煽りすぎてわからせられた令息は反省したので今回は人を煽りません!〜無関心だった元婚約者がいつも近くにいるのでビビり散らかしてます!〜

ちゃろ

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1度目の僕

01

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婚約者に嫌われているのは知っていた。僕が何をしても素っ気なく、話し掛けて来ることもなく、こちらが話し掛けても「ああ」だの「へぇ」だの生返事ばかりでいつも心あらず。


きっと僕を同じ人間とは認識していないのだろう。視線が合わさることは極端に少なく、やっと目が合ったと思っても話す価値は無いとでも言いたげに不快そうに顔を顰めて逸らされ、途中だろうが話を切り上げられる。
それは既に無愛想という言葉で片付けるには片付けられる範疇を超えていた。


手紙は僕が送るばっかりでまともに返事が来た試しはない。たまに珍しく彼から手紙が来たと思えば僕が送った手紙に対しての返事どころか挨拶すらなく、簡潔で一方的な用件のみ。


プレゼントだって祝い事くらいで、どれも僕の好みとは掛け離れた流行遅れの物ばかり。言伝やメッセージカードが入っていたことは1度として無い。
別に最新の高価な物が欲しいわけではないけれど、彼からのプレゼントは僕に恥をかかそうという悪意さえ感じられる代物だった。まるでお前には型遅れがお似合いだと言われているようで。型遅れでもお前には過ぎた物で充分だろうと言われているようで。
同じ性別なのだから装飾品の流行に疎いわけではないだろう。現に彼はいつも流行っているデザインの服や装飾品を身に着けていた。だから尚更に無頓着という柔らかい表現では許容しきれない、あまりにも雑で酷い仕打ちに思えた。

期待と高揚に高鳴らせた胸は贈られてきた物を目にして、いつも嫌な音を立てて、喪失感に近い失望に苛まれて終わる。



彼は僕にとって婚約者である前に好きな人だった。
だからこそ仲良くなろうと僕なりに意気込んで頑張ってみたこともあった。これでも学園に通う前まではどうにかできないか自分なりに歩み寄ったのだ。
好きな物や色は何か。休みはどう過ごしているのか。学園ではどう過ごそうか。少しでも会話の取っ掛かりにでもなればと語彙力が未熟な頭から話題を必死に捻り出して。だが「君が知る必要はない」と一蹴される有様で。
それ以来、彼を怒らせるのが怖くて彼のプライベートに関することを訊ねることは自然とできなくなった。



彼からしたら僕が擦り寄っているように見えたのかもしれない。
歩み寄ろうとはしたが、下手に出たり機嫌を窺っているつもりはなかったのだけれど、どうやら良かれと思っていた方法は彼にとっては癇に障る悪手だったらしい。
増々態度は悪くなるばかりで会話のラリーすらまともにできなかった。
それでも何とかめげずに笑顔を作って話し掛けていたが、良い反応を見せてもらえず、いつも話の途中で突然に「帰る」と不機嫌そうな声音で退席していく。そして取り残されて泣きそうな自分を押し込める為に、僕は拳を強く握り締め、下唇を噛んで俯くのだ。



普段からそんなのだからまともに触れられたこともない。唯一触れる機会のあるエスコートだって指先だけ摘むようなぞんざいなもので、まるで嫌々汚いものに触れるみたいに僕に対しての嫌悪感がありありと伝わってくる、最低限の思い遣りや配慮の欠片もないものだった。
手を放す時もおぞましいとでも言いたげに投げ捨てて払い除けられる。
僕はその度に泣きそうになる自分を抑える為に唇を噛み締めていた。癖として噛みすぎた下唇とその内側の粘膜は窪んだ痕が至る箇所に残るくらいにズタズタだった。



何度泣いたことだろう。
悲しさと怒りが同時に湧き上がって、どうしようもない悔しさのぶつけどころがどこにもなくて。持っていたくない黒くてぐちゃぐちゃな感情を胸に抱えたまま、誰にもバレないように夜中に1人でひっそりと枕を濡らす。


彼に関する余計な事に触れられたくなくて、人に対して当たりが強くなってしまっている自覚はあった。
だけど僕は自分の心が壊れないように守って保つのにいっぱいいっぱいで、怒りが滲み出てしまうのをどうしても抑えられなかった。こんな自分、自分が1番嫌なのに。歪んでいく自分を正せないでいた。



何故そんなに冷たくされなければいけないのか。
何で僕と向き合おうとしてくれないのか。
そもそもどうして僕を嫌うのか。


常にそんな疑問と大きな不安を胸に抱えて余裕が無いものだから、成長するに連れて可愛げのない歪んだ性格になるのも当然のことだった。


最初は好きな人だったし、嫌われるのが怖かったから発言もできなかったが、泣かされて怒りを溜め込む内に彼という人間に慣れてきたのもあって、失礼な態度をされる度に嫌味でたっぷりと言い返すことを覚えていった。
既に嫌われている。どうしたって状況が良くなることはないのだから、怯える必要なんて無い。そう自分に言い聞かせて、半ば自棄気味に無理矢理にでも奮い立った。
それ程までにこの膠着した状況をどうにかしたかったのだ。



意地の悪い強い言葉を連ねると、今までの不満がほんの少しだけ解消された気持ちになった。
やり方の方向性から破綻しすぎているが、ちゃんとした形で言葉をぶつけることができるようになり、僅かでも僕に意識を向けてもらえたことでその時はそこで満足したのだと思う。受け止めてはもらえないけど、聞いてはもらえるからか、口を開く隙もくれずに抑えつけられていた頃に比べたら心の持ちようは遥かにマシな気がした。



対して彼は一方的に罵倒されたままでは矜持が許さないのだろう。言い返し始めた頃は憮然と無視していた彼も次第にチクチクと反論してくるようになった。その時ばかりはこちらと真っ直ぐ対峙してくるので、殺しに掛かってきそうな勢いで威圧してくる殺意高めの眼ではあるが、まともに視線は合ったように思う。
彼の様子を探り探り窺いながら試みた会話よりも言い争う今の方が会話が続くなんて皮肉が過ぎる。だが、会話の数が増えようと、結局は口喧嘩の枠から出ない罵り合いみたいなものなので関係が改善するわけはなく、冷えたも同然の仲のまま、冷え切っているとも呼べる関係に良い変化や兆しは一切無い。



それでも、嬉しかった。
ようやく僕を見てくれた気がして、ほんの少しだけ関係性が前進したような気がして、本当に嬉しかったんだ。
ただ挙げ足を取る為だけに、嘘や矛盾点が無いか、そういった目的の為だけに僕の嫌味に耳を傾けているのだとしても、僕に目を向けてくれたのがどうしようもなく嬉しかった。


だから唯一向き合ってくれるこのやり方が正解なのだと、愚かにも成功例として刻まれてしまったのでバカの1つ覚えみたいに悪態をつくことがやめられなくなってしまった。これ以外にやってきたやり方が全てダメだったから余計にこの方法に固執した。


無視をされる度にもっと彼が言い返したくなるようなことを言わなければ、と。冷たくされる度にもっと彼が振り向かざる得ないような頭にくることを言わなければ、と。
どうやったって自分の印象を更に下げる行為でしかないのに、それしかなかったから依存するみたいにのめり込んで、関係を悪化させているとわかっているのに止めることができなくなった。それはある意味で強迫観念とも呼べたかもしれない。


僕の頭と口は年々無駄に回るようになって、語彙力の引き出しには悪い言葉ばかり詰め込まれる。
いつしか長ったらしい嫌味は弱い僕にとっては外敵から身を守る為の武装にもなっていた。



これが我儘で生意気なクソガキと有名になっていく僕の最初の人格形成のきっかけである。





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