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13話
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新入生歓迎パーティが終わって、本格的に学校が始まる。アリアは毎日毎日馬車に乗りながら、ぼんやりと窓の外にうつる街並みを眺めていた。
「行きたくねーって顔してんな。」
「…別に、そんなことは思ってないわ。」
「そうか?今にも死にそうな顔してるぜ、お嬢は。」
死にそうな顔、その言葉に思わず身を強ばらせる。アリア自身はそんな顔をしているつもりはなかった。けれど確かに、行きたくないとは思っていた。
「……貴方がもう少ししっかりと勉強してくれていれば、こんな思いせずに済んだのだけれど…」
「おいおい、八つ当たりは勘弁してくれよ。どうせ俺がいてもいなくても、お嬢は何も変わらなかっただろうが。」
「かわ、ら…無いかもしれないけれど…」
ヴィノスの言葉に、アリアは少し考え直す。身近な人物がひとりでもいればあの空間が楽になるのではと考えての言葉だったが、確かにヴィノスの言葉にも一理ある。と言うよりも、正直いって警戒対象が増えるだけなので、アリアにとってはマイナスに近い。
「どうして、殿下と同じクラスになってしまったんでしょう…」
「ヴィルヘルム様と同じクラスになるのよ!って必死こいて勉強してたお嬢とは思えねぇ発言だな。」
「……そろそろ貴方のその態度、罰した方がいいのかしら。」
ケラケラと笑うヴィノスを、威嚇するように睨みつける。御者が学園への到着を宣言することで、いつものようにヴィノスの手を取り馬車からおりる。いつも見なれた校門に、今日は珍しい黒髪が見えた。
「見つけましたわよ!アリア様!」
「あ、アムネジア様…ごきげんよう。こんなところで、一体どうされましたの?」
「ごきげんよう!今回はそう、私はアリア様をランチに誘おうと思ってきましたのよ!」
ふふん、と笑いながら胸を張り、口元には開いたセンスを持ってくる。そんな姿をしながらも、チラチラとこちらを伺う様子に、アリアは戸惑うように視線をヴィノスにやった。
「あら、アリア様もしかしてお断りに?何かご用事でもおありですか?あ!殿下とお食事とか?」
「いえ、そのような約束事はありませんので、特に用事などもないですわ。」
「そ、そう…そう、よね。そうですわよねぇ…えぇ!ならば私がランチにお誘いしてもなんら問題がないということですわね!」
最初は冷たさを持ったアリアの返しに戸惑うように、そして残念がるように視線を落とすが、直ぐにそれを立て直す。どころか、その様子はどこか嬉しそうで、アリアには自分との食事を喜んでくれているように思えた。
「むしろ、アムネジア様のランチに私がご一緒しても宜しくて?」
「なっ!…べ、別に、むしろ私がお誘いする方が下手をしたら無礼に当たりますわ!今は、その、ここが学園だからできることですの。嫌なら別にいいのよ!?」
涙目になってまで言われた言葉に、アリアは目を剥く。そこまで必死に自分を誘う人間なんて、前回はいなかった。取り巻きなんて知らず知らずのうちにできて、知らず知らずのうちに食事を共にした。嫌だと言えば離れていき、何も言わなければ周りによってくる、そんな存在ばかり。
なぜライバルとも言えるアムネジアが、そうまでしてアリアを誘うのか。それがパーティでのヴィルヘルムの行動、そしてそれを目の当たりにした自分に対してとったアリアの行動から、アムネジアの考えが少し変わっているということなど、アリアは知る由もなかった。
「分かりましたわ。では、食堂で落ち合うことに致しましょう。」
「えぇ。そう致しましょう。楽しみにしていますわ。」
最後には笑顔でそう締めくくり、互いに挨拶をして己の教室へと向かう。どうやら、アムネジアのお付はしっかりとアムネジアの能力に合わせたのか、同じクラスらしい。本来ならヴィノスもそうするべきなのだが、当の本人に勉強をする気力がほとほとない。
「金銭関連じゃないと勉強しないの、どうにかならないのかしら。」
「…お嬢さー、なんで俺にそんな勉強させたいんだよ。」
「あら、知識はいくらあっても困らないのよ?」
何度も聞くその言葉に、ヴィノスは疲れたようにため息をついた。ヴィノスは分からない。大金を積んで勉学を行う理由も、その中で紡がれる有象無象たちの絆も、何もかもが金よりも価値があるとは思えない。いくらあっても困らないものが知識というのなら、金だっていくらあっても困らない。金はなんだって買えるのだから。ヴィノスは常々そう考えていた。
「お嬢って、やっぱ変わってる。」
「それは、貴方流に言わせたら前の私が?それとも今の私が?」
「どっちもだよ。前のお嬢は頭いいのに馬鹿だったし、今のお嬢は腹の底が読めなくなった。ミーシャはいい変化だつってたけど、俺からしたら両方理解が出来ねぇよ。」
さっきのだってそうだ。今まではまるで互いが目を合わせれば天敵を見つけたかのようにいがみ合っていたはずのアリアとアムネジアが、まるで仲睦まじい長年の友かのように昼食の約束をしていた。金銭の貸し借りも、恩の売り買いもされてないのに、一体どうしてそうコロコロと態度を変えられるのか。
アリアだって、つい先日まではヴィルヘルムしか見えていなかった。だと言うのに入学式になった途端にその想いだけ忘れたかのように風化させ、挙句別人のように変わってしまった。けれど、入学式前夜にアリアに対して変化は見られなかった。明日も、明後日もあの恋に溺れた馬鹿な暴君が居ると信じて疑わなかったのに、これではとんだ番狂わせだ。
「理解出来ねぇ。」
アリアを教室に送り届け、その教室内の様子を見て処刑台に登る前の囚人のような顔をするアリア。思わず反射的に教室に向かう背中を引き戻しそうになるが、それをすんでのところで止める。
アムネジアのことも理解できないし、アリアはもっと理解できない。そしてなぜ、自分が今アリアを止めようとしたのかも理解ができない。
ヴィノスは最近理解できないことが多すぎて、困っていた。
「行きたくねーって顔してんな。」
「…別に、そんなことは思ってないわ。」
「そうか?今にも死にそうな顔してるぜ、お嬢は。」
死にそうな顔、その言葉に思わず身を強ばらせる。アリア自身はそんな顔をしているつもりはなかった。けれど確かに、行きたくないとは思っていた。
「……貴方がもう少ししっかりと勉強してくれていれば、こんな思いせずに済んだのだけれど…」
「おいおい、八つ当たりは勘弁してくれよ。どうせ俺がいてもいなくても、お嬢は何も変わらなかっただろうが。」
「かわ、ら…無いかもしれないけれど…」
ヴィノスの言葉に、アリアは少し考え直す。身近な人物がひとりでもいればあの空間が楽になるのではと考えての言葉だったが、確かにヴィノスの言葉にも一理ある。と言うよりも、正直いって警戒対象が増えるだけなので、アリアにとってはマイナスに近い。
「どうして、殿下と同じクラスになってしまったんでしょう…」
「ヴィルヘルム様と同じクラスになるのよ!って必死こいて勉強してたお嬢とは思えねぇ発言だな。」
「……そろそろ貴方のその態度、罰した方がいいのかしら。」
ケラケラと笑うヴィノスを、威嚇するように睨みつける。御者が学園への到着を宣言することで、いつものようにヴィノスの手を取り馬車からおりる。いつも見なれた校門に、今日は珍しい黒髪が見えた。
「見つけましたわよ!アリア様!」
「あ、アムネジア様…ごきげんよう。こんなところで、一体どうされましたの?」
「ごきげんよう!今回はそう、私はアリア様をランチに誘おうと思ってきましたのよ!」
ふふん、と笑いながら胸を張り、口元には開いたセンスを持ってくる。そんな姿をしながらも、チラチラとこちらを伺う様子に、アリアは戸惑うように視線をヴィノスにやった。
「あら、アリア様もしかしてお断りに?何かご用事でもおありですか?あ!殿下とお食事とか?」
「いえ、そのような約束事はありませんので、特に用事などもないですわ。」
「そ、そう…そう、よね。そうですわよねぇ…えぇ!ならば私がランチにお誘いしてもなんら問題がないということですわね!」
最初は冷たさを持ったアリアの返しに戸惑うように、そして残念がるように視線を落とすが、直ぐにそれを立て直す。どころか、その様子はどこか嬉しそうで、アリアには自分との食事を喜んでくれているように思えた。
「むしろ、アムネジア様のランチに私がご一緒しても宜しくて?」
「なっ!…べ、別に、むしろ私がお誘いする方が下手をしたら無礼に当たりますわ!今は、その、ここが学園だからできることですの。嫌なら別にいいのよ!?」
涙目になってまで言われた言葉に、アリアは目を剥く。そこまで必死に自分を誘う人間なんて、前回はいなかった。取り巻きなんて知らず知らずのうちにできて、知らず知らずのうちに食事を共にした。嫌だと言えば離れていき、何も言わなければ周りによってくる、そんな存在ばかり。
なぜライバルとも言えるアムネジアが、そうまでしてアリアを誘うのか。それがパーティでのヴィルヘルムの行動、そしてそれを目の当たりにした自分に対してとったアリアの行動から、アムネジアの考えが少し変わっているということなど、アリアは知る由もなかった。
「分かりましたわ。では、食堂で落ち合うことに致しましょう。」
「えぇ。そう致しましょう。楽しみにしていますわ。」
最後には笑顔でそう締めくくり、互いに挨拶をして己の教室へと向かう。どうやら、アムネジアのお付はしっかりとアムネジアの能力に合わせたのか、同じクラスらしい。本来ならヴィノスもそうするべきなのだが、当の本人に勉強をする気力がほとほとない。
「金銭関連じゃないと勉強しないの、どうにかならないのかしら。」
「…お嬢さー、なんで俺にそんな勉強させたいんだよ。」
「あら、知識はいくらあっても困らないのよ?」
何度も聞くその言葉に、ヴィノスは疲れたようにため息をついた。ヴィノスは分からない。大金を積んで勉学を行う理由も、その中で紡がれる有象無象たちの絆も、何もかもが金よりも価値があるとは思えない。いくらあっても困らないものが知識というのなら、金だっていくらあっても困らない。金はなんだって買えるのだから。ヴィノスは常々そう考えていた。
「お嬢って、やっぱ変わってる。」
「それは、貴方流に言わせたら前の私が?それとも今の私が?」
「どっちもだよ。前のお嬢は頭いいのに馬鹿だったし、今のお嬢は腹の底が読めなくなった。ミーシャはいい変化だつってたけど、俺からしたら両方理解が出来ねぇよ。」
さっきのだってそうだ。今まではまるで互いが目を合わせれば天敵を見つけたかのようにいがみ合っていたはずのアリアとアムネジアが、まるで仲睦まじい長年の友かのように昼食の約束をしていた。金銭の貸し借りも、恩の売り買いもされてないのに、一体どうしてそうコロコロと態度を変えられるのか。
アリアだって、つい先日まではヴィルヘルムしか見えていなかった。だと言うのに入学式になった途端にその想いだけ忘れたかのように風化させ、挙句別人のように変わってしまった。けれど、入学式前夜にアリアに対して変化は見られなかった。明日も、明後日もあの恋に溺れた馬鹿な暴君が居ると信じて疑わなかったのに、これではとんだ番狂わせだ。
「理解出来ねぇ。」
アリアを教室に送り届け、その教室内の様子を見て処刑台に登る前の囚人のような顔をするアリア。思わず反射的に教室に向かう背中を引き戻しそうになるが、それをすんでのところで止める。
アムネジアのことも理解できないし、アリアはもっと理解できない。そしてなぜ、自分が今アリアを止めようとしたのかも理解ができない。
ヴィノスは最近理解できないことが多すぎて、困っていた。
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