今度は絶対死なないように

溯蓮

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16話

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「……はぁ、とりあえず、ここでこの話は終わりにしましょう。」

「そ、そうですわね。」

 頭痛を起こしそうなほどのことにアリアは一先ず話を逸らすことにした。目の前の食事に手を付け始めれば、ぎこちなくアムネジアも食事を開始する。するとしばらくするとアムネジアのほうから別の話題が提示される。話の内容はルトリック商会のことだった。

「この前、アリア様の紹介状を手に出向いてみたんですの!」

「アムネジア様自らですか?」

「えぇ、そうしたら、ドレス以外にも幅広く品をそろえていて、思わずいろいろと買い物してしまいましたのよ。」

「まぁ!」

 にぎやかになった二人の様子をみて、お付は安心したように息を吐きだす。ヴィノスは正直こういった手合いの話は得意ではない。アリアの言葉を守り、傍に控えてるのみのヴィノスからしてみれば、面白くもない話を聞いているつもりもなかった。

 ぼんやりと食堂内を見回せば、これまた面白そうなものが目に入ってきた。アリアに一言だけ告げて、ヴィノスは猫のようにそちらに歩を進めた。

「違うって言ってるでしょ!!」

「お、やってるやってる。」

 アリアたちが座る席からだいぶ離れた、端のほうの席には何やら人だかりができていて、それを割って最前まで向かえば、先ほどまでアリアたちの会話の主役でもあったリリーがいた。

「違うって…貴族なんてかばう必要ないだろうが!」

「だからかばってないって!間違いなく、あの時アリア様は私のことを助けてくれたわ!」

「だから、じゃあなんでお貴族様が庶民をかばうんだって聞いてんだよ!」

「そんなの私に聞かないでよ!私が聞きたいくらいだもの!でも、アリア様はきっと庶民にも優しい方なんだわ!!」

 しかし、その様子はアリアが教室で見るような周りを警戒しているような様子ではなく、もっと砕けた、いうなれば素に近いリリーだった。そしてリリーの正面。リリーと喧嘩をしている相手は、ヴィノスのクラスの生徒だった。リリーのように特待はとってはいないが、成績と実家が大きな商家の直属工房を営んでいるとかで入学してきた街の子供だ。

「こんのくそお花畑!!その賢い頭をもっと使えよ!明らかに裏があるんだろうが!!」

「じゃああんたこそあの場でアリア様が私を助けることに、何の裏があるっていうのよ!言ってみなさい!」

「……っぐぅ。」

「お、完璧なぐうの音じゃん。」

 ヴィノスはその喧嘩を眺めながら、完全に野次馬と化していた。ところどころでる、リリーのアリア賛美に大爆笑したくなるが、そこはさすがに我慢していた。おそらく、リリーとその相手は朝から噂として流れてきた話を理由に喧嘩でもしているのだろう。さながら、アリアに喧嘩を売るとはどういうことだ、というヴィノスのクラスメートと、誤解を解きたいリリーというところだろうか。

「あれ、ヴィノスじゃん。こんなところで何してんの。」

「あれ、ユーリじゃん。お前も野次馬になりに来たの?」

「当然、面白そうだしな。」

 ヴィノスと同じように人ごみをかき分けてやってきた男がヴィノスに声をかける。そこにいたのはクラスでよく話すようになったユーリ。男爵子息で、老人のような白髪と理知的な眼鏡をかけているが、ヴィノスと同じクラスだから、成績は別にそこまでよろしくない。そんな彼はヴィノスの不遜な態度も許容してくれる数少ない人物だ。性格が似ているというか、自分が良ければそれでいい、という性格がヴィノスと波長が合ったのだ。

「で、これ何の騒ぎ。お前がお嬢のそば離れるのって珍しくね。」

「そのお嬢に喧嘩を売ったと噂の女が、面白いこと言ってんだよ。」

「へぇ、面白そうじゃん。あれ、俺らと同じクラスの庶民君だろ。名前は確か…えーーっと、レイド?ジェド?」

「ボイドじゃね。」

 二人がそんなことを言っている間も、目の前の喧嘩は進んでいく。どうやら、リリーと男子生徒は同じ街の出身らしい。リリーに対する心配からくる言葉をかけても、そのすべてをリリーは突っぱねて自分の理想のアリアを主唱する。

「このわからずやエド!!」

「違うじゃん。」

「エドだったな。」

 目の前で繰り広げられる喧嘩の熱量とは真逆のテンションで話す二人が、傍にいる野次馬から注目を集め始める。しかし、二人は最前列にいるにもかかわらず、そんなのを無視して会話を広げていく。

「私の窮地を、アリア様が助けてくれた!そこに裏があったとして何なのかわからないなら、きっとアリア様は優しくていい人なのよ!それでいいじゃない!」

「あれ、お前んところのお嬢ってそんないいひとだっけ。俺が聞いたのって絵にかいたようなわがまま貴族か、お前から聞く意味不明な二重人格者なんだけど。」

「それ本人に行ったらキレられるぜ老人野郎。」

「先に俺がキレてやろうか?何度も言ってるけど白髪しらがじゃなくて白髪はくはつな?」

 いつも通りともいえる会話をして、ヴィノスはさてと踵を返す。それを物珍しそうにユーリが見つめた。ユーリが知るヴィノスは面白そうなことと、金に目がない男だ。これから先、この喧嘩は堂々巡りを繰り返して盛り上がっていくだろう。それに野次でも投げてやれば面白いくらいに火が広がりそうなのに、ここで帰るのかと。

「戻んの?」

「そろそろお嬢がお友達との飯を終わらせるころだからな。ユーリ、その喧嘩ちょうどいいところで終わらせといてくんね。」

「え、なんで。」

「気分。」

 じゃ、よろしく~と後ろ手に手を振って歩いていくヴィノスの背中をあきれたような視線で見つめたユーリは仕方がないというように喧嘩の渦中に入っていく。気が付けば野次馬は相当広がっていて、結構な規模になっていた。これ以上行けばさすがにヴィノスの主であるアリアのもとにも騒ぎが届いていたことだろう。そう考えると、この学園の馬鹿みたいに広い食堂も、よく仕事をしていると思う。

「にしても、あいつってあんなに主のこと気に掛けるタイプだっけ。」

 どう考えても友人らしくない行動に一人、ユーリは首を傾げた。
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