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三章

107 番外 一つ村の中で

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 こそこそこそ。
 皆寝てるわよね、わたしは自室の扉を開ける。
 左が両親の寝室。
 右はもう、戻ってこないヴェルの部屋……うん、それは今は置いておいてっと。

 裏口から家を出る。
 鳥が鳴いており、日の出が近いのがわかった。
 飼い馬の二頭は私の顔を見て速くご飯をくれと訴えているけど後でねと鼻の上をなでる。

 歩く事歩く事。
 滝の音が聞こえてきた。
 そこにある小さな小屋が二つ。
 一つは道具倉庫で、もう一つが簡単な小屋、一応中は泊まれる。

 そして道具倉庫の扉に手をかけようとすると、わたしの肩に手が置かれた。

「ひゃあああああああもごごごごごご」
「馬鹿、静にっ。あたしよナナよっ」
「私もいます」

 ナナっちと、コーネリアの声だ。
 
「ふ、ふたりともおはよう。その朝食はどうするかと思って」
「おはようじゃないわよ……私たちの小屋はあっち。
 こっちはあの男が寝てるだけよ」
「いやー、フローレンス間違えちゃったー」

 ……。

 …………。

 コーネリアが小さく咳をする。

「男のほうはまだ目覚めてません。
 顔は相変わらず仮面をつけていますし、外そうとすると無意識でしょうが暴れますのでそのままです。
 普通なら衰弱死も考えられますけど、傷の自己修復も考えるとハグレでしょう。
 ナナと交代で見張ってますので、何かあれば知らせますよ」

 コーネリアの説明の後にナナっちがぐったりした顔でわたしに喋る。

「そりゃフローレンス。
 失恋には新しい恋とは思いますわよ。でも血だらけのはぐれを突然運んでくれってのも驚きましたし、どうみてもあの人、帝国の人間が探していた人ですわよね。
 願いは聞きますけど、フローレンスに危害を加えようとするのであれば全力で狩りますわよ………………たとえ命が散ろうとも、ね」
「わかってる、で、でもね。多分大丈夫と思うのよ」
「まーた、はじまった……」

 私達が話していると、小屋の扉が突然開いた。
 身長の高い仮面の男性が黙って私達をみている。

 私を庇うように二人が前に出た。
 でも、わたしは二人の背後から声をかける。

「お、おはよう」
「ああ」

 彼は短い挨拶とともに周りをみている。
 もう一度わたしをみると口を開いた。

「フェイシモ村か……」
「つれて来ちゃった」

 コーネリアが事務的な声を出す。

「聖騎士第七部隊コーネリア。およびナナ。
 王国内で活動するハグレと確認しました、敵対行動をするのなら討伐の対象となります。
 なお、王都までの動向の義務を申し付けます」

 コーネリアの声に、身長の高い仮面の男性は呆れた目をしていた。

「女王が倒れ、ヒバリが行方不明なのにか?」
「っ!!」
「まさか……」

 気づくと私は抱きかかえられ、身長の高い仮面の男性から遠い場所へ運ばれていた。
 運んだのはコーネリアだ。

「え? え??」
「フローレンスさんは逃げてください。あの男性は危険です」

 それだけ言うとコーネリアはまっすぐに戻っていく。
 遠くではナナっちが、身長の高い仮面の男性へ攻撃をしかけていた。
 でも、なんていうか遊ばれているというか、あの人のほうにやる気が感じられない。

 あ、ナナっちが捕まった。
 わたしは急いで走る。

「まったああああ、ナナっちを殺さないでっ!!」

 三人の顔がわたしにむかう。
 身長の高い仮面の男性は、嬉しそうな顔でわたしをみると静に頷いた。
 片腕で持ち上げているナナっちをゆっくりと地面へと降ろす。

 ナナっちは凄い目で睨みつけているけど、彼は涼しい顔だ。
 いや、仮面の上からだけど……。

「これでいいか?」
「う、うん。その二人ともほら、彼にやる気ないしここは、ええっと……そう!。
 休戦、休戦ってことにしない?」
「休戦じゃなくて、敗戦ですわよ……そもそも彼方はなんなんですか」
「私からも聞きたいです、先日帝国兵がこの付近で会いました。
 恐らくは彼方を捜していると思います。
 私たちは、こちらの女性の要望で彼方を介抱させていただきましたけど……」

「ほおって置けばいいものを……」
「あんたねーっ! フローレンスがどうしても助けたいって言うからこっちは重たいのを我慢して……」

 ナナっちが怒り出す。
 身長の高い……ああ、めんどう彼でいいか。
 彼はナナっちの頭に手を置くとがしがしとなで始めた。

「え? あ、こらちょっと。髪が崩れるっ」
「それは手間をかけさせた」

 朝ごはんの時間ですよー!
 遠くから声が聞こえてきた。
 振り返るとママが大きく手を振っていた。
 馬に乗っているし、来るスピードが早い……ええっと、彼を隠さないとっ! ってももう遅いよねこれ。

 ってか、ママ馬乗れたんだ。

「さぁさぁ、朝ごはんの時間ですよ。
 お客であるお二人に小屋泊まりさせてすみません」
「いいえ、私達にまで毎日ご飯を……ありがとうございます。
 それであの、その……」
「ええっと、ママ、あのね」

 私もナナっちも言葉に詰まる。
 だって、彼の事何一つ説明してないんだもん。

「あらあら、フローレンスを今度こそはよろしくね」
「は?」

 ママが頭を下げている。

 流石のわたしもってか、全員目が点になる。

「……どういう意味だ」
「どういう意味なんでしょうね。所でお名前は?」
「名は無い……顔無しとでも呼んでくれ」
「フローレンスっ!」

 ママが突然わたしに向かって怒り出す。

「名前、付けてあげなさい」
「え? ええ??」
「いいですわよね?」
「別に構わないが……」


 ええっと……ヴェ……はまずいわよね。
 ジョンいや、ポチ……は昔飼っていた犬だし、シロはルーカスの家の猫。
 うーん、あ……。

「ロキ……ってのは」
「あら、フローレンスにしてはいい名前ね、それでいいかしらロキ」
「ふう……適いませんねマミ奥様」
「それじゃ、朝食にしますよー。うちのアルマがお腹を空かせてますしので」

 なんていうか、さすがママだ。
 口だけで全部を納めた。
 
 家に帰ると不機嫌なパパがいた。

「おそい、お腹が……」
「ごめんなさい、アルマさん」
「申し訳ありません村長さん」

 コーネリアとナナっちが謝ると、パパの顔がちょっと照れる。
 娘としてみたくないけど、まぁいいか。

「ごめんーパパ」
「ま、まぁ聖騎士の二人を向かえに言っていたのなら……」
「あなたお待ち同様。もう一人増えますので」
「お、そうか。また聖騎士さんかな? いやー第七部隊というのは綺麗な子ばかりで。
 どれど……」

 カターン。

 あ、パパがスプーンを落とした。

「もう、あなたったらしっかりと握っておいてください。フローレンス」
「は、はーい」

 わたしはパパが落としたスプーンを拾い上げると、綺麗な布で拭いてからパパの手に握らせる。
 固まったままのパパの横を、ロキが軽く頭を下げて素通りしていった。

 こないだまで四人、わたしとヴェルが出て行ってからは二人だった食卓に七人が座る。
 いや、一人座ってないけど……。
 ママが料理を取り分けると声をだす。

「さー食べて頂戴、いただきます」
「いただき……」
「いやいやいやいやいや、マミ! ちょっとおかしいよね」
「何がです?」
「何って、マミ、娘、聖騎士であり客人の二人、自分。
 この仮面の彼はなんだ」
「なんだって……娘の恋人ですよ?」

 その言葉に、ママ以外の全員が驚く。

「おい、フローレンスっ! ほ、ほんとうなのか?」
「え、いや……彼とはまだその、ええっと、そうなるといいかなーって」
「こんな仮面の男に、素顔にわからん相手にか!?」
「あ、顔は見たわよ」

 ゴン!。

 一際大きな音が聞こえた。
 テーブルの一部が欠けている、幸い料理はママとナナっちとコーネリアが両手を使って持ち上げていたけど、ロキがテーブルを壊したみたい。

「あ、言い忘れてたけど。うん、見た。そして確信した……」
「そうか……少し外の風に当たってくる」
「逃げないよね」
「逃げたらどうする?」
「今度は追いかける!」

 あ、ロキが仮面越しに少し笑ったがわかった。
 後ろでパパが何か言っているけど今は無視しよう。
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