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二章

63 マリエルさんの第二十七回緊急会議

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 今いる場所は商業都市シグマにある帝国宿。
 三人部屋の中に五人の人間が居る。

 僕、フローレンスお嬢様、マリエル、アデーレ、コーネリアだ。
 狭い……。

「はーい、第二十七回緊急会議ー」

 コーネリアとフローレンスお嬢様が拍手をする。

「あれ、二人ほどノリが悪いわね……」

 僕とアデーレである。
 ちなみに過去二十六回の会議はあったかどうかもわからない。

「気にせずに」
「ひど……、じゃぁこれからどうするか」
「僕は帝国の城へと行きます。
 良くしてもらった人の安否を確認して報告したい相手がいるので」
「ん」

 マリエルが短く返事をして、フローレンスお嬢様を見る。

「わたしもヴェルについて行くっ!」
「いやいやいやいや……フローレンスお嬢様っ!。
 ここは聖騎士に守られながら王国にですね」
「そこなのよねー」

 マリエルが割って入った。

「あの顔無しに悪いけど勝てる気しないわよ。
 しかもよ、撒いたはずなのにあっさりと、私達を見つけて来た。
 身分を隠しているはずなのに、それも見破った。
 ヴェルなら、この意味わかるわよね」

 遊ばれているのだ。
 つまり、ここで別れてもフローレンスお嬢様は安全には帰れない。

「す、すみません、私が足手まといなばっかりにっ!」

 コーネリアが謝りだす。

「違うわよ。
 私に、コーネリア、アデーレが三人いても全滅するわね、アデーレの意見は?」
「隊長の決定に従う、それだけです」
「ありがと」
「はいはいはいー、わたしあの人ってそんなに悪い人にみえないんですけどー」

 元気いっぱいにフローレンスお嬢様が手を上げた。

「そりゃ、わたしをさらった人だけどー、旅は不自由しなかったし。
 まぁでも、わたしにはヴェルがいるしー、ちゃんと話し合えば、お付き合いできないのも判ってくれると思うのよねー」
「偽造しないでください。
 僕は誰とも付き合ってません」
「じゃ、私達じゃ役不足でしょうけど、帝都まで送るわよ。
 顔無しってのが、帝国の人間なのはわかったし、花嫁探しのために領土進入も突っ込めるかもしれない。
 一般人が言うより、私たちが言った方がいいでしょ?。
 ただ……ファーのほうで根回ししてもらわないといけないけどー」

 はぁ……。
 未来を知っていても上手くいかないもんだ。
 村が襲われるのは回避した、マリエル達が死ぬのも回避した。
 でも、二回目の襲撃は防げなかったし、襲撃と思っていたのは僕らだけで実際は穏便な交渉。
 助けたはずのフローレンスお嬢様も、別に酷い目にはあっていないし、これじゃ僕達のほうが悪人だ。
 
「わかりました、マリエル達にお任せします」
「じゃ、解散ね」

 僕は立ち上がり、部屋から出て行こうとする。

「っと、ヴェルはこっちの部屋よ」

 立ち止まって後ろを見る。
 三人部屋だ。
 隣は二人部屋。

「いや、でも三人部屋ですし。
 マリエル達が使うのでは?」
「あのねー……、付き合っても居ない男女を一緒の部屋に泊めれないでしょうに」
「くっ! 既成事実のちゃんすをおばさんに止められた」

 背後でフローレンスお嬢様の呟きが聞こえた。

「そこー、聞こえてるわよっ! もっとも、おこちゃまと一緒じゃ既成事実も何も起きないでしょうけどー」
「うがあああ、まな板な人にいわれたくないですしー」
「ばっ! あるよっ! 私だってちゃんとあるんだからっ!」

 コーネリアは、あわわとして、アデーレは壁に寄りかかっている。
 どうするべきか。

 一、五人で一緒の部屋で寝る。
 二、他の人と一緒の部屋で寝る。 

 どっちもだめだろう。

「それでしたら、僕は別宿にいきますので明日の朝落ち合うという事で」

 最悪野宿すればそれでいい。

「部屋振りはもう決まっているわよ。
 私とヴェルと、フローレンスさんが三人部屋。
 これだったら問題ないでしょ」
「えー……、でも。
 この人と一緒に部屋よりは安全かも」

 コーネリアがポンと手を叩く。

「私とアデーレさんが一緒ですね」
「じゃ、決まった所でご飯にしましょう」

 僕の意見は無かった事にされる。
 いや、いいんだけどさ……。
 マリエルが手を数回叩き、第何回か忘れた緊急会議は終わった。
 食事する場所は無い宿なので全員で外に出た。
 食べ終わった頃には既に日暮れであった。

「さて……、次は私の用事をすましますかっ」

 マリエルが腕を伸ばして欠伸をする。
 立ち止まると僕の肩を軽くつつく。

「ヴェルちょっと付き合って」
「はぁ……」
「ちょっと、わたしのヴェルとどこにっ」
「フローレンスお嬢様の物ではありません。
 いえ、以前はそうだったかもしれまんけど……」
「簡単な力合わせよ……、これだからお子様は」

 コーネリアが、文句を言い出しそうなフローレンスお嬢様の両肩を後ろから叩いた。

「フローレンスさん、この先に美味しいアイスクリーム屋さんがあるって教えてもらったんですっ、一緒にいきませんかっ!」
「アイスっ!!」

 フローレンスお嬢様は僕を見る。
 許可を求めているのだろうけど、僕はもう召使ではない。
 と、いうか……。
 召使に許可を求めるフローレンスお嬢様もお嬢様だし、それを認めていた村長夫妻も変だったのではないだろうか。

「別に僕の許可はいりません」
「癖って怖いわよね、ちゃんとヴェルの分も買っておくから早く戻ってきてね」
「二人だけだったら食べ過ぎるかもしれない、付き合おう」

 アデーレも二人について行った。
 口ではああ言っているが、護衛も兼ねてだろう。

 僕とマリエルだけが残される。

「さて、力試しでしたね。
 と、いっても僕の力は以前と変りませんよ」
「色々とごめん」
「はい?」
「ヴェルを殺そうとした事よ」

 ああ、なるほど……。
 手合わせというのは口実で僕に話しがあったのか。

「いえ、気にしません」
「そこ座らない?」

 マリエルは指を差すと噴水近くのベンチへと座った。
 僕も隣に座る。

「ヴェルの言うとおりカーヴェの近くで賊は居た。
 カーヴェの町を拠点としたクーデーターも、祭りを早くするという事で難を逃れた。
 もっとも、首謀者はマキシムではなく三下の貴族。
 全て当っていた……、本当に未来から来たのかしら」
「…………。
 いえ、あの時は自分が助かりたくて嘘を付いていました。
 帝国に情報通がいまして、王国が混乱すると困ると思って」
「ふーん……」

 マリエルが白い眼をして僕を見ている。
 別に僕が未来から来たとか、信じて貰えないからとかではない。
 僕が好きだったマリエルは、あの時のマリエルだ。
 今が嫌いとかではない。

「そういえば、ミントが妊娠した話知ってる?」
「ええっ! まだ子供ですよ……ね……」

 マリエルがにへらーと笑う。
 あっ……。

「ミントとも会った事ないわよね、ましてやなんで子供ってわかるのかしら?」
「えーっと、その……」
「最近ね夢を見るのよ」
「夢ですか……?」

 突然なんだろう。

「そう、村を滅ぼされた可愛そうな少年と一緒に王都を目指す夢。
 結局途中で別れるんだけど、別れる前に宿で一緒のベッドを使うの」
「っ」

 僕は息を飲む。
 前の世界での記憶だ、いやでもなんで……。
 ごまかすべきなのか、その夢は本当に起こった事ですと、言ったほうがいいのか……。
 取り合えずごまかそう。

「よ、欲求不満なんですか?」
「殺すわよっ!」
 
 ほほを少し赤くしたマリエルが立ち上がると、遠くからフローレンスお嬢様が走ってくる。

「いたいた、ヴェルー。
 遅いから迎えに来たわよー」
「はぁもうまったく……、せっかく真面目な話していたのに」

 ねーっと、僕へ言ってくるマリエル、どう答えていいかわからなかった。
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