18 / 70
17話
しおりを挟む
「お嬢~飯は終わった?」
「ヴィノス。あなたいったいどこに行っていたの?」
「別にどこでもいいじゃねぇか。悪いことはなんもしてねぇよ。それに、仕事はちゃんとしてるだろ?」
のらりくらりと、質問に答えるつもりのないヴィノスの様子を見てアリアはため息をつく。ヴィノスが戻ったころにはたしかにアリアの皿は空になっていて、二人の食事は終わったのだろう。どこか満足気な表情をしているアムネジアをみれば、その時の会話も満足いくものだったことがよくわかる。
「そういえば、そちらのほうが先ほどから何やら騒がしいけれど、どうかしたのでしょうか?」
「アムネジア様、私が見てまいりますか?」
「あぁ、いいよいいよ。多分もうすぐ、終わるから。な、お嬢?」
「……そうですね。ヴィノスがそういうならそうなのでしょう。アムネジア様も、どうかご安心くださいませ。」
ヴィノスからの何らかのアイコンタクトを受け取ったアリアがその場を収める。アリアは前回から学んでいた。こういった何か隠れて処理をしてきたヴィノスがする笑みを。けれど同時にはて、と首をかしげる。今回アリアは別に何もヴィノスに頼んでいなかったはずだ。仕事はちゃんとしている。もうすぐ終わる、その言葉から、何かしらアリアが与えた仕事を終わらせてきたように感じていたが、アリアは別に何もヴィノスに命令していないのだ。
「ヴィノス…あなた、何か余計なことしてきたんじゃないでしょうね。」
「してねーって。お嬢に迷惑がかかるようなことは何も、ね。むしろ感謝してほしいくらいだぜ?」
「ならばいったい何をしてきたのくらい言いなさい。感謝されるようなことならば言えるんでしょう?」
「やだね。いわないほうがおもしろい。」
アリアはそのヴィノスの回答に、答えろという視線を送る。けれどそんなもの知りもしないと目線を合わせずに騒がしかったほうを眺めているヴィノス。その様子はどこか満足気でもあった。アリアも同じようにそこに視線を送るが、そこにいるのは誰とも知れない生徒たちばかりで何もわからない。
「タイミングばっちりじゃん、老人。」
ケラケラと笑いながら、ヴィノスはそうつぶやく。ヴィノスの視線の先には間違いなく共犯者であるユーリがいる。しかしヴィノスの交友関係なんて知る由もないアリアからしてみれば、そこにユーリがいたとしてもそれは知らない生徒の中に埋もれてしまう。
「ほらお嬢行くぞ~。授業始まっちまう。」
「授業なんてまともに受けていないでしょ。あなた。」
「だって金になんねぇもん。なんであんなつまんねぇ話を金払ってでも聞きたいかね。」
貴族の考えはわかんねぇ、と続けるヴィノス。アリアはこの言葉を前回に散々聞いた。親もおらず野良犬のように拾われたヴィノスからしてみれば、貴族とは程遠い存在であり理解しがたいものでもある。
「貴方ね…何度も言ってるけれど他に人目があるときにそれを言うのをおやめなさい。」
「いらぬ反感を買うわよって?ダル~。」
「…私は、貴方の考えのほうが理解ができないわ。」
その言葉は、ふとした拍子に漏れ出たアリアの本心だった。ヴィノスの判断基準は面白いことか金。そう本人はよく言うけれど、少し違うようにアリアは前々から思っていたのだ。別に、アリアは前回リリーをいじめることに対して面白みなんて感じたことがなかった。いくらアリアに拾わる前から暴力や略奪などになじんでいたとしても、ヴィノスはアリアの命令以外でそれに走ることはなかったし、ヴィノスは基本的に金を与えていればおとなしいのだ。
ただやはり、同じように金を与えられればなんだってするヴィノスのことをアリアは理解できなかった。
「え、なんで。」
「だってあなた、お金を貰えれば人の命だって奪えそうなんだもの。」
「何お嬢殺したいやつでもいるの。」
アリアは自分の失言に気づいてその足を止めた。はじかれたように顔を上げてヴィノスの顔を見る。ヴィノスの質問はどこかアリアに対する質問のように聞こえなかった。確認というか、そんなような意味合いを含んでいるような気がして、ここでアリアがうなずきでもしてしまえばそのまま誰か知らない、ヴィノスの考える「アリアの殺したい人物」を殺しに行ってしまいそうで、それがどうしようもなく怖かった。
「べ、別にいないわよ。」
「ふーん。そ。でも心外だわ~一応言っとくけど俺まだ人は殺したことねぇから。」
「…それは知ってるわよ。クラレンスの諜報能力舐めないで。あなたの犯罪歴ぐらいしっかりと確認しているわ。」
「こっえ~」
ヴィノスの言葉に間違いはない。今回ではヴィノスは”まだ”誰も殺していない。アリアがヴィノスに命令したリリーの殺人未遂も起こしていないし、アリアの命だって奪っていない。再三アリアは心の中でつぶやく。前回ではヴィノスに命を奪われた、からこそアリアはヴィノスには殺されないように頑張るのだ。
「貴方が人を殺した時点で解雇するから。」
「え!退職金出る!?」
「出るわけないでしょ…」
アリアはいつも通りヴィノスと教室前で別れる。ぼんやりと感じる頭痛に頭を抱えながら教室で授業を受けたその先に、さらなる頭痛の要因が待っていることをアリアはまだ知らなかった。
「アリア様!!」
「ヴィノス。あなたいったいどこに行っていたの?」
「別にどこでもいいじゃねぇか。悪いことはなんもしてねぇよ。それに、仕事はちゃんとしてるだろ?」
のらりくらりと、質問に答えるつもりのないヴィノスの様子を見てアリアはため息をつく。ヴィノスが戻ったころにはたしかにアリアの皿は空になっていて、二人の食事は終わったのだろう。どこか満足気な表情をしているアムネジアをみれば、その時の会話も満足いくものだったことがよくわかる。
「そういえば、そちらのほうが先ほどから何やら騒がしいけれど、どうかしたのでしょうか?」
「アムネジア様、私が見てまいりますか?」
「あぁ、いいよいいよ。多分もうすぐ、終わるから。な、お嬢?」
「……そうですね。ヴィノスがそういうならそうなのでしょう。アムネジア様も、どうかご安心くださいませ。」
ヴィノスからの何らかのアイコンタクトを受け取ったアリアがその場を収める。アリアは前回から学んでいた。こういった何か隠れて処理をしてきたヴィノスがする笑みを。けれど同時にはて、と首をかしげる。今回アリアは別に何もヴィノスに頼んでいなかったはずだ。仕事はちゃんとしている。もうすぐ終わる、その言葉から、何かしらアリアが与えた仕事を終わらせてきたように感じていたが、アリアは別に何もヴィノスに命令していないのだ。
「ヴィノス…あなた、何か余計なことしてきたんじゃないでしょうね。」
「してねーって。お嬢に迷惑がかかるようなことは何も、ね。むしろ感謝してほしいくらいだぜ?」
「ならばいったい何をしてきたのくらい言いなさい。感謝されるようなことならば言えるんでしょう?」
「やだね。いわないほうがおもしろい。」
アリアはそのヴィノスの回答に、答えろという視線を送る。けれどそんなもの知りもしないと目線を合わせずに騒がしかったほうを眺めているヴィノス。その様子はどこか満足気でもあった。アリアも同じようにそこに視線を送るが、そこにいるのは誰とも知れない生徒たちばかりで何もわからない。
「タイミングばっちりじゃん、老人。」
ケラケラと笑いながら、ヴィノスはそうつぶやく。ヴィノスの視線の先には間違いなく共犯者であるユーリがいる。しかしヴィノスの交友関係なんて知る由もないアリアからしてみれば、そこにユーリがいたとしてもそれは知らない生徒の中に埋もれてしまう。
「ほらお嬢行くぞ~。授業始まっちまう。」
「授業なんてまともに受けていないでしょ。あなた。」
「だって金になんねぇもん。なんであんなつまんねぇ話を金払ってでも聞きたいかね。」
貴族の考えはわかんねぇ、と続けるヴィノス。アリアはこの言葉を前回に散々聞いた。親もおらず野良犬のように拾われたヴィノスからしてみれば、貴族とは程遠い存在であり理解しがたいものでもある。
「貴方ね…何度も言ってるけれど他に人目があるときにそれを言うのをおやめなさい。」
「いらぬ反感を買うわよって?ダル~。」
「…私は、貴方の考えのほうが理解ができないわ。」
その言葉は、ふとした拍子に漏れ出たアリアの本心だった。ヴィノスの判断基準は面白いことか金。そう本人はよく言うけれど、少し違うようにアリアは前々から思っていたのだ。別に、アリアは前回リリーをいじめることに対して面白みなんて感じたことがなかった。いくらアリアに拾わる前から暴力や略奪などになじんでいたとしても、ヴィノスはアリアの命令以外でそれに走ることはなかったし、ヴィノスは基本的に金を与えていればおとなしいのだ。
ただやはり、同じように金を与えられればなんだってするヴィノスのことをアリアは理解できなかった。
「え、なんで。」
「だってあなた、お金を貰えれば人の命だって奪えそうなんだもの。」
「何お嬢殺したいやつでもいるの。」
アリアは自分の失言に気づいてその足を止めた。はじかれたように顔を上げてヴィノスの顔を見る。ヴィノスの質問はどこかアリアに対する質問のように聞こえなかった。確認というか、そんなような意味合いを含んでいるような気がして、ここでアリアがうなずきでもしてしまえばそのまま誰か知らない、ヴィノスの考える「アリアの殺したい人物」を殺しに行ってしまいそうで、それがどうしようもなく怖かった。
「べ、別にいないわよ。」
「ふーん。そ。でも心外だわ~一応言っとくけど俺まだ人は殺したことねぇから。」
「…それは知ってるわよ。クラレンスの諜報能力舐めないで。あなたの犯罪歴ぐらいしっかりと確認しているわ。」
「こっえ~」
ヴィノスの言葉に間違いはない。今回ではヴィノスは”まだ”誰も殺していない。アリアがヴィノスに命令したリリーの殺人未遂も起こしていないし、アリアの命だって奪っていない。再三アリアは心の中でつぶやく。前回ではヴィノスに命を奪われた、からこそアリアはヴィノスには殺されないように頑張るのだ。
「貴方が人を殺した時点で解雇するから。」
「え!退職金出る!?」
「出るわけないでしょ…」
アリアはいつも通りヴィノスと教室前で別れる。ぼんやりと感じる頭痛に頭を抱えながら教室で授業を受けたその先に、さらなる頭痛の要因が待っていることをアリアはまだ知らなかった。
「アリア様!!」
0
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
想い合っている? そうですか、ではお幸せに
四季
恋愛
コルネリア・フレンツェはある日突然訪問者の女性から告げられた。
「実は、私のお腹には彼との子がいるんです」
婚約者の相応しくない振る舞いが判明し、嵐が訪れる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢はどうしてこうなったと唸る
黒木メイ
恋愛
私の婚約者は乙女ゲームの攻略対象でした。 ヒロインはどうやら、逆ハー狙いのよう。 でも、キースの初めての初恋と友情を邪魔する気もない。 キースが幸せになるならと思ってさっさと婚約破棄して退場したのに……どうしてこうなったのかしら。
※同様の内容をカクヨムやなろうでも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。
婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。
愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。
絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪女の私を愛さないと言ったのはあなたでしょう?今さら口説かれても困るので、さっさと離縁して頂けますか?
輝く魔法
恋愛
システィーナ・エヴァンスは王太子のキース・ジルベルトの婚約者として日々王妃教育に勤しみ努力していた。だがある日、妹のリリーナに嵌められ身に覚えの無い罪で婚約破棄を申し込まれる。だが、あまりにも無能な王太子のおかげで(?)冤罪は晴れ、正式に婚約も破棄される。そんな時隣国の皇太子、ユージン・ステライトから縁談が申し込まれる。もしかしたら彼に愛されるかもしれないー。そんな淡い期待を抱いて嫁いだが、ユージンもシスティーナの悪い噂を信じているようでー?
「今さら口説かれても困るんですけど…。」
後半はがっつり口説いてくる皇太子ですが結ばれません⭐︎でも一応恋愛要素はあります!ざまぁメインのラブコメって感じかなぁ。そういうのはちょっと…とか嫌だなって人はブラウザバックをお願いします(o^^o)更新も遅めかもなので続きが気になるって方は気長に待っててください。なお、これが初作品ですエヘヘ(о´∀`о)
優しい感想待ってます♪
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢の里帰り
椿森
恋愛
侯爵家の令嬢、テアニアはこの国の王子の婚約者だ。テアニアにとっては政略による婚約であり恋をしたり愛があったわけではないが、良好な関係を築けていると思っていた。しかし、それも学園に入るまで。
入学後は些細なすれ違いや勘違いがあるのも仕方がないと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。いつの間にか王子のそばには1人の女子生徒が侍っていて、王子と懇意な中だという噂も。その上、テアニアがその女子生徒を目の敵にして苛めているといった噂まで。
「私に他人を苛めている暇があるようにお思いで?」
頭にきたテアニアは、母の実家へと帰ることにした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。
木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。
「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」
シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。
妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。
でも、それなら側妃でいいのではありませんか?
どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる