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二章
47 逃亡者の弁解
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人の手が余り入っていない岩山を駆け上がる。
時には石を時には木を蹴り全身の力を使い走る。
ファーは撒く事に成功した、迫ってくる足音が減ったからだ。
背後を守るため岩の前で僕は足を止める、荒くなった息を数度深呼吸して落ちるかせた。
「聞いてくださいっ」
僕は後ろを振り返り叫ぶ。
黒い物体が飛んでくるのを首だけでかわすと、先ほどまで頭があった場所には短く細い剣が二本、岩へと刺さっていた。
「往生際が悪いっ」
木々の隙間から叫ぶマリエルは長い剣を構え走ってくる。
体を切られる寸前、マリエルの腕を必死で止めた。
力が均衡していて、お互いに一歩も引かない。
マリエルと僕の顔の距離が直ぐ近くまで迫っている。
僕とマリエルの荒い吐息が交差する。
「き、聞いてくださいっ」
「命乞いは聞かない主義なの」
「殺されてもいいんです。
でも、その前に聞いてください」
離れたマリエルへ再度呼びかける。
「それじゃ、私も一ついいかしら。
ヴェルの剣技は何処で覚えたの、そこまで強いのに……何故反撃してこないのよ」
「僕は……、マリエルを傷つけたくないっ」
「……理由は?」
僕の剣技はマリエルから継承された物だ。
彼女の動き方が何となくであるけどわかった。
その分攻撃を避けるのは何とかなるのだが、経験の差だろうジリジリと追い詰められている。
それに、彼女を助けるために戻ったのに、切るわけにいかない。
「そう、やっぱりハグレはハグレって事よね」
「信じて貰えないでしょうし」
「言ってみたら? 信じてみるかもよ」
「ファーを待つ時間稼ぎですよね」
「当然」
僕は大きく息を吸うと更に話しかける。
だったら、言ってみるか……。
「僕は別の未来から来ました。
これから一ヶ月以内に、カーヴェの町で第三部隊のマキシム隊長が率いる作戦があります」
僕の言葉にマリエルの驚く顔が見えた。
「ちょ……」
「作戦は、カーヴェの町を帝国から守るという作戦。
敵はタチアナからカーヴェの町に行く途中の山に潜んでいます。
そこで聖騎士の力を無力化する毒の開発も起きています。
そこを潰すと、マリエル達が敵と見なされ全員が殺されます、同時に女王も殺されます。
それに僕の力は別の未来でマリエルが僕に託してくれた力、篭手の力を他人に渡す継承の力」
「信じろと……?。
ごめん、君は占い師か詐欺師か何かかな?」
「違います、でも信じて欲しいマリエル」
飛来した長剣が右肩に刺さった。
そのまま後ろの岩へと、虫の標本のようにされる。
マリエルが後ろへ飛びのく。
「ハァハァ……お待たせしました隊長。
深くにもまかれそうになりました」
「丁度良いタイミング。
私と同じぐらい強いから追い付けないのはしょうがないわよ」
「隊長、顔色が変ですけど……」
「そ、そうでもないわ」
「とは言え、捕らえました」
「ええっと、ファー」
「なんでしょう?」
「やっぱり、殺さないで少し話を……」
「いいえ、ハグレである以上排除したほうがいいに決まっています」
困った顔をしたマリエルから剣を奪うようにするファー。
このままでは僕はここで死ぬだろう。
「ま、それでもいいか……」
肩から血がながれ下に血だまりを作っていく。
伝えたい事は伝えた。
これで未来が変る……のか? でも、もう確認しようがない。
彼女達に殺されるなら……。
「僕はここで殺されてもいいです。
でも、さっきの話は信じてください。
でなければ……、マリエルだけじゃない」
「何を言ったか知りませんが、こちらの錯乱するのは頂けません」
ファーが構えなおす。
その肩にマリエルが手を置く。
「私がする」
マリエルは、ファーから剣を再び受け取ると真っ直ぐに突進してきた。
心臓の近くに真っ直ぐ剣が突き刺さった。
ゴフッ!。
思わず口から血が吐き出る。
真っ直ぐにマリエルを見ると、マリエルも僕の眼を真っ直ぐ見ていた。
背後にいるファーは見えない。
「聞こえる?」
小さい声で僕へと話す。
「全部は信じられない……。
でも、ヴェルのいう事が本当なら逃げなさい。
聖騎士の力……、私の力が継承しているなら、この傷は治るはず」
「なぜ……くっ」
「感っ、それに知らない事を知りすぎている、ファーに気付かれる、早くっ!!」
迷っている時間は無かった。
ありったけの力を全身に入れる。
いつの間にか僕の口が開いていた、右肩の神経がブチブチと切れる感触が解る、肩の骨が大きく外れる。
「うあああああああアアアアアアアァァァァッッ」
叫び声を聞いて、マリエルが大きく離れた。
マリエルは後ろへ下がる時に胸を刺した剣を引き抜いていった。
これで僕に刺さった剣は、肩に刺さっている剣だけだ。
「マリエル隊長っ!」
「く、何か仕掛けてくるかもっ、距離を取るわよっ!」
僕は剣で固定されている右肩を更に力を込めた。
直ぐに押さえつけられていた圧力が無くなる、そう僕は右腕を肩から強引に引きちぎったのだ。
不思議と痛みは襲って来ない。
右腕が地面に音を立てて落ちる、僕はそれを持ちもう一度逃げるつもりであった。
右腕が無くなった事により体のバランスが取れず思わず膝を付く。
前を見るとファーが驚いた顔をしている、直ぐにでも走ってくるつもりだ。
僕を抑えつけていた剣が岩から落ちた。
それを掴むと二人の間へと真っ直ぐに投げる。
「マリエル隊長っ!」
「私はだいじょ……、いやあああああああああああああ」
マリエルが叫び声を上げて、ファーの気が僕からそれた。
「ヘビ、ヘビはいやなんだってっ!」
「なっ、職務中ですっ! 少しは我慢を」
「し、しってるけどさーっ」
僕は二人の後ろにいるヘビへと狙いを定めて、剣を投げたのだ。
素なのか演技なのか、マリエルは時間を稼いでくれた。
この機に僕は落ちた右腕を掴み山の頂上へ走った。
走りながら千切れた右腕を体の右側に押し当てる。
継承されたマリエルとしての力か、左腕に嵌めてある黒篭手オオヒナ。
どちらかの力で傷は治るだろう。
白い湯気が立ち傷が塞がっていくのが感じられる。
その代償が直ぐに僕を襲ってくる。
誰かの言葉を思い出す。
傷が深ければ深いほど治すのに意識が無くなると。
走り出して直ぐに水の音が聞こえ始めた。
「着いた……」
山頂に出ると大きな滝がみえた。昔帝国から密売にきた秘密の抜け道があると教えられた滝である。
滝から続く川は国境の役割もしていて川下にいくほど幅が広くなっていく。滝の裏側ならまだギリギリ人が通れるはずだ。
フェイシモ村の川もこの川と繋がっている。
帝国側の商人が良く使う抜け道だ。
背後では、ファーとマリエルの叫び声が聞こえてきた。
いくら彼女達でも帝国領には勝手に入れない。
滝裏へ行こうととした瞬間、僕の足は空を切っていた。
体全体が水につかり上下左右がわからなくなる。
時には石を時には木を蹴り全身の力を使い走る。
ファーは撒く事に成功した、迫ってくる足音が減ったからだ。
背後を守るため岩の前で僕は足を止める、荒くなった息を数度深呼吸して落ちるかせた。
「聞いてくださいっ」
僕は後ろを振り返り叫ぶ。
黒い物体が飛んでくるのを首だけでかわすと、先ほどまで頭があった場所には短く細い剣が二本、岩へと刺さっていた。
「往生際が悪いっ」
木々の隙間から叫ぶマリエルは長い剣を構え走ってくる。
体を切られる寸前、マリエルの腕を必死で止めた。
力が均衡していて、お互いに一歩も引かない。
マリエルと僕の顔の距離が直ぐ近くまで迫っている。
僕とマリエルの荒い吐息が交差する。
「き、聞いてくださいっ」
「命乞いは聞かない主義なの」
「殺されてもいいんです。
でも、その前に聞いてください」
離れたマリエルへ再度呼びかける。
「それじゃ、私も一ついいかしら。
ヴェルの剣技は何処で覚えたの、そこまで強いのに……何故反撃してこないのよ」
「僕は……、マリエルを傷つけたくないっ」
「……理由は?」
僕の剣技はマリエルから継承された物だ。
彼女の動き方が何となくであるけどわかった。
その分攻撃を避けるのは何とかなるのだが、経験の差だろうジリジリと追い詰められている。
それに、彼女を助けるために戻ったのに、切るわけにいかない。
「そう、やっぱりハグレはハグレって事よね」
「信じて貰えないでしょうし」
「言ってみたら? 信じてみるかもよ」
「ファーを待つ時間稼ぎですよね」
「当然」
僕は大きく息を吸うと更に話しかける。
だったら、言ってみるか……。
「僕は別の未来から来ました。
これから一ヶ月以内に、カーヴェの町で第三部隊のマキシム隊長が率いる作戦があります」
僕の言葉にマリエルの驚く顔が見えた。
「ちょ……」
「作戦は、カーヴェの町を帝国から守るという作戦。
敵はタチアナからカーヴェの町に行く途中の山に潜んでいます。
そこで聖騎士の力を無力化する毒の開発も起きています。
そこを潰すと、マリエル達が敵と見なされ全員が殺されます、同時に女王も殺されます。
それに僕の力は別の未来でマリエルが僕に託してくれた力、篭手の力を他人に渡す継承の力」
「信じろと……?。
ごめん、君は占い師か詐欺師か何かかな?」
「違います、でも信じて欲しいマリエル」
飛来した長剣が右肩に刺さった。
そのまま後ろの岩へと、虫の標本のようにされる。
マリエルが後ろへ飛びのく。
「ハァハァ……お待たせしました隊長。
深くにもまかれそうになりました」
「丁度良いタイミング。
私と同じぐらい強いから追い付けないのはしょうがないわよ」
「隊長、顔色が変ですけど……」
「そ、そうでもないわ」
「とは言え、捕らえました」
「ええっと、ファー」
「なんでしょう?」
「やっぱり、殺さないで少し話を……」
「いいえ、ハグレである以上排除したほうがいいに決まっています」
困った顔をしたマリエルから剣を奪うようにするファー。
このままでは僕はここで死ぬだろう。
「ま、それでもいいか……」
肩から血がながれ下に血だまりを作っていく。
伝えたい事は伝えた。
これで未来が変る……のか? でも、もう確認しようがない。
彼女達に殺されるなら……。
「僕はここで殺されてもいいです。
でも、さっきの話は信じてください。
でなければ……、マリエルだけじゃない」
「何を言ったか知りませんが、こちらの錯乱するのは頂けません」
ファーが構えなおす。
その肩にマリエルが手を置く。
「私がする」
マリエルは、ファーから剣を再び受け取ると真っ直ぐに突進してきた。
心臓の近くに真っ直ぐ剣が突き刺さった。
ゴフッ!。
思わず口から血が吐き出る。
真っ直ぐにマリエルを見ると、マリエルも僕の眼を真っ直ぐ見ていた。
背後にいるファーは見えない。
「聞こえる?」
小さい声で僕へと話す。
「全部は信じられない……。
でも、ヴェルのいう事が本当なら逃げなさい。
聖騎士の力……、私の力が継承しているなら、この傷は治るはず」
「なぜ……くっ」
「感っ、それに知らない事を知りすぎている、ファーに気付かれる、早くっ!!」
迷っている時間は無かった。
ありったけの力を全身に入れる。
いつの間にか僕の口が開いていた、右肩の神経がブチブチと切れる感触が解る、肩の骨が大きく外れる。
「うあああああああアアアアアアアァァァァッッ」
叫び声を聞いて、マリエルが大きく離れた。
マリエルは後ろへ下がる時に胸を刺した剣を引き抜いていった。
これで僕に刺さった剣は、肩に刺さっている剣だけだ。
「マリエル隊長っ!」
「く、何か仕掛けてくるかもっ、距離を取るわよっ!」
僕は剣で固定されている右肩を更に力を込めた。
直ぐに押さえつけられていた圧力が無くなる、そう僕は右腕を肩から強引に引きちぎったのだ。
不思議と痛みは襲って来ない。
右腕が地面に音を立てて落ちる、僕はそれを持ちもう一度逃げるつもりであった。
右腕が無くなった事により体のバランスが取れず思わず膝を付く。
前を見るとファーが驚いた顔をしている、直ぐにでも走ってくるつもりだ。
僕を抑えつけていた剣が岩から落ちた。
それを掴むと二人の間へと真っ直ぐに投げる。
「マリエル隊長っ!」
「私はだいじょ……、いやあああああああああああああ」
マリエルが叫び声を上げて、ファーの気が僕からそれた。
「ヘビ、ヘビはいやなんだってっ!」
「なっ、職務中ですっ! 少しは我慢を」
「し、しってるけどさーっ」
僕は二人の後ろにいるヘビへと狙いを定めて、剣を投げたのだ。
素なのか演技なのか、マリエルは時間を稼いでくれた。
この機に僕は落ちた右腕を掴み山の頂上へ走った。
走りながら千切れた右腕を体の右側に押し当てる。
継承されたマリエルとしての力か、左腕に嵌めてある黒篭手オオヒナ。
どちらかの力で傷は治るだろう。
白い湯気が立ち傷が塞がっていくのが感じられる。
その代償が直ぐに僕を襲ってくる。
誰かの言葉を思い出す。
傷が深ければ深いほど治すのに意識が無くなると。
走り出して直ぐに水の音が聞こえ始めた。
「着いた……」
山頂に出ると大きな滝がみえた。昔帝国から密売にきた秘密の抜け道があると教えられた滝である。
滝から続く川は国境の役割もしていて川下にいくほど幅が広くなっていく。滝の裏側ならまだギリギリ人が通れるはずだ。
フェイシモ村の川もこの川と繋がっている。
帝国側の商人が良く使う抜け道だ。
背後では、ファーとマリエルの叫び声が聞こえてきた。
いくら彼女達でも帝国領には勝手に入れない。
滝裏へ行こうととした瞬間、僕の足は空を切っていた。
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