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第二話 解決

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えり達は、それぞれの部屋に入った。
「割と質素だね」
シアンは、物珍しそうに色々な扉を開けていった。
「えり。この大きな扉はなあに?」
「開けてごらん」
「きゃー!」
「きゃー!」
キャサリンが着替えの途中で扉が開いたからびっくりして悲鳴をあげた。
その悲鳴にびっくりしてシアンも悲鳴をあげた。
「2人して何してるのよ」
「だって!」
「コネクティングルームだから繋がってるのよ」
「そうなんだあ。でも他人同士の場合は、どうなるの?」
「鍵がかかるようになってるでしょ」
「本当だあ」
「でも基本的に他人のケースは、少ないみたいだけど」
「だよね」
「早く着替えないとだよ」
「テラスのレストランならカジュアルでいいのよね」
「そうだね。でもその後バーに行くなら少しおしゃれな感じでね」
「わかった」
シアルも部屋に戻り、着替え始めた。
「えりって綺麗なだけじゃなくスタイルもいいわね。胸もはち切れそう」
「シアルも大きいじゃない」
「えりほどではないよ」
「支度できたから早いけど、船内を探りながらテラスに向かおうかあ」
「お隣さん準備できたかな?」
「準備できたあ?」
「はーい」
「ドア越しに声が聞こえるんだね」
「行くよー」
「今から出るね」
「私たちも出るね」
えり達は、合流して、船内を散策し始めた。
「カジノだあ!やってみたかったのよね」
シアンがはしゃぎなら言った。
「ちょっとやってみる?」
「やりたーい」
「じゃあバカラやってみようかあ」
「うんうん」
「キャサリン!私とメアリーは、スロットやってるね」
「わかったあ」
バカラとスロットに分かれた。
「えり!全然そろわないよ。そっちは?」
「まあまあ出てるよ」
「いいなあ。台を変えてみようっと」
2人は、しばらくスロットをやっていた。
「だめだー!」
キャサリンとシアルが戻ってきた。
「どうだった?」
「全然ダメだよ」
「そっちは?」
「えりがまあまあ出てるみたい」
「えり!どう?」
「さっき大きく当たったからまずまずよ」
「いいなあ」
「でもキリがないから行こうかあ」
「しかももういい時間だしね」
「うんうん」
4人は、テラスに向かった。
「こっちだよ」
「ここ景色いいねえ。太陽が沈むのを目の前で見れるよ」
「でしょ。喜んでもらえると嬉しいよ」
「さあ。座って」
8人は、男女交互に座った。
テーブルにシャンパンが運ばれてきた。
「乾杯!」
「改めてよろしくね」
「みんなはなんの専攻なの?今大学4年生なのかな?」
「そうだよ。私達は、心理学専攻だよ。えりだけが犯罪心理で、あとは、臨床心理だよ」
「そうなんだあ。俺たちは、メディカルスクール4年だよ。みんなとは、4歳上になるね。
えりちゃん犯罪心理なんだあ。哲也も法医学者志望だなあ。日本は、犯罪大国じゃなかったようなイメージなんだけどなあ」
「たまたま一緒になった2人の日本人が同じような分野だとは驚きだね」
「みんなお医者になるんだあ。すごいなあ」
「大変だよ。でも1人でも多くの人を助けられればね」
「心理分析されてたりして」
「ないない!」
「よかった」
「そろそろ陽が落ちるよ」
「綺麗だなあ」
「だね」
8人は、陽が落ちるのを見終わると、大学の研究の話、趣味の話をしながら食事を楽しんだ。
「いやあ。楽しかったなあ」
「食事終わって、これからバーにでもどう?」
「いいねえ」
「いこうかあ」
「じゃあ」
トムはキャサリンの手をとり、サムはメアリーと、テリーはシアンと、哲也はえりと話しながらバーへ向かった。
バーに着いたが2人テーブルしか空いておらず、2人テーブル4組に分かれて席についた。
「あらためてよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
「何飲む?」
「哲也さんは何にするんですか?」
「ウィスキーにでもするかなあ」
「じゃあ私も同じもので」
ウィスキーを2杯とナッツを哲也は持ってきた。
「犯罪心理って面白いね」
「色々あって、その中で自然と興味持ったんですよね。尊敬できる人に勧められたからということもあるんですが」
「そうなんだあ。多分あまりいい思い出ではなさそうだから聞かない方が良さそうだね」
「まあそうですね。哲也さんも法医学者なんてめずらしいですよね」
「俺にも似たような経験があったからかもなあ」
「そうでしたかあ」
「・・・」
「なんか湿っぽい話になったね。ごめんね」
「気になさらずに」
「大学院にいくの?」
「卒業したら日本に戻るつもりです。学問だけじゃなく実践経験積みたいなあって」
「すばらしいね」
「アメリカは、このあとインターンですよね」
「そうなんだよね。これから3年インターンだよ」
「あと3年。ながいですね」
「長いよ。ところで船旅は初めて?」
「はい」
「俺も初めてなんだよね」
「海の上にこんな大きな鉄が浮かぶなんてすごいよね」
「あらためて言われるとそうですよね」
「犯罪心理やってるとやっぱり人の動きをつい観察したりする?」
「まあたまにですけどね」
「このバーにいる人達見て、どう?」
「そうですね。船全体として子供が少ないのは意外で多分私達が一番若いと言ったとこでしょうか」
「なるほど」
「その中でこのバーに来ている人達は、40歳前後で、比較的裕福な方が多いですね。関係性としては、夫婦中心ではありますが、不倫関係の方も多いですね。例えばあの右のカップルなんかそうですね」
「どうしてわかるの?」
「開放的な空間では、一定の距離間を保ち、閉鎖的な空間では、より密接な距離を保つ傾向があると思うんですが、あのカップルは、船という閉鎖空間でかなりの親密な距離間ですね。ちなみに左と前カップルは、夫婦ですね。あの距離間と比較すると右のカップルがより近いといえますね」
「なるほどね」
「その他では、カウンターに1人で座る30代後半くらいの男性が3名いますが、優雅に船旅を楽しむにしては、先ほどから落ち着きがなく、この船を移動手段に使うにしては、若干違和感があります。特に左に座る男性は、周りをというより、右のカップルを気にしていますね」
「すごい洞察力だね。右のカップルを少し見てておいて。ひょっとしたら何かしらの展開があるかも」
「え!どうして?」
えりは、しばらく右のカップルを見ていた。

「きゃー!」
隣の男性が、いきなり倒れ込み、同席の女性が叫び声をあげた。
その場にいた人は、一斉に倒れ込んだ男性に視線をやった。
「え!」
「この場にお医者様いらっしゃいますか?」
「私たち医学生です!」
「少し診ていていただけませんか?医師を呼んできます」
哲也たちは、倒れ込んだ男性に駆け寄り、男性を診た。
「呼吸が弱い、脈も弱い、口から泡も」
「トム、テリーは水を大量に持ってきて」
「サムは、心肺蘇生をして」
「哲也!水!」
「テリー!嘔吐物吐き出させる要領で、胃を圧迫して」
テリーは、男性を少し引き起こし、胃の位置を背後から押すように圧迫を始めた。
哲也は、水の入った瓶を口にあて、次々水を男性に流し込んだ。
倒れた男性が、嘔吐を始めた。
「もっと水持ってきて」
「わかった」
哲也は、水を飲ませ、倒れた男性は嘔吐を繰り返した。
「少し脈が戻ってきたよ。あと少し」
船医が到着した。
哲也は、状況を船医に引き継ぎ、椅子に座った。
店員が、嘔吐物、食器を片付けようとした。
「まだ片付けたらダメよ」
「今いる人その場から動かないで」
えりが叫んだ。
「特にグラスはダメよ」
「哲也くん。状況からは、毒物なんでしょ」
「なんとか回復したところをみるとヒ素かもしれない」
「君。よくわかったね。適切な処置だったよ」
「法医学者めざしてて、殺人の状況等研究している中に生還症例があったんです」
落ち着いてくると、この場を離れたいと不満をいう乗客が出始めた。
「まだダメです」
さらに不満が募っていく。
(今この状況で、みんなを逃したら証拠隠滅されてしまう。まだ薬を入れていた容器とか何かしら持っているはず)
状況報告を受けた船長とセキュリティスタッフが駆けつけてきた。
「皆様。今殺人未遂事件が発生しました。ついては、船長権限で皆様を拘束させていただきます。あまり時間をお取りいただくつもりはありません。これからセキュリティスタッフがお名前をお聞きします。そちらをお聞きした方からご自由にしていただきたいと思います」
(え!だめよ。持ち物検査もしないと。仕方ない!止まれ)
時間が停止した。
えりは、まず連れの女性の手荷物と服のポケットを探した。
(ないわ。次はあの男ね)
このカップルをずっと見つめていた男の手荷物と服のポケットを調べ始めた。
えりが内ポケットを探ろうとジャケットをめくった。
(え!どうして拳銃が?)
さらに、詳しく持ち物を調べた。
男のポケットから身分証が出てきた。
(この人FBIなんだ。ということは、何らかの事件に関係してるんだ。ということは、恋のもつれとかじゃないなあ。ということは、犯人は誰だ?)
えりは、周りを見渡した。
(ちょっと待って。毒物が関与しているなら、グラスに近づける人だということだよね。あっ!あの店員は、何でこのタイミングで片付けようと。もし死ねばそのまま逃げるつもりだったが逃げ損なったのかもしれない)
えりは、さっきの店員を念入りに調べた。
(あ!これは!よし。あとは、どうやってこれを出させるかだなあ。やってみよう)
(動け!)
時間が動き始めた。
船長の発言に促され、セキュリティスタッフに名前を記入した人からバーを後にしていた。
「みんなその場で動かないで!」
「船長!ここにFBIの人がいます。当てたら、一つ言う通りにしてもらいたいのですが」
「FBIが?」
「お願いします」
「捜査協力をお願いしたいところではあるので、わかるのであればお願いします」
「あの人です」
「えりは指さした」
「え!おれ?」
「拳銃も持っているはずです。ジャケットをめくってみてください」
男がジャケットをめくると拳銃が現れた。
「あなた!拳銃を持ってるなんて!怪しいやつだ。そいつを拘束しろ!」
「待て待て待て!その子が言ったとおり、FBIだ」
その男は、身分証を提示した。
「船長!当たりましたよね」
「そうですね」
「俺を当てた彼女は、この事件の犯人に関しての願いだと思う。多分毒薬の残りや入れ物を持っているものの持ち物検査をさせたいんじゃないかな。俺がFBIの権限でやってもいいが」
「わかりました。聞きましょう」
「ありがとうございます。お察しの通りです」
「で誰を?」
「あの店員をお願いします。特に右ポケットを」
セキュリティスタッフが店員を押さえつけた。
船長が店員のポケットを探り、入っていたものをテーブルにだした。
テーブルには、薬を入れる紙フィルムが出てきた。
「これは!君!これはなんだね」
店員は、逃亡を図ろうとセキュリティスタッフを跳ね除けようとしたが、逆に押さえつけられた。
「あとは、我々が対応します」
FBIの男が、どこかに連絡をした。
「船長、倒れたら男性とこの男を搬送するために今ヘリを呼んだところです」
「わかりました。ヘリが着船できるように手配します」
「君達ありがとう。すごく助かったよ」
「船医!彼を動かしてもいいだろうかあ」
「今、容態は安定しています。ここでは、十分な治療は期待できないので、リスクはないわけではないですが、ここよりはましかと思います」
「状況は伝えてあるので、すぐ処置できるような準備でこちらに向かっています」
「それはありがたい」
「君達。本当にありがとう。君達の行動、事件解決を感謝して、少しお礼をさせてほしい」
「そんないいですよ」
「万が一この事件が解決しなければ、不安を乗客に与えたわけだから」
船長は、乗客係を呼んだ。
「この方々をスイートルームに移してくれ。あとは、食事、飲み物も全てフリーにしてくれ」
「そんな!悪いです」
「いいんだよ。どうせ空いてる部屋だし、見るからに大食漢でもなさそうだから、いくら飲み食いしても大したことではなさそうだからね」
「あはは!違ったかな」
「まあそうですけど」
「であれば決まりだ」
「客室係頼むな!」
「わかりました」
「いいのかなあ?」
「船長の気持ちも汲んだ方がいいかもね」
「船長!ありがとうございます」
トムが先んじてお礼をいった。
「トム!」
「いいの。いいの」
「こちらこそありがとう。では私は戻りますね」
乗客から歓声を浴びた。
犯人は、手錠で拘束され、セキュリティスタッフにより、部屋に閉じ込められた。
容態が安定し、被害者もセキュリティスタッフ同行のもと医務室に運ばれた。
FBIの男がえり達に近づいてきた。
「みんなありがとう。お手柄だよ。彼の命を助けてもくれて。彼は、重要な事件の証人なんだ。どうしても旅行にいきたいと言ってきかなかったたんだ」
「あ!内密にね」
「はい。わかっています」
「しかし、どうして私がFBIとわかったんだい?」
「哲也とここにいる乗客の動向をみていたんです」
(あら?たしか哲也は、「ひょっとしたら何かしらの展開が・・・」って言ってたような。わかってたってこと?)
(待って!対応も的確すぎだったし、普通は亡くなっていたはず)
「見てるだけでわかったの?」
「あ!倒れたカップルをじっとみてましたよね」
「なんでだろうって。カップルが不倫関係に見えてたので、調査の人かと思ったんですが。であれば見守る必要はないので。となると、犯罪、もしくはそれから守る2択になったんです。それで事件は起きて、まず動きを見ていた分なにもした形跡がなかったので犯罪者の線は消え、守る人となりますが、倒れた対応をしなかったので、素性がバレるとまずい。となるとFBIの一択になったんです」
「なるほど。じゃあ犯人を特定できた根拠は?」
「店員の行動です」
「片付けるには早すぎる」
「普通は、動揺をいくらかしているはず。いきなり片付けできるのは、冷静というか、異常です。ほかの目的があれば別ですが」
「なるほどね。確かに論理的だね」
「でもいずれも一か八かでしたよ。60%くらいの確率だったかもしれません」
(100%だったんだけど)
「でもその確率にかけたんだね。その勇気は素晴らしいね」
「ありがとうございます。一応犯罪心理を専攻しているので、確率低い場合でもありえることはわかっているつもりです」
「君達の名前を聞いてもいいかなあ」
「え!いいですけど」
8人は、渡された手帳に名前、連絡先を書いた。
「じゃあ私は、この辺で、旅を楽しんでね」
「ありがとうございました」

「ねえ!せっかくだからルームサービス頼んで部屋で飲まない?」
「そうだね」
「部屋の移動もあるしね」
客室係に渡された鍵を持って、部屋に戻り、スイートの階層に移動した。
「スイートってどうなのかなあ?」
「最上階だもんね」
「開けるよ」
キャサリンが扉を開けた。
「すごい!」
キャサリンが部屋中を見て回った。
「部屋が4つに分かれてるよ」
「夜だからわからないけど景色も良さそうだね」
「もう最高!えりと哲也くんのおかげだわ」
「そんなあ」
「早くあっちの部屋いかなきゃ」
「だね」
そのあと、えり達は楽しい旅を過ごした。

哲也との再会がまたえりにあることをこの時えりには知る由もなかった。

(なんで哲也くんが言ったように何かが起きたんだろう・・・)
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