今度は絶対死なないように

溯蓮

文字の大きさ
上 下
14 / 70

13話

しおりを挟む
 新入生歓迎パーティが終わって、本格的に学校が始まる。アリアは毎日毎日馬車に乗りながら、ぼんやりと窓の外にうつる街並みを眺めていた。

「行きたくねーって顔してんな。」

「…別に、そんなことは思ってないわ。」

「そうか?今にも死にそうな顔してるぜ、お嬢は。」

 死にそうな顔、その言葉に思わず身を強ばらせる。アリア自身はそんな顔をしているつもりはなかった。けれど確かに、行きたくないとは思っていた。

「……貴方がもう少ししっかりと勉強してくれていれば、こんな思いせずに済んだのだけれど…」

「おいおい、八つ当たりは勘弁してくれよ。どうせ俺がいてもいなくても、お嬢は何も変わらなかっただろうが。」

「かわ、ら…無いかもしれないけれど…」

 ヴィノスの言葉に、アリアは少し考え直す。身近な人物がひとりでもいればあの空間が楽になるのではと考えての言葉だったが、確かにヴィノスの言葉にも一理ある。と言うよりも、正直いって警戒対象が増えるだけなので、アリアにとってはマイナスに近い。

「どうして、殿下と同じクラスになってしまったんでしょう…」

「ヴィルヘルム様と同じクラスになるのよ!って必死こいて勉強してたお嬢とは思えねぇ発言だな。」

「……そろそろ貴方のその態度、罰した方がいいのかしら。」

 ケラケラと笑うヴィノスを、威嚇するように睨みつける。御者が学園への到着を宣言することで、いつものようにヴィノスの手を取り馬車からおりる。いつも見なれた校門に、今日は珍しい黒髪が見えた。

「見つけましたわよ!アリア様!」

「あ、アムネジア様…ごきげんよう。こんなところで、一体どうされましたの?」

「ごきげんよう!今回はそう、私はアリア様をランチに誘おうと思ってきましたのよ!」

 ふふん、と笑いながら胸を張り、口元には開いたセンスを持ってくる。そんな姿をしながらも、チラチラとこちらを伺う様子に、アリアは戸惑うように視線をヴィノスにやった。

「あら、アリア様もしかしてお断りに?何かご用事でもおありですか?あ!殿下とお食事とか?」

「いえ、そのような約束事はありませんので、特に用事などもないですわ。」

「そ、そう…そう、よね。そうですわよねぇ…えぇ!ならば私がランチにお誘いしてもなんら問題がないということですわね!」

 最初は冷たさを持ったアリアの返しに戸惑うように、そして残念がるように視線を落とすが、直ぐにそれを立て直す。どころか、その様子はどこか嬉しそうで、アリアには自分との食事を喜んでくれているように思えた。

「むしろ、アムネジア様のランチに私がご一緒しても宜しくて?」

「なっ!…べ、別に、むしろ私がお誘いする方が下手をしたら無礼に当たりますわ!今は、その、ここが学園だからできることですの。嫌なら別にいいのよ!?」

 涙目になってまで言われた言葉に、アリアは目を剥く。そこまで必死に自分を誘う人間なんて、前回はいなかった。取り巻きなんて知らず知らずのうちにできて、知らず知らずのうちに食事を共にした。嫌だと言えば離れていき、何も言わなければ周りによってくる、そんな存在ばかり。

 なぜライバルとも言えるアムネジアが、そうまでしてアリアを誘うのか。それがパーティでのヴィルヘルムの行動、そしてそれを目の当たりにした自分に対してとったアリアの行動から、アムネジアの考えが少し変わっているということなど、アリアは知る由もなかった。

「分かりましたわ。では、食堂で落ち合うことに致しましょう。」

「えぇ。そう致しましょう。楽しみにしていますわ。」

 最後には笑顔でそう締めくくり、互いに挨拶をして己の教室へと向かう。どうやら、アムネジアのお付はしっかりとアムネジアの能力に合わせたのか、同じクラスらしい。本来ならヴィノスもそうするべきなのだが、当の本人に勉強をする気力がほとほとない。

「金銭関連じゃないと勉強しないの、どうにかならないのかしら。」

「…お嬢さー、なんで俺にそんな勉強させたいんだよ。」

「あら、知識はいくらあっても困らないのよ?」

 何度も聞くその言葉に、ヴィノスは疲れたようにため息をついた。ヴィノスは分からない。大金を積んで勉学を行う理由も、その中で紡がれる有象無象たちの絆も、何もかもが金よりも価値があるとは思えない。いくらあっても困らないものが知識というのなら、金だっていくらあっても困らない。金はなんだって買えるのだから。ヴィノスは常々そう考えていた。

「お嬢って、やっぱ変わってる。」

「それは、貴方流に言わせたら前の私が?それとも今の私が?」

「どっちもだよ。前のお嬢は頭いいのに馬鹿だったし、今のお嬢は腹の底が読めなくなった。ミーシャはいい変化だつってたけど、俺からしたら両方理解が出来ねぇよ。」

 さっきのだってそうだ。今まではまるで互いが目を合わせれば天敵を見つけたかのようにいがみ合っていたはずのアリアとアムネジアが、まるで仲睦まじい長年の友かのように昼食の約束をしていた。金銭の貸し借りも、恩の売り買いもされてないのに、一体どうしてそうコロコロと態度を変えられるのか。

 アリアだって、つい先日まではヴィルヘルムしか見えていなかった。だと言うのに入学式になった途端にその想いだけ忘れたかのように風化させ、挙句別人のように変わってしまった。けれど、入学式前夜にアリアに対して変化は見られなかった。明日も、明後日もあの恋に溺れた馬鹿な暴君が居ると信じて疑わなかったのに、これではとんだ番狂わせだ。

「理解出来ねぇ。」

 アリアを教室に送り届け、その教室内の様子を見て処刑台に登る前の囚人のような顔をするアリア。思わず反射的に教室に向かう背中を引き戻しそうになるが、それをすんでのところで止める。

 アムネジアのことも理解できないし、アリアはもっと理解できない。そしてなぜ、自分が今アリアを止めようとしたのかも理解ができない。

 ヴィノスは最近理解できないことが多すぎて、困っていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

悪女の私を愛さないと言ったのはあなたでしょう?今さら口説かれても困るので、さっさと離縁して頂けますか?

輝く魔法
恋愛
システィーナ・エヴァンスは王太子のキース・ジルベルトの婚約者として日々王妃教育に勤しみ努力していた。だがある日、妹のリリーナに嵌められ身に覚えの無い罪で婚約破棄を申し込まれる。だが、あまりにも無能な王太子のおかげで(?)冤罪は晴れ、正式に婚約も破棄される。そんな時隣国の皇太子、ユージン・ステライトから縁談が申し込まれる。もしかしたら彼に愛されるかもしれないー。そんな淡い期待を抱いて嫁いだが、ユージンもシスティーナの悪い噂を信じているようでー? 「今さら口説かれても困るんですけど…。」 後半はがっつり口説いてくる皇太子ですが結ばれません⭐︎でも一応恋愛要素はあります!ざまぁメインのラブコメって感じかなぁ。そういうのはちょっと…とか嫌だなって人はブラウザバックをお願いします(o^^o)更新も遅めかもなので続きが気になるって方は気長に待っててください。なお、これが初作品ですエヘヘ(о´∀`о) 優しい感想待ってます♪

悪役令嬢はどうしてこうなったと唸る

黒木メイ
恋愛
私の婚約者は乙女ゲームの攻略対象でした。 ヒロインはどうやら、逆ハー狙いのよう。 でも、キースの初めての初恋と友情を邪魔する気もない。 キースが幸せになるならと思ってさっさと婚約破棄して退場したのに……どうしてこうなったのかしら。 ※同様の内容をカクヨムやなろうでも掲載しています。

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません

片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。 皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。 もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。

悪役令嬢の里帰り

椿森
恋愛
侯爵家の令嬢、テアニアはこの国の王子の婚約者だ。テアニアにとっては政略による婚約であり恋をしたり愛があったわけではないが、良好な関係を築けていると思っていた。しかし、それも学園に入るまで。 入学後は些細なすれ違いや勘違いがあるのも仕方がないと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。いつの間にか王子のそばには1人の女子生徒が侍っていて、王子と懇意な中だという噂も。その上、テアニアがその女子生徒を目の敵にして苛めているといった噂まで。 「私に他人を苛めている暇があるようにお思いで?」 頭にきたテアニアは、母の実家へと帰ることにした。

【完結】逆行した聖女

ウミ
恋愛
 1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m

侍女から第2夫人、そして……

しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。 翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。 ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。 一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。 正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。 セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...