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39話
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青空の下、街の民たちが長い時間と労力をかけて用意した屋台と、賑やかな音楽が昨日以上の街の賑わいを見せている。
「……人が結構多いのね。」
「お嬢~はぐれんなよ~。」
「これはこっちのセリフなのだけど……」
「ヴィノス!お嬢様からあまり離れないの!」
幸運なことに学校は休み。アリアはミーシャを連れて、結局ヴィノスの言う通りに街に来てしまっていた。収穫祭とはいえ、街では数少ない祭りの一つ。広場は人でごった返しており、気をつけて歩かないと人に簡単にぶつかってしまう。
「……あまり祭りは得意ではないのよね。」
「お嬢様、ご気分がすぐれないのならすぐにでも……」
服は控えめのものにしたし、お忍びだとしても公爵令嬢とはバレなさそうなものを選んでやってきた祭り。けれどアリアは過去、お忍びで街におりたとき基本的にろくなことにあった試しがなかった。
「お嬢!これ食いたい!」
「あら、素敵ね。自分で買ったらどう?」
「え!お嬢買ってくれないのかよ……」
祭りに来て幾分かはしゃいでいるのか、ヴィノスはあっちへ行ってこっちへ行ってを繰り返して、気になるものがあればすぐさまそれを指さした。けれどそのどれもを自分で買うのではなくアリアに買わせてくる。守銭奴の権化だとは思っていたが、ここまで来るとアリアも疲れてくる。
「当然よ。給料は随分と溜まったのでしょ?」
「……まぁそうだな。」
ヴィノスは金を集めるのは好きだが、別にこれといって使いたいものがある訳ではなかった。ヴィノスに趣味はないし、将来のために金を取っておこうと言うような性格でもない。
それなら祭りに来てそれを楽しむくらいならばいいかと、ヴィノスはポケットから金貨を銀貨に変えていっぱいになった皮袋を取り出す。
「親父ー、それ何?」
「お、兄ちゃんこれに目をつけるとはセンスがいい。これはりんご飴つって、りんごに飴をつけたんだ。」
「へぇ、こっちは?」
「こっちは同じく飴を溶かしてそれを細くして固めたやつだな。どっちもうめーぞ?」
ふぅん、と生返事を返したヴィノスが両方を買う。甘いものは価値あるもの。根付いたヴィノスの価値観がそう判断して銀貨1枚と引き換えにそれを2本ずつ手に入れた。りんご飴に被りつけば、パリパリっとした飴とりんごの果汁が口に広がり、もう一つに口をつければそれは雲のように口の中で消え去ってしまった。
「!?おい親父、飴が消えたぞ。」
「ハッハッハ!そりゃ口の中で溶けたんだよ。兄ちゃん初めて食ったんか?」
「すげぇな、甘さだけ残った。」
「湿気で萎れちまうから、とっとと食ったほうが身のためだぞ。」
店の親父の忠告を聞き流して、ヴィノスはやっとアリアの方へと戻る。その最中にも、カステラを丸めて焼いたものや、バナナにチョコレートをつけたものなど、甘味を中心に買い漁っていく。
「……貴方、それ食べ切れるの?」
「多分平気ー。あ、そだこれやるよ。」
「むふっ!?」
「あ、こら!」
もふっと口元に押し付けられたのは先ほどヴィノスが買ったわたあめだった。急にみしらぬ綿を押し付けられたような感覚になったアリアは目を丸くする。それを見てすぐさまミーシャはヴィノスに噛み付いた。
「ちょっと!あなたが1番祭りを楽しんじゃってるじゃない!」
「きたいって言い出したの俺なんだから当たり前だろ。それに、毒は入っちゃねーよ。」
どちらが主従なのか分からなくなるような発言をしているヴィノスを無視して、アリアは一口わたあめを口に含む。すると噎せ返りそうなほどの甘い味が広がり、一瞬自分が砂糖の塊を食べたのでは無いのかと疑う。
「ヴィノス、これは何?」
「なんか、溶かして冷やして固めたらしいぞ?」
「これでこんなにふわふわになるものなの?」
「しらね、なるんじゃね?」
ヴィノスの適当な返事にアリアはため息を着く。彼の適当な返事は今に始まったことでは無いのだ。けれど、アリアだって甘いものは好きだ。砂糖を固めたようなこの不思議な雲のようなお菓子をアリアは気に入った。
そしてそこからどんどんと周りの屋台へと意識が移っていく。収穫祭らしく、収穫したのであろうフルーツなども売っているし、食事になりそうなものも沢山売っている。
「ミーシャ、あれを2本買ってきてくれる?」
「畏まりました。」
ふと目に付いたのは昨日ヴィノスが食べていた串焼き肉だった。ミーシャはすぐさま屋台の前に言って、作ってもらった串焼き肉を2本手に持ってこちらに向かってきた。
「お嬢様、どうぞ。」
「ありがとう。そしてどうぞ、ミーシャ。」
「へっ!?私も頂いていいのですか?」
「えぇ、かってきてくれたのも、無茶に付き合ってくれたのも全部あなたのおかげだからね。」
ミーシャはヴィノスと違って過剰なチップを取らない。ミーシャはミーシャの働いているものに見合ったものを区別して受け取っていく。
「あなたと一緒に食べたいの。」
「……お嬢様がそういうことなら。」
カプリ、と2人してその串焼肉に噛み付く。けれどやはり食べづらいのか、二人して上手く食べられず、口の周りが汚れてしまう。
「あ、お嬢様汚れが……」
「大丈夫よこれくらい、けど、これは綺麗に食べれないわね。」
美味しい美味しいと食べている時のこと、どこからか聞き覚えのある声がアリアの耳に届いた。
「つくづく目障りだと思っていたが、まさかこんなところにまで出しゃばってくるとはな。アリア。」
アリアが声のする方に振り返れば、思わず目を見開き固まった。そこにたっていたのはヴィルヘルムだったのだ。ご丁寧に、横には顔を青ざめさせたリリーを置いて。
「……人が結構多いのね。」
「お嬢~はぐれんなよ~。」
「これはこっちのセリフなのだけど……」
「ヴィノス!お嬢様からあまり離れないの!」
幸運なことに学校は休み。アリアはミーシャを連れて、結局ヴィノスの言う通りに街に来てしまっていた。収穫祭とはいえ、街では数少ない祭りの一つ。広場は人でごった返しており、気をつけて歩かないと人に簡単にぶつかってしまう。
「……あまり祭りは得意ではないのよね。」
「お嬢様、ご気分がすぐれないのならすぐにでも……」
服は控えめのものにしたし、お忍びだとしても公爵令嬢とはバレなさそうなものを選んでやってきた祭り。けれどアリアは過去、お忍びで街におりたとき基本的にろくなことにあった試しがなかった。
「お嬢!これ食いたい!」
「あら、素敵ね。自分で買ったらどう?」
「え!お嬢買ってくれないのかよ……」
祭りに来て幾分かはしゃいでいるのか、ヴィノスはあっちへ行ってこっちへ行ってを繰り返して、気になるものがあればすぐさまそれを指さした。けれどそのどれもを自分で買うのではなくアリアに買わせてくる。守銭奴の権化だとは思っていたが、ここまで来るとアリアも疲れてくる。
「当然よ。給料は随分と溜まったのでしょ?」
「……まぁそうだな。」
ヴィノスは金を集めるのは好きだが、別にこれといって使いたいものがある訳ではなかった。ヴィノスに趣味はないし、将来のために金を取っておこうと言うような性格でもない。
それなら祭りに来てそれを楽しむくらいならばいいかと、ヴィノスはポケットから金貨を銀貨に変えていっぱいになった皮袋を取り出す。
「親父ー、それ何?」
「お、兄ちゃんこれに目をつけるとはセンスがいい。これはりんご飴つって、りんごに飴をつけたんだ。」
「へぇ、こっちは?」
「こっちは同じく飴を溶かしてそれを細くして固めたやつだな。どっちもうめーぞ?」
ふぅん、と生返事を返したヴィノスが両方を買う。甘いものは価値あるもの。根付いたヴィノスの価値観がそう判断して銀貨1枚と引き換えにそれを2本ずつ手に入れた。りんご飴に被りつけば、パリパリっとした飴とりんごの果汁が口に広がり、もう一つに口をつければそれは雲のように口の中で消え去ってしまった。
「!?おい親父、飴が消えたぞ。」
「ハッハッハ!そりゃ口の中で溶けたんだよ。兄ちゃん初めて食ったんか?」
「すげぇな、甘さだけ残った。」
「湿気で萎れちまうから、とっとと食ったほうが身のためだぞ。」
店の親父の忠告を聞き流して、ヴィノスはやっとアリアの方へと戻る。その最中にも、カステラを丸めて焼いたものや、バナナにチョコレートをつけたものなど、甘味を中心に買い漁っていく。
「……貴方、それ食べ切れるの?」
「多分平気ー。あ、そだこれやるよ。」
「むふっ!?」
「あ、こら!」
もふっと口元に押し付けられたのは先ほどヴィノスが買ったわたあめだった。急にみしらぬ綿を押し付けられたような感覚になったアリアは目を丸くする。それを見てすぐさまミーシャはヴィノスに噛み付いた。
「ちょっと!あなたが1番祭りを楽しんじゃってるじゃない!」
「きたいって言い出したの俺なんだから当たり前だろ。それに、毒は入っちゃねーよ。」
どちらが主従なのか分からなくなるような発言をしているヴィノスを無視して、アリアは一口わたあめを口に含む。すると噎せ返りそうなほどの甘い味が広がり、一瞬自分が砂糖の塊を食べたのでは無いのかと疑う。
「ヴィノス、これは何?」
「なんか、溶かして冷やして固めたらしいぞ?」
「これでこんなにふわふわになるものなの?」
「しらね、なるんじゃね?」
ヴィノスの適当な返事にアリアはため息を着く。彼の適当な返事は今に始まったことでは無いのだ。けれど、アリアだって甘いものは好きだ。砂糖を固めたようなこの不思議な雲のようなお菓子をアリアは気に入った。
そしてそこからどんどんと周りの屋台へと意識が移っていく。収穫祭らしく、収穫したのであろうフルーツなども売っているし、食事になりそうなものも沢山売っている。
「ミーシャ、あれを2本買ってきてくれる?」
「畏まりました。」
ふと目に付いたのは昨日ヴィノスが食べていた串焼き肉だった。ミーシャはすぐさま屋台の前に言って、作ってもらった串焼き肉を2本手に持ってこちらに向かってきた。
「お嬢様、どうぞ。」
「ありがとう。そしてどうぞ、ミーシャ。」
「へっ!?私も頂いていいのですか?」
「えぇ、かってきてくれたのも、無茶に付き合ってくれたのも全部あなたのおかげだからね。」
ミーシャはヴィノスと違って過剰なチップを取らない。ミーシャはミーシャの働いているものに見合ったものを区別して受け取っていく。
「あなたと一緒に食べたいの。」
「……お嬢様がそういうことなら。」
カプリ、と2人してその串焼肉に噛み付く。けれどやはり食べづらいのか、二人して上手く食べられず、口の周りが汚れてしまう。
「あ、お嬢様汚れが……」
「大丈夫よこれくらい、けど、これは綺麗に食べれないわね。」
美味しい美味しいと食べている時のこと、どこからか聞き覚えのある声がアリアの耳に届いた。
「つくづく目障りだと思っていたが、まさかこんなところにまで出しゃばってくるとはな。アリア。」
アリアが声のする方に振り返れば、思わず目を見開き固まった。そこにたっていたのはヴィルヘルムだったのだ。ご丁寧に、横には顔を青ざめさせたリリーを置いて。
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