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18話
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「アリア様!あ、あの…その…」
アリアは今、目の前の状況に頭を抱えていた。実際は薄笑みを浮かべてただ次に紡がれる言葉を待っているだけだけど、けれども確実に頭痛を感じながら必死の思いで持ちこたえていた。
「えっと…えっと…」
目の前で頬を染めて、指先を絡ませたりつついたり、いじいじとアリアを見上げる姿は愛らしいとは思う。どういうつもりかそのきれいな茶色の前髪を撫でつけて、そして意を決したように息をすって、形にならない言葉を吐き出すその様子は、アリアの見たことのないリリーの姿だった。
「アリア様…その、この後に、な、何か…ご、御予定は…あり、ご、ございますか?」
「別に、特にこの後は邸宅に帰るのみですが…リリー様は私に何か御用でも?」
「ひぇっ…えっと…別に、その、大事では…ないというか、なんといいますかぁ…」
ないのならば帰してくれ。そう言いたかったが言えなかった。ちらりと教室の外を見れば、ヴィノスが何の表情も浮かべずにこっちを見ている。正直、そっちのほうも怖かった。彼の性格なら、アリアの状況を笑うか、それとも待たされていることにイライラしてそうなものなのに、無表情なのが怖い。
「その、べ、勉強を教えていただきたくて!」
「学年主席のリリー様に、私の力は及ばないかと…今回の小テストでも、私はリリー様に負けてしまいましたし。」
嫌味とも取れそうなそれにそう返せば、また捨て犬のような表情をするリリー。どうすればいいのかわからない。そもそも、なぜ唐突に勉強なのだ。リリーは最近までヴィルヘルムと勉強をしていたはずだ。なのにどうして急にアリアに話しかけてくるのか。
「そんなこと…あ!そうだ、えっと…貴族の礼儀とか…」
「リリー様、ここは神聖なる学び舎。同じものを学ぶ身として上も下も、ありませんわ。」
「アリア様…!」
なぜそんなにうれしそうな表情をする。アリアの言葉に目をきらめかせて、数歩アリアのほうに近寄ってくる。そこから逃げるようにアリアも後ずされば、やっとヴィノスが動いて教室の入り口からアリアの名前を呼んだ。
「お嬢~そろそろ帰ろうぜ。」
「え、えぇ…そろそろ向かおうと思っていたわ…」
「そろそろ、ねぇ。…ってことで、リリーだっけ?もうお嬢帰っていい?」
アリアとリリーの間に入るようにヴィノスが立って、リリーに問いかける。しかし、それに対して彼女は顔を険しくした。その表情をアリアはみたことがあった。自分がまだリリーをいじめているときに何度も見た、敵を見る目。
「…名前も知らない人に呼び捨てにされる筋合い、ないんですけど。」
「へぇ?それはそれは失礼いたしました。俺はヴィノス。お嬢の専属の従者だ。以後よろしく頼むぜ?首席様。」
「アリア様の?貴方が……?」
ヴィノスを上から下へと値踏みするように見るリリー。そしてゆっくりと視線を動かして、胸元のクラス章のところで止まる。その隣にアリアが渡した専属の証のブローチを見て表情を曇らせる。
「随分と、他の方々の従者の方と雰囲気が違うんですね……」
「うわうわうわっ!そんな貴族みてぇな歯に衣着せた言い方やめろよ。慣れてねぇだけあってクソ気持ちわりぃぞ。」
リリーの言葉にニヤニヤと笑みを浮かべたヴィノスが挑発する。その姿を見て思わずアリアはヴィノスを止めようと手を伸ばす。けれど、それを振り払ったヴィノスが言葉を続ける。
「食堂の時みたいに普通に話せよ。お前の尊敬するアリア様の前じゃ、被った猫は逃げ出せねぇの?」
「なっ!…あ、あれを見てたの?」
「あんな騒いでたらそりゃあな。」
顔を青くしたリリーがアリアに視線を向ける。しかし、食堂での一件を知らないアリアは小首を傾げるばかりだ。その様子にリリーはほんの少し息を吐き出した。
「ヴィノス、食堂の時って何かしら?」
「まぁまぁお嬢。今は黙っとけって。」
「~っ!さ、さっきから聞いてたら貴方!アリア様の従者にしてはアリア様に無礼じゃない!?」
ビシッと指をさして叫ぶリリー。しかしそれをヴィノスはうるせぇと一蹴する。その態度にも苛立つようにリリーはヴィノスを強く睨む。
「言葉遣いも、態度も、何から何まで忠誠心を欠片も感じられないわ!」
「だって忠誠心も何も、お嬢と俺は金を元にした利害関係の元繋がってるからな。」
「しんっじられない!!!」
アリアは目の前の状況に目を白黒させた。ヴィノスとリリーのやり取りを見て、二人はこんな性格をしていただろうかと思った。ヴィノスは学園では貴族が嫌いなのか、必要以上に口を開くところを見たことがなかった。リリーはいつも冷静で、声を荒らげることも無く、ただヴィルヘルムといる時だけは心癒されていると言わんばかりの表情を浮かべていた。
でも今はどうだ。ケラケラと笑ってリリーを挑発するヴィノスに、子供のように地団駄を踏むリリー。そんな光景を前回は見た事なかった。
「そもそも、アリア様の従者として最低クラスってどうなのよ!普通に同じクラス、または許せても1つ下よ!?両極端って、ありえない……!頑張る気は無いの!?」
「ねーな。金になんねぇことに興味はねぇ。」
「~~貴方、本当にアリア様に相応しくない!」
「お嬢が解雇しねぇ限りは相応しくなくとも俺が専属だ。」
ヴィノスは、アリアがリリーの誘いのような何かを断る手助けに出てきたはずだ。なのにいつの間にか、ヴィノスはリリーをおちょくるのを楽しんでリリーはそれに噛みつき続ける。だんだん震え始めてきてその姿はチワワのようだ。
早く返して…そうアリアが訴えようと思った時に、また新たな人間が教室の扉を叩きつけるように開けた。
「おいヴィノス!!お前補習受けずに帰りやがって!おかげで俺だけ怒ら、れた~、だろ……シツレイシマシタ。」
「おい待て老人詐欺メガネ。逃げてんじゃねぇ。」
「…っ離せ!てか、お前、なんで首席に喧嘩売ってんだよ!ご主人ほっといて何してんだよ。専属の仕事しろよ金の亡者。」
入ってきたのはユーリだった。アリアは学園では初めて見る白い髪と黒縁メガネ。しかし、男爵家の子息であるユーリのことは話したことがなくても顔と名前は覚えていた。
「ほっといてねぇし仕事もしてるわ。ただこの子犬が噛み付いてくるだけだ。」
「誰が子犬よ!だったらあんたは路地裏にいる薄汚い野良猫ね!」
「温室育ちよかマシだなぁ。」
とうとうお腹を抱えて笑いだしたヴィノスにリリーが顔を真っ赤にする。まだまだ終わりそうにない無意味な言い合いにとうとうアリアは隠すことも無く頭を抱えた。
「…あ、あの~…俺、止めてきましょうか?」
「お願い出来るかしら…」
「あーい、ヴィノスー!その無駄な喧嘩今すぐやめろー!」
前回と全く違う事態に、ユーリがことを収めるまでの間アリアは頭を抱え続けていた。
アリアは今、目の前の状況に頭を抱えていた。実際は薄笑みを浮かべてただ次に紡がれる言葉を待っているだけだけど、けれども確実に頭痛を感じながら必死の思いで持ちこたえていた。
「えっと…えっと…」
目の前で頬を染めて、指先を絡ませたりつついたり、いじいじとアリアを見上げる姿は愛らしいとは思う。どういうつもりかそのきれいな茶色の前髪を撫でつけて、そして意を決したように息をすって、形にならない言葉を吐き出すその様子は、アリアの見たことのないリリーの姿だった。
「アリア様…その、この後に、な、何か…ご、御予定は…あり、ご、ございますか?」
「別に、特にこの後は邸宅に帰るのみですが…リリー様は私に何か御用でも?」
「ひぇっ…えっと…別に、その、大事では…ないというか、なんといいますかぁ…」
ないのならば帰してくれ。そう言いたかったが言えなかった。ちらりと教室の外を見れば、ヴィノスが何の表情も浮かべずにこっちを見ている。正直、そっちのほうも怖かった。彼の性格なら、アリアの状況を笑うか、それとも待たされていることにイライラしてそうなものなのに、無表情なのが怖い。
「その、べ、勉強を教えていただきたくて!」
「学年主席のリリー様に、私の力は及ばないかと…今回の小テストでも、私はリリー様に負けてしまいましたし。」
嫌味とも取れそうなそれにそう返せば、また捨て犬のような表情をするリリー。どうすればいいのかわからない。そもそも、なぜ唐突に勉強なのだ。リリーは最近までヴィルヘルムと勉強をしていたはずだ。なのにどうして急にアリアに話しかけてくるのか。
「そんなこと…あ!そうだ、えっと…貴族の礼儀とか…」
「リリー様、ここは神聖なる学び舎。同じものを学ぶ身として上も下も、ありませんわ。」
「アリア様…!」
なぜそんなにうれしそうな表情をする。アリアの言葉に目をきらめかせて、数歩アリアのほうに近寄ってくる。そこから逃げるようにアリアも後ずされば、やっとヴィノスが動いて教室の入り口からアリアの名前を呼んだ。
「お嬢~そろそろ帰ろうぜ。」
「え、えぇ…そろそろ向かおうと思っていたわ…」
「そろそろ、ねぇ。…ってことで、リリーだっけ?もうお嬢帰っていい?」
アリアとリリーの間に入るようにヴィノスが立って、リリーに問いかける。しかし、それに対して彼女は顔を険しくした。その表情をアリアはみたことがあった。自分がまだリリーをいじめているときに何度も見た、敵を見る目。
「…名前も知らない人に呼び捨てにされる筋合い、ないんですけど。」
「へぇ?それはそれは失礼いたしました。俺はヴィノス。お嬢の専属の従者だ。以後よろしく頼むぜ?首席様。」
「アリア様の?貴方が……?」
ヴィノスを上から下へと値踏みするように見るリリー。そしてゆっくりと視線を動かして、胸元のクラス章のところで止まる。その隣にアリアが渡した専属の証のブローチを見て表情を曇らせる。
「随分と、他の方々の従者の方と雰囲気が違うんですね……」
「うわうわうわっ!そんな貴族みてぇな歯に衣着せた言い方やめろよ。慣れてねぇだけあってクソ気持ちわりぃぞ。」
リリーの言葉にニヤニヤと笑みを浮かべたヴィノスが挑発する。その姿を見て思わずアリアはヴィノスを止めようと手を伸ばす。けれど、それを振り払ったヴィノスが言葉を続ける。
「食堂の時みたいに普通に話せよ。お前の尊敬するアリア様の前じゃ、被った猫は逃げ出せねぇの?」
「なっ!…あ、あれを見てたの?」
「あんな騒いでたらそりゃあな。」
顔を青くしたリリーがアリアに視線を向ける。しかし、食堂での一件を知らないアリアは小首を傾げるばかりだ。その様子にリリーはほんの少し息を吐き出した。
「ヴィノス、食堂の時って何かしら?」
「まぁまぁお嬢。今は黙っとけって。」
「~っ!さ、さっきから聞いてたら貴方!アリア様の従者にしてはアリア様に無礼じゃない!?」
ビシッと指をさして叫ぶリリー。しかしそれをヴィノスはうるせぇと一蹴する。その態度にも苛立つようにリリーはヴィノスを強く睨む。
「言葉遣いも、態度も、何から何まで忠誠心を欠片も感じられないわ!」
「だって忠誠心も何も、お嬢と俺は金を元にした利害関係の元繋がってるからな。」
「しんっじられない!!!」
アリアは目の前の状況に目を白黒させた。ヴィノスとリリーのやり取りを見て、二人はこんな性格をしていただろうかと思った。ヴィノスは学園では貴族が嫌いなのか、必要以上に口を開くところを見たことがなかった。リリーはいつも冷静で、声を荒らげることも無く、ただヴィルヘルムといる時だけは心癒されていると言わんばかりの表情を浮かべていた。
でも今はどうだ。ケラケラと笑ってリリーを挑発するヴィノスに、子供のように地団駄を踏むリリー。そんな光景を前回は見た事なかった。
「そもそも、アリア様の従者として最低クラスってどうなのよ!普通に同じクラス、または許せても1つ下よ!?両極端って、ありえない……!頑張る気は無いの!?」
「ねーな。金になんねぇことに興味はねぇ。」
「~~貴方、本当にアリア様に相応しくない!」
「お嬢が解雇しねぇ限りは相応しくなくとも俺が専属だ。」
ヴィノスは、アリアがリリーの誘いのような何かを断る手助けに出てきたはずだ。なのにいつの間にか、ヴィノスはリリーをおちょくるのを楽しんでリリーはそれに噛みつき続ける。だんだん震え始めてきてその姿はチワワのようだ。
早く返して…そうアリアが訴えようと思った時に、また新たな人間が教室の扉を叩きつけるように開けた。
「おいヴィノス!!お前補習受けずに帰りやがって!おかげで俺だけ怒ら、れた~、だろ……シツレイシマシタ。」
「おい待て老人詐欺メガネ。逃げてんじゃねぇ。」
「…っ離せ!てか、お前、なんで首席に喧嘩売ってんだよ!ご主人ほっといて何してんだよ。専属の仕事しろよ金の亡者。」
入ってきたのはユーリだった。アリアは学園では初めて見る白い髪と黒縁メガネ。しかし、男爵家の子息であるユーリのことは話したことがなくても顔と名前は覚えていた。
「ほっといてねぇし仕事もしてるわ。ただこの子犬が噛み付いてくるだけだ。」
「誰が子犬よ!だったらあんたは路地裏にいる薄汚い野良猫ね!」
「温室育ちよかマシだなぁ。」
とうとうお腹を抱えて笑いだしたヴィノスにリリーが顔を真っ赤にする。まだまだ終わりそうにない無意味な言い合いにとうとうアリアは隠すことも無く頭を抱えた。
「…あ、あの~…俺、止めてきましょうか?」
「お願い出来るかしら…」
「あーい、ヴィノスー!その無駄な喧嘩今すぐやめろー!」
前回と全く違う事態に、ユーリがことを収めるまでの間アリアは頭を抱え続けていた。
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