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三章

114 はじまりの相手

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 赤い髪をなびかせた女性は、屋根の上をポンポンと飛んでいく。
 僕もその後を何とか追うも、中々追いつかない。
 城壁を越えた森の中へと入っていった。

 僕も森の中へと入る。
 数歩入った所で突然声をかけられた。

「ストーカーは気持ち悪いなぁ」
「あ……ええっと、ヒメヒナ?」
「そうだよ、背後から追ってくると思えばヴェル君か。
 女性の後を狙うとか欲求不満かい? 私だったら襲わなくても一言言ってくれれば、用事があるから手でいいかな」
「違うっ……」

 思わず力が抜ける。
 僕の顔を見ると、それじゃ後をつけて何のようなんだい? と真顔で聞いてきた。

 それを言われるとつらい。
 何となく見かけたから、後を追った。
 うん、立派な犯罪者だ。

「ごめん、ええっと純粋に興味があったと言うか」
「まったく物好きな、まぁ君も関係なくはないか」

 ヒメヒナは歩調をゆるめて森を歩く。

「始まりの丘と言ってね、オオヒナスズメが舞い降りた地とでも言うのかな。
 星術計算と天候、それに歴史の転換など全てを計算すると、師の復活は今日なんだ」
「ヒメヒナはその、師が復活して嬉しくない?」
「そりゃ嬉しいよ。そのままの師ならね」

 どういう意味だろと思うと、見えてきたよといわれた。
 共同墓地が見えて来た。
 体全体に空気がまとわりつく、開けた場所に一人の女性が立っている。
 
 赤毛の女性で手には剣を握っている。
 その足元には、全く同じ髪の色をした少女が血を流し倒れていた。
 顔に見覚えがありヒバリである、口からは血を流しピクリとも動いていない。

 ヒメヒナはその女性と目線が合うと膝を付く。

「これはお久しぶりですスズメ様」
「んーおひさ」

 軽い、あまりにも対応が軽いんだけど、その横で恐らく死んでいると思うヒバリとあまりにも場違いだ。

「その姿は二十代後半?」
「とおもうんだけどー……まいったわね。
 まさか死体から蘇らせるとは思わなかったわよ」
「私達にした技術を応用したんでしょうね。
 で、ヒバリが死んでるという事はヒバリの願いを受け成功したんですか?」
「ぜんぜーん不完全」

 師といわれる人は首を振る。
 僕をみて手を叩いた。

「あーヴェルじゃん」

 突然名指しをされたので困惑する。
 あった事もなければ見たことも無い完全な初対面。
 姿形こそちがうけど、その表情はマリエルに似ているかなとおもった。

「あ、そっか……。簡単にいうとーーほれ」

 僕に亀裂がはいった黒篭手を見せてくる。
 思わず眉を潜めた、僕の力が足りなかったばっかりにオオヒナは死んだ。

「まだわからないか、この中にあった記憶も一部受けづいているのじゃ」
「オオヒナ……っ!?」

 オオヒナの年寄り臭い喋りから、さっきまでの喋りにもどす彼女。

「まっ、一部の記憶だけね。今はオオヒナスズメと言うよりは……羽を失ったスズメという所かしら、さて二人とも」

 オオヒナ、いやオオヒナに似た女性は笑顔を向ける。
 その傍らにあったヒバリの死体から一本の剣を取り出した。
 とても嫌な予感がする。

「ほいっ」

 僕のほうへと長剣を投げ飛ばす、鞘から解かれた剣は僕の目の前に飛んできて、地面へと刺さった。
 てっきり斬られるかと思ったので、自分でも間抜けな声と自覚する。

「はい?」
「丸腰じゃかわいそうと思って」
「え……?」

 ヒメヒナが静に、
「死にたくなかったら構える事だね」
 と僕へとささやいた。

 次の瞬間、スズメは一気に迫ってきた。
 剣など持っていなかったはずなのに、その手には燃えるような火が見える長剣を握り締めている。
 一撃でヒメヒナの体を弾くと、僕へと迫って来た。
 
 とっさに地面から剣を抜くとその攻撃を受け流す。

「やるじゃない。さすがオオヒナが見込んだだけあるわね」
「待ったっ! 僕は貴女と戦うっ! 意思はないっ!」

 一撃、二撃、三撃と腕一本で防御すると、そのスズメの背後をヒメヒナが襲う。
 背後なんて見向きもせずに横に動くと、満足そうに僕達を見る。

「言ったでしょ、不完全だって。
 ヒバリが願ったのは死なのよ、それも絶対の死。
 オオヒナスズメが居た世界、その世界すら壊す死よ」

 無茶苦茶だ。

「理由があれば聞きたい……です」
「私が死んで、世界が変わるのが嫌だったんでしょうね。
 だから王国に篭っていた、変わるぐらいなら壊してしまえって所かしら。
 まぁ、殺したので本当の理由は知らないけど……、ヒメヒナの意見は?」

 スズメに振られて、ヒメヒナが真面目な顔で意見を言う。

「同じですね、だから私は王国を二つに割り帝国を作った。
 ヒバリが暴走しないようにと」
「だって、わかったヴェル君」

 だってと言われても……。
 やっと平和になりそうなのに全部を壊すなんて無茶苦茶だ。

「国を襲わなければいいのでは?」
「そうもしたいだんけどねー、そういう契約で復活してるのよ。
 私の本来の意思とは関係なしに」

 スズメは指をパチンと鳴らした。
 背後で大きな音が聞こえた、振り返るとさっきまで見えていた物が無かった。
 あるべき所にあった城の半分がなくなりパラパラと瓦礫が落ちていた。


「こうなるわけなのよねー。今のは城に仕掛けられた爆弾みたいな者ね。
 私の魔力で爆発するようにセットされていてー、ヒバリの死後一時間毎に発動するようになってるのよ。以後一時間毎にあちこち爆破されていくわよ」

 な……いや。え……。
 マリエルは城に行くって、それに女王だってあの中だ。
 直ぐに助けにっ。
 前を向くとスズメが酷く残念そうな顔を向けてきた。

「ちなみに、自ら死ぬのは出来ないし、反撃に手を抜く事も出来ない。
 いやー、よくこんな殺戮マシンを蘇らせたわね。
 後、こうしている間にも私の魔力は薄く広がっているわよ」

 僕は片腕で剣を握り直す。
 一気にスズメへと距離を詰めた。

「だったら、簡単ですね。
 すみませんが死んでください」
「うん殺してちょーだい」

 世界が止まって見えた。
 これで何度目かの体験だ、よく達人になるほど世界が止まるというけど、その一種だろうか。

「違うわよ?」

 っ!!
 スズメがにっこりと笑うと、僕の剣を赤い空気をまとった剣で受けとめた。

「オオヒナの力がまだ体に残っているんでしょ、あれは時を操る力。
 世界の時間を歪めたんでしょうけど……、わたしには聞かないのよねぇ」

 スズメの真後ろに来たヒメヒナが剣を振り下ろす。
 完全に死角からなのに、後ろ手を回すとヒメヒナの剣を指で摘んだ。

「はい残念」

 僕とヒメヒナを体を回転させながら投げ飛ばした。
 背中に痛みがくる、周りには壊れた墓石が散らばった。
 目の前にはヒメヒナがスズメへと剣を振るっている、スズメは涼しい顔でそれを受けている。

「まがい物の命なんだから、倒して貰わないとこまるんだけどー」
「師よ、だったら手を抜け」
「しょうがないじゃない、自動対応なんだからぁ、刃向かう敵は殺すって命令されてるのよ」

 攻防のわりに緊張感もない会話を話す二人。
 僕も再び立ち上がり剣を握った。
 
 何度も剣や体を吹き飛ばされる。
 強い……。
 気づけば僕の息が荒くなり手足がとても重い。
 周りの墓石はボロボロになっており、地面がえぐれ死体まで見える。あれから町のほうで三度の爆発が聞こえた。
 
 なのに目の前のスズメは、もうお終い? というような顔をしていた。
 無理だ……。

「あのー、殺して貰わないと困るんですけどー」
「だったら……死んでください……」

 そういうのが精一杯だ。
 ヒメヒナを探すと墓石へと背中を預け口笛を吹き始めた。

「あっちは諦めたみたいね、じゃ、止められないなら死んでくれる?
 しょうがないから魔王として世界に君臨するわ」

 スズメが僕の前へゆっくりと歩いてくる。
 そして剣を握った腕を大きく振り下ろすと……。
 
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