雨晒し

隠された本音

、

いつの間にか壁と榛名くんに挟まれる体勢になった上、両手も拘束されて全く身動きがとれなくなっていた。




「…俺があいつ等と一緒だって、本気で言ってんの？」


あたしから一秒たりとも目を逸らさずにそう言う榛名くんを見て、怒らせてしまったんだって事にそこでようやく気付いた。





「…榛名く――っ、」



何か言わなきゃ、って咄嗟に開いた口は次の瞬間には榛名くんの口に塞がれてた。




「…っん、ぅ」



まるで噛みつくようなキス。

戸惑うようにくぐもった声を出すあたしを深いところで絡めとる熱い舌。

酸素も思考も奪われて、身体に力が入らなくなる。





「…っは、ぁ…」


唇が離れた頃には、すっかりあたしの息は上がってしまっていた。

さっきまで重なっていたその薄い唇がゆっくりと動き出すのが、薄っすらと涙が滲む視界に映った。






「…俺がこうする理由なんて、辻本には分かるわけない」



まるで絞り出すような声でそう言った榛名くんは、掴んでいたあたしの両手首から、ふ、っと手を離す。


共有していた熱が一気に離れていく。
だんだんと冷えていく頭の中で、違ったのかもって思った。


さっき“怒らせた”って思ったけど、そうじゃなかったのかもしれないって思った。




俯いた榛名くんの表情は、長い前髪に隠されて分からなかった。

けど、くしゃりと前髪を乱すように掴むその仕草に。






「………一生、分かんなくていいよ」


揺蕩《たゆた》うように紡がれたその声に。




怒らせたんじゃなくて、

傷つけたのかもって、思った。






『 隠された本音 』 ―完―