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9話
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オーケストラの音によって始まったパーティでは、チラチラとヴィルヘルム達のことを伺いながらもパーティに参加するもの達が多い中、アリアは王太子の婚約者として国王陛下達に挨拶をするタイミングを伺っていた。
「お嬢、連れてきたよ。」
「アムネジアお嬢様!」
ヴィノスが一人の侍女を連れてくる。その侍女の胸元には、アムネジアの侍女であることを示す薔薇のブローチがあった。顔色の悪いアムネジアを見て、侍女は心配そうに肩を抱く。
「私は挨拶に行ってくるから、此処で待っていなさい。」
ヴィノスにそう伝えて、ヴィルヘルムたちがパーティへと消えてった様を見つめ続けていた国王陛下たちの元に向かう。
「国王陛下、女王陛下。」
「ん?おぉ、アリア嬢ではないか。」
「ご挨拶遅れてしまい申し訳ございません。お久しゅうございます。」
二人の前に立ち、完璧なカーテシーをするアリア。その姿を見て、女王陛下は先程まで笑顔を浮かべ隣に立つだけだったのをやめて、一歩前に立ちアリアに話しかけた。
「久方ぶりね。元気そうな顔を見れて嬉しいわ。それに、とても素敵なドレスね、アリア。いつものところで仕立てたのかしら?」
「いいえ、此の度は私の侍女の生家であるルトリック商会で仕立てました。」
「まぁ。」
どうやらドレスを気に入ったらしい。女王陛下はこういった落ち着いた色合いが好きで、前回のアリアのドレスをよく嫌そうな目で見ていた。だからこそ、驚きながらも今回のアリアの姿を嬉しそうに見つめていた。
「そういえば、今回ヴィルヘルムのエスコートを受けなかったの?」
「…私達も、学園へと進みました。新たな交友関係を作る機会を潰してしまうのは勿体ないことですので。」
「そうなのね、変わらずヴィルヘルムとどうか仲良くね。」
女王陛下から与えられた言葉に、アリアはその言葉に冷や汗が出そうだった。顔に出さないだけまだマシだと考えながら、笑顔を作る。
本来、アリアとヴィルヘルムの婚姻は政略の意味が大きかった。そこにアリアの想いがあったから利用しただけで、アリアは別に必死にならずともいつか必ずヴィルヘルムを手に入れられる場所にいたのだ。公爵家令嬢と平民の女とでは、それくらいの差があったのだ。
「もちろんでございます。それでは、私はこれで。」
「えぇ、歓迎パーティをどうか楽しんでね。」
逃げるような早足で、アリアはヴィノスの元に行く。すると顔色が戻ったアムネジアもその場に残っていて、アリアはそのままそこに合流した。
「アムネジア様、体調はもう大丈夫ですの?」
「アリア様…ええ。もう大丈夫ですわ。それよりも、アリア様はいいんですの?その…殿下のこと……」
「誘いがない時点で、他の誰かを誘うとは思っておりましたわ。その相手も、まぁ…」
二人とも直接的に言えないまま会話をしていると、段々ショックよりも怒りが強くなってきたのか、アムネジアが睨みつけるようにパーティの中心にいるヴィルヘルムとリリーを見る。
「有り得ませんわ!婚約者を差し置いて、他の女を連れるなんて。高め合う?良くもまぁぬけぬけと!」
「あ、アムネジア様?」
「こんなのあんまりですわ!しかもあのドレスと髪飾りはなんなんですの、先程聞いた話だと、アレを贈ったのは殿下だそうじゃない。」
殿下がそんなことをするとは思いませんでしたわ!と小声で、文句を吐き出すアムネジア。
周りに聞こえるんじゃないかと、顔を青くしてアリアが周りを見るけれど、人払いがされているのか、はたまた王太子に心酔するアムネジアとヴィルヘルムの婚約者であるアリアに近寄れないのか周りに人はおらず、お付であるアムネジアの従者もヴィノスも視線を逸らして聞いてないふりをしている。
「殿下に苦言を呈してきますわ!」
「ちょ、ちょっとお待ちなさい!そんなことをして、悪目立ちするのはアムネジア様よ。殿下は前も先程も言っていたでしょう?リリー様は学友であると。」
「それでも、そんなの……そう、ですわよね…」
建前であれど、それを位の高い者が言い張れば、言ったことが本当だ。それを笑顔飲み込まずに騒ぎ立てるのははしたない事だし、滑稽だと笑いものにされてしまう。それを理解しているのか、アムネジアもゆっくりと冷静を取り戻す。
「お嬢~、ここ騒がしいし、話すんならそっちにしたら?話は通してきたよ。」
「……そうするわ。アムネジア様もいらっしゃる?」
「…そうさせていただきますわ。」
クイッと親指でヴィノスが指し示したのは控え室。よってしまったり、疲れてしまったり、他になにかトラブルがあった参加者が休めるように用意された部屋だ。どうやらヴィノスが気を利かせて取ってくれたらしい。
「お茶を入れさせますわ。うちの侍女の紅茶はとても美味しいのよ。」
「あら、そうなんですのね。私の専属侍女もお茶を入れるのが上手なのよ。」
「それってさっきのルトリック商会の?そちらの侍女は学園に連れてきていないんですわね。」
チラチラとヴィノスの事を見る。どうやら家柄のないヴィノスを連れてきているのに商家の娘のミーシャを連れて来ていないことが、アムネジアは疑問のようだった。
「彼女を専属にしたのは、入学した後だったから、連れて来れなかったの。」
「あら、クラレンスなら途中編入くらいわけないでしょう?」
「そういうのはもうしないって決めたんです。」
アムネジアは意外そうにアリアを見つめる。アムネジアとアリアは幼い頃から王太子の婚約者候補として面識があった。だからこそそのアリアの傲慢な性格を理解している。そんなアリアの口から飛び出してくるとは思えない言葉に驚きを隠せないのだ。
「なんか、調子が狂いますわね…アリア様が別人になられたみたいだわ。」
「えぇ…そんな、」
「ほら、やっぱ俺だけじゃねーじゃん。」
唐突に会話に混ざってきた声に、アムネジアが悲鳴をあげ、アリアは冷たい視線を送り付けた。しかし、元凶はケラケラと金色の瞳を三日月にしてアリアの座るソファの背もたれに腕を乗せて頬杖を着いていた。
「お嬢、連れてきたよ。」
「アムネジアお嬢様!」
ヴィノスが一人の侍女を連れてくる。その侍女の胸元には、アムネジアの侍女であることを示す薔薇のブローチがあった。顔色の悪いアムネジアを見て、侍女は心配そうに肩を抱く。
「私は挨拶に行ってくるから、此処で待っていなさい。」
ヴィノスにそう伝えて、ヴィルヘルムたちがパーティへと消えてった様を見つめ続けていた国王陛下たちの元に向かう。
「国王陛下、女王陛下。」
「ん?おぉ、アリア嬢ではないか。」
「ご挨拶遅れてしまい申し訳ございません。お久しゅうございます。」
二人の前に立ち、完璧なカーテシーをするアリア。その姿を見て、女王陛下は先程まで笑顔を浮かべ隣に立つだけだったのをやめて、一歩前に立ちアリアに話しかけた。
「久方ぶりね。元気そうな顔を見れて嬉しいわ。それに、とても素敵なドレスね、アリア。いつものところで仕立てたのかしら?」
「いいえ、此の度は私の侍女の生家であるルトリック商会で仕立てました。」
「まぁ。」
どうやらドレスを気に入ったらしい。女王陛下はこういった落ち着いた色合いが好きで、前回のアリアのドレスをよく嫌そうな目で見ていた。だからこそ、驚きながらも今回のアリアの姿を嬉しそうに見つめていた。
「そういえば、今回ヴィルヘルムのエスコートを受けなかったの?」
「…私達も、学園へと進みました。新たな交友関係を作る機会を潰してしまうのは勿体ないことですので。」
「そうなのね、変わらずヴィルヘルムとどうか仲良くね。」
女王陛下から与えられた言葉に、アリアはその言葉に冷や汗が出そうだった。顔に出さないだけまだマシだと考えながら、笑顔を作る。
本来、アリアとヴィルヘルムの婚姻は政略の意味が大きかった。そこにアリアの想いがあったから利用しただけで、アリアは別に必死にならずともいつか必ずヴィルヘルムを手に入れられる場所にいたのだ。公爵家令嬢と平民の女とでは、それくらいの差があったのだ。
「もちろんでございます。それでは、私はこれで。」
「えぇ、歓迎パーティをどうか楽しんでね。」
逃げるような早足で、アリアはヴィノスの元に行く。すると顔色が戻ったアムネジアもその場に残っていて、アリアはそのままそこに合流した。
「アムネジア様、体調はもう大丈夫ですの?」
「アリア様…ええ。もう大丈夫ですわ。それよりも、アリア様はいいんですの?その…殿下のこと……」
「誘いがない時点で、他の誰かを誘うとは思っておりましたわ。その相手も、まぁ…」
二人とも直接的に言えないまま会話をしていると、段々ショックよりも怒りが強くなってきたのか、アムネジアが睨みつけるようにパーティの中心にいるヴィルヘルムとリリーを見る。
「有り得ませんわ!婚約者を差し置いて、他の女を連れるなんて。高め合う?良くもまぁぬけぬけと!」
「あ、アムネジア様?」
「こんなのあんまりですわ!しかもあのドレスと髪飾りはなんなんですの、先程聞いた話だと、アレを贈ったのは殿下だそうじゃない。」
殿下がそんなことをするとは思いませんでしたわ!と小声で、文句を吐き出すアムネジア。
周りに聞こえるんじゃないかと、顔を青くしてアリアが周りを見るけれど、人払いがされているのか、はたまた王太子に心酔するアムネジアとヴィルヘルムの婚約者であるアリアに近寄れないのか周りに人はおらず、お付であるアムネジアの従者もヴィノスも視線を逸らして聞いてないふりをしている。
「殿下に苦言を呈してきますわ!」
「ちょ、ちょっとお待ちなさい!そんなことをして、悪目立ちするのはアムネジア様よ。殿下は前も先程も言っていたでしょう?リリー様は学友であると。」
「それでも、そんなの……そう、ですわよね…」
建前であれど、それを位の高い者が言い張れば、言ったことが本当だ。それを笑顔飲み込まずに騒ぎ立てるのははしたない事だし、滑稽だと笑いものにされてしまう。それを理解しているのか、アムネジアもゆっくりと冷静を取り戻す。
「お嬢~、ここ騒がしいし、話すんならそっちにしたら?話は通してきたよ。」
「……そうするわ。アムネジア様もいらっしゃる?」
「…そうさせていただきますわ。」
クイッと親指でヴィノスが指し示したのは控え室。よってしまったり、疲れてしまったり、他になにかトラブルがあった参加者が休めるように用意された部屋だ。どうやらヴィノスが気を利かせて取ってくれたらしい。
「お茶を入れさせますわ。うちの侍女の紅茶はとても美味しいのよ。」
「あら、そうなんですのね。私の専属侍女もお茶を入れるのが上手なのよ。」
「それってさっきのルトリック商会の?そちらの侍女は学園に連れてきていないんですわね。」
チラチラとヴィノスの事を見る。どうやら家柄のないヴィノスを連れてきているのに商家の娘のミーシャを連れて来ていないことが、アムネジアは疑問のようだった。
「彼女を専属にしたのは、入学した後だったから、連れて来れなかったの。」
「あら、クラレンスなら途中編入くらいわけないでしょう?」
「そういうのはもうしないって決めたんです。」
アムネジアは意外そうにアリアを見つめる。アムネジアとアリアは幼い頃から王太子の婚約者候補として面識があった。だからこそそのアリアの傲慢な性格を理解している。そんなアリアの口から飛び出してくるとは思えない言葉に驚きを隠せないのだ。
「なんか、調子が狂いますわね…アリア様が別人になられたみたいだわ。」
「えぇ…そんな、」
「ほら、やっぱ俺だけじゃねーじゃん。」
唐突に会話に混ざってきた声に、アムネジアが悲鳴をあげ、アリアは冷たい視線を送り付けた。しかし、元凶はケラケラと金色の瞳を三日月にしてアリアの座るソファの背もたれに腕を乗せて頬杖を着いていた。
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