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17話
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「お嬢~飯は終わった?」
「ヴィノス。あなたいったいどこに行っていたの?」
「別にどこでもいいじゃねぇか。悪いことはなんもしてねぇよ。それに、仕事はちゃんとしてるだろ?」
のらりくらりと、質問に答えるつもりのないヴィノスの様子を見てアリアはため息をつく。ヴィノスが戻ったころにはたしかにアリアの皿は空になっていて、二人の食事は終わったのだろう。どこか満足気な表情をしているアムネジアをみれば、その時の会話も満足いくものだったことがよくわかる。
「そういえば、そちらのほうが先ほどから何やら騒がしいけれど、どうかしたのでしょうか?」
「アムネジア様、私が見てまいりますか?」
「あぁ、いいよいいよ。多分もうすぐ、終わるから。な、お嬢?」
「……そうですね。ヴィノスがそういうならそうなのでしょう。アムネジア様も、どうかご安心くださいませ。」
ヴィノスからの何らかのアイコンタクトを受け取ったアリアがその場を収める。アリアは前回から学んでいた。こういった何か隠れて処理をしてきたヴィノスがする笑みを。けれど同時にはて、と首をかしげる。今回アリアは別に何もヴィノスに頼んでいなかったはずだ。仕事はちゃんとしている。もうすぐ終わる、その言葉から、何かしらアリアが与えた仕事を終わらせてきたように感じていたが、アリアは別に何もヴィノスに命令していないのだ。
「ヴィノス…あなた、何か余計なことしてきたんじゃないでしょうね。」
「してねーって。お嬢に迷惑がかかるようなことは何も、ね。むしろ感謝してほしいくらいだぜ?」
「ならばいったい何をしてきたのくらい言いなさい。感謝されるようなことならば言えるんでしょう?」
「やだね。いわないほうがおもしろい。」
アリアはそのヴィノスの回答に、答えろという視線を送る。けれどそんなもの知りもしないと目線を合わせずに騒がしかったほうを眺めているヴィノス。その様子はどこか満足気でもあった。アリアも同じようにそこに視線を送るが、そこにいるのは誰とも知れない生徒たちばかりで何もわからない。
「タイミングばっちりじゃん、老人。」
ケラケラと笑いながら、ヴィノスはそうつぶやく。ヴィノスの視線の先には間違いなく共犯者であるユーリがいる。しかしヴィノスの交友関係なんて知る由もないアリアからしてみれば、そこにユーリがいたとしてもそれは知らない生徒の中に埋もれてしまう。
「ほらお嬢行くぞ~。授業始まっちまう。」
「授業なんてまともに受けていないでしょ。あなた。」
「だって金になんねぇもん。なんであんなつまんねぇ話を金払ってでも聞きたいかね。」
貴族の考えはわかんねぇ、と続けるヴィノス。アリアはこの言葉を前回に散々聞いた。親もおらず野良犬のように拾われたヴィノスからしてみれば、貴族とは程遠い存在であり理解しがたいものでもある。
「貴方ね…何度も言ってるけれど他に人目があるときにそれを言うのをおやめなさい。」
「いらぬ反感を買うわよって?ダル~。」
「…私は、貴方の考えのほうが理解ができないわ。」
その言葉は、ふとした拍子に漏れ出たアリアの本心だった。ヴィノスの判断基準は面白いことか金。そう本人はよく言うけれど、少し違うようにアリアは前々から思っていたのだ。別に、アリアは前回リリーをいじめることに対して面白みなんて感じたことがなかった。いくらアリアに拾わる前から暴力や略奪などになじんでいたとしても、ヴィノスはアリアの命令以外でそれに走ることはなかったし、ヴィノスは基本的に金を与えていればおとなしいのだ。
ただやはり、同じように金を与えられればなんだってするヴィノスのことをアリアは理解できなかった。
「え、なんで。」
「だってあなた、お金を貰えれば人の命だって奪えそうなんだもの。」
「何お嬢殺したいやつでもいるの。」
アリアは自分の失言に気づいてその足を止めた。はじかれたように顔を上げてヴィノスの顔を見る。ヴィノスの質問はどこかアリアに対する質問のように聞こえなかった。確認というか、そんなような意味合いを含んでいるような気がして、ここでアリアがうなずきでもしてしまえばそのまま誰か知らない、ヴィノスの考える「アリアの殺したい人物」を殺しに行ってしまいそうで、それがどうしようもなく怖かった。
「べ、別にいないわよ。」
「ふーん。そ。でも心外だわ~一応言っとくけど俺まだ人は殺したことねぇから。」
「…それは知ってるわよ。クラレンスの諜報能力舐めないで。あなたの犯罪歴ぐらいしっかりと確認しているわ。」
「こっえ~」
ヴィノスの言葉に間違いはない。今回ではヴィノスは”まだ”誰も殺していない。アリアがヴィノスに命令したリリーの殺人未遂も起こしていないし、アリアの命だって奪っていない。再三アリアは心の中でつぶやく。前回ではヴィノスに命を奪われた、からこそアリアはヴィノスには殺されないように頑張るのだ。
「貴方が人を殺した時点で解雇するから。」
「え!退職金出る!?」
「出るわけないでしょ…」
アリアはいつも通りヴィノスと教室前で別れる。ぼんやりと感じる頭痛に頭を抱えながら教室で授業を受けたその先に、さらなる頭痛の要因が待っていることをアリアはまだ知らなかった。
「アリア様!!」
「ヴィノス。あなたいったいどこに行っていたの?」
「別にどこでもいいじゃねぇか。悪いことはなんもしてねぇよ。それに、仕事はちゃんとしてるだろ?」
のらりくらりと、質問に答えるつもりのないヴィノスの様子を見てアリアはため息をつく。ヴィノスが戻ったころにはたしかにアリアの皿は空になっていて、二人の食事は終わったのだろう。どこか満足気な表情をしているアムネジアをみれば、その時の会話も満足いくものだったことがよくわかる。
「そういえば、そちらのほうが先ほどから何やら騒がしいけれど、どうかしたのでしょうか?」
「アムネジア様、私が見てまいりますか?」
「あぁ、いいよいいよ。多分もうすぐ、終わるから。な、お嬢?」
「……そうですね。ヴィノスがそういうならそうなのでしょう。アムネジア様も、どうかご安心くださいませ。」
ヴィノスからの何らかのアイコンタクトを受け取ったアリアがその場を収める。アリアは前回から学んでいた。こういった何か隠れて処理をしてきたヴィノスがする笑みを。けれど同時にはて、と首をかしげる。今回アリアは別に何もヴィノスに頼んでいなかったはずだ。仕事はちゃんとしている。もうすぐ終わる、その言葉から、何かしらアリアが与えた仕事を終わらせてきたように感じていたが、アリアは別に何もヴィノスに命令していないのだ。
「ヴィノス…あなた、何か余計なことしてきたんじゃないでしょうね。」
「してねーって。お嬢に迷惑がかかるようなことは何も、ね。むしろ感謝してほしいくらいだぜ?」
「ならばいったい何をしてきたのくらい言いなさい。感謝されるようなことならば言えるんでしょう?」
「やだね。いわないほうがおもしろい。」
アリアはそのヴィノスの回答に、答えろという視線を送る。けれどそんなもの知りもしないと目線を合わせずに騒がしかったほうを眺めているヴィノス。その様子はどこか満足気でもあった。アリアも同じようにそこに視線を送るが、そこにいるのは誰とも知れない生徒たちばかりで何もわからない。
「タイミングばっちりじゃん、老人。」
ケラケラと笑いながら、ヴィノスはそうつぶやく。ヴィノスの視線の先には間違いなく共犯者であるユーリがいる。しかしヴィノスの交友関係なんて知る由もないアリアからしてみれば、そこにユーリがいたとしてもそれは知らない生徒の中に埋もれてしまう。
「ほらお嬢行くぞ~。授業始まっちまう。」
「授業なんてまともに受けていないでしょ。あなた。」
「だって金になんねぇもん。なんであんなつまんねぇ話を金払ってでも聞きたいかね。」
貴族の考えはわかんねぇ、と続けるヴィノス。アリアはこの言葉を前回に散々聞いた。親もおらず野良犬のように拾われたヴィノスからしてみれば、貴族とは程遠い存在であり理解しがたいものでもある。
「貴方ね…何度も言ってるけれど他に人目があるときにそれを言うのをおやめなさい。」
「いらぬ反感を買うわよって?ダル~。」
「…私は、貴方の考えのほうが理解ができないわ。」
その言葉は、ふとした拍子に漏れ出たアリアの本心だった。ヴィノスの判断基準は面白いことか金。そう本人はよく言うけれど、少し違うようにアリアは前々から思っていたのだ。別に、アリアは前回リリーをいじめることに対して面白みなんて感じたことがなかった。いくらアリアに拾わる前から暴力や略奪などになじんでいたとしても、ヴィノスはアリアの命令以外でそれに走ることはなかったし、ヴィノスは基本的に金を与えていればおとなしいのだ。
ただやはり、同じように金を与えられればなんだってするヴィノスのことをアリアは理解できなかった。
「え、なんで。」
「だってあなた、お金を貰えれば人の命だって奪えそうなんだもの。」
「何お嬢殺したいやつでもいるの。」
アリアは自分の失言に気づいてその足を止めた。はじかれたように顔を上げてヴィノスの顔を見る。ヴィノスの質問はどこかアリアに対する質問のように聞こえなかった。確認というか、そんなような意味合いを含んでいるような気がして、ここでアリアがうなずきでもしてしまえばそのまま誰か知らない、ヴィノスの考える「アリアの殺したい人物」を殺しに行ってしまいそうで、それがどうしようもなく怖かった。
「べ、別にいないわよ。」
「ふーん。そ。でも心外だわ~一応言っとくけど俺まだ人は殺したことねぇから。」
「…それは知ってるわよ。クラレンスの諜報能力舐めないで。あなたの犯罪歴ぐらいしっかりと確認しているわ。」
「こっえ~」
ヴィノスの言葉に間違いはない。今回ではヴィノスは”まだ”誰も殺していない。アリアがヴィノスに命令したリリーの殺人未遂も起こしていないし、アリアの命だって奪っていない。再三アリアは心の中でつぶやく。前回ではヴィノスに命を奪われた、からこそアリアはヴィノスには殺されないように頑張るのだ。
「貴方が人を殺した時点で解雇するから。」
「え!退職金出る!?」
「出るわけないでしょ…」
アリアはいつも通りヴィノスと教室前で別れる。ぼんやりと感じる頭痛に頭を抱えながら教室で授業を受けたその先に、さらなる頭痛の要因が待っていることをアリアはまだ知らなかった。
「アリア様!!」
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