に入ったのか、少女はずっと嬉しそうにアリアに向けてひとくちどーぞ、と買わせたものを差し出す。
「あの、自分で食べていいんですのよ…?」
「いーの!ルカがお姫様と食べたいの!」
ニコニコふわふわと笑う少女に、アリアはどう反応を返せばいいのかわからなくなる。仕方なく、川辺の花火が綺麗な位置を陣取り、そこに座る。道中少女の母を探してはいたが、この人混みだからか見つかる気配はなかった。
「お前、母親のことはいいのかよ。」
「まま迷子になっちゃったねー。」
「最初は泣きそうだったのに、今じゃお嬢様に夢中ですね。」
のほほんとする少女にミーシャが呆れた表情すら浮かべ始めた頃、やっと花火大会の開始の一発が上がった。
「わぁぁ……!」
花火に感動する声は、アリアが挙げたものか少女が挙げたものか、一体どっちだったのだろうか。気づけば次々と上がる炎の花畑に、アリアもミーシャも、そしてヴィノスでさえも夢中になっていた。
「きれい!綺麗だねお姫様!」
「……えぇ、そうですわね。」
きゃらきゃらと楽しそうに笑う少女に、アリアは頷く。始めてきた祭りがここまで楽しいものだったことを、アリアは知らなかった。夜空に浮かぶ花に夢中になっていれば、負けじと周りの屋台が、花火と一緒にこれはどうだあれはどうだと声を張り上げる。
「ルカ!ルカ、どこにいるの!」
「ルカちゃーん!居ないの?!」
「ままの声だ!」
空に夢中になるアリアたちの意識を引き戻したのは、腕の中にいる少女が反応した時だった。身を乗り出すようにヴィノスの肩に手を着いて顔を出せば、少女はママー!!と声を上げる。
「ルカ!どこに行ってたの!?心配したでしょう!」
「お姫様と一緒にいたの!」
「お姫様…?」
人混みから姿を現したのは髪を一つにまとめた、平凡な女性。けれど顔には汗が滲んでいて、息も上がっている。きっと、花火に目もくれずに娘を探し続けていたのだろう。少女の言葉にいくらか冷静になったのか、少女を抱えるヴィノス、ひいてはそのそばに居るアリアとミーシャに目を向ける。
「娘をみていてくれてありがとうございました。ご迷惑をお掛けして本当に申し訳ございません。」
「いえ、構いませんわ。私達も楽しませてもらったので…」
「お姫様に色々教えてあげたの!」
ヴィノスが地面に少女を下ろすとたとたとと母親の元へ走っていく。すると、母親の方も誰かに協力仰いでいたのか、見つかったんですか?という声と共に、見慣れた顔が現れた。
「……リリー様。」
「アリア様!どうしてまだここに!?」
そこに居たのは間違いなくリリーで、けれどそばにヴィルヘルムの姿は見えずアリアは思わず首を傾げた。
「あら、まだここにお嬢様が居ちゃ悪かったんですか?」
「え!?あ、いや……そういう意味ではなく…」
けれど、それを問いかけるよりも早く、不機嫌になったミーシャがリリーにそう問いかけた。あの時、ヴィルヘルムと一緒にいた事をミーシャはしっかりと覚えているのだ。
「花火を、見ていたんですの…」
「そうなんですね!ここの花火大会、毎年凄いんですよ!すごく綺麗で…」
「リリー、子供は見つかったのかい?」
ぴしり、とリリーの表情が固まった。油がささっていない歯車のようにぎこちなく振り返れば、そこにいるのはやはりヴィルヘルムだった。
なんとも間の悪い登場に、リリーはさすがに顔色が悪くなってしまう。一緒に探していたから戻ってきただけなのだろうか。どうやらこの人混みのためか、未だヴィルヘルムはアリアたちに気づいてないようだった。
「は、はい!今見つかりました!ルカちゃん!お母さんと一緒にあっちで花火見よ?」
「えー、ルカお姫様たちとみたい!」
「だ、ダメだよ!……ほ、ほら、もうすぐお姫様は魔法が解けちゃうから、帰らなきゃ行けないの。」
「え!そうなの!?」
だったらリリーがすることはもう決まっていた。ヴィルヘルムがアリアたちに気づく前に、この場から立ち去って、嫌味を言う前にことを終わらせるべきなのだ。
ちらりと後ろを振り向けば、アリアはうんざりした表情でヴィルヘルムから隠れるように後ろに下がっていたし、ヴィノスも面倒くさそうな表情をしていた。
そんな三人を自身のからだで隠すようにヴィルヘルムの視線を遮り、少女には納得してもらうような嘘を並べる。
「ならお姫様にお礼だけでも…ダメ?」
「…直ぐに戻ってきてね。」
ヴィルヘルムはちょうど少女の母親と話していた。だからこそそのすきを突いてリリーはアリアの元へ少女を連れていった。
「お姫様、今日はままを探してくれてありがとう。」
「構いませんわ。けれど、もうはぐれちゃダメですわよ?」
「うん!騎士様とメイドさんもじゃあね!」
「おー。」
元気よく手を振る少女を抱えて、リリーもついでに3人に向かって頭を下げる。アリアはリリーがヴィルヘルムに気づかれないようにしてくれていることに気づき、その会釈に同じように会釈を返す。
「ねーねー、お姉ちゃん。」
「ん?なぁに?」
「あの人って王子様?」
あの人、と指を刺されるのはヴィルヘルム。そうだよ、とリリーが頷けば、少女は心底不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの?」
「んー?ねぇ、なんでお姫様と王子様、一緒にいないの?」
「……え?」
「絵本では、魔法が解ける前にお姫様は王子様と一緒に踊るんだよ。」
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