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漸進的愛情表現
、
しおりを挟む隣の席の俺でも知らないその子の名前を、この派手な女子生徒が知っている事に少しばかり驚いたけれど、すぐに俺には関係のない事だと思い、スマホの画面に視線を戻した。
「あのさ、昨日数学のノート集めたんだけど山根さん学校休んでたじゃん?」
「あ、うん…」
「あたし担任に頼まれて集めてたから、ついでに今日持っていくよ」
「…え。…い、いいの?」
「うん、いーよ。今持ってる?」
距離が近い所為で否応なしに耳に入ってくる2つの声。
ぼんやりとそれを聞き流していると、山根という女子生徒が机の中からノートを取り出しているのが視界の隅に映った。
「…お願いします」そんな小さな声を添えて差し出されたそれを派手な女はにこっとした笑顔を浮かべて受け取る。
「じゃあ」
「――ま、待ってっ」
踵を返してその場を去ろうとした派手な女を制したのは山根という女子生徒の張り上げた声。
呼び止められた方の女は驚いているのかキョトンとした表情を浮かべていた。
その声に一瞬驚いた俺もピクリと微かに肩を揺らして、2人の方向へ視線を移す。
「…あ、あの…その…」
山根という女子生徒はもじもじしながら、しどろもどろに口を開く。
「…ありがとう…」
周りの喧騒に掻き消されてしまいそうなほど小さな声で紡がれたその言葉に派手な女は「え?」と首を傾げる。
「…私、人見知りだし…友達ひとりも居ないから…名前呼ばれた事も嬉しかったし…」
「…」
「それに、わざわざノート集めに来てくれて……ありがとう」
なんだか、その山根という女子生徒を見ていると少し自分を見ているような気分だった。
周りには“端麗だ”とよく言われるこの無駄に目立つルックスの所為で、小さな時から学校の出し物の度に主役に推薦されてきた。
幼稚園のお遊戯会で披露した白雪姫では王子様に抜擢され、小学校のキャンプファイヤーのダンスでは有無を言わさずセンターを任され、中学校の文化祭ではミスター○○コンテストだとかいうふざけた企画に引っ張りだこ。
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