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42話
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「お嬢、急に機嫌よくなったな。」
「そう?別にそんなことないけど。」
「暫定婚約者に会ったからもっとへこんだり死にそうな顔すると思ってた。」
「暫定はやめなさい。」
随分と失礼な物言いをするヴィノスを咎めるが、けれど暫定という言葉がなかなかに的を射ているためか、アリアは気まずそうに視線を逸らす。回答を求めるようなヴィノスの視線に耐え切れなくなったアリアは深くため息をはいて目線を戻した。
「別に、殊更機嫌がいいわけじゃないわ。でも、そうね…しいて言うなら、ミーシャが私の代わりに鬱憤を晴らしてくれたからかしら。」
「ひぇ!?その…申し訳ありません…」
「どうして謝るのよ。別に怒ってないわ、むしろ感謝してるの。」
くすくすと笑うアリア。その笑顔に見惚れるミーシャを差し置いて、ヴィノスはさらに身を乗り出す。どういうことだ、そもそも自分がいなかったときにミーシャと何があったのか。随分と興味津々に問い詰めてくる。
「べ、別に何もしてないわよ!ただ、ちょっと…屋台に行っただけよ。」
「…あぁ、それでそのぬいぐるみ…にしてはなんかボロボロだな。」
「この子は犠牲になったのです。」
ボロボロになったぬいぐるみを見て憐みの目線を送るヴィノス。髪飾りと首飾りはすでにミーシャのポケットにしまわれている。失礼ながらも、その宝石のついたアクセサリーはメアの手によってその姿を変えるだろう。
「ミーシャがあんな風になってるの初めて見たわ。」
「お嬢様にあんなお姿を見せてしまうなんて…」
「かっこよかったわよ。」
「~~っ!お嬢様!」
屋台が並んだ縁日では至る所で客を呼ぶ声や、楽しそうに話す声が聞こえてくる。夢中になってみて回って居ればすぐに空は青色から茜色に、そしてすぐに暗い夜となっていく。空には満天の星空が浮かんでいるのだろうが、縁日の明かりがそれをかき消す。
「この後は花火大会があるそうですよ。」
「…そうだったしら。」
花火大会。そんなイベントは社交界にはないようなものだった。貴族の令嬢と話すときに市井のイベントごとなど話さず、話すのはもっぽらドレスのことに自分の自慢話くらいだった。見に行きますか、と問いかけるミーシャに対して少し考えるアリア。するとぽすん、と柔らかい音を出して足元に何かが当たった。
「あら?」
「…ふぇ…まま?」
下を見れば地面に座り込んだ小さな女の子。女の子は涙目になりながらも、座り込んだ状態で女の子はアリアのスカートを握っていて、そこから飛び出た衝撃的な言葉にアリアは一瞬その思考を停止する。けれど、何も言わないアリアに不安を覚えたのか、その大きな瞳にウルウルと涙をためていく姿に、すぐアリアがしゃがみ込む。
「も、申し訳ありませんわ。私はあなたのお母様ではないの…」
「まま?ママじゃないなら、おねぇさん、だれ?」
「えっと…わたしは…」
「お姫様ですよ。」
アリアが返答に困っていると隣にすとんとミーシャが座り込んでそういった。その返答に目を剥いていれば、少女が目を輝かせ、その表情のままにお姫様!?と叫ぶ。
「そ。そんなものじゃなくて…」
「お姫様!?お姫様初めて見た!」
かわいい!すごい!と叫びながらアリアの周りをくるくると回る女の子。それを律義に目で追って、挙句の果てに目を回りかけているタイミングで、ヴィノスが慣れた手つきでその女の子を抱き上げた。
「きゃあ!」
「ほらお転婆娘。こんなところで走り回ったらけがすっぞ。」
「わぁ…!」
「迷子か?」
腕に座らせる形で抱き上げたヴィノスがあたりに親らしき影を探すがまったくもってそのような姿は見えなかった。ヴィノスが抱き上げたことによってアリアとミーシャも立ち上がり周りを見るけれど、見えるのはただただ人混みだけだった。
けれど自分の置かれている立場を忘れているのか女の子は自分を抱き上げているヴィノスとアリアを見比べている。
「お姫様!」
「…うぇ?」
「あのね!お姫様!ルカね、花火見に来たの!」
「花火?」
「きれいなんだよ!そこの川のところで上がるの!!お姫様も見に来たの?」
ヴィノスの耳元で叫ぶような状態で少女が話しかけているせいで、ヴィノスは嫌そうに顔を遠ざけている。少女はアリアに夢中なのか、上から下へとアリアのことを見ては話しかけている。
「……そうね、見に来たのかもしれないわ。」
「じゃあ貴方はお姫様の騎士様なの?」
「あぁ?」
ぽかんと間抜けな表情をするヴィノス。けれどすぐに、自分が騎士に例えられたことが相当面白かったのか豪快に笑いだす。
「俺が騎士様?そう見えんのかよ。」
「だってお姫様のそばにいるのは王子様か騎士様でしょ?あなたは黒髪だから騎士様なの!お姫様を守ってくれるんだ!」
「おぉ、そうかよ。」
機嫌がいいのかヴィノスは器用に手に持っていたりんご飴を少女に食べさせる。すると口にモノをいれられたからか、黙々とりんご飴を食べ始める。その間にヴィノスはアリアとミーシャに話しかける。
「この迷子どうするよ。」
「花火を見に来ているなら会場を歩けば見つかるかもしれないわ。」
「ならそうすっか。お嬢もそれでいいな?」
二対の従者の目が向けられ、問題ないというようにアリアは頷いた。そのままヴィノスが少女を抱き上げたまま、会場であろう川沿いに三人は歩は進めた。
「そう?別にそんなことないけど。」
「暫定婚約者に会ったからもっとへこんだり死にそうな顔すると思ってた。」
「暫定はやめなさい。」
随分と失礼な物言いをするヴィノスを咎めるが、けれど暫定という言葉がなかなかに的を射ているためか、アリアは気まずそうに視線を逸らす。回答を求めるようなヴィノスの視線に耐え切れなくなったアリアは深くため息をはいて目線を戻した。
「別に、殊更機嫌がいいわけじゃないわ。でも、そうね…しいて言うなら、ミーシャが私の代わりに鬱憤を晴らしてくれたからかしら。」
「ひぇ!?その…申し訳ありません…」
「どうして謝るのよ。別に怒ってないわ、むしろ感謝してるの。」
くすくすと笑うアリア。その笑顔に見惚れるミーシャを差し置いて、ヴィノスはさらに身を乗り出す。どういうことだ、そもそも自分がいなかったときにミーシャと何があったのか。随分と興味津々に問い詰めてくる。
「べ、別に何もしてないわよ!ただ、ちょっと…屋台に行っただけよ。」
「…あぁ、それでそのぬいぐるみ…にしてはなんかボロボロだな。」
「この子は犠牲になったのです。」
ボロボロになったぬいぐるみを見て憐みの目線を送るヴィノス。髪飾りと首飾りはすでにミーシャのポケットにしまわれている。失礼ながらも、その宝石のついたアクセサリーはメアの手によってその姿を変えるだろう。
「ミーシャがあんな風になってるの初めて見たわ。」
「お嬢様にあんなお姿を見せてしまうなんて…」
「かっこよかったわよ。」
「~~っ!お嬢様!」
屋台が並んだ縁日では至る所で客を呼ぶ声や、楽しそうに話す声が聞こえてくる。夢中になってみて回って居ればすぐに空は青色から茜色に、そしてすぐに暗い夜となっていく。空には満天の星空が浮かんでいるのだろうが、縁日の明かりがそれをかき消す。
「この後は花火大会があるそうですよ。」
「…そうだったしら。」
花火大会。そんなイベントは社交界にはないようなものだった。貴族の令嬢と話すときに市井のイベントごとなど話さず、話すのはもっぽらドレスのことに自分の自慢話くらいだった。見に行きますか、と問いかけるミーシャに対して少し考えるアリア。するとぽすん、と柔らかい音を出して足元に何かが当たった。
「あら?」
「…ふぇ…まま?」
下を見れば地面に座り込んだ小さな女の子。女の子は涙目になりながらも、座り込んだ状態で女の子はアリアのスカートを握っていて、そこから飛び出た衝撃的な言葉にアリアは一瞬その思考を停止する。けれど、何も言わないアリアに不安を覚えたのか、その大きな瞳にウルウルと涙をためていく姿に、すぐアリアがしゃがみ込む。
「も、申し訳ありませんわ。私はあなたのお母様ではないの…」
「まま?ママじゃないなら、おねぇさん、だれ?」
「えっと…わたしは…」
「お姫様ですよ。」
アリアが返答に困っていると隣にすとんとミーシャが座り込んでそういった。その返答に目を剥いていれば、少女が目を輝かせ、その表情のままにお姫様!?と叫ぶ。
「そ。そんなものじゃなくて…」
「お姫様!?お姫様初めて見た!」
かわいい!すごい!と叫びながらアリアの周りをくるくると回る女の子。それを律義に目で追って、挙句の果てに目を回りかけているタイミングで、ヴィノスが慣れた手つきでその女の子を抱き上げた。
「きゃあ!」
「ほらお転婆娘。こんなところで走り回ったらけがすっぞ。」
「わぁ…!」
「迷子か?」
腕に座らせる形で抱き上げたヴィノスがあたりに親らしき影を探すがまったくもってそのような姿は見えなかった。ヴィノスが抱き上げたことによってアリアとミーシャも立ち上がり周りを見るけれど、見えるのはただただ人混みだけだった。
けれど自分の置かれている立場を忘れているのか女の子は自分を抱き上げているヴィノスとアリアを見比べている。
「お姫様!」
「…うぇ?」
「あのね!お姫様!ルカね、花火見に来たの!」
「花火?」
「きれいなんだよ!そこの川のところで上がるの!!お姫様も見に来たの?」
ヴィノスの耳元で叫ぶような状態で少女が話しかけているせいで、ヴィノスは嫌そうに顔を遠ざけている。少女はアリアに夢中なのか、上から下へとアリアのことを見ては話しかけている。
「……そうね、見に来たのかもしれないわ。」
「じゃあ貴方はお姫様の騎士様なの?」
「あぁ?」
ぽかんと間抜けな表情をするヴィノス。けれどすぐに、自分が騎士に例えられたことが相当面白かったのか豪快に笑いだす。
「俺が騎士様?そう見えんのかよ。」
「だってお姫様のそばにいるのは王子様か騎士様でしょ?あなたは黒髪だから騎士様なの!お姫様を守ってくれるんだ!」
「おぉ、そうかよ。」
機嫌がいいのかヴィノスは器用に手に持っていたりんご飴を少女に食べさせる。すると口にモノをいれられたからか、黙々とりんご飴を食べ始める。その間にヴィノスはアリアとミーシャに話しかける。
「この迷子どうするよ。」
「花火を見に来ているなら会場を歩けば見つかるかもしれないわ。」
「ならそうすっか。お嬢もそれでいいな?」
二対の従者の目が向けられ、問題ないというようにアリアは頷いた。そのままヴィノスが少女を抱き上げたまま、会場であろう川沿いに三人は歩は進めた。
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