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32話
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アリアがエドの名前をどこから聞いたのかを思い出したのは、その日学校から帰ってきてすぐの事だった。出迎えにきたミーシャをみて、アリアはあぁ!と声を上げる。
「お嬢?どしたの。」
「思い出したわ。ミーシャ、たしかあなたのところの商会の傘下にスミスという工房があったわね。」
「え?…確かにございますが、それがどうかされましたか?」
キョトンと首を傾げる姿のミーシャ。その言葉を聞いて数泊遅れて、ヴィノスもあー。と呑気な声を上げた。
「あれ?……いや待てよ、お嬢あいつとあったことあんの?」
「今日偶然会ったのよ。確かあなたのクラスメイトだったわよね。」
「うぇ、まじ?あいつがお嬢のクラスに何しに……って、フローレスか。」
自分の中で合点がいったのか、苦々しい顔したまま顔を背ける。一体何がそんなにヴィノスを不機嫌にさせるのか分からないままアリアは首を傾げた。
「そういえば、あなたの言うこと間違ってないのかもしれないわ。」
「ん?なんの事だよ。」
「殿下とリリー様の関係よ。おおよそ間違っていないと、私も思ったわ。……食べるのは許すけれど、クッキーをこぼさないでちょうだい。」
いつも通り、帰ってからミーシャの茶を飲んで休憩をとるアリアの横に並びたち、そのさらに乗るクッキーに手を伸ばすヴィノス。その端なさを咎められれば、ヴィノスは今度は大口を開けて、丸呑みするかのように一口でクッキーを口に詰める。
「おひょーからみへも、やっぱそう思う~?」
「口にものを入れて喋らないで。」
「……今日のお嬢口うるせー。」
拗ねたようにつぶやくヴィノスに頭を抱えるアリア。どうやら自分はだいぶ彼のことを甘やかしすぎてしまったらしい。今回、アムネジアとの食事の際に言われたことで、周りに余計な事を言わせないようにするために、少しマナーに厳しくしようにも、随分と甘やかされたヴィノスは、アリアを舐めきっているのか言うことを聞かない。
「あのね、あなたのその行動が、周りの貴族から見たら異様なのよ。余計な事を言われてお父様に話が行くのも嫌でしょう?」
「知らねー。お嬢が解雇しない限り、俺を解雇する権限は誰にもねぇし。」
「お父様に命令されれば、さすがの私も逆らえないわよ。」
そこまで言えば、渋々、というようにクッキーに手を伸ばすのをやめるヴィノス。けれど名残惜しそうにクッキーを睨みつけられれば、アリアは仕方なしにとハンカチを取り出してそれにクッキーを包む。
「え、いいのお嬢。」
「自室で食べるのなら別に私は何も構わないわ。」
「ふーん。サンキュ。」
がさり、とポケットに乱雑に突っ込まれていくクッキー。あまり宜しくない行動ではあるけれど、これ以上はアリアの私的空間だし問題ないとする。
「それよりも殿下だわ。あんな視線を毎日向けられていたら射殺されてしまうわ。」
「射殺すよりも先に実力行使だろ。あの王太子、なんか最近はお嬢が何も言わないせいか行動が大胆になってるらしいぜ。」
ヴィノスはことある事にヴィルヘルムとリリーの行動を事細かに話してくるユーリがほぼ常にそばにいる。そこから意識に残った話を数個アリアに教えれば、アリアはひと口ミーシャの紅茶を口に含みため息をついた。
「そこまで目撃者がいれば、さすがに国王陛下のお耳にも届きそうなものね。」
「いやー、それがおかしい話があってよぉ。」
「何かしら?」
「ユーリの話じゃ、最近王太子とフローレスの恋物語と同じくらいの声の大きさである噂が流れているらしいぜ。」
先程までのからかうような視線を潜め、ヴィノスは嫌に真剣な表情を作りながらアリアにその内容を伝える。
「アリア・クラレンスが、リリー・フローレスに嫉妬をし、嫌がらせをしている。最近じゃ、ノートをダメにするどころじゃとどまらず、制服を破いたそうだ。」
「そ、そんなことしていないわ!!」
「んなことわーってるって。でも、お嬢の休みの理由が風邪じゃなくてフローレスのいじめのための準備、なんて不穏な話も出てる。」
アリアの顔がどんどんと血の気を失っていく。もはや倒れてしまいそうな程に白くなって、流石のヴィノスもやばいと思ったのか、紅茶を飲ませて落ち着かせる。
「ユーリの聞いた話だ。デマなのは分かってっけど、下層クラスじゃ、もうざらな話のネタだ。」
「そんなこと…そもそも制服を破くってどういうこと!?」
「最近リリー・フローレスが制服のスカート部分を破いたそうだぜ。こればっかは真相は本人に聞かなきゃ無理だな。」
今日のリリーの姿を思い出してみるが、彼女の制服は別にどこも敗れていなかった。けれど確かに言われてみれば、新品同様に綺麗になっていたと言われれば、そう思うほどに綺麗な制服だったように感じる。
「前も言ったけど、本格的に悪意を持って噂を広めてる奴がいそうだな。」
「殿下だけでも大変なのに、一体なんのためにそんなことをしようとしてるのよ…」
「さぁ?お嬢って、思った以上に恨み買ってんじゃね?」
「……否定しきれないわ。」
苦い顔でそうつぶやくアリア。その頭の中は、明日リリーにどうやって話しかけるか、その時のヴィルヘルムの対応をどうすればいいのかでいっぱいいっぱいだった。
それと同時に、ミーシャに実家からの手紙が一通届いた。
「……えぇ。」
嫌そうに表情をゆがめ、その手紙を自室の机の上に置き去りにして、ミーシャは愛おしい主の元へと向かう。
「お嬢?どしたの。」
「思い出したわ。ミーシャ、たしかあなたのところの商会の傘下にスミスという工房があったわね。」
「え?…確かにございますが、それがどうかされましたか?」
キョトンと首を傾げる姿のミーシャ。その言葉を聞いて数泊遅れて、ヴィノスもあー。と呑気な声を上げた。
「あれ?……いや待てよ、お嬢あいつとあったことあんの?」
「今日偶然会ったのよ。確かあなたのクラスメイトだったわよね。」
「うぇ、まじ?あいつがお嬢のクラスに何しに……って、フローレスか。」
自分の中で合点がいったのか、苦々しい顔したまま顔を背ける。一体何がそんなにヴィノスを不機嫌にさせるのか分からないままアリアは首を傾げた。
「そういえば、あなたの言うこと間違ってないのかもしれないわ。」
「ん?なんの事だよ。」
「殿下とリリー様の関係よ。おおよそ間違っていないと、私も思ったわ。……食べるのは許すけれど、クッキーをこぼさないでちょうだい。」
いつも通り、帰ってからミーシャの茶を飲んで休憩をとるアリアの横に並びたち、そのさらに乗るクッキーに手を伸ばすヴィノス。その端なさを咎められれば、ヴィノスは今度は大口を開けて、丸呑みするかのように一口でクッキーを口に詰める。
「おひょーからみへも、やっぱそう思う~?」
「口にものを入れて喋らないで。」
「……今日のお嬢口うるせー。」
拗ねたようにつぶやくヴィノスに頭を抱えるアリア。どうやら自分はだいぶ彼のことを甘やかしすぎてしまったらしい。今回、アムネジアとの食事の際に言われたことで、周りに余計な事を言わせないようにするために、少しマナーに厳しくしようにも、随分と甘やかされたヴィノスは、アリアを舐めきっているのか言うことを聞かない。
「あのね、あなたのその行動が、周りの貴族から見たら異様なのよ。余計な事を言われてお父様に話が行くのも嫌でしょう?」
「知らねー。お嬢が解雇しない限り、俺を解雇する権限は誰にもねぇし。」
「お父様に命令されれば、さすがの私も逆らえないわよ。」
そこまで言えば、渋々、というようにクッキーに手を伸ばすのをやめるヴィノス。けれど名残惜しそうにクッキーを睨みつけられれば、アリアは仕方なしにとハンカチを取り出してそれにクッキーを包む。
「え、いいのお嬢。」
「自室で食べるのなら別に私は何も構わないわ。」
「ふーん。サンキュ。」
がさり、とポケットに乱雑に突っ込まれていくクッキー。あまり宜しくない行動ではあるけれど、これ以上はアリアの私的空間だし問題ないとする。
「それよりも殿下だわ。あんな視線を毎日向けられていたら射殺されてしまうわ。」
「射殺すよりも先に実力行使だろ。あの王太子、なんか最近はお嬢が何も言わないせいか行動が大胆になってるらしいぜ。」
ヴィノスはことある事にヴィルヘルムとリリーの行動を事細かに話してくるユーリがほぼ常にそばにいる。そこから意識に残った話を数個アリアに教えれば、アリアはひと口ミーシャの紅茶を口に含みため息をついた。
「そこまで目撃者がいれば、さすがに国王陛下のお耳にも届きそうなものね。」
「いやー、それがおかしい話があってよぉ。」
「何かしら?」
「ユーリの話じゃ、最近王太子とフローレスの恋物語と同じくらいの声の大きさである噂が流れているらしいぜ。」
先程までのからかうような視線を潜め、ヴィノスは嫌に真剣な表情を作りながらアリアにその内容を伝える。
「アリア・クラレンスが、リリー・フローレスに嫉妬をし、嫌がらせをしている。最近じゃ、ノートをダメにするどころじゃとどまらず、制服を破いたそうだ。」
「そ、そんなことしていないわ!!」
「んなことわーってるって。でも、お嬢の休みの理由が風邪じゃなくてフローレスのいじめのための準備、なんて不穏な話も出てる。」
アリアの顔がどんどんと血の気を失っていく。もはや倒れてしまいそうな程に白くなって、流石のヴィノスもやばいと思ったのか、紅茶を飲ませて落ち着かせる。
「ユーリの聞いた話だ。デマなのは分かってっけど、下層クラスじゃ、もうざらな話のネタだ。」
「そんなこと…そもそも制服を破くってどういうこと!?」
「最近リリー・フローレスが制服のスカート部分を破いたそうだぜ。こればっかは真相は本人に聞かなきゃ無理だな。」
今日のリリーの姿を思い出してみるが、彼女の制服は別にどこも敗れていなかった。けれど確かに言われてみれば、新品同様に綺麗になっていたと言われれば、そう思うほどに綺麗な制服だったように感じる。
「前も言ったけど、本格的に悪意を持って噂を広めてる奴がいそうだな。」
「殿下だけでも大変なのに、一体なんのためにそんなことをしようとしてるのよ…」
「さぁ?お嬢って、思った以上に恨み買ってんじゃね?」
「……否定しきれないわ。」
苦い顔でそうつぶやくアリア。その頭の中は、明日リリーにどうやって話しかけるか、その時のヴィルヘルムの対応をどうすればいいのかでいっぱいいっぱいだった。
それと同時に、ミーシャに実家からの手紙が一通届いた。
「……えぇ。」
嫌そうに表情をゆがめ、その手紙を自室の机の上に置き去りにして、ミーシャは愛おしい主の元へと向かう。
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