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二章

50 命の恩人達

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 思ったよりも傷は深かった。
 と、いうのはアレから数日たつのに今だに腕を動かすと痛いからだ。
 足もなえており、昨日までは立つ事も難しかった。
 今は立てるけど、走る事はまだ出来そうにまだない。
 フランに言わせると、それでも回復は早いらしい。
 
「にいちゃん、飯もってきたよー」
「きたよー」

 僕が寝泊りしている小屋の扉が開く。
 フランと一緒に住む二人の子供、トモとミヤだ。
 僕はお礼を言う。

「ありがとう」
「おとっつあん、それは言わない約束だよ」

 トモが芝居かかった口調で喋ってきた。
 思わず微笑むと大人の女性の声がかかる。

「どうですえ? 体のほうは」

 フランだ。
 トモとミアと一緒に付いて来たのだろう。

「お掛け様で、後数日もすれば完全に動けると思います」
「そうですかえ」
「フランのおかげです」
「嬉しい事をいうんですえ、まぁ貰うもんは貰ってるさかいに」

 ガランガランと、遠くで鐘の音が聞こえた。
 フランも僕もその音で会話が止まる。

「トモ、ミア」
「「はーい」」 

 二人が駆け出して小屋から出て行った。

「柵につけている呼び鈴ですわえ、そんな緊張しなくても大丈夫さかえ」
「緊張してましたかね」
「王国の追っ手もここまではきいへんえ」

 僕の顔を見た後に、フランは微笑む。

「そない驚いたしなさって変った人やえ。
 だって、あんさん王国から逃げてきたんやろ?」
「…………結果的にそうなっただけです」

 逃げたくて逃げたわけではない。

「何かあったかしらへんけど、あんさんの古傷をえぐったかえ?。
 ウチも言い過ぎたさかえ、堪忍」
「こっちも、ごめん。
 古傷とかじゃなくて……言葉が出ないです」

 小屋の扉が開く。
 トモが入ってきた。

「ママー、オジサンが来た。
 オーフェンのオジサン」
「はぁ、あの馬鹿またきたんですかえ」

 フランの声と同時に、小屋へ入ってくる青年。
 男というのに背中まで届く金髪、首の後ろで紐でまとめてあり、馬の尻尾にも見える。
 旅慣れしているのか複数ポケットが付いた袖の無い上着に、半そでの服。
 腰には短めの剣が二本付いていた。
 背後にはミアがしがみ付いて遊んでいる、

「フラン姐、小屋に居るって聞いたから……」

 言葉が止まる。
 フランの後に僕を見たからだ。

「えーっと、ヴェルと言います」
「オーフェンだ……」

 なぜか気まずい。
 オーフェンは僕を睨んでいる。

「フラン姐っ!」
「なんどすえ」
「趣味がわるくないか?。
 そんな男に困っているなら俺が今すぐに、極楽へいかせてやる!」

 あー……。
 いわゆる僕は間男と言う奴と思われているんだろう。
 オーフェンは、ミアを背中から降ろすと、腰のベルトを外した。
 上半身のベストを取りシャツも脱ぎだす。
 いやいやいや、なんで服を脱ぐし。
 フランを見ると、指をポキポキと鳴らし始めた。

「オーフェン、愚息を出すのと、胴と頭が離れるのとどっちがいいかえ?」
「愚息!」
「……」
「……」

 即答できるのが凄い。
 気付いたら、フランの手には既に紙のような刀身の剣があった。
 ムチのようにしなる、自由自在の剣。
 長い刀身はオーフェンの首元にある。

「わかった、冗談だよ、冗談」

 オーフェンはしぶしぶ服を着始める。

「あの、勘違いしているようなので」
「あっん?」
「僕は傷の手当で厄介になってるだけで、そういう特殊な関係では」
「へ、口では何とでもいえるわなっ」

 完全にすねてる。

「そうやえ、口では何とでも言えますわえ。
 アイシャ、コウラン、スグモ、サトコ、アイ、ミンシア、フレック、マーシャル、ネイネイ後は……」

 フランは女性の名前を次々に言い出す。
 オーフェンは直ぐにフランへと土下座をした。

「その節は悪かったっ!」
「あの……?」
「この馬鹿が、ウチと付き合っている間にした浮気相手の名前ですえ」
「本命はフラン姐だけ!」
「よくいうますわえ、で。
 今日の用事はなんどすえ? デート代の前貸しかえ? 前のがまだ返してもらってへえんけど」 

 思わず白い目でオーフェンを見つめる。
 最低だ。
 散々浮気しながら元彼女にお金をせびりに来る男。

「お前にそんな白い目で見られる筋合いはない。
 考えても見ろ、男がいて女がいる口説かないほうがおかしいじゃないか。
 デート代は男が持つもんだろ」

 僕としては余りわからない理由を力説される。
 しかし格好は以前として土下座のままで説得力がまったくない。
 散々口説いた結果がこの始末である。

「で、幾らほしいんえ」

 フランが諦めた声で服の胸元へと手を入れた。
 中から小さな皮袋が出てきた、紐を解くと中の金貨を数えてるらしい。
 出すのか……。

「今日は金のせびりじゃなくて、仕事の話だ。
 その、なんていうか……」
「なんや、はよいい」
「姐さんすまん、箱が盗まれたっ」
「ウチ、ちょっと耳がわるうなったも知れへん」
「重々承知してます。
 でも、フラン姐聞いてくれ。
 俺が悪いんじゃなくて、ジンの一派が横からというか」
 
 オーフェンはポケットからハンカチをだして、顔の汗を拭いていく。

「失敗は誰にでもあるとおもってますえ。
 まぁええ……。
 所でその手に持ってるのなんなんえ」

 短く言うフランは、オーフェンの右手を指している。
 僕も横からみるがレースが付いた黒いハンカチにしか見えない。
 
「何ってどこからどうみてもハンカ――」

 自ら広げるオーフェン。
 そのハンカチは三角上の布になっておりレースと刺繍が可愛らしく付いている。
 広げるとハンカチと思っていた物は何処からどうみても、下着。
 それも女性物だ。

「――チじゃないですねっこれ」

 ミアが気付いて騒ぎ出す。

「ママのぱんつー」

 ミアが叫び、隣のトモが聞く。

「ミア、本当か?」
「うんっ、だってママと一緒に買いに行ったもん。
 でも、こないだから無くなったって言ってた」

 トモの質問に、ミアが元気いっぱに答えた。

「聴いてくれ、先日来た時に家に行くと誰も居なくてな。
 無用心と思った俺は、大事な物を盗まれないように保管しようとな、ほら、だって勝負下着は大事な……」

 泥棒に盗まれないように、先に盗んだ。
 当然そんな理屈は通らないだろう、トモとミアが声を出して騒ぐ。

「オーフェンのドロボー」
「ドロボー」

 フランの顔がにっこりと微笑む。

「死になさえ」

 構えている剣を真っ直ぐにオーフェンへと突き刺す。
 オーフェンも逃げるが、ムチのようにしなった剣が、次々とオーフェンへ向かっていく。
 あちこちが破壊され、それでもオーフェンは謝りながら逃げていた。

「まったまったっ!。
 それよりもっ、うお、あぶねえっ!。
 ジン達に先にをこされっ。
 フェイシモ村が襲われたっ!」

 なっ!
 フェイシモ村って……。

「フランっ!」
「ん? なんやえ」
「フェイシモ村が、マミレシア王国のフェイシモ村であれば話を聞かせて欲しい」

 攻撃を止めたフランと、逃げ回るオーフェンの顔が険しくなり、僕を見ていた。
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