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二章

60 針のむしろ、胃薬が欲しいと後に語る

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 最後に別れた時の鬼気迫る顔ではなく、親しみやすい笑顔で僕を見つめてくる。

「その、腕は大丈夫?」
「え?」
「ほら、ちぎれたじゃない」
「あっ……うん。
 今は動くよ」
「そう、よかった」

 ……。

 …………。

 なんだこの気恥ずかしさは。

「うがーーーーーーーーーっ!!!」

 突然、僕とマリエルの間に奇声をだして割ってはいるフローレンスお嬢様。

「わっ」
「っと、フローレンスお嬢様驚かせないで下さい」
「なんでヴェルを追い出した奴が此処にいるのよっ!。
 それに近い、あんたヴェルとの距離が近いからっ」
「なんでと言われても、君を助けだすためにいるんだけど」

 怒るフローレンスお嬢様の顔に人差し指を突きつけるマリエル。
 僕は思わず疑問の声を出してしまった。

「なんで……」

 僕の声に不満顔になったマリエルは僕の方に向いて説明してくる。

「なんでって、君もかっ。
 フェイシモ村が襲われたって聞いてね、行ったはいいけど……。
 建物には目立った被害は無し。
 ただ、村長の娘が全て丸く押さえる為に付いていったと」

 僕は思わずフローレンスお嬢様を見た。

「そうなのですか?」
「え、う……うん。
 いや、箱が欲しいって交渉に来て、その時に私と結婚したいって人が居てね。
 私も断ったのよ? でも、ヴェルだって居なくなったし、顔を見せるだけでいいからって、不自由もしない旅にするって言われたし……」

 初耳だ。
 てっきりフェイシモ村が襲われ、フローレンスお嬢様も村も何もかも怖されたのかと。

「普通なら、それで終わる事件なんだけどお……」

 茂みから長身の人間が出てきた。
 フードを取った。
 一瞬男性に見えたけど黒髪をした女性が、マリエルの横に立ち並ぶ。
 弓使いのアデーレだ

「隊長、撒いて来ました。
 馬は足が付くといけないので森に放してきました」
「もう一人はアデーレだったのか……ありがとう」

 兵士を撒いてくれた人の名前を言う。
 口数の少ないアデーレの眉が小さく動く。

「すみません。
 初対面ですよね」

 しまったあああっ。
 この失敗は二回目である、初対面だけど初対面じゃない。
 えーっと……。

「そうマリエルが、弓を使う隊員がいるって褒めてたからてっきりそうかと。
 ヴェルと言います」

 僕の言葉にしばし時間が止まった気がした。

「へー、私ってそんな事言ってたんだー」
「ふーん、ヴェルって。
 話だけで見た事もない女性の事を気に留めているんだー」

 マリエルとフローレンスお嬢様の白い眼が視線として突き刺さる。
 
「と、所でマリエル。ファーや他の隊員も一緒に来てるの」
「ん? 近くの町にコーネリアもいるけど……、ファーね……」

 よかった、コーネリアも無事だ。
 そもそも、僕が第七部隊は情報不足で奇襲されたんだ、相手を知っている以上マリエル達にだって対策は出来たはずだ。
 コーネリアもあの夜みたいに突進する事はないだろうし。

 マリエルを見ると、困った顔をしていた。

「も、もしかしてファーが命に関わるような怪我とか」
「いやあ……ピンピンよ」

 何か言いたそうなマリエルの顔、歯切れの悪い言葉で続きを喋る。

「実は黙って置いてきちゃった」
「えええっ」

 思わず声を上げると、頬をぽりぽりとかくマリエル。
 僕はアデーレの顔を見て、マリエルをもう一度視た。

「いや、だって黙って行かないと、帝国側へ入るって言ったらファー怒るし止めるでしょ。
 本来この依頼は国扱いじゃないのよ。
 フローレンスちゃんの父親、アルマ村長が娘が騙されないか見てきてくれって、凄いお願いされてね。
 だからこっそり来て、こっそり見てきて直ぐ戻ればいいかなーって、もちろん問題があればこっそり助けようと思っていたし」
「自分とコーネリアは隊長がこっそり村を出て行くのを視て付いて来た」

 アデーレが簡潔に喋る。

「もう一人で来るつもりだったのに、姑に付きまとわれている気分だわ」

 文句は言いつつも顔は笑っており信頼の証なのが視てわかる。
 アデーレがマリエルに話しかける。

「では、隊長、目的も済んだので帰りましょう。
 万が一聖騎士が帝国に居ると解ったら大問題です」
「うう、それよね。
 帰ったら全部押し付けてきたファーに殺されそうだわ」

 肩を落とすマリエルに、フローレンスお嬢様がマリエルへと向き直る。

「何、フローレンスちゃん」
「子供扱いしないでよっ!
 そ、その。
 助けに来てくれたのよね、ありがとうございます」

 マリエルも僕も驚きで眼が点になる。
 まさかお礼を言うとは思わなかったからだ。

「いいのよ、色々と気になる事多いし、好きでやっているのだから。
 それに彼に会いたいってのもあったのよね」

 僕の顔みて不敵に笑うマリエル。
 
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