夢うつつ

平野 裕

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少女が見るは

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 心地よく響く鈴の音が幾重にもなって広がり、頭の中へ留まる。色鮮やかな衣に腕を通し、地面を踏みしめる足音は右へ、左へ、前へ、後ろへ、一定のリズムを保って砂埃をあげた。大きく振られた腕に従って舞う大振りの袖は、緩やかな曲線を描いた。また反対へと振られたことで袖の先を飾るいくつもの鈴が、何度もその音を響かせている。濡れ羽色の髪を結っている飾りもまた、巫女の動きに合わせて繊細に揺れ動いた。
 人々は中央で舞う巫女に目もくれず、少女だけが、巫女の動きを一心に眺めていた。あげられた砂埃は衣に纏わりつき、鮮やかな色合いを煤けさせていく。それでも衰えない舞いは、人波の中で唯一、輪郭を有して存在していた。
 ふと、辺りが暗くなる。
 夜のような暗がりは一瞬にして神社を包み、衣とのコントラストがより巫女を浮かび上がらせていた。
 誰一人として空を見上げようとしないなか、少女だけが遥か上空を見上げた。厚い雲の内側では幾度となく雷鳴が轟き、眩しいほどの閃光を放った。
 その瞬間、少女の目に透かされた巨大な骨が映った。
 リュウグウノツカイのように長く、シーラカンスのような鰭を持つ巨大魚は、雷鳴が轟く雲の中を悠々と泳いでいた。少女は手を伸ばした。しかし、小さな手はくうを彷徨うばかりで、そらを泳ぐものには届かない。
 巨大魚は隠れるように少女の視界から消えてしまうと、大粒の雫を振らせた。雫は少女の手へと落ち、やがて地面を染め上げていく。雫は服へと吸い込まれ、立つのも億劫になるほどに重くする。耐えきれなくなった少女は座り込み、神社の中央を見た。
 降り注ぐ雫の中揺れる鈴は変わらず、その幾重にもなる音を響かせていた。
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