58 / 141
脆弱を覆う優しさ
13
しおりを挟むそんな事を考えているうちに、いつの間にか教室のドアの前まで来ていた。
結局その単語を思い出せないまま、あたしは目の前のドアをガラッと開けた。
後ろ手で開けたドアをピシャリと閉めてから俯き気味だった顔を上げた瞬間、あたしは静かに息を呑んだ。
てっきり誰も居ないと思っていたそこには、ひとりの男子生徒が居た。
しかもよりにもよって、一度もまともに会話という会話を交わした事のない人物だった。
その整った容姿のおかげで、辛うじて名前を知ってるくらい。
――…最悪だ。
こんな時に、しかもこんなずぶ濡れの状態で、よく知りもしない男子と2人きりなんて、気まずすぎる。
「…榛名くん、まだ学校に居たんだ?」
もうドアを閉めた手前、すぐに出ていくのはさすがに感じが悪すぎるし、視線はかち合ったままだし、とりあえず笑みを貼りつけてそう言えば、数メートル離れたところに立っている榛名くんは「うん」って小さく返事をした。
シン…とした沈黙が流れる。
気まずい、気まずすぎる。どうしよう。
「…ていうか、その格好…」
あたしが何か話題を見つけ出すよりも先に、沈黙を破ったのは榛名くんの方だった。
言いにくそうに放たれた榛名くんの言葉に「あー、これ?」と極めて明るい声で切り出した。
「傘どっかいっちゃってさ、もうずぶ濡れ!こんなに濡れたの初めてってくらい濡れちゃった」
あはは、あたしの乾いた笑い声が榛名くんとの数メートルの間を流れる。
「あ、そういえば、こうやって傘も差さずに雨に打たれる事をなんていうか、榛名くん知ってる?」
「……、」
「なんかの本で読んだ気がするんだけど、ど忘れしちゃって思い出せないんだよね」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~
けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。
してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。
そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる…
ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。
有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。
美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。
真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。
家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。
こんな私でもやり直せるの?
幸せを願っても…いいの?
動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる