雨晒し

Liz

文字の大きさ
上 下
128 / 141
漸進的愛情表現

しおりを挟む



どういう先入観からなのか、いつしか俺はいろんな人に完璧だと言われるようになったけれど、実際のところそんな事は微塵もない。


お遊戯会だってできる事なら台詞が一回もない木の役がしたかったし、ダンスだってセンターじゃなくて端っこの見切れるところであわよくば見切れていたかったし、ミスターなんちゃらになんか死んでも選ばれたくなかった。


人前に立つのなんて超絶苦手だし、傍から注目を浴びるのも大嫌いだ。


口下手だし、上がり症だし、すぐに顔だって赤くなるし、これのどこが完璧なんだろうと甚だ疑問でしかない。

そう。まさに今、山根という女子生徒が放った“人見知り”という単語だって、俺にぴたりと当て嵌まる。




「どういたしまして」


派手な女が返した声に、いつの間にかトリップしていた意識がハッと現実に戻ってくる。




「山根さんって人見知りなんだ?」

「…うん……極度の…」

「そっかぁ~。あたし人見知りとかした事ないから分かんないや」


……だろうな。

心の中でそんな言葉を呟く。
どこからどう見ても社交的なこの女からすれば、こっち側の人間の悩みなんて分かるわけがない。


へへっとおどけたように笑ったその顔から視線を逸らし、また意味もなくスマホの画面を指でスクロールする。




流れていく画面をぼんやりと眺めていると「でもさ」と続ける声が聞こえて、




「人見知りの人って、言葉を選ぶ優しさを持ってるよね」


次に鼓膜を揺らした言葉に、動かしていた指がぴた…っと止まった。



無意識のうちに上がった視線は、すぐそこに立つ派手な女を捉える。




「そういう優しさ、あたしにはないから。すごいなぁって思うよ」



そう言ってにっこりと笑ったその女の表情が、何故か目に強く焼き付いて、離れなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~

美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。 貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。 そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。 紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。 そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!? 突然始まった秘密のルームシェア。 日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。 初回公開・完結*2017.12.21(他サイト) アルファポリスでの公開日*2020.02.16 *表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

恋歌(れんか)~忍れど~

ふるは ゆう
恋愛
大学三年の春、京極定家は親友の有田業平の手伝いで大学の新入生歓迎会を手伝うことになる。そこで知り合った文学部の賀屋忍と北家高子、この二人との出会いが京極にとって、とても大切な一年になっていく。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

Drink

箕面四季
恋愛
小学3年生の、セミがうるさい初夏。 私に、海(カイ)という同い年の弟が出来た。 ずっと閉じ込めていた思い出の箱が開くとき、せつない奇跡が巻き起こる。 結奈と海(カイ)と、それを取り巻く人々のせつなくて優しい物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...